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夢灯篭
「お、射的じゃん。やろうぜ。どっちが勝つか競争だ」
楽しそうにいうのは私の許婚の彼。
「そんな・・・。私が勝てるわけないです」
「やってみなきゃ分からないだろ。やろうぜ!」
彼に半ば強引に引きずられるように射的場に向かい、ライフル銃にコルクをつめたもので紙の的を撃つ。ライフル銃など勿論初めて握ったのだが、どうすればいいのか何故か分かった。しっかり握って固定し、的を狙って絞るように撃つ。隣では彼が
「当たるのか、これ」
などと愚痴っている。はずれが続いているようだ。私は神経を研ぎ澄まし、一発一発確実に撃ち抜いていく。勿論ど真ん中。射的場の親父が驚いてこちらを見ている。だが、それも気にしない。全て撃ち終わったら、少し気が抜けたが、自分で結果に驚いた。
「お譲ちゃん、文句なしで一等だな、こりゃ」
射的場の親父が景品を持ってくる。
「はいよ、記念にはなるだろ、こんなもんでも」
渡されたのは私の身長の半分はありそうな巨大なぬいぐるみだった。勿論彼に持ってもらったけど。
「しっかし、まさかあんなに射撃がうまいなんてな〜。最初に言ってくれれば競争だなんて言わなかったのによ。黙ってるなんて人が悪いぜ?」
「そんな。私もびっくりしてるんです。初めてやったのにあんなにうまくいくなんて」
「まじ?すげーなぁ。俺ももうちょっとうまくなんないとな」
「そうですね」
などと言いながら秋祭りの会場を二人で歩く。
ふと、目を覚ますと白い天井があった。どこにいるのか把握できず、咄嗟に起き上がろうとする。すると、右のわき腹に激痛が走った。看護婦が走ってくる。
「駄目ですよ、まだ寝てないと!」
「ここは・・・。あぁ、そうか・・・」
自分が病院にいることに気づき、何故そこにいるのかも思い出した。セフィロトの塔で仕事中に負傷したのだった。
「まだしばらくは安静にしててくださいね」
「・・・はい」
看護婦の言葉に素直に従ってゆっくりと体を横たえる。さっきのは夢か・・・。あの頃はよかった・・・。戻れるものなら戻りたい・・・。
天井を眺めながら物思いにふけっていると睡魔が襲ってきた。それに逆らわず、ゆっくりと眠りに落ちていく。
「何ですか ・・・これ・・・。どういうことですか!?」
「いや、私に言われてもねぇ・・・。私らは郵便届けるのが仕事だから・・・」
「あ・・・そうですね・・・。すみません。取り乱してしまって・・・」
「まあ、仕方ないさ・・・。気を落とすことはないよ。死んだっていう通知じゃないんだろ?まだとこかで生きてるってことだろうさ」
「そう・・・ですね・・・。ありがとうございます」
「あぁ、じゃあな」
許婚の彼が出征し、一年待った私の元に届いた通知。戦場にて行方不明。たったそれだけ。思わず届けてくれた郵便屋のおじさんに食って掛かってしまった。
「一体どうしたの?」
私の叫んだ声を聞きつけたのか、母が二階から降りてくる。
「・・・これ・・・」
そう言って、彼の戦場にて行方不明、という通知を渡す。一瞬にして母の顔から血の気が引くのが分かった。
「そんな・・・。これだけ?」
「えぇ・・・」
「あぁ、何てこと・・・。でも、亡くなったと決まったわけではないのね?」
「分からないけど・・・多分・・・」
「きっと帰ってこられるわ。大丈夫よ。きっと・・・」
だが、彼は帰ってこず、私も戦場へと送られた。いつも彼のことを思っていた。心のどこかで、この戦場のどこかにいるんじゃないかと、無意識のうちに探している自分がいた。そして、自分が年をとっていないことにもしばらくしてから気づいた。いつの間にか、私の体も心も時を止めてしまっていた。大破壊の後、かえるところもなくなり、私はフリーランスとなり、さまざまな組織を渡り歩いた。時には味方だった組織と敵対することもあった。また、戦場で私の射撃の腕に磨きをかけてくれた師匠ともいうべき人とも、敵対したことがあった。距離はライフルの射程距離ギリギリ。この距離ではよほど腕がよくなければ当たらない。緊張感が走った。彼は、私に手ほどきをした人間だ。だが、私は冷静に狙いを定めて撃った。彼も同時に撃ったようだが、私の頬をかすめただけだった。私の撃った弾は彼の眉間を打ち抜いていた。
そんなこともあった。思えば、色々なことがあったものだ。あの秋祭りの日にもらったぬいぐるみは、今、どこにあるのだろう。そう思いながら、再び目を覚ました。
終
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ライター通信
せっかく発注してくださったのに、遅くなってしまい、大変申し訳ありません。
言い訳させていただくと、実は腰痛で長時間座っていられなかったもので・・・。
しばらく腰痛の治療のため受注はしませんが、もしまた機会があれば、お仕事させていただきたいです。こういうタイプの女性を書いたのは初めてだったので勉強になりました。
満足してもらえる出来になっているかどうかは不安ですが、今回は発注していただき、
ほんとうにありがとうございました。
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