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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【整備工場】武器マーケット
灰色捜し

千秋志庵

 整備工場名物の武器マーケットだ。
 自分にあった新しい武器を探すのも良い。
 頼めば試し撃ちくらいはさせてくれる。弾代は請求されるけどな。色々試してみたらどうだ?
 新しい武器がいらないとしても、今使ってる武器の弾や修理部品を探す必要もあるだろう。
 まあ、楽しみながら色々と見て回ってくると良い。売り子の口上を楽しむのも面白いぜ。
 それに、ここで目を鍛えておかないと、いつか不良品を掴まされて泣く事になりかねないからな。
 何事も経験と割り切りながらも慎重にな。
 あと、掘り出し物だと思ったら、買っておくのも手だ。商品は在庫限りが基本で、再入荷なんて期待は出来ないぞ。

 露店での販売を主としている武器販売店の中では、チェーン展開すら出来ない一個人商店が一つの家を丸ごと店舗としているのはそうざらにある話ではない。それほど店主の手腕が良いのか、或いは容易に聞き耳をそばだてることを嫌ってか。基本的な可能性としては、この二者が上げられる。
 喫茶店によくあるような鈴をカランと鳴らし、ジェミリアス・ボナパルトは店内へと足を踏み入れた。見たところ、品数は店の規模に対して驚くほど多いという訳ではない。何となしにMS関係の武器を探してみるが、どうやら扱っていないようで全く置かれていない。代わりに、なのだろうか。武器になりそうもない呪具の類が一角を占め、さながら一つの特別フェアのようにも感じさせる。手に取ろうとしてみるものの、「触るべからず」と古風に書かれた張り紙と簡易な結界から、それは果たすことが出来なかった。さしたる不満も抱かずにジェミリアスはその場を離れ、カウンター代わりであろう直方体の木箱へと近付く。
「いらっっしゃいませー」
 彼女自身よりも一回りは軽く下回っている顔付きの店員に店長の居所を訊ねると、彼は半分興味本位の目で定型口調を続行する。
「どういった御用でしょうか? 生憎今伺えるのは私だけになってしまうのですが」
 こんなガキじゃ話にならない。そう口を開きかけ、ジェミリアスは直前で台詞を書き換える。
「存在のない、最高の武器が欲しくてね」

 情報

 察してか、店員の目がきらりと光る。顔付きは客商売のそれではなく、仕事人のに近くなっていた。
 この武器販売店は、武器よりも情報を主に扱っている。店の利益は近頃ではそちらの方が主立っているのだと苦笑を漏らしながら、店員は溜息をついた。実のところ、情報屋として成り立つのは本望ではないらしい。
 店員はジェミリアスの話の概要を聞くとそれなら話は早いと言って、いそいそと陳列をしている女性を呼び付けて店番をするように言い付けた。店員よりは年上だろうが、詐欺に容易く遭遇しそうな目をしている。
「あんな子に頼んで平気なんですか?」
「……店長もどこで見つけてきたのか、彼女ってホントいい目してるんですよ。その点では信頼に値します」
 聞けば店長とは彼の孫の方であり、歳下だと思っていた店員――ケヴィンと名乗った、の年齢は既に三桁に突入しているという。即ち、ジェミリアスよりも遥かに歳上だということになる。仕組みは近年の御時世サマサマなのだろうが、実年齢とこの外見の差は詐欺に近い。というか、詐欺そのものだ。
 通された一室は簡素なもので、木製の机の上に巨大なパソコンが乗っていた。旧式型なのだろう。沢山伸びている配線の物々しさから、機械は一種の生物にも見える。
 机の前に置いてある椅子に腰掛けると、ケヴィンは口を開いた。
「さて、一体どういった情報をお求めてしょうか?」
「上位タクトニウムの目撃情報ってないでしょうか?」
 問いに、ケヴィンは「さて」と首を捻る。
「イエスかノーかで答えるとすれば、イエスです」
 ですが、と彼は言葉を濁らせた。
「情報元がマフィアからですので、些か信じ難いものではあるんですよね。――場所は人間とタクトニウムの死体が両方確認される場所。そして“それ”は人間の形に近いそうです。そもそも、上位タクトニウムが第一階層にいるってこと事態が、私に取って奇異な話ではあるんですけどね」
 弱く地位もない存在らの立ち得る場は、例えば塔のようなただ上空に広がる閉鎖的空間では、地面に近い第一階層であるというのが彼の持論だった。情報を売買している彼にとって、人間のいざこざもタクトニウムのいざこざも耳によく入り、その傾向も自ずと導かれる。だがそれでも当てはまらない、通称・アンノウンと勝手に呼んでいる奴らは、自身の規律を創造しては行動に赴いていた。
「目撃情報は、あります。しかし、目撃するための情報は、ありません」
 ジェミリアスは視線の奥に疲労を隠し、礼を述べた。部屋を出ようとすると、その背にケヴィンの声が掛けられる。
「……勘のいい貴方なら方法が分かると思いますが、その方法で奴らを炙り出すのは控えてくださいね。少なくとも、他人を巻き込むようなことは」
「知り合いと、なら平気かしら?」
「知り合いも、他人です」
「なら家族は?」
「尚更です」
 ケヴィンの声のトーンは低い。家族よりも長生きをしているために、その一部を失うことをよく心得ていたせいだと付け加える。
「まあ、それでも生き甲斐であるなら止めはしません。息子はセフィロト内で死にましたが、その顔は安らかであったと聞きますから。……ここで逃げるのは、らしくない、というのが本音です」
 ジェミリアスは深く礼をすると、一人部屋を後にした。
 知性ある上位タクトニウムを呼び出す方法。

 彼らの同胞を、殺しまくること。

 気が進まないとは言っていられない。折角導けた結論だ。これを有効に使わない手はない。
 店内ではのんびりと接客をしている女性と、彼女の周囲を陣取るように難しい顔をした客が何やら言い争っていた。それらを横目に、店の扉に手を掛ける。
「…………」
 考えるのは、後回しでも充分遅くない。
 後悔するのは、死ぬ間際でもいい。
 小さく深呼吸をし、ジェミリアスは扉を一気に開いた。





【END】

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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【0544】ジェミリアス・ボナパルト

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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お久し振りです、千秋志庵と申します。
依頼、有難うございます。

ケヴィンが示唆している上位タクトニウムとは、灰色を指しています。
他にも様々な場で姿を現しては、人間とタクトニウムの死体を残して去る存在として彼に語らせています。
それらを呼び出す方法はあまり快い方法ではありませんが、その結論が一つ決意を固めさせた雰囲気でもあります。
それが一体何なのか。
語るのは別の物語で、ということになります。
兎にも角にも、少しでも愉しんでいただけたら幸いです。

それでは、またどこかで会えることを祈りつつ。

千秋志庵 拝