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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


第一階層【ショッピングセンター】もう新人じゃない
猫と仲間と、或いは敵か

千秋志庵

 よし、お前さんがルーキーじゃないって所を見せる機会が来たぞ。
 目差すのはショッピングセンター。過去に大量の商品が詰め込まれた宝箱。だが、同時にタクトニム共の巣でもある。
 ショッピングセンターは巨大な建物だ。道に迷う事だって有る。
 生きて帰ってこれれば一人前だ。帰ってきたら、とっておきの一杯を御馳走してやる。

 両の手一杯に缶詰を抱える。無人のショッピングセンターで泥棒紛いの行為をするのには気が引けるが、それでもこの行為は重要な任務の一つでもある。マルクト全体の食糧事情の改善、と。そういう名目だ。
 神代秀流は仲間から受け取った缶詰を特別装備のアリオトへ詰め込むと、やや空へと近付いた店の中を外側から見やる。かつては多くの人間が利用していたそこは、もはや見る影もない。その一端を微妙ではあるのだが自分らが担っていることを実感じ、軽く苦笑した。
「それ、いいのか?」
 秀流は傍らに落ちていた缶詰を一つ取り、入口の近くにアリオトと一緒にいた高桐璃菜へと投げて渡す。だが彼女は取った缶を、適当な場へ置き直した。秀流が軽く、一つだけ首を捻った。
「これ、腐ってるの」
 璃菜の言葉の真意を問うと、彼女は「感だよ」とだけ答える。璃菜はそういう感には一際長けている。浮気でもしようものなら、即座にばれそうなモノだ。……いや、する気はないけど。外は寒いからと適当な理由を付けて彼女を一緒に店内へと入り周囲を見渡すと、忍ロボ・KOEIが一種類だけの缶詰を手によたよたと歩いている。目ざとく見つけた璃菜が不思議そうな顔をするも、秀流の「あれが目当てだったんじゃないか?」との言葉に、疑問を口にすることなく別の缶を取って秀流に渡した。
「……ギデオンさんからの伝言。離脱せよ、だって」
 手にはやはり缶詰を抱え、エウラリア・ハーガンは言った。外での見張りの役を買って出ていたのだが、いつの間に手に入れたのだろう。その腕の中の缶詰の量は半端でない程に多く、ラベルには酒に合いそうなツマミ類が多く含まれている。落とさないように必死に抱え直しながら、エウラリアは続ける。
「殿は話の通りギデオンさん達がやるから、急いで……って」
「了解」
「うん。それで、その缶詰はエウラリアが食べるの?」
 璃菜の問いに、エウラリアが「違う」と勢い良く言い、
「……いや、食べる。ボクが食べる」
 と慌てて訂正に入った。
 同様に缶詰を抱えたKOEIを呼び寄せ、四人は夫々のMSとアリオトのリアカーに乗り込む。秀流が先頭を疾走し、アリオトらがそれに続く。リアカーには、璃菜とエウラリア、KOEIが缶詰と共に乗り込んでいる。
「ところで、さ」
 璃菜はふいに口を開く。風の音でよく聞こえないのか、問い直すエウラリアに対して璃菜は今度は大声で言った。
「増えてない!?」
 ……増えてる、とはどういうことだろう。問おうとして、耳に入るのはどこかで聞いたことのある音。暫しの間考え続け、エウラリアはKOEIへと視線をやった。
「わざと?」
「何がですか?」
「何が、って。それわざとか、ってこと。別にボクは“同乗者”が増えるのは構わないんだけど、ギデオンさんや秀流さんにも協力してもらわないと、路頭に迷うね、こりゃ」
 意味が分からない、といった風に首を捻るKOEIに向けて、エウラリアは“同乗者”を持ち上げて見せた。白と灰色の淡い斑の“同乗者”は、小さく「みゃー」とだけ挨拶をした。
「ねえ秀流、一匹飼ってもいい?」
 璃菜のテレパシーの声に、秀流はMSの中で一瞬だけ躊躇いを見せたあと、
「世話、誰がするんだ?」
 とだけ答えた。
「私!」
「俺は育てちゃいけねえのか?」
「ううん。秀流も一緒に、育てよ!?」
 愉しそうな秀流と璃菜のやり取りを横で聞いていたエウラリアは、“同乗者”の前足で遊んでいるKOEIの肩を近くへと抱き抱えた。
「ふえ?」
「全く、羨ましい限りだ。仲が良いっていいね、KOEIさん」
「エウラリアさんも仲がいいと思いますです」
「え、誰と? 璃菜さんと?」
「違いますです。ギデオンさんです」
 困惑したようにエウラリアは苦笑する。他人からはそう見えるのか、と一人戸惑いながら、リアカーの上から空を見上げる。秀流のMSが先陣を切っているせいか、タクトニムとの接触はまだない。頬に感じる風をやけに気持ちよくと思いながら空の白さを視界に収め、面倒臭そうに目を閉じた。恐らく戦闘の準備はしなければならないだろうが、まだその必要はなさそうだ。
「そうだよな、“相棒”」
 「みゃー」と“相棒”はエウラリアの膝の上で鳴く。
 沢山の缶詰の中の沢山の猫が一斉に同調し、KOEIの持ってきた猫缶を開けろと要求する。この“同乗者”の五月蝿さを止めるのは厄介だな、と内心で思いながら、エウラリアは猫缶を一個開けてKOEIへと渡してやった。
 KOEIが愉しそうに猫へと餌やりを始めるのを見て、エウラリアは秀流へと声を掛けた。
「向こうの様子はどうなってるんだ!?」

「それにしても、あなたがここに残って殿を務めるとは思っていませんでしたよ」
「確かに。しかし一番無理をするのはキミの方ですから、ここにいろというのが俺の参加する条件の一つでね」
「で、タクトニムはどこに?」
「数は少ない。一人で大丈夫だろう?」
「一人って……勿論、俺?」
「はい。俺はイザ、という時のための人員ですから」
 七枷誠とギデオン・ノーマは簡易に会話を述べ交わした後、眼前のタクトニムへの突撃を開始した。その数は二桁に満たない程。一人でも出来ると判断したためだろうか、黒刀を手に特攻を開始する誠の目には全くの迷いが見られない。ギデオンは物陰での待機が主だった仕事であったために第一線からは退いているのだが、プロでない目からみても誠の動きは軽やかで無駄がない。戦闘の一切の無駄を排したそれは、一種の舞踊にも見える。見とれるのもどうかとは思うが、とギデオンは自分に一言だけ言い聞かせて、持参していた大筒をタクトニムらへと向けた。
 轟音。
 幾体かのタクトニムと、誠の衣服の裾を焦がしながら大筒から発射された光熱波は飛んでいく。大筒という特異な武器を使うのは始めてであったが、折角このショッピングセンターにくる途中で見つけたものだ。動作確認を兼ねて使うのも悪くはない。
 周囲を塵灰にし終えた風景を見渡して、誠は手にしている黒刀を取り落とさないように必死になりながら後方に視線をやる。大筒を抱えたギデオンは、命中率の精度の低さが悪いことに不平を漏らしている。
「……やりすぎ」
 呟きはギデオンへと届いたのか、彼は大筒を地面へと降ろすと軽く微笑んだ。微笑みをどう解したのか、誠は仕方なさ気に再び剣を構えた。
「次は……かすらないでくださいね?」
「それは“しっかり当てろ”という意味で?」
 大筒を構えるギデオンに向けて力の限り首を振る。どうやら最大の敵は身内にいるようだと認識して、タクトニムを視界の全てに納める。背後へと意識を向けるのも充分に怠ることなく、前を見据える。
 ふいに、秀流からの通信に、彼は意識を向けだ。
「そっちはどうだ?」
 誠は暫しの間考え、
「タクトニムの方は平気です。問題は、別の方に」
 別の方にってどういう意味だ、との言葉に、誠は適当に無事である意を伝える。一方的に通信を切ると、もう目前のタクトニムへと一歩踏み出した。
 何だかいつもより疲れそうなことを予感しつつ、誠は刀を振り続ける。背に感じる厭な苦味を味わいながら進み続ける。
「全く、厭な配役しますね……彼は」
 呟きは誰にも届かず、消え失せる。リミッターを外すことで喰う燃料代を計算しながら、一つ一つ確実に解体へと導いていったのだった。





【END】

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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【0577】神代秀流
【0580】高桐璃菜
【0583】忍ロボ・KOEI
【0606】七枷誠
【0674】エウラリア・ハーガン
【0675】ギデオン・ノーマ

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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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初めまして、或いはお久し振りです、千秋志庵と申します。
依頼、有難うございます。

缶詰を手に入れることが今回の一番の目的ですが、登場人物によってはそれによって得る副産物がそれぞれ違ったものであったりします。
猫缶と共にやってきた猫だったり、命中精度の低く実用度のあまりない武器であったり。
猫に限らず、動物を登場させるのがとても愉しいので、またどこかでこの予期せぬ“同乗者”を登場させたいなと思っています。
兎にも角にも、少しでも愉しんでいただけたら幸いです。

それでは、またどこかで会えることを祈りつつ。

千秋志庵 拝