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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【ビジターズギルド】初めての会員登録


ライター:有馬秋人






ビジターズギルド。ゲートの前のでかい建物だと言えば、その辺の婆ちゃんだって教えてくれる。
中に入っても迷う必要はないぞ。上のフロアにお偉方の仕事場があるんだろうが、用があるのは一階の受付ロビーだけだ。階段昇らずまっすぐそっちに行けばいい。
軌道エレベーター『セフィロト』探索を行う者達は、まずここで自らを登録し、ビジターとなる。書類の記載事項は余さず書いたか? 書きたく無い事があったら、適当に書いて埋めておけ、どうせ誰も気にしちゃ居ない。
役所そのまんまで、窓口ごとに担当が別れている。お前が行くのは1番の会員登録窓口だ。
並んで待つ事になったり、待合い席に追いやられる事もあるが、気長に待つんだな。
同じような新人を探して、話なんかしてるのもいいだろう。つまらない事で喧嘩をふっかけるのも、ふっかけられた喧嘩を買うのも悪かない。
まあ何にせよ、書類を出せば今日からお前はビジターだ。よろしく頼むぜ。





***





シャロンの左横で白衣をきた妙にゆったりとした金髪の青年と、これまたおっとりとした銀髪の少女がすっとぼけた会話を繰り広げていた。いや、よくよく聞いてみれば内容はよくあるもので、登録用紙の書き方が分からないのかはたまた書き込む嘘に迷っているのか、困っていた少女を見かねて青年が口を挟んだという光景だろう。
しかし、助言が助言になっていない。
何でもいいから書き込んでしまえというのはまだいい。しかしその後で「偽装の手伝いでもしましょうか?」などと言っているのは余計に相手の混乱を誘うだけだ。第一偽装工作など軽々しく口にするべきことではないし、それを笑顔で言うか。相手も迷いながらもなぜそこで頷く。世間に疎いものでもこれがかなり胡散臭い申し出だと察することができるだろうに。
いくつかある使い古されて毛羽立っている机の一つを占領していたシャロンは、自前のペンをくるくる回してため息をついた。
さすがセフイロト、初っ端からこんな人物が見られるとは。
ちょっと面白い。
「どうやら善意の申し出みたいだけど、ちょーっと胡散臭いなぁ」
悪戯っぽく笑って話しかけると二人はきょとんと目を丸くした。申し込み用紙をちらと見ると名前の欄だけがすでに埋められていて、青年は「アデリオン・シグルーン」少女の方は「オーフェリア・イヴ」と言うらしい。少なくとも、このセフィロトではそう名乗り、そういう存在になると決めたというべきか。
「胡散臭い、ですか?」
青年が首を捻りながら問う。
「ちょっとね。初対面の相手にそんな申し出はしないでしょ、普通は」
「他意はないのですが…」
「ないのは分かってるけど、軽々しく口にしない方がいいんじゃないかってこと」
ね、とオーフェリアに語りかけると二人の会話を大人しく聞いていた少女は曖昧な頷いた。どうやらこっちもさほど警戒していなかったらしい。
「…まぁ二人がいいならいっか。邪魔しちゃったわ」
カリカリと頬を掻いて笑ったシャロンに二人は首を横にふり、アデリオンは穏やかに、オーフェリアは控えめに微笑する。
「わたくしは、まだこちらのこともよく分かっていませんので話しかけていただいて嬉しかったです」
「私もそうです。こうして話しかけてもらえるのは結構好きなので」
にこにこと視線を寄せてくる二人にシャロンは少し照れて、そう? と些かそっけなく返す。
「じゃ、適当にでいいから紙埋めて申し込みましょ。それから時間があるならどこかで話してもいいし」
「そうですね」
「分かりました……あの、性別は…」
「そっちは素直に書きなさいよ。まぁ、心は男だって言うならあたしは反対しないけど」
そこまで迷うの、と苦笑したシャロンは自分を凝視している視線に気付いて顔を正面に向けた。低い仕切り板は下を見ている時は機能しているがこうして背筋を伸ばして立つはまるで無駄だ。その無駄さ加減を証明するように、金色の目と目があう。黒髪に金目は意外と目を惹くものだと感心したタイミングで謝られた。
「……?」
「あ、いや。申し訳ない」
「何が?」
「…髪の色が」
鮮血のよういに赤くて驚いて、と続けた青年にシャロンは合点がいく。ぽん、と手をたたく動作までつけて納得を示した。
「あー、たまーにね。光の加減もあると思うけど。血に見えた?」
「いやっ、それは一瞬でっ」
その後見ていたのは別の理由だと言外に滲ませる青年の顔を覗きこむが、相手は一歩引いてしまった。肩を竦めて用紙の名前欄だけ確認すると「彩月」と流麗な字で書かれている。読み方が分からず眉を寄せると相手が捕捉した。
「ツァイ・ユエ。キミは?」
「シャロン・マリアーノ。横の子はオーフェリアね、その横はアデリオン。目が合ったのも何か縁っ。申し込み済んで暇だったらちょっと話でもしましょ」
「ぜひお願いいたします」
「なぜシャロンさんに見惚れていたのか尋ねたいですし」
オーフェリアがペンを止めて顔を上げれば、アデリオンも首肯する。こちらはきちんと二人の会話を聞いていたようで彩が曖昧にした部分をゆったりとした口調で突っ込んできた。シャロンがその科白に首を傾げ、彩が慌てて言葉を重ねようとした時に、何やら明るい声が割り込む。
「ボスっ」
「―――っ」
「ひっさしぶり。何、ついにボスもセフイロトに来ちまったな。これからまたちょくちょく会うだろうけど。ま、よろしく!」
「だからあんたはっ、あたしをボスと呼ぶなっ」
「でもボスはボス」
「ほほう、ならあんたは野菜泥棒くんでいいなっ」
「や、それは勘弁。頼むよボス」
「ラーフ!」
楽しそうにニヤニヤしているラーフ・ナヴァグラハを怒鳴ったシャロンは三人の視線が集中しているのに気付いて口を噤む。反対にラーフは興味深げに三人を見回して、軽く肩を竦めた。
「ボスがここに来るのはもう少し先だと思ってた」
「ちょっと思いついた研究があってね。品種改良の分析にコンピューター必要だし。まあ、色々拾いものあるかもしれないし。未知の植物なんて垂涎ものだし」
先よりも音量を下げて応じると、ラーフは「らしすぎるぜ」と笑う。懐くようにシャロンにじゃれているがビジターの記入用紙があるのに気付くと無遠慮に覗き込んだ。
「なんだ書き終ってんじゃん。早く申し込みに行きゃいいのに」
「あたしが終わってても周りがまだ」
「協調性? 別にんなの気にすることはないと思うけどなぁ」
きょろきょろと周りを見回しながら言うと、シャロンの紙をもって勝手に申し込みに行こうとする。すぐに紙を奪い返されて叱られた。
「あっんったっねっ」
「あの、わたくし書き終わりましたが…」
こめかみを引きつらせたシャロンを窘めるように、オーフェリアの声が重なる。それに続いてアデリオンもペンを置いた。
「彩さん、どうです?」
「書き終わっている」
アデリオンの問いかけに、彩は簡潔に返すと用紙を手にした。シャロンはよしと頷くと皆の紙を一つに束ねてしまう。
「じゃ、あたしはこれ出してくるからその辺で待ってて、登録済むまで待機」
「お願いいたします」
「はい、待っていますね」
オーフェリアとアデリオンが手を振り、彩はあっさり頷いた。行動的なシャロンに逆らう気はないようだ。
口元に微かな苦みを滲ませ周りを見回していたラーフは、三人のようすにすぐに表情を変えると伸びをする。
「この後シャロンさんとお茶でもしようと計画しているんですが、参加しますか?」
スローテンポな語り口で声をかけたアデリオンにラーフは笑う。
「や、悪りいけど俺はパス。ちょっと探してるヤツがいてさ」
最近のビジター登録者に居ないか確認に来ていただけだと嘯いて踵を返した。その様子では見つかったわけではないようだが、気落ちした色はなく、飄々とした雰囲気を漂わせている。
探し人という事情にオーフェリアと彩が考え込み、アデリオンが何かを言いかける前にもう一度口を開いた。まるで牽制するように、取り繕うように。
「ま、そのうち見つかるだろ」
だから気にすることはないと笑って片手をあげると軽く振って出て行ってしまった。
「奇妙な方でしたね」
「はい」
「自分が信じることしかしない目だった」
彩の科白にオーフェリアが静かに同意する。
「またお会いできると良いのですけれど」
「できますよ、シャロンさんと知り合いのようですから」
「ずいぶん親しいようだし」
付け足した彩に、アデリオンはそういえばと視線を向ける。
「血だと思って目を上げたら美人が居て、見惚れていたんですよね」
いきなり話を蒸し返し、凝視していた理由はそれだろう、とからかわれて彩は無言で押し黙った。これが力での押収なら怯むことなく立ち向かえるが、言葉では難しい。黙ってしまった彩をからかうでなく慰めるでなく、オーフェリアが控えめに微笑する。
「お綺麗な方ですよね、シャロン様」
「本人は造作に重きを置いていないようですけど」
アデリオンはくすくす笑って戻ってくるシャロンに片手をあげた。






2005/07...


■参加人物一覧


0645 / シャロン・マリアーノ / 女性 / エキスパート
0556 / オーフェリア・イヴ / 女性 / エスパーハーフサイバー
0576 / 彩・月 / 男性 / エスパー
0585 / アデリオン・シグルーン / 男性 / エキスパート
0610 / ラーフ・ナヴァグラハ / 男性 / エスパー


■ライター雑記


ご注文ありがとうございました。有馬秋人です。
ビジター登録というそのキャラの初めを構成する重要な部分をお任せいただいて光栄です。
それぞれの性格がでるように書き進めたつもりですが、どうでしょうか。
ご意向に添えていますよう願っています。
また、何名か知り合いなのかどうか判然としなかったので初対面(一人除く)という形を取りました。
もし不都合などございましたらリテイクしていただければ、と思います。

ご依頼ありがとうございました。
この文が娯楽となりえるよう祈っています。