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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【自警団詰め所】決定、御宿泊

ライター◆なち


 で‥‥何をした?
 自警団員に捕まって、自警団詰め所にしょっぴかれて、取調室でこうやって自警団員と御面談だ。何もやってませんってのが、通じるとは思わねぇよなぁ?
 どうせ、酒飲んで喧嘩でもしたって所だろう。
 ま、少し牢屋で反省するんだな。その後、罰金か労働奉仕か‥‥そんな所か。
 それとも‥‥
 いや‥‥俺はちょいと忘れっぽくてな。特に、臨時収入のあった日なんかは、色々と忘れてしまってなぁ‥‥
 お前さんを牢屋に蹴り込むのをすっかり忘れた、なんて事にもなりかねないと思うんだ。


 ◆◇◆


『…………』
 自警団に払える賄賂があったなら、ちゃっちゃと払ってこの場からおさらばしている。もちろんそんな金は無いし、罰金を払うだけの持ち金も無い。
 もう労働奉仕に準じるしか道がない者達は、せまっくるしい牢屋の中で対峙していた。
 見た事がある顔もある。
「やあ、レオナちゃん。……何したの?」
口火を切ったのは、ギルハルト・バーナードだった。顔見知りの相手に向かって乾いた笑みを送ると、兵藤・レオナは面白そうに言葉を返す。
「ボクはお酒に酔って、大乱闘やらかしちゃって〜」
まあ大体が似たり寄ったりの理由でぶち込まれているわけだが、こう明るく言われてしまうと「そう」としか返す事が出来ない。丁寧に同類が居ると知るまで不機嫌だったとか、全財産が27レアルだった事まで教えてくれる。
 そして満足したのか、次とばかりに隣の美青年に話を振る。
「アルベルトは?」
金髪碧眼の青年は、にっこりスマイルで、
「俺も似たような理由。財布まで持ってかれちゃってね」
女性を、また男性の一部をも魅了する微笑には、有無を言わさぬ圧力がある。これにも、「そう」とだけ返して、ギルバルトは最後の一人へと視線を向けた。
 まさか交際中のレオナを前にして、「趣味の美人局狩りに熱が入りすぎて、暴行の現行犯として捕まった」とは言えないだろうと、アルベルト・ルールが苦く思った事など知るわけが無い。
「……あぁ、俺?」
 視線を受けて、壁に寄りかかっていたフルーク・シュヴァイツは頬を掻いた。
(ここは何処だ?……自警団詰め所?)
「そういえば昨日、飲んでて途中からの記憶がないな。腕や足に覚えの無い痣があるし……多分暴れるか何かしたんだろ」
 後半は独り言に近かったかも知れなかった。それに、ギルハルトらが気になったのは、そんな理由より彼の頭に装着されたものだった。ギャグとしか思えないうさ耳バンドについても、記憶に無いのだろうか。
 とはいっても覚醒未然の男の口から聞き出すにも了見を得ないだろうと、三人は結論付けて。
「で、キミはどうしたのさ」
元気娘が話を戻す。
「ヘブンズドアでおっきなケンカがあってね。俺は手を出したりしなかったんだけど……なんていうか、『ついで』に逮捕されちゃった」
ギルハルトはそう言って、大きなため息をつく。
 ああ、この人ならそうだろうな〜と思った所で、軍靴の足音が近づいてきた。


 ◆◇◆


 自警団詰め所は警察署であった名残を多く残していた。ただ元々が古いので、建物の内部はかなり悲惨な事になっている。
 壁に残る弾痕や、床が擦れて下地のコンクリートが姿を現していたり――けれども最も最悪なのが、ギルハルト等四人が詰め込まれている牢屋。
 サイバーでも折れないような太い鉄格子のはまった、コンクリート地が剥き出しの寒々しい空間。時が経つに任せた、黴や異臭に満ちている。
 トイレもあるにはあるが、壁も衝立も無い。掃除がされているとも思えないそれの近くには小虫が飛びかっている。
 冷たいコンクリートに寝転がり、一泊を余儀なくされた面々は目を瞑り、今居る場所を家のそれに置き換えようとするが――鼻をつく匂いに、思考さえ中断された。
 耐えられない。
 奉仕活動よりも、むしろこの牢屋に詰め込まれた事が最大の罰に思えた。
 朝が早く訪れる事を祈る。早く眠りがやってくる事を願う。
 
 そうして明けた朝は、何よりも綺麗に見えた。


 ◆◇◆


 労働奉仕の内容は「街の掃除」。各々が箒やらモップやらを持って、掃除に勤しむ。
 早く綺麗に出来ればそれだけ釈放が早まると知って、動きには無駄が無い。

 ギルハルトはため息を吐き出しながらも、真面目に箒を動かす。そうこうしている内に仲間達から離れている事も知らず。
 しかしそんな真剣さを嘲笑うかの様に、街に蔓延る性質の悪い連中は、ゴミを投げ捨てて行く。一番多いのは煙草のポイ捨てだ。
 もう何度目かの抗議を、しかし相手に聞こえぬ声で呟く。
「……お願いだから、人が掃除してる所にゴミ捨ててくのやめてくれる?」
自称平和主義のギルハルトは、余計な争いは避けたい。だから、小声で言うのはけして弱虫だからでは無い。
 ――が。
「いや、独り言、独り言ですからー!!!」
 耳聡く聞き取った強面の男に胸倉を掴まれて、ギルハルトは箒を取り落とした。足元が数十センチ浮いている。
「あん? 何か文句あんのかよ、おいっ」
 自身より若い男に軽々と持ち上げられながら凄まれる。ある意味屈辱だったがギルハルトはそんな事気にしない。
「暴力反対ー!! すいません、独り言です!!」
 謝るものの男の力は緩まない。次第に息が苦しくなってくるが、助けを請う視線に答えてくれる者は無い。一様に目を逸らして足早に駆けていってしまう住人達――この場にレオナが居れば助けてくれるだろうと思っても、居ないのだからしょうがない。
「あぁ? てめーそれで許されようと思ってんの? なぁ!!」
 男の右手が拳を作る。
 ギルハルトは覚悟を決めた。
「っぅぎゃ〜!!!!」
 しかし、叫んだのは男の方だった。道行く人が足を止め、何があったのかと訝しげな視線を送ってくる。
 男の右拳が唸る前に、男はギルハルトを掴む左腕を庇う様に、数歩後退した。信じられないものを見るかの様に己の腕を見ている。
 解放されたギルハルトはしばし咳き込んだ後、箒を抱え込み、その場から逃げ去った。
 ギルハルトには男をどんな事象が襲ったかわかっていた。男の左腕には軽い火傷の跡が残っているはずだ。
 見なくともわかる。それを成したのは、ギルハルトなのだから。


 ◆◇◆
 
 
 シーム・アレクトは早朝の街を何とはなしに歩いていた。だがその草原の色の瞳が見知った顔を捉えると、面白そうな色が顔面に宿る。
 シームは目標をギルハルトに切り替えると、軽い足取りで駆け出す。
「ギルハルトおじさんじゃん!! おじさん達、何でこんなトコで掃除してるの?」
最もらしい疑問を口にして、辺りを見回す。皆が一時手を止めて、元気な闖入者に苦笑を漏らした。視線は、明後日の方を向いている。
「やあ、シームちゃん」
 ギルハルトも答えを拒むように頭を掻いた。
「おねーさんも、どうして掃除してるの?」
「え、あ、あはは……」
 レオナも頬を掻きながら、けれど小首を傾げ先を促すようなシームにぽそり、と
「ケンカ」
「え、ケンカ?」
それがどうして掃除に繋がるのかと、シームの眉間に皺が生まれる。それを補足するように割って入ったのは、アルベルトだ。
「自警団の詰め所で、保釈に罰金か労働奉仕かってね」
 ――こんな少女にもフェミニストの笑顔は発動されるらしかった。
「もう、大人げないなぁ。……でも自分のやったコトに責任持たないと。ガンバってね♪」
「う、うん」
ぐっと両拳を作ってシームは、しかし立ち去る様子も無い。
 三人も中断された掃除を再開した。

「それにしても、一体何してたんだろうな、俺」
 フルークは指摘されて外したうさ耳バンドを尻ポケットから引きずり出し、まじまじと見た。仲間の予想通り、これについても覚えていない。
 ただ暴れたと結論づけた逮捕の理由と、うさ耳の関連性が掴めないのだ。
「確かに気になるな」
「うんうん」
手を止めずにアルベルトとレオナが反応を示すと、シームも興味深そうに寄ってきた。
「それ何?」
フルークがこれか?と丸めたうさ耳を広げ、シームの頭に乗せる。――赤い髪に白いふさ耳がよく似合う。
「こんなのどうしたの?」
「それが覚えてないんだよ。昨日何かあったんだと思うんだが。……あんた知ってる?」
 突然話を振られた通りがかりの男性は、慌てて手を振った。フルークの手があちらこちらに伸びて問いかけるが、どれもこれも芳しい答えを返さない。
「酔って寝ている間に、つけられた、とか?」
「それより俺は、取調べ中もつけてたのかが気になる」
 フルークを遠目に見ながら呟いたギルハルト。真面目な顔で腕を組んだアルベルト。二人共手が休んでいる事に気付かない。
 唯一レオナだけがゴミを掃き続けている。さぼればさぼっただけアルベルトとのデート時間が減るとなると、喧嘩っぱやい彼女も手を出さないらしい。
 そんな四人はまるっきりの無視で、シームはずり落ちて来たうさ耳を手に、何事かを思案していた。
 そこへ肩を落として戻って来たフルーク。
 シームはフルークの手を引っ張り腰を落とさせると、おもむろにうさ耳を装着させた。
「え? 何?」
 驚きを露にするフルークをシームはまじまじと観察する。
 空みたいな綺麗な青い髪。その上に、妙にしっくりと収まるうさ耳。サイズは見事に彼に合っているようだ。否、というより疑い様がない程馴染んでいる。
「シームちゃん何してるの?」
 戸惑いの瞳に見守られながら、シームは上目遣いにフルークを見て。
「……おにーさんの私物じゃないの?」
 四人は色んな意味で吹き出した。


 ◆◇◆


 街の掃除は、小休止を挟みながらも順調に終わっていった。時々柄の悪い連中に絡まれもするが、五人が集まれば特に問題は無い。
 一人、余計な問題を引っ張り込んでくる少女もいるには居たが。
《こらー!! ゴミ捨て禁止だよ〜! せっかくみんなが掃除してるのに。それに、マナー違反だよ!》
 特製の拡声器を使い、大声でマナー違反を宣伝する。はっきり言って迷惑この上ない。脛に傷持つ強面共は、その命知らずに睨みを利かせる。
《何? 暴力振るう気? ボクの特製スタンガンでオヤスミしたい? それとも、おにーさんのデータ、マルクト中にバラまこうか?》
 対するシームは余裕顔。挑発する言葉に、ギルハルトが青くなる。意見には大いに賛成なのだが、相手を見て物を言って欲しい。
 だが、次の瞬間。
 投げられた煙草の吸殻に、
「手前ら煙草のポイ捨てをするんじゃねぇよ」
 低い声が掛かった。振り向いた男の顔に、恐怖が浮かぶ。
「ガキの目とか顔とかに当ったらどうすんだよっ!!」
 整った容貌を怒りに染めて、アルベルトの両手がポイ捨て犯を締め上げる。
 その金の瞳は、さながら肉食獣のソレを思わせる程鋭かった。
「っにすんだ、オラァ!!」
 ここに第三者が割って入れば、話は更にややこしくなる。アルベルトの手から仲間を無理矢理剥ぎ取ると、アルベルトの足元に唾を吐き落とした。
 それに続く様に、一人二人と、まるでアルベルトの言葉に刃向かう様に煙草を投げ捨てる面々。野卑た笑みに、アルベルトの拳がめり込んだ。
「うぐっ……!!」
「っのヤラァっ!」
 これを皮切りに、境界線は崩れた。
「わぁあっ」
「アルベルトに何すんのさ!!」
「行け行け、そこだ〜♪」
「うわ、俺まで!?」
それぞれが箒を放り投げ、自身の得意なスタイルを取って。

 バキ
  ドスン、バタン

「うっらぁ」
      「っ」
             「ぎゃああぁあ……っあ……!!」

「うわぁ、皆掃除中だよ〜!!」
 ギルハルトはおろおろと、眼前で始められた乱闘に右往左往。
 自身の時と同じく道行く者の助けの手はアテに出来ない。
 が、ギルハルトの言葉に大人しく従う連中ではなかった。相手も、仲間も。
 仲間等はむしろ、昨日の不完全燃焼の鬱憤晴らしとでもいうように、生き生きと拳を振るっている始末――ギルハルトの制止の言葉だけが響く中、嬉々とした仲間達の勝利が確定していった。


 ◆◇◆


「どうするの、コレ……」
 折り重なるようにして積まれた、乱闘の敗者達。気絶したまま周囲の目に晒されている。
 ギルハルトの嘆息に答えるレオナは、いっそ清清しい表情で。
「これもゴミ掃除でしょ?」
満足毛に両手を払い、んーと大きく伸びをする。
「あ、いい事思いついた!! コノ人達にもお掃除手伝ってもらったら? 乱闘の罰に!!」
 シームの提案に、フルークがパチンと指を鳴らす。
「いいな、それ」
 ――と決まれば後は簡単。
 目を回す奴らを無理矢理に起こし、強制的に箒を持たす。

 そうして彼らの協力あって、予定よりも早い時間に掃除を終える事が出来た。
 晴れて自由の身となった面々は、軽い足取りで綺麗になった街の中へと消えていった――。



 END


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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【0209 ギルハルト・バーナード/36歳/男性/エスパーハーフサイバー】
【0536 兵藤・レオナ(ひょうどう)/20歳/女性/オールサイバー】
【0538 フルーク・シュヴァイツ/26歳/男性/エスパーハーフサイバー】
【0552 アルベルト・ルール/20歳/男性/エスパー】
【0604 シーム・アレクト/15歳/女性/エキスパート】

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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 皆様初めまして。今回執筆を担当させて頂きました、なちと申します。発注有難うございました。
 また、大変お待たせしまして申し訳ありませんでした。少しでも楽しんで頂ければ幸いなのですが……。

何か不平不満・ご感想等ございましたら一報頂けると嬉しいです。
それでは、またどこかでお会い出来る事を祈って。。。