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都市マルクト【ラジオ局】貴方の声が聞きたい
まだ来ぬトキ
千秋志庵
はい、リスナーのみんな〜、まだ生きてますか〜?
放送中に死んじゃった人に最期の曲を送りながら、今日の放送を終了します。生き残ったみんなはまた会いましょうね☆
ラジオビジター。パーソナリティーは、みんなのアイドルのレアでした〜
‥‥‥‥
よしっ、放送終了ーって、あ、ごめんなさい。次の人待ってました?
はいはい、撤収撤収。次のラジオ放送、頑張って下さいね。それじゃ、次に逢う時はレアのラジオ放送でね。
「PN・Queen of heart」
レアは眼前の女性を好奇心の眼差しで眺め、一つ微笑んで見せた。
「ハートの女王様、実際に会うのはハジメマシテ。レアです」
ラジオは今丁度、一昔前に流行った曲を流している。パーソナリティの声は外部にもオフにされ、完全な密室と化している。レアが“ハートの女王”と名乗る女性をその場に入れたのは単に彼女自身に興味を持ったからであり、情報を提示することは彼女自身の仕事であるという理由でもあったからであり。
……さて、どこから話そうか。
笑顔の奥で視界を曇らせ、レアは沈黙を選択した。曲は一連の関連性を持って、十数分はトークを必要としない状況にさせている。リスナーが不満を持つことはないだろうが、流石に下手に時間が長ければ不信感を抱かせる結果をもたらせるだろう。何より、彼女らには共通の時間が殆どない。この機会を逃せば、直に話せる時間は約束されてはないのと同義だということでもある。
曲は丁度一曲目のサビらしき部位に差し掛かっている。
「取り敢えず用件を訊くのが先、かな。こうやって直に情報を求めに来てるんだから、こちらも相当のモノを提供するべきだけど。フィフティ・フィフティが原則だよ」
“ハートの女王”――ジェミリアス・ボナパルトは頬杖をつきながら、視線を下から見上げるような形で端的に口にした。
「【2004/11/24】あるビジターの最後の通信」
レアの体がびくりと痙攣する。どういうことかは粗方察しがついたのか、軽い溜息をついて椅子を後方へとしならせた。椅子は軽く軋ませ、彼女の体重を何とか支えながら現状維持に努めている。
曲は二曲目に入った。テーマを何に設定したのかは他人には分からないだろうが、レアの中では確かに一つの輪となっている。
……テーマは遺言。最後の曲、最期の音、サイゴのトキ。無駄に死へと向かって命を賭した、莫迦な人間の遺言。そういうの、嫌いじゃないんだけどね。
遺言の歌は、意外と多い。レアが他人に今この場で曲名を挙げろと言われれば、悠に三桁は述べられるだろうか。
「それだけは、無理」
「どうして?」
「そういうものなの」
「…………」
「そんな目で見ても、駄目。こっちにはこっちなりの事情があるんだから、そこんとこは理解しといてほしいな」
「それも……一理ありますね」
「でしょ!?」
意見の一致に嬉しそうにレアが立ち上がる。
終盤へと向かう曲に合わせ、レアは小さく鼻歌を口ずさむ。弾みで倒した椅子を元に戻しながら、再度腰掛けた。
「でも、こちらはそれに見合うだけのモノは提示――」
「それも無理なのよ」
三曲目は遺言というテーマには見合わない、明るすぎる曲。
「緘口令、じゃないし、圧力が掛かっている訳じゃない。それでも“今は”話せない。……それだけよ」
「それだけ、か?」
「そう、それだけ」
最後の曲を静かに聴きながら、レアはジェミリアスに出て行くように手で表した。話すことは何もない。話せることは、“今は”何も存在しない。仕草がその全てを語っていた。
「有難う御座いました」
ジェミリアスは礼を小声で口にすると、静かにその場を後にした。
曲はまだ、残っている。
「……ギブ・アンド・テイク」
レアはぼそりと言う。
「提供する情報は、そのマスターテープも……安易に人間の手に託していいものじゃないのかもね。別に人間を、“ハートの女王様”を信頼してないって訳じゃないけどさ」
曲が止まるまで、あと数秒。
レアの指は小刻みにリズムを刻み、だが目は“情報屋”の色を携えている。
……さて、どうしてものだろうか。
曲の紹介を無意識下で言葉にし、意識的には別のことを考える。
「【2004/11/24】あるビジターの最後の通信」
ジェミリアスの言葉を反芻し、繰り返す疑問を幾度か目に結論へと導いた。
……動く、か。
【END】
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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【0544】ジェミリアス・ボナパルト
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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お久し振りです、千秋志庵と申します。
依頼、有難うございます。
「情報は提示不可」。
今回の話はそれ前提条件となっています。
理由は察していただけると幸いです。
もう一つの話も魅力的だったのですが、敢えて「【2004/11/24】あるビジターの最後の通信」を主軸に進めさせていただきました。
いつかは定かではありませんが、私個人の意見からもですが、少しでも概要が明らかになることを願っています。
兎にも角にも、少しでも愉しんでいただけたら幸いです。
それでは、またどこかで会えることを祈りつつ。
千秋志庵 拝
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