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都市マルクト【整備工場】武器マーケット
メビオス零
整備工場名物の武器マーケットだ。
自分にあった新しい武器を探すのも良い。頼めば試し撃ちくらいはさせてくれる。
弾代は請求されるけどな。色々試してみたらどうだ? 新しい武器がいらないとしても、今使ってる武器の弾や修理部品を探す必要もあるだろう。
まあ、楽しみながら色々と見て回ってくると良い。売り子の口上を楽しむのも面白いぜ。
それに、ここで目を鍛えておかないと、いつか不良品を掴まされて泣く事になりかねないからな。
何事も経験と割り切りながらも慎重にな。
あと、掘り出し物だと思ったら、買っておくのも手だ。商品は在庫限りが基本で、再入荷なんて期待は出来ないぞ。
武器マーケットに入ると、途端に四方八方から売り込みの声が響いてきた。
厳つい顔つきの、表でバッタリあったら回れ右して逃げ出したくなるような屈強な男達が、声を張り上げてお客の呼び込みをしている。
むしろお客が遠退きそうだと無関係の者達は考えるだろうが、お客とて似たような者だ。武器マーケットに来る以上は堅気の人間ではないのだから、これ見よがしに怖そうな雰囲気を漂わせている者達がひしめいている。
そんな中に、およそこの場に似つかわしくない姿の少女が二人訪れていた。
クリスティーナ・クロスフォードと、西園寺・音姫である。およそ十代中盤と後半の二人は、この場には似合わないようなほのぼの空気を(少なくとも音姫は)発しながら、人混みの中を掻き分けながら(あるいは流されながら)進んでいた。
クリスティーナは何度も来ているので、小柄な体が人混みに時々流されながらも、自分の目的の店に辿り着けるように人の合間を擦り抜けていった。
対する音姫は、ほぼ初心者。クリスティーナに案内されているのだが、それでも、時々流されるどころか弾き飛ばされ、転ばされて、踏みつけられる前に慌て気味のクリスティーナに助けられるというのが、この短時間ですっかりパターンになっていた。
「す、すいません〜」
「良いって。僕の行きつけの店まで、後少しだから、がんばって」
「うきゃ!」
「言ってる側から流されてるし!!」
音姫の手を引っ張って引き寄せながら、クリスティーナは苦笑した。音姫は目を回しながらも、引っ張られる方向にヨロヨロと連いて行く。これでは、どっちが年上だか分からない。
暫くすると、人集りが段々と少なくなってくる。静かとは言えないが、入り口周辺の喧噪に比べたら、ずいぶんと静かで歩きやすい。そんな中で、クリスティーナは迷うことなく目的の店を見つけ、そこに直行した。
二人が店に入ると、カウンターに座っていた髭を生やした中年が、ムスッと二人を睨み付けた。そこは、武器屋が乱立する武器マーケットにしては、こぢんまりとした古そうな武器屋だった。店内には飾り付けに刀剣が飾られ、それがさらに古めかしさを強化している。
「ちょっとそこで休んでなよ。軽く商談してくるから」
「そ、そうする〜〜」
店の入り口横にあった椅子に腰掛けて、思いっきり項垂れた。オールサイバーでも、人混みで揉み回された所為で、精神的に疲れたらしい。それを横目で見ながら、クリスティーナは店主に声を掛けた。
「ども、相変わらず景気悪そうだね!」
「その分取れるところから取ってやるから良いんだ。ところで、アレは何だ?」
「マーケットに入る前に会ったから、案内してきた。このお店って、サブマシンガンは有ったっけ?」
「古い型のなら、倉庫に埋もれてる。何だ、マシンガンに用があるのか?……ッチ、お前はナイフ使いだと思ってたんだが、騙されたな」
「騙してない。今訊いたのは、後ろの彼女の要望………で、僕の方はこっち、このリストに書いてある物、揃えられる?」
クリスティーナは、ポケットの中から一枚の紙を取りだした。MSや持ち物を整理している時に書きだした物だ。
店主はジッとそれを睨み、一通り目を通してから、呆れた声を出した。
「何だ、ずいぶんと多めの注文をするんだな。戦争でもしたのか?」
「最近、いろんな所で戦ったから。なんだか注文する物が増えちゃったんだ。で、有る?」
「当然だ。届け先はいつもの所で良いな?」
「話が早くて助かるよ。…………それでお代なんだけど……」
「内はローンもツケも無しだ。一括払い!ついでに言うと、子供だからと言って安くしたりはせんからな!」
「そんな!只でさえ最近機体が壊れたりして大変なんだから、ここで安くしとかないと相棒に怒られる!!」
「ええい!財閥の総帥が金勘定なんぞせんで良い!!全て俺に任せろ!!相場をひっくり返すような破格の値段にしてやる」
「それ絶対に高くするって事でしょ!?」
ギャアギャアと二人して騒ぎ出す。何処が“軽い商談”なのかは分からないが、その光景を後ろから見ていた音姫は、自分がほとんど忘れられ掛けていることも気にせずに、ニコニコとそれを見守っていた………
★
「…………そっちの嬢ちゃんは、サブマシンガンだったな。ちょっと待ってろ、適当に持ってきてやる」
「埃を被った不良品をね」
「……………」
「ちょっと……否定しなよ!!」
無言で店の奥に引っ込んでいく店主に、クリスティーナは慌てた口調で言った。
だが店主自身、店でほとんど銃器を扱っていないため、微妙に自信が持てていなかった。まぁ音姫は、それでもまったく気にするような素振りがないのだから、大した者だ。
もっとも、彼女が気が付いていないだけかもしれないが………
暫くして、店主が両手で幾つかの箱を持って戻ってきた。カウンターの上にドサッと重そうな箱を下ろすと、肩をコキコキ言わせながら溜息をついた。
「ほれ、俺の所にあるサブマシンガンだ。どれもこれも、荷物の中で埃被ってたからな、正直に言うが、かなり年代物だ。結構前に売りつけられたからな」
「それじゃ、商品の解説とか出来ないんじゃないの?」
「お前はとりあえずどっか行ってろ。今度はこっちの嬢ちゃんと商談するんだからな」
「………じゃ、音姫さん。こっちの親父にセクハラされたら、大声で叫ぶんだよ?」
「早く行け!!」
クリスティーナは、音姫に手を振りながら、逃げるように店を後にした。残った音姫は、ポカ〜ンとしながらその光景を見ていたが、店主が呆れ顔で自分を見ていることに気が付くと、ようやく我に返って箱に手を掛けた。
「えっと……開けて良いですか?」
「構わんよ。開けて、いきなり爆発したりはないはずだ」
「!?」
「冗談だ!冗談だから、そんなにオロオロするな」
「す、すいませ…あうっ!」
「頭は下げなくて良い!」
箱でおでこを打った音姫を、店主は溜息を吐きながら落ち着かせた。
音姫は申し訳なさそうに小さく笑ってから、箱の中に入っているサブマシンガン数丁を眩しそうに見つめ、手に取った。
サブマシンガンには、それぞれ手引き書が送付されていた。サブマシンガン自体はよく分からないが、手引き書はかなり年代を感じさせ、所々、文字が薄くなって削れていたりしている。
「セフィロトから戻った奴らから買い取ったんだ。たぶん、審判の日以前の物だろう。試射は買い取った時に済ませてあるからな、出回っている九o口径の物が使えるぞ」
「ここで、弾って置いてありますか?」
「悪いがあまり無いぞ。俺は剣の方が好きだからな」
店主の解説を聞きながら、音姫自身もあれこれと質問し、手に取っていく。空撃ちしてから、店主に頼んで試射をしてみた。
店の奥に案内され、小さな店らしく狭い試射場に入れられた。弾丸を渡され、一回の試射事に数発連続で撃ってみる。あまりここで弾代(自腹)を掛けて、本体を買うお金を無くしてはいけないので、たった二十数発だけで試射を終える。
「どうだ?」
「う〜ん、まだちょっと………ここだけで決めるのも何ですから、他の所も覗いてみますね」
「………そうか。残念だが、当然のことだな。銃はいつでも売れる体勢にしておくから、また来てくれよ!あ、弾代はクリスの方に回しておいてやる」
「いえ、それはちょっと……」
「また来てくれよ」と念を押されてから、音姫は再びカウンターの場所へと戻った。すでに戻ってきていたクリスティーナに、銃器専門の店に案内して貰うことになり、二人は並んで店を出る。
★
辺りの武器を扱っている店を次々と回り、説明を聞いて試射をしてを繰り返していく。
そして案内して、ついて回っているだけのクリスティーナが完全にバテてしまった時には、何と、一周して最初に店に戻ってきていた。
「………顔色が悪いぞ。何で連いて行っているお前が、そこまで疲れるんだ?」
「何と言うか、これからは人を連れ回す時には、もう少し気を遣うことにするよ」
「ごめんなさいね♪」
店主から買い取ったサブマシンガンの箱と弾丸を、丈夫そうな袋に入れながら、音姫は上機嫌でクリスティーナに頭を下げた。
丸一日案内をしていたクリスティーナは、普段の元気さがほとんど無くなっていたが、「だぁぁあ!とりあえず、美味しいご飯でも食べて、明日に備えようっ!!」と拳を振り上げて復活した。
「現金な物だな………」
店主は、そんなクリスティーナを眺めながら呟いた。当の本人は、その呟きをちゃんと耳にしていたらしく、ムッとした表情で店主を睨み付けて威嚇した。負けじと、店主も睨み付ける。
「あらあら、どうしようかな」
音姫はニコニコと笑いながら、止める訳でもなく、どっちに加勢しようかなどと考えていた………
荒くれ達がひしめいている武器マーケット………乱闘騒ぎも珍しくない場所ではあるが、それでもこの小さな店は、おおむね平和的にその一日を終える。
武器マーケットの何百人もいる人々の中で、一日に来るお客が平均二人〜四人が良いところであるその店に、一人、常連客が増るのだった………
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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【整理番号(NPCID)】 PC名
0656 クリスティーナ・クロスフォード
0676 西園寺・音姫
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