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ブラジル【都市マナウス】休日はショッピングに
〜 かしまし娘3人旅 〜
ライター:月村ツバサ
アマゾン川を下ってはるばると。長い船旅だったが、ようやくついたな。
ここがブラジルのアマゾナス州の州都だったマナウスだ。
審判の日の後の一時はかなり荒れたが、今はセフィロトから運び出される部品類の交易で、かつて魔都と呼ばれた時代の様ににぎわっている。
何せ、ここの支配者のマフィア達は金を持ってるからな。金のある所には、何でも勝手に集まってくるものさ。
ここで手に入らない物はない。欲望の赴くまま、何だって手に入る。
もっとも、空の下で思いっきりはしゃげる事の方がありがたいがな。何せ、セフィロトの中じゃあ、空も拝めない。
お前さんもたっぷり楽しんでくると良いぜ。
<1>
二人を誘おうと思ったのは、きっと偶然などではないだろう。オーナーに掛け合うと、案外あっさりと許可が下りた。上客として見てはくれているらしい。
「ありがとうございます、空さん! 旅費も全部持ってくださるなんて、さすが、ビジターですね!」
「ア、アリッサ、誉め方が露骨過ぎない?」
「本心だもの。何が悪いの?」
「ううん、なにも悪くない」
結局アリッサがシェリオンを言い負かす形になっている。
「お喋りは済んだかな? じゃ、出発しよっか」
空の言葉に、二人が嬉しげに返事をした。
「あれ、アリッサは?」
甲板で風に当たっていた空は、横にいたのがシェリオンだけだったことに気付いて尋ねた。すると、
「部屋で寝てます。アリッサって、お酒は強いくせに船酔いだけは全然克服できないんです」
「そっか、今ごろ辛いんだろうな」
「食べ物の匂いがしただけで気持ち悪くなっちゃうんですって……」
「それはお気の毒」
空は心の中でアリッサに合掌したのだった。
<2>
船を下りてからのアリッサの復活ぶりは見事であった。
「船さえ終わればこっちのものよ。ね?」
「もう大丈夫なの?」
空が尋ねると、
「さすがに慣れますよ、毎回酔ってれば」
胸を張るアリッサにシェリンがすかさず
「酔いは克服できないくせに」
「そういうシェリオンこそ、すぐに酔っ払って、言動が大胆になるくせに」
「え、嘘っ?」
「本当よ。ねえ、空さん?」
同意を求めてきたアリッサに、空はさらに悪乗りして、
「そう、すごかったわ。この間の夜なんて、あたしの体力続かなくなるんじゃないかって思ったくらい」
「う、嘘っ!」
「ごめん、嘘」
「え……」
これだからシェリンをからかうのはやめられない。本当はここで水着を買おうと思っていたのだが、なかなか店に入るところまでいかない。ショッピングモールをゆっくりと歩いていると、高い位置から声をかけられた。
「お姉ちゃんたち、暇なんじゃない?」
「オレたちと一緒にイイことしようぜ」
「大丈夫、みんな可愛がってやるからよォ」
下心を隠そうともしないところが返って清々しい。遠慮なく倒せる相手ということだ。
「そんな下品なナンパに引っかかる女の子がいるって、本当に信じてるのかしら」
先手を打って出たのは、喧嘩っ早いアリッサだ。
「これって、ナンパだったの?」
のんびりと相槌を打つ形で、シェリオンが加勢する。
「なっ、言わせておけば、このアマが!」
男の一人が激昂して、一番彼の近くにいたアリッサの肩を掴もうとした。しかしその手は空を切ることになり、腕の主は苦しいうめき声を上げた。
「ずっと言わせてあげてたのは、あたしたちのほうよね」
空が「玉藻姫」となり、男の腕をねじりあげたのだ。「玉藻姫」をさらに強化した「妲妃」もあるが、彼ら程度の相手に手のうちの奥までさらしてやる義理はない。
かくして、男どもは息も絶え絶えにその場から逃げていった。
「やっぱり空さんってかっこいい……」
「いつも困ってたんです、ああいうのをどうやって追い払うかって」
空は二人の頬を撫で、笑った。
自分が力をつければ、大切な人を守れる。それを密かに実感していた。
<3>
マナウスには海がない。よってせっかくの水着を披露する場がない……と悲観する必要はない。空が予約をいれていたホテルには、専用のプールもついていたのである。
ショッピングで買った水着を身につけ、プールサイドへ出る。降り注ぐ日の光も、セフィロトの塔近くのマルクトにはないものだ。
「さて、と。パラソルオッケー、シートオッケー、じゃあ、そろそろいこうかな」
「オッケーです」
細長い物体を持って、スタンバイしているアリッサ。
「わ、私からですか〜?」
ちょっぴり焦り気味のシェリオンは、白いベンチに横たわるようにしてうつぶせている。長い間セフィロトの日の当たらない環境にいたせいか、肌は驚くほど白かった。
「こんな綺麗な肌、黒くしちゃうなんてもったいないもの、ね」
隣にいたアリッサに同意を求める。満面の笑みでうなずいたアリッサは、早速持っていた細長いもののキャップを開けた。日焼け止めクリームの白い液体を手に取り、シェリオンの腕を取るとまるでエステティシャンのような手さばきでクリームを塗っていく。所々、くすぐったいのかシェリオンが身をぴくりと動かすのがまた可愛い。
「さーて、背中も塗りたいんだけど、邪魔なものがあるな〜」
アリッサが指差すのは、水着の上を止めている紐の結び目だ。
「ほどいちゃえ!」
空の一声により、アリッサが紐を一気に引っ張った。
「やっ……」
締めつけ感がなくなったのに気付き、シェリオンが声をあげた。
「動いちゃだめよ、シェリオン。これも、あなたの肌を守るためなんだから」
空が蠱惑的な笑みを向けながらクリームを手にする。恥ずかしいけれど動くとさらにあられもない姿を見せることになる。シェリオンの内面の葛藤が手に取るように見えた。だからこそやめられない。
くすくす笑いながらの二人のいたずらは、なかなか終わらなく、ようやく二人が勘弁してくれた時にはすっかりへとへとになっていた。
<4>
プールでさんざん遊んだせいか、シェリオンはワイングラスを1杯も空けないうちからうとうとし始め、食事を終えてすぐにホテルの部屋へと帰ってしまった。残った空とアリッサは、まだ冷め遣らない熱をどうにかしようと、おもてに面したバーへ入ることにした。
「楽しかった〜……帰りたくない、……かも」
アリッサが、一度呟いた言葉を途切れさせかけた。まるで恋人に言うような台詞だし、自分たちのように男に色目を使う女のいう台詞ではないと思ったのかもしれない。空はアリッサの赤毛をふわりと撫でて、
「あたしもよ。帰りたくない。女同士で遊ぶってことが、こんなに楽しいなんて思わなかったもの」
「きっと、シェリオンもそう思ってるはずです」
「でも……戻らなきゃいけない」
空は、アマゾン川を見つめた。真っ暗で、どれだけ深い水が流れているのかさっぱり見えない。時折、水面がなにかを反射して光る。すぐに暗闇に戻る。
ここで、泣き言ばかり言っていてもし方がない。遊んでばかりいてはさすがに貯金だって底をつく。
「また来れば良いってことか」
セフィロトでの汗と埃にまみれた日々も、ただ生きるためではなくこうして遊ぶためと考えればずっとわくわくする。
「アリッサ、乾杯しよっか」
琥珀色の液体の入ったグラスが二つ、カチンと音を立てた。
<5>
帰りの船内は、思いのほか静かだった。
騒ぎつかれた3人は、仲良く客室のベッドで熟睡していたからである。
「また、遊ぼ……」
誰かの寝言が泡のようにはじけた。
END
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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【0223】 白神・空
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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、月村です。
遅くなりましたが、マナウス編をお届けいたします。
女の子の「ふつー」ってこんな感じかなと書いてみましたが、いかがでしょうか。
少しでも気に入っていただければ幸いです。
月村ツバサ
2005/07/19
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