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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【ヘルズゲート】出陣
手がかりを求めて

ライター:高原恵

 さて、こいつが地獄への入り口。ヘルズゲートだ。
 毎日、誰かが門をくぐる。そして、何人かは帰ってこない。そんな所さ。
 震え出すにはまだ早いぞ。
 こっちはまだ安全だ。敵がいるのは、この門の向こうなんだからな。
 武器の準備は良いか? 整備不良なんて笑えないぞ? 予備の弾薬は持てる限り持てよ?
 装備を確認しろ。忘れ物はないか? いざって時の為に、食料と水は余分に持て。予定通りに帰ってこれるなんて考えるな。
 準備は良い様だな。
 じゃあ、行くぞ。地獄へようこそだ。

●地獄の手前
 都市マルクト――セフィロトの第1フロアであるここは、都市区画『マルクト』の入口に新しく作られたビジターたちの街だ。
 新しくといっても、元々あった建物を利用しているので街の新しさと同じように、風景が新しい訳ではない。むしろ新しい建物があったなら、それはタクトニムやらの被害を受けて修理が施された跡だと考えてよいだろう。
 さて、そんな都市マルクトの外れ。そこには巨大な門がある。セフィロトの内部へと続いているその門は、ビジターとタクトニムの領域の境界線だ。高さは……恐らく10メートルはゆうにあるのではないだろうか。
 人は街外れにある巨大な門をこう呼んでいる。ヘルズゲート――地獄への門、と。
 そして今日もまた、ビジターたちがヘルズゲートをくぐって地獄へ足を踏み入れるのである。

●確認
「……っと、はいよ。確かにビジターズギルドのメンバーだな」
 ヘルズゲートの前に陣取っていた門番の1人、中年男性がそう言いながら確認していたビジターズギルドの登録証を目の前の金髪の女性に返した。その傍らでは、女性が搭乗するのであろうマスタースレイブがヘルズゲートをしっかと見据えていた。
「ふむ、こいつを嬢ちゃんが?」
 興味を抱いたのだろう、中年男性は金髪女性――レイカ・久遠にマスタースレイブを指差しながら尋ねた。それもそのはず、目の前のマスタースレイブは全体的に丸みを帯びてはいるが異常に肩が張り上がっており、おまけに通常の機体の5割増はあろうかという腕の長さ、そして何より赤いペンキをぶちまけたような機体色であったのだから。
 ヘルズゲート前には、マスタースレイブに乗った門番たちの姿もいくつかあった。それらとレイカの機体を見比べれば、中年男性の気持ちは理解出来るであろう。
「ええ」
 登録証を仕舞いながら、レイカは言葉少なに答えた。
「ほほう。しかし、よく整備されてる割には何だか年季が入ってるようにも見えるんだが……」
 と言い、レイカとマスタースレイブを交互に見る中年男性。言ってはなんだが、少々不釣り合いに感じたのかもしれない。
「母の形見なので」
 レイカは表情も変えずぽつり答えた。
「あちゃあ……。すまん、悪いこと聞いたか」
 中年男性はすまなさそうな顔をレイカに向け謝ろうとした。
「いえ、事実ですから」
 が、レイカはそう言って中年男性が謝るのを制した。
(そう、事実……お母さんが庇ってくれなければ、今こうして私がここに居ることがなかったのも……)
 2年ほど前――のことだ。世界をまたにかけるトレジャーハンターだった両親の手伝いをしていたレイカが、シンクタンクに襲われたのは。その時、レイカを庇ってくれたのが母親だった……生身で。
 マスタースレイブに乗っていたならあるいは……だったろうが、運命というのは皮肉なものである。だが、母親が身を挺して庇ってくれたおかげで、レイカがここに居ることもまた運命だ。
「ああ、そうかい。そう言ってくれると、こっちもありがたい」
 ほっとした表情を見せる中年男性。思うに、悪い人間ではないのだろう。ただちょっと、言葉を滑らせることがあるくらいで。
「ところで、何か名前つけてんのかい、こいつに?」
 話題を変えようとしたか、中年男性がレイカに機体の名前を尋ねてきた。
「リッパー」
 答えるレイカ。それは母親がつけた名前であった。

●変わらぬ友、変わらぬ想い
「ああ、そうだ。今日は1人で行くつもりかい」
 大事な質問をしていないと気付いた中年男性が、レイカに何人で行くのか尋ねてきた。
「いいえ、あと2人……ここで待ち合わせで」
 レイカはぐるりと辺りを見回した。あと2人、つまり3人でこのヘルズゲートをくぐるつもりであった。
 そんなレイカの視界に、黒髪のショートカットの女性の姿が入った。息を切らせんばかりにこちらへ駆けてくる女性のことを、レイカはよく知っている。だが、今のこの姿はまだ2、3回くらいしか知らない。まぶたを閉じて、ぱっと思い出せるのは子供の時の姿であるのだから。それはまあ、相手にしても同じことだけれども。
「お待たせっ!! 遅れちゃったかな?」
 やってきた女性――兵藤レオナは息を切らせることなく、首輪についた大きめの鈴を鳴らしながら到着早々にそうレイカに尋ねた。
「ううん、まだ時間あるから」
 首を横に振って答えるレイカ。嘘でも何でもなく、本当にまだ約束の時間前なのである。
 今の会話からも分かるように、2人は友人同士であった。シンクタンクの研究をやっていたレオナの親と、マスタースレイブの開発に携わっていたレイカの母親に親交があったため、自然とその娘たちである2人も仲良くなっていったのである。
「お、一緒に行くのはその娘かい。あんた、何度かここ出入りしてるよな?」
 見覚えでもあったのだろう、中年男性がレオナに話しかけてきた。が、レオナはえへへと笑うだけだった。
「そうなの?」
 中年男性が一旦離れてから、レイカがレオナの方へ向き直って尋ねた。
「……一応」
 頬をぽりぽりと掻きながら、レオナは苦笑する。
「そう。なら、レオナは先輩ね。私は初めてだから。全部任せても大丈夫かしら」
 薄い笑みを浮かべるレイカ。ヘルズゲートの前に来て、初めて見せた笑みである。
「そ、そんなっ! ボ……ボクだって経験豊富って訳じゃないんだしっ……!」
 レオナが軽く慌てた。そしてふっと2人の目が合うと、どちらからともなくくすくすと笑い出した。
「……変わってない」
 とレイカが言えば、
「そっちこそ……」
 とレオナが答える。外見こそすっかり大人になってしまったが、中身はちっとも変わってはいない。互いに、それを確認することとなった。

●最後の1人
 1人が居て、1人が来て……残すはあと1人である。間もなく、約束の時間となろうとしていた。
「もう1人一緒なんだっけ?」
 きょろきょろと辺りを見回しながら、レオナがレイカに尋ねた。こくんと頷くレイカ。
「薄着なんだけどマントを羽織って、ホルスターをつけてる人で……」
「それって、あの人?」
 待ち人の外見をレイカが説明していると、それらしき人物をレオナが発見した。視線の先に、レイカが言った通りの女性の姿があった。
 女性はまっすぐに2人の居る所へ向かって歩いてきた。
「……ちょうど約束の時間かな」
 そう2人に向かって問いかける女性。時間を確認すると、ちょうど1分前であった。
「高町恭華です、よろしく」
 すっとレイカに右手を差し出す女性――高町恭華。レイカが右手でそれを受けた。
「こちらこそ、よろしく。初めてなので、ご迷惑かけるかもしれませんけれど」
「いや、実は私もヘルズゲートをくぐるのは初めてなんだ。だが、絶対生還しよう」
 そう言い、恭華はぎゅっと手を握る。レイカもそれに応えるように握り返した。
「ええ、生きて戻りましょう」
 きっぱりと言い切るレイカ。ここで倒れる訳にはゆかないのだから、決して。
「ははは、待ってたもう1人はその娘かい」
 さて、恭華がレオナとも握手をしていると、戻ってきた中年男性が恭華の姿を見付けるなり笑って言った。
「…………?」
 恭華が訝し気な視線を中年男性に向ける。
「聞いてるぞ。ギルドの登録してる時に、襲撃してきた野盗撃退したのって、あんただろ」
 中年男性のその言葉を聞いて、レオナとレイカが恭華へ視線を向けた。だが、恭華は素知らぬ顔。
「嬢ちゃん、あんた仲間見る目あるな。その娘、腕は立つぞー」
 笑いながら、中年男性はレイカを褒めた。
「……どうも」
 ぺこり頭を下げるレイカ。誰しも、褒められて悪い気はしない。
「おっと、くぐる前にちゃんともう1度装備確認しろよ。経験あろうがなかろうが、基本すら出来ない奴は地獄に行ったまま戻ってこれなくなるからな」
 忠告の言葉が中年男性から飛んだ。何人もそういった輩を見ているからだろうか、言葉に重みが感じられた。
 さっそく装備の最終確認をする3人。レイカは『リッパー』の武装を外から確認、レオナは2本のマスタースレイブ用高周波ブレードの電池を確認、そして恭華はハンドガンの弾倉と予備の弾丸を確認する。
「……少し心もとないかな」
 確認を終えた恭華がぼそっとつぶやいた。恭華手持ちの火力といえば、このよく整備されたハンドガンだけ。そうつぶやきたくなる気持ちも分からないではない。
 けれども、全体として見るならばそれなりの武装であるだろう。レオナはマスタースレイブ用高周波ブレードの二刀流だし、何よりレイカがマスタースレイブを駆っている。タクトニムのうちシンクタンクはともかく、モンスター相手であれば遅れはとらないのではないかと思われる。
「うん、電池残量問題なし! そっちはどう、レイカ?」
 レオナも確認を終えたようで、レイカに声をかけた。
「オールグリーン。もういつでも出られるわ」
 レイカの方も問題なし。これで準備は整ったという訳だ。
「終わったかー? そうか、終わったか。じゃ、門を開けてやるから、待ってろよ」
 中年男性は3人に最終確認をすると、門を開くべく手続きをしに離れていった。

●かくして、地獄の門は開かれん
 レイカが『リッパー』に乗り込むと、その左に恭華が、その右にレオナが各々ついた。そのまま門が開かれるのをじっと待つ3人。
(ここがお父さんの……最後に立ち寄った場所……)
 レイカは門をしっかと見据えながら、父親のことに想いを馳せていた。
 母親を失うこととなったあの事件、レイカも無事では済まず瀕死の重傷を負ってしまった。治療には多大な金が必要となる。その治療費を稼ぐべく、父親は1人で危険な仕事に励んでいた。物理的、状況的、あるいはその両方の意味で危険な仕事に……。
 その甲斐あってレイカは無事退院することが出来た。だが、父親に会うことは叶わなかった。何故なら、最後の送金を境に父親は音信不通、行方不明となってしまったのだから――レイカ、19歳の誕生日のことだった。
(……何かきっと、お父さんの手がかりがあるはず……)
 そんな父親が最後に立ち寄ったらしい場所が、ここである。だから、レイカはヘルズゲートに挑むのだ。母の形見のマスタースレイブとともに、父の行方を捜すべく。再び父親と出会い、言葉にはならない……たくさんの、たくさんの想いを伝えるために。
 やがてヘルズゲートがゆっくりと開き始める。辺りに居た門番たちのマスタースレイブが、一斉に武器を構えた。突然タクトニムが現れても、即座に対処出来るようにだ。
 そしてヘルズゲートは開かれた。ゆっくりと、しかし確実に中へと向かってゆく3人――2人と1体。
 地獄へようこそ。あなたたちを歓迎します。

●戦果
 蛇足になるが、今回の戦果について少し触れておこう。
 3人中2人が初めてということで、遠出せずヘルズゲート近くを探索していた所、ケイブマン数体と遭遇した。
 恭華が先頭の1体の眉間に弾丸を撃ち込んで倒した後、牽制すべく走り出した。それに何体か気を取られた所に、レイカの『リッパー』のランスシューターが繰り出された。両手の下腕部から射出された短槍に、ケイブマンは見事に貫かれてしまった。
 その間にすばしっこい奴が後ろに回り込んでいたが、そちらはレイカの背中を守るように後方に気を配っていたレオナが、あっという間にマスタースレイブ用高周波ブレードで切り裂いてしまった。
 結局、3人は特に被害を受けるようなこともなく、ケイブマンたちを退けたのである。
 そして、ケイブマンたちのやってきた方を少し調べてみた所、3人は何とマスタースレイブ用らしき盾を見付けた。品質も悪くなく、十分に使えそうであった。どうもあのケイブマンたちは、これをどこかへ運ぼうとしていたようだ。もっとも、今となってはどこへ運ぼうとしていたのか分からないのだけれども。
 その後は戦闘らしい戦闘もなく、また何かを見付けるといったこともなかったが、まずまずの結果といえるだろう。

【END】


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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【0657】 レイカ・久遠:エキスパート
【0490】 高町・恭華:エキスパート
【0536】 兵藤・レオナ:オールサイバー


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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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・『サイコマスターズ・アナザーレポート PCパーティノベル・セフィロトの塔』へのご参加ありがとうございます。本パーティノベルの担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・大変お待たせいたしました、いよいよヘルズゲートをくぐるという直前の模様をここにお届けいたします。
・場所が場所でしたので、戦闘風景ではなくその前のヘルズゲートでのやり取りが主になっている訳ですが……いかがだったでしょうか? しかしこれから先、何度くぐることになるのでしょうね、地獄への門を。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またお会いできることを願って。