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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【ヘルズゲート】出陣
エンディング・フォー・エンディング

千秋志庵

 さて、こいつが地獄への入り口。ヘルズゲートだ。
 毎日、誰かが門をくぐる。そして、何人かは帰ってこない。そんな所さ。
 震え出すにはまだ早いぞ。
 こっちはまだ安全だ。敵がいるのは、この門の向こうなんだからな。
 武器の準備は良いか? 整備不良なんて笑えないぞ? 予備の弾薬は持てる限り持てよ?
 装備を確認しろ。忘れ物はないか? いざって時の為に、食料と水は余分に持て。予定通りに帰ってこれるなんて考えるな。
 準備は良い様だな。
 じゃあ、行くぞ。地獄へようこそだ。

 目的と呼ばれるモノが存在するとすれば、それは多分「後付」でしかない。
 そうしたかったから、そうしただけだ。
 理由は、それだけ。
 子供の我侭にも近い意見なんだな、と再度実感させられ、アルベルト・ルールはちらりと横に佇む端整な横顔を見た。
「なに?」
 単なる疑問でしかない声に、アルベルトは視線を逸らした。
 ……別に、何か用がある訳でもない。
「なーに、って言ってるんですけど?」
「勝手に見ちゃ悪いのかよ?」
「そりゃ、いちいち承諾取っていたらキリないけど。何か欲しいものでもあるんですか?」
 それはどういう意味なのだろうか、と。アルベルトは自身の顔を手で触ってみるが、普段と違ったところはないように思われる。日頃物欲しげな顔をしていたのだとしたら別だが、そういう意味には取れるような感はない。とすれば、或いはからかっているだけなのか。
 ジェミリアス・ボナパルトは人差し指を、アルベルトの目と目の間にぴっと向けた。
「窺うような目をするときは、何か欲しがっている印なんですよ」
 当然そうに語る目に、アルベルトは「ふーん」とつまらなそうな答えを返すも、しっかりとその言葉を脳内へと収めておいた。
 時刻を調べると、もう既に四半刻の間二人はただその場に立っていた。
 何をするでもなく、眼前に聳え立つヘルズゲートを眺めている。

「理由なんて、当に理由でなくなったわ」

 ジェミリアスが塔を目指した理由は、アルベルトを塔から引き離すためだった。
 危険ごとには鼻が利くが、塔の内部は或いは“神”ですら知り得ぬほどに混沌が占めているのかもしれない。無知からなる胸を締め付ける不安は、幾重にもなって彼女を襲う。
 生きて帰って、くるだろうか。
 待つのは元より性に合わない。一緒にいればそれだけ危険から護れるだろうし、死を代償にしても彼だけは再びこの地へ返すことだって可能だ。何より、何かをしていないと気が狂ってしまいそうな状況に当時は立っていたのだ。
 しかし、いつの日か魅せられていたのは自分の方だった。
 他の命を奪うことを快感としているわけではない。カラダの底の部分で、タクトニウムが感じさせるのだ。人間の未来と、その可能性を。
 可能性を自分の手で作り上げようと、“神”になろうとなんか思ってはいない。
 ただ、知りたい。
 それだけだ。
 そのためにも高速エレベーターを、どうしても早く見つけたかった。
 いつしか理由は別の理由へと掏りかえられ、その理由ですら本当に自分が目指していたものであるかどうかすら、最近では危うくなっている。
 だから、私はただ――。

「そうしたいから、そうしているんだ」

 誰かを巻き込む気は、全くなかった。
 好奇心と呼ばれるものですら、当初はなかった気がする。
 タクトニウムは、俺たちを殺そうとする。
 俺たちは、殺されないために殺す。
 そのために、今まで幾つも怪我をしてきたし、死にかけたこともあった。その時に思い出すのは、
「厭な光景、だ」
 厭な光景。人の痛みを自分のように感じ、唇を紡ぐ。目は確かに生きてはいるが、奥にはどす黒いものが光っている。胸を抉られるような、恐怖と呼ばれる感覚。
「厭な……光景、だ」
 見たくない。そのための方法は、いとも容易く目の前に転がっている。
 逃げる。
 簡単だ。逃げるだけ。そうすれば、もうあの光景を見なくても済む。厭な思いを、しなくて済む。
 それでも、どうしても逃げられなかった。知りたいと思う欲求は底をつかず、ただただ知識を求めていった。貪るように塔へと足を向け、想像していた通りに時折厭な光景を見た。
 戦闘には秀でているが、それは好きでることの証明にはならない。
 それでも、助けてくれる存在を、有難く思った。
 絶対に口にはしたくないが、感謝している。言わないと伝わらないなんて、ちんけな関係でもない。

「結局は、相互理解の下の行動なんだよな」

 さて、と。ジェミリアスは小さく口にすると同時に、アルベルトへと視線を送る。準備は当に出来ている、という顔に、彼も同様の顔を返す。
 高速エレベーターを探すのは、全ては己らの好奇心のため。
 傍らにいるのは、自らの欠片。
 失わないために進まないのではなく、護るために進むのが共通の目的。
「心気一転。行くか!」
「何を一転するのか分からないけど、そろそろ感傷に浸るのは終わりにしましょうね」

 眼前に聳えるのは、地獄への入口。
 或いは、地獄そのもの。

 ただそれだけはで通じ合える関係を他人が一体どう思うのかは、関係ない。阿吽で伝わる空気の心地良さの中で生きるのが、何よりも嬉しかったのだ。

 今行く目的は、“それ”なのかもしれない。





【END】

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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【0544】ジェミリアス・ボナパルト
【0552】アルベルト・ルール

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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お久し振りです、千秋志庵と申します。
依頼、有難うございます。

恋愛にしろ何にしろ、「どうしてそういう気持ちを抱いたか」ということがふいに頭を過ぎるとき、考えてみた理由は大抵「後付」である事例が多々あると思います。
初めはただ「そうしたかったから」「そう思ったから」であるのにも拘わらず、「後付」を頑なに固持する余りに本質がないがしろにされることも、やはり多々あるのではないでしょうか。
戦闘に赴く、という非日常的な行為も、死へのカウントダウンを早めるという意味では容易には理解することの出来る行為ではなく、その「きっかけ」である「目的」と呼ばれるものは確かに存在してはあるものの、容易に変質する性質を持つものではないか、と。
変質を否とするのではなく、それを認めた上で登場人物達は行動を起こしているのだと、勝手ながらそのような推測をしながら書かせていただきました。
兎にも角にも、少しでも愉しんでいただけたら幸いです。

それでは、またどこかで会えることを祈りつつ。

千秋志庵 拝