PSYCOMASTERS TOP
新しいページを見るクリエーター別で見る商品一覧を見る前のページへ


<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


第一階層【ダークゾーン】闇の中を抜けて




 真っ暗な闇の中を、白神・空(しらがみ・くう)は壁に手をつき、静かにゆっくりと進んでいった。足下の水にドップリと浸からないよう注意しながら、壁沿いに歩いていく。
 さすがに未探索地域へと抜けるための下水道。お世辞にも綺麗な水とは言えないが、まだ汚水と言い切れるレベルでないのは救いであった。雨など、地上から流れてくる水で洗われるからだろう。今でも、所々のヒビから土を伝って降りてきた地下水が滴っている。もっとも、何処からも光が差さないこの場所では、それを見る事は出来ない。水滴が落ちる音を聞いて、そう判断しているだけだ。

「よく崩れないわね……」

 呟く。かと言って、今崩れてきたら死亡確定だが、そこまで気にしていたら探索も何も出来やしない。出来るだけ避けるつもりだが、もし戦闘に入った場合は、出来るだけ静かに標的を倒す必要があるだろう。相手と一緒に心中なんて事になったら、後悔も出来ない。

「………!」

 壁伝いに歩いていた空は、前方から来る羽音を聞き付け、動きを止めた。玉藻姫としての鋭い五感が、この暗闇の中で役に立つのかどうかは自分でも疑っていたが、どうやら正解だったようだ。
 役に立たない目を閉じて羽音に集中する。相手の羽音は実に小さい。もし玉藻姫の状態でなかったら、空でさえも聞き逃していただろう。
 空はジッとその羽音が近付いてくるのを待ち……

 ヒュッ

 無言で、腕に噛み付こうとしてきた生物を切り裂いた。鋭い爪に変わっている指先は、よほど堅い金属でも持ってこない限りは欠ける事もない。
 この暗い下水道に、獲物となる生物が居るのかどうかは知らないが、拳二つ分程の大きさがあるコウモリが真っ二つとなって、下水に落ちた。流されていく死体を確認する事もなく、もうしばらくだけ耳を澄ませて敵が居ない事を確認し、再び進み出した。

(ふぅ、あまり強いタイプのタクトニムが居なくて良かったわ)

 こういった場所もタクトニム達の通路として利用されるのだが、下水道自体が狭いためか、機械型のタクトニムには遭遇していない。獣でも、エサが無いために生存出来なかったのだろう。この場所にいるのは、比較的小さな生物たちばかりだった。

(まぁ、だから楽って訳じゃないけど……)

 何しろ道が見えないのだ。敵が弱い事を差し引いても、あまり好調とは言えない。

「そろそろ戻った方が良いかしら」

 思わず口に出る。まだ未探索地域までは辿り着いていないが、この下水道に入ってから、既に五時間以上経過している。未探索地域に近付いているのかどうかすら解らないのに、あまり深く入り込みすぎるのも危険だ。
 ここまで来た道は、体と感覚で覚えている。マッピングは役には立つのだが、あまり期待出来ないのが現実だ。それに、本当に追いつめられたら最期。いちいち地図を見ているような余裕など無いだろう。
 この場所に来るまでで五時間、帰りに道を間違えるような失態をしなければ、同じ速さで進んでやはり五時間………
 途中で強力なタクトニムに出会えば、それ以上。

(一回戻りましょう)

 空は、壁に印を付けてから踵を返した。いくら無理・無茶・無謀な事が好きでも、引き際は弁えている。あまり時間を掛けて、こんな所で一夜を過ごすような事になってしまったら、笑う事も出来ない。もっとちゃんとした装備を調えてから、来るべきだ。
 勿論空は、一回二回で諦めるつもりはない。それこそ何回でもこの下水道を探索して、未探索地域まで行く道を開拓する来満々である。






 下水道の水を掻き分けながら、何回も入り組んだ通路の角を曲がる。歩けど歩けど、真っ暗なのは変わらない。まぁ、来た道と同じ道を辿っているのだから当然であるが、一つ、来た時とは違う点が出てきていた。
 時々止まって後ろを振り返りながら、空は怪訝な表情で暗闇を睨み付けた。

(付けられてる?)

 何者かは解らないが、どうも背後から何かがずっと付いて来ているような気配がする。暗闇の所為で姿を確認することは出来ないが、数メートル離れているところで、何かが付いてきているのが感じられた。
 タクトニムか、それとも同業者か……どちらにせよ、微かな気配を放ちつつ、姿を見せずにくっついて来るのは、とても良い気分ではない。攻撃してくる訳ではないので様子を見てみたが、結果は変わらない。
 このまま脱出口にまで付いてくるつもりなのだろうか?

(厄介ね。このまま他のタクトニムと遭遇して、挟み撃ちにされたら大変だし……)

 空は腕に力を込めて、背後に居るであろう敵を迎え撃つことを決めた。先手を打つために、曲がり角のところで待ち伏せ、相手がこっちに近づいてくるのを待つ。
 体は相変わらず玉藻姫の姿だ。一撃で仕留めるため、体を低く構える。
 壁越しに、敵の気配が近づいてくる。待ち伏せているのを気が付かれないように、物音一つ立てずにジッと待ち……

「ハァッ!」

 獲物に躍りかかった。暗闇の中でフワフワと浮いていたそれに、爪を叩き付けて弾き飛ばす。金属的な破壊音。通称ソーサーと呼ばれる円盤は、バチバチと火花を上げながら、ボチャンと水の中へと落ちていった。ソーサーの電流が流れたのだろう。一瞬だけ、水を伝って空の足にも電流が流れ、体を痺れさせた。

「機械?」

 ずっと生物ばかりを相手にしていたため、怪訝な表情になる空。だが次に、自分が背にしていた通路から響いてきた聞き覚えのある足音を聞き、溜息をついた。

「囮………これが警報代わりって事かしら」

 呟いた瞬間、通路の奥からガチャンと言う鋭く大きな音が立ち、すぐにマシンガンの凄まじい発射音が鳴り響く。
 通路の奥から無数に飛んできた弾丸を慌てて別の角に引っ込んで躱しながら、空はどうしたものかと考えていた。

(さて、私がここまで来た道にはタクトニムが居て通れない。この狭い通路じゃ、あのマシンガンの弾雨を無傷で潜って迫るのはたぶん不可。なんだか痛そうだし止めておくとして………)

 通路の角から少しだけ顔を出して相手を眺めてみる。マシンガンのフラッシュの御陰でその全貌がチラチラと見え、空は頭を抱えた。
 下水道管理専用にでも作り替えられたのだろう。通路の幅の半分ほどしかない大きさの小さなクモ型のタクトニムが数体、侵入者を逃がすまいと、よりにもよって空が通ろうとしたところに陣取ってこちらを窺っていた。

(………来た時の通路は無理ね。だとしたら、やっぱりこの通路かしら?)

 一か八かで自分の居る通路を進んでみようとも思うが、それでもし行き止まりだったとしたら分が悪い。水も膝まであるか無いかしかないため、人魚姫になって姿を消して逃げることも叶わない。
 しかし、今の状況で出来る選択は少なく……

「仕方ないわね。一か八か、行ってみましょ」

 言うや否や、後を追ってくるタクトニム達に追いつかれないよう、その場を全速力で駆け出した…………






「で、行き止まり?」

 自分は何か悪いことでもしたのだろうかと、後頭部を掻きながら空は愕然とした。
 タクトニム達の銃撃から逃れるために、出来るだけ自分が行きたかった通路と合流できる方向へと走っていたのだが、不運にも、目の前にあるのは壁だった。左右も壁に囲まれているため、文句の付けようもないほどの行き止まりである。
 一か八かの賭に出て破れた空は、追ってきているタクトニム達を撒くことも出来ていない。刻一刻とタクトニム達が近づいてくる音が、通路に響く反響でよく分かる。

「どこかに出口はないのかしら」

 あっちこっちの壁などを叩いてみる。だがパラパラと天井から小石が落ちてくるだけで、壁が崩れて隠し通路が出てきたりはしない。ガックリと肩を落とした空は、覚悟を決めてタクトニム達を倒すことを考え始める……
 だがこれと言って対抗策を練る前に、タクトニム達がワラワラとその姿を現す。隠すつもりがないのか、チラホラと真っ赤なランプが点灯している。

(増えてる!?)

 逃げている間に数を増したタクトニム達の銃口が、一斉に空に向けられる。
 空は、このまま蜂の巣になるものかと、玉藻姫を解除し、水に潜り込みながら人魚姫へと変身した。
 空が水に潜るのと同時に、タクトニム達の一斉射撃が開始される。

(これって、水の上に出た途端にボロボロにされるわよね……)

 そう思いながら、どこやってこの状況を打開しようかと、空は暗い水の中を手探りで調べながら考えた。
 ……と、水の中を探っていた手が、何かに触れる。

(これは………取っ手?)

 言うなればマンホールのように丸い蓋があり、それの取っ手の部分が、水中に少しだけ出っ張っていた。水の上を歩いている時には、石か何かが落ちていると思って気にしていなかったのだが………

(ふむ………引っ張ってみましょ)

 ウズウズと好奇心旺盛な性分が出てきて、考えて結論を出すよりも早く、その取っ手に手を掛ける。水圧で押しつけられているのだろうそれは重く、常人で持ち上げられるような物ではないのだが……

(せ〜の!!)

 もっとも力のある人魚形態になっている空は、その重い蓋を、気合いの合図と共に持ち上げた………






「プハァッ!ああ、水が美味しいって、良いことだと思わない?」
「は、はぁ……」

 突如として水の中から現れた空を、川に釣り糸を垂れさせていた釣り人は目を丸くして凝視した。空はその視線を気にせずに、やっと気が抜けたとばかりに、河原に上体を横たえる。
 空は、例の蓋を開けた後、そこに現れた穴に飛び込んで下水道を脱出した。穴は何処までも伸びて、どういう訳か一時間近く泳ぐことになり、そして比較的大きな川に出ることになった。
 とりあえず「人魚?え?何故に?」と混乱気味な釣り人に手刀を打ち込んで気絶させた後、他に目撃者が居ないことを確認する。

「さて、と。助かったのは良いけど………ここって何処かしら」

 とりあえず未探索地域ではないんだろうとは思いながら、度重なる戦闘と変身ですっかりボロボロになり、一部行方不明となった服をどうしようかと、空は気絶した釣り人に目を向けた………




FIN







□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
  0233    白神・空  女    24歳  エスパー

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
 初めまして、メビオス零です。とりあえず先に、納品が遅れた事をお詫びします。すみません。
 そして今回のご依頼、誠にありがとうございました。キャラ的には使いこなせてはいないでしょうけど、イメージに近かったら嬉しいです。
 なかなかイメージが湧いてこなかったんで、最終的に期限ギリギリまで粘って構成してこんな話です。感想などを送ってもらえると有り難いです。それが酷な内容でも……
 もし次回がありましたら、もっと気を利かせた話にしてみます。
 では、改めて、今回のご依頼、ありがとうございました。(・_・)(._.)