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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【ビジターズギルド】初めての会員登録

 ビジターズギルド。ゲートの前のでかい建物だと言えば、その辺の婆ちゃんだって教えてくれる。
 中に入っても迷う必要はないぞ。上のフロアにお偉方の仕事場があるんだろうが、用があるのは一階の受付ロビーだけだ。階段昇らずまっすぐそっちに行けばいい。
 軌道エレベーター『セフィロト』探索を行う者達は、まずここで自らを登録し、ビジターとなる。書類の記載事項は余さず書いたか? 書きたく無い事があったら、適当に書いて埋めておけ、どうせ誰も気にしちゃ居ない。
 役所そのまんまで、窓口ごとに担当が別れている。お前が行くのは1番の会員登録窓口だ。
 並んで待つ事になったり、待合い席に追いやられる事もあるが、気長に待つんだな。
 同じような新人を探して、話なんかしてるのもいいだろう。つまらない事で喧嘩をふっかけるのも、ふっかけられた喧嘩を買うのも悪かない。
 まあ何にせよ、書類を出せば今日からお前はビジターだ。よろしく頼むぜ。


<Seek - レイカ・久遠>

 死と隣り合わせの場所へ行こうとする物好きが、世の中にはたくさんいたらしい。古びた建物にあるビジターズギルド受付前は、今日も大盛況のようであった。右のほうから罵声が聞こえるかと思えば、左からは怒号が響く。そんな場所だ。
「私も、この世界の住人になるというわけね」
 レイカ・久遠は、ぐるりとフロアを見渡した。美しいブロンドの髪が、さらりと揺れた。思い出すのは、ただ一つのことだけ。
 それは、闇と共に現れる悪夢だ。
 父も母も、世界をまたにかけるトレジャーハンターだった。二人とも、レイカにとってはいくら尊敬してもしきれない人物で、自分も将来はトレジャーハンターになると信じて疑いもしなかった。
 けれど、変化は訪れた。
 彼女が18才の時、母と共にいたところをシンクタンクが襲撃。母は、娘であるレイカをかばって亡くなった。
 怪我をしたレイカの治療費を稼ぐために、父親はトレジャーハンターから離れた危険で高収入の任務をもひきうけるようになった。生身の父親には会えなかった。その代わり、治療やリハビリは順調に進んでいった。
 ようやく退院できる、その前日。父親から送金と共に手紙が来た。レイカがもうすぐ退院すると知って喜んでいる様子があり、早く会いたいという気持ちが溢れていた。「最後になってしまったけれど、レイカ、19歳のお誕生日おめでとう。」という言葉で、手紙は締めくくられていた。
 その手紙を最後に、父は音信不通となった。

「あの、会員登録に来た人ですよね?」
 レイカの思考をさえぎる声がした。振り向くと、目線をだいぶ下げた所に、かわいい黒髪の女性がいた。


<rehabilitation - 西園寺・音姫>

 誰かが怒って瓶を床に叩きつけた。
 ガラスの破片が飛び散る音に、西園寺・音姫は無意識に肩をすくめていた。
 あのときの記憶がよみがえる。今はだいぶ軽くなったが、それでもトラウマというものは消えないらしい。
 手のひらを眺め、自分がここにいることを確認する。この手は、自分のものであってそうではない。
 1階1番窓口が、会員登録のための窓口だと言うから来てみれば、とりあえずお待ちください、とにべもない返事がかえって来た。フロアにあふれているたくさんの人が、どうやらほとんど全員会員登録を希望しているらしい。
 発行までには、ずいぶんと待たなくてはいけないらしいことに気付き、音姫が取った行動は、まず周りを見渡すことだった。何かを見つけ笑顔になる。その顔のまま、先ほどロックオンした標的に近づいていった。
「あの、会員登録に来た人ですよね?」
 相手は一瞬驚いたのかピクッと肩をすくませ、ゆっくりと振り返った。金髪が文句なく綺麗な人だ。
「あなたは?」
 台詞はいたってクールで短い。
「西園寺・音姫といいます。もし良かったら、順番が来るまでお話しませんか?」
 周りにはたくさんの人間がいたが、どれもこれも血の気の多そうな筋肉質ばかりで、とてもゆっくりお喋りに興じることの出来そうな相手はいなかったのだ。その点、同じ女性ならば少なくとも男性よりは話が弾むはずである。
「別に、かまわないわ」
 よくはないけれどいやでもない、というスタンスの返事だったが、音姫はそれを単純に肯定と受け取り
「ありがとうございます。そうだ、立ち話もなんですから……」
 ということで、二人は空いているソファを探すことになった。一見空いているように見えても、そこには妙な縄張り意識が存在していて、うかつに踏みこめば睨まれ、声をかければ怒鳴り返される。厄介なものは避けようと歩いていくと、
「あ、あそこが空いてますね」
 音姫が見つけたのは、隅に近いソファだ。ソファとは言うものの、弾力性を望んではいけない、座れるだけで感謝しろという代物ではあるのだが、そこには一人、先客がいた。銀の髪の女の子だ。先手必勝と話しかける。
「あなたも会員登録を待っているんですよね?」


<rival - エレナ・レム>

 友達とライバルの中間。それが、エレナと彼女との距離。
「エレナ、競争よ!」
 いつだって一緒にいたのに。
「一番最初にあなたに話したかったの」
 いつの間に、彼女の心は遠くへ行っていたのだろう。
「私、ビジターになるわ」

 フロアの喧騒が遠くからぼんやりと聞こえてきていた。うたた寝ついでに、懐かしいものを思い出していたようだ。受付前の黒い革のソファは、座りごこちはどう贔屓目に評価してもコンクリートか金属の上に座っているのと大差なかった。
「あなたも会員登録を待っているんですよね?」
 突然話しかけられ、エレナ・レムは顔を上げた。
「え、あ、はい……」
 返事はしどろもどろになってしまった。話しかけてきたのは、可愛い黒髪の少女だ。といっても、自分よりは年上の外見をしているようだが。
「西園寺・音姫といいます。あなたは?」
「あ、私はエレナ、エレナ・レムよ」
「エレナさんですね、どうぞよろしく。こっちは、えぇと……」
 音姫がふと後ろを見た。ストレートの金髪が眩しい女性が立っている。
「レイカ・久遠です。よろしく」
 3人がそれぞれ名前を明かした所で、音姫がにっこりと、
「とりあえず、座ってもいいかしら?」


<Why did you come here?>

「なんだか、血の気の多い場所ですね」
 ぽつりと感想を漏らしたのは音姫だ。目の前では、肩が触れた程度のことでガンをたれあっている二人の大男が、かれこれ15分ほどにらみ合いを続けている。受付の順番が来てもにらみ合っているつもりなのだろうか。
「ここには、そういう人たちばかりが集まるんじゃないの?」
 さも当たり前だという風に言ったのはレイカだ。
 確かにその通りかもしれない。ビジターになればセフィロトの塔への通行が可能になる。セフィロトの塔に入れれば、中にあるであろう値打ちものを手に入れられる。それを売れば金になる。もしもビジターになるのがお金儲け目的ならば、他にも金儲けの手段はたくさんあった中であえてこれを選んだことになる。それはやはり、どうせ金儲けをするならビジターとなって、自分の力と知恵と機転で困難を乗り越えたいと考えたのだろう。
「それなら、あなたもそうなんですか?」
 おっとりと尋ねたのはエレナだ。尋ねられたほうのレイカは、少しの間相手の言葉の意味を考えていたが、やがて首を振った。
「私は、そこまで熱い人間じゃないわ。もっと……義務的なもの」
「義務、ですか?」
「そう、私が私に課した義務」
 そこまでいうと、レイカはいったん口をつぐみ、目を閉じた。辛い過去を思い出したか、または子のメンバーにどの程度なら話せるかを考えているのか。
 目を開けたレイカは、すい、と手を自分の胸に当てた。正しくは、胸ポケットに入っている手紙に、だ。
「私は、父の行方を探してるの。1年前から音信不通になっているから……」
「そうだったんですか……つらいことを話させてしまってごめんなさい」
「大丈夫よ。それに、これがつらいことかどうかは、まだわからないわ。まだ、父の姿を確認してないもの」
 レイカの台詞には、先ほどちらりと覗いた感傷的な色はすっかり取り払われていた。
「それで、あなたはどうしてこんな所に?」
 レイカがエレナに逆に問いかけた。
「私? 私は……」
 なぜだろうかと思案している様子である。ずいぶん深く思案にふけってしまいそうだった所に、音姫が口を挟んだ。
「当ててみても良いですか?」
「え、ええ、どうぞ」
 突然の申し出に戸惑いつつも、音姫のペースに乗せられているエレナである。レイカもまた、無関心を装っているものの意識はしっかり音姫に集中している。
「ええとですね……」
 頬に人差し指をぽんぽんと当てて考えていたが、やがてひらめいたのか、自信まんまんにこう言った。
「エレナさんがここにいるのは、もしかすると、道に迷ってしまったからではないですか?」
「……え?」
 音姫の答えは、エレナの思考を超えていた。
「道に迷って、ビジターになるんですか?」
「そうです。道に迷ってしまって、どこへ行けば良いのかわからなくて、そうしたらセフィロトの塔の話を聞いたんですよ。それで、この塔を極めればきっと、自分の進むべき道がわかる、と……」
「そんな壮大な話じゃないと思いますけど……」
「それはそれで面白いけれどね」
 レイカが、肩を震わせている。ちょっとうけたらしい。
「ち、ちがいますか?」
「うん……」
 エレナは改めて考えはじめ、今度はすぐに顔を上げた。
「私には、すごく仲の良い友人がいたんです。仲が良いというか……ライバル、っていったほうが近いかもしれませんね。何をするにも一緒で、よく競争してました。彼女が突然、ビジターになるって言って私の前から消えてしまったんです」
「消えたの?」
「彼女がいなくなってから、なんとなく毎日が味気なく感じてしまって。それで、ビジターになろうと……しているのかもしれません」
 結論を曖昧に誤魔化すところが彼女らしいといえばそうかもしれない。
「じゃあ、最後はあなたの番ですよ、音姫さん」
「あ、ええ、そうね……」
 音姫のトーンが下がった。その気配を感じ取り、レイカが
「言いたくないならば、無理に聞き出しはしないわ」
 先に言うが、音姫は笑顔でその申し出を断った。
「私は、昔大きな事故にあったの」
 そう語った瞬間、遠くでガラスの割れる音が響いた。音姫はかすかに眉をひそめた。
「瀕死の重症だったんですって。この時代じゃなかったら、確実に私は今ここにはいなかったと思います」
「そのボディー、サイバーだったのね」
「そうです。医療用のなんですけれどね。ただ……」
 音姫は急に恥ずかしそうに、もじもじと俯きだした。
 もしやここから医者や医療スタッフとの恋愛ストーリーにでも突入するのかと密かに期待していた聞き手二人だが、それは見事に打ち砕かれた。
「サイバーボディって、力の加減が難しいんですよね。すごく」
 医学の分野が進み、サイバーボディの開発はめまぐるしかった。元の体とほぼ同じ感覚で、新しい体を操ることができるところにまで、技術は進歩しているはずである。しかし、まだ若干の違和感は残っているらしく、それには個人差があるという。音姫は恐らく、サイバーボディとの相性がなかなか合わない、レアな人物なのかもしれない。
「ただ、コップを掴もうと思っただけなのに割っちゃったり、ちょっとだけむしゃくしゃしたから壁をこぶしで軽く叩いたら、なぜか隣の部屋と繋がってしまったりして、これはまずいな、と思って」
「それで、セフィロトに?」
「一応、そんな感じです。ここなら、いくら力をふるっても大丈夫ですよね? そうするうちに、力の加減のしかたも覚えて、いいリハビリになるんじゃないでしょうか。そう思いませんか?」
「……さぁ」
 返事に困っていると、受付から彼女らを呼ぶ声がした。


<We want to meet you again someday..>

 登録も終わり、3人は無事ビジターとなることが出来た。真新しいライセンス証を何とはなしに見せ合う。
「きっと、この体を自分のものにしてみせますから」
 音姫はライセンス証を懐にしまった。
「今度会うときに、私の親友を紹介できたらいいのですが」
 エレナが首を傾げて言った。
「次に会うときは、塔の中かしら?」
 レイカがくるりときびすを返した。

 ビジターとしてのすべては、ここから始まる。


FIN.

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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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主発注:
【0676】 西園寺・音姫 / 18歳 / オールサイバー

福発注:
【0642】 エレナ・レム / 15歳 / エキスパート
【0657】 レイカ・久遠 / 20歳 / エキスパート
(発注順)

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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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はじめまして、月村ツバサと申します。
今回は、初めての会員登録にご参加いただきありがとうございます。
うら若い女性ばかりということで、気分的には華やかでした。
口調など、まだちゃんと掴めていないかもしれません。
要望があれば何なりとお申し付けください。
少しでもお気に召していただければ幸いです。

月村ツバサ
2005/07/22