PSYCOMASTERS TOP
新しいページを見るクリエーター別で見る商品一覧を見る前のページへ


<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【自警団詰め所】決定、御宿泊

メビオス零


【オープニング】
 で‥‥何をした?
 自警団員に捕まって、自警団詰め所にしょっぴかれて、取調室でこうやって自警団員と御面談だ。何もやってませんってのが、通じるとは思わねぇよなぁ?
 どうせ、酒飲んで喧嘩でもしたって所だろう。
 ま、少し牢屋で反省するんだな。その後、罰金か労働奉仕か‥‥そんな所か。
 それとも‥‥
 いや‥‥俺はちょいと忘れっぽくてな。特に、臨時収入のあった日なんかは、色々と忘れてしまってなぁ‥‥
 お前さんを牢屋に蹴り込むのをすっかり忘れた、なんて事にもなりかねないと思うんだ。





☆☆☆

「で、お宅はどうして捕まったんだ?」

 狭い牢屋の中で、アルベルト・ルールは暇そうに、同じ牢屋に入って来た大道寺・是緒羅の顔を見るなり問いかけた。
 是緒羅は、顔見知りのアルベルトが先客として入っていたことに驚きながらも、苦笑しながらアルベルトが寄っかかっている壁の反対側に腰を下ろした。
 コンクリート時が剥き出しになっている牢屋の床も壁も、冗談でも快適とは言えない。しかし、それでも立ったままでジッとしているよりかはマシだった。

「痴漢という何というか………まぁ、そういった人をちょっと殴ってしまいまして。そういう貴方は?」
「……俺は痴漢と間違えられた。ったく、無実だって言ってるのにこんな所に入れやがって……あの取調官、絶対俺が言った事根にもってんだな」
「何て言ったんですか?」
「“女に不自由はしてない”って言ってやった。あのデブ、聞いた途端に顔色変えやがった」
「…………なるほど」

 理由を聞いて、是緒羅は溜息をついて苦笑した。
 お互いしょうもない様なことで放り込まれてしまったものだ。
 詳細は解らないが、アルベルトは痴漢と間違えられ、是緒羅は痴漢から女性を助け、その後で痴漢に色々言い寄られて……………うん。そこから先はちょっと………
 是緒羅は、これからのことを考えて、また溜息をついた。
 この留置所から抜け出すのは、そう困難なことではない。取調官か、そこら辺の自警団に小金を掴ませれば簡単に出して貰えるし、無くても翌日の勤労奉仕をこなせば釈放だ。

(とりあえず、それまでは一休みしましょうか)

 そう思い至り、是緒羅は壁により掛かったまま目を閉じて眠りにつこうとした。
 そこで、向かいで腰掛けていたアルベルトがスクッと立ち上がり、自分に近づいてくるのを感じる。
 途端、今日の出来事が走馬燈の如く回想される。

「アルベルトさん………ノーマルですよね?」
「何を勘違いしているのかは知らないが……大道寺、ちょっと耳を貸せ」

 ズズイッと迫ってくるアルベルト。大道寺は、何となく嫌な予感を感じていたが、元から壁により掛かっていた状態だったため、退路はない。
 元より、牢屋の中では逃げられないのだが……

「な、何ですか?」
「そう怯えるな。ここに入ったことのある経験者として、提案があるってだけだ」
「提案ですか?」
「そうだ」

 アルベルトは、真剣な表情で頷いた。あまりに重い雰囲気に、もしや脱走計画でも持ちかけられるのではないかと、思わず是緒羅は辺りを見渡してしまう。
 少なくとも、見える範囲の者達は、こちらの言葉に耳を傾けている様な様子はない。時々、こっちを見てウインクしてきたりしているのは見なかったことにした。
 周囲を確認してから、アルベルトに続きを促す。
 アルベルトは……

「………俺は、この牢屋に入れられるまでに、約十五人に声を掛けられた」
「…………」

 重々しい口調で、真剣に、思い悩んだ結果として、そう是緒羅に告白した。

「内容は解るか?」
「想像に難くありませんが、一応確認を………全員男、ですよね?」
「そうだ」

 アルベルトは視線を外し、何か思い詰めた様な表情で舌打ちした。是緒羅から見ても、アルベルト・ルールという男は、威圧的な自分よりも綺麗だと言える。
 中世的な細くて白い顔立ちは女っぽいし、手入れされているだろう金髪と相まって、一種の神々しさも感じられる。
 何と言うか、女性は当然としても、一部の男性達からは大人気になるだろう。

「解るだろ?ここは俺にとって、周囲を天敵に囲まれている状態に近い。例えるなら、猫の群れに放り込まれたカツオ節!今はこの虫かごに閉じこめられているから良いが、明日の朝までに俺の身元引受人が来るか、または俺の無実を誰かが証明してくれない場合は、明日の清掃作業に俺は参加しなければならない……そうしたら、一体何人に声を掛けられるか………いや、最悪声を掛けられるだけじゃ済まずに……」

 肩をブルブルと震わせるアルベルト。それは怒りか、悔しさか………今から想像して、何かが込み上げてきたらしい。
 群がってくるホモ軍団を一掃するだけの“力”は持ち合わせているが、それを行使すると、自警団に追われるだけでは絶対に済まない。最悪の場合指名手配され、“大量ホモ殺人犯”のレッテルを貼られかねない。
 結婚願望の強いアルベルトからすれば、そんな最低に近い異名は欲しくなかった。

「まさか提案って………」
「カップルのフリをしてくれ、と言っているんだ。いくらホモ軍団でも、恋人持ちには手を出してこない。……これは、俺の数々の経験の末に得た答えの一つだ。ここに来たのも、自慢じゃないが少なくはないからな」
「本当に自慢にならないですよ。 それ」

 是緒羅は、オデコを押さえながら溜息をついた。アルベルトは、本当にホモに言い寄られることにウンザリしているらしく、かなり必死だ。でなければ、まさかこんな提案はしてこないだろう。
 腕を組んで考えてみる。是緒羅も、ここに来るまでに数回声を掛けられていた。取調官、囚人、看守等々、とりあえず声を掛けてきた人数は両手では足りない。それを考えれば、これ以上の精神攻撃をカットするために、アルベルトの提案に乗るのも悪くはなかった。

「分かりました。じゃ、そう言うことにしておきましょう」
「悪い。本当に助かる」
「いえ、こちらも似た様な状況でしたから、正直その提案は有り難いんですよ」

 ホッと息をつくアルベルト。それで安心したのか、ゴロンとその場で横になり……

「うわっ!何してるんですか!?」
「何って、膝枕。ちっと堅いけどな、無いよりかはずっとマシだぞ」
「そうではなくて!」

 是緒羅の膝に頭を乗せて横になったアルベルトは、そのまま目を閉じてしまった。抗議する間も与えられなかった是緒羅は、本日何回目になるかも分からないため息を吐く。
 誰かに見られているのではないかと周囲を見渡してみると、何人かの囚人がこちらを見て、起きている是緒羅を睨んできたり銃で撃つ真似をしたり……中には、血涙を流して是緒羅を威嚇してくる者まで居た。

(まさか、俺はさらに悪い状況へ入ってしまったんじゃあ………)

 是緒羅は頬を伝う汗を感じながら、アルベルトを膝に乗せたままで、外界からの視線などをシャットアウトするために目を閉じた………








★★★

 翌日、二人の女性が、自警団の詰め所を訪れた。

「ここに、私の息子がお世話になっていると聞いたのですが」

 ジェミリアス・ボナパルトは、サングラスを外し、背後から付いて来させていた女性を中に入る様に促しながら言った。
 自警団の男達は、美人でありながらもただ者ではない雰囲気を持つジェミリアスにあたふたしながら対応し、彼女がアルベルトの母親だと分かると妙に悔しそうに、一部は気の毒そうにしながら、アルベルトの入っている牢屋に案内した。
 ジェミリアスが連れてきた女性は、アルベルトが痴漢したとされる女性である。アルベルトの冤罪を証明するために、わざわざ朝一番で探し当ててきたのだ。
 これでアルベルトは釈放だが、アルベルトが無実なのに無実にならない様な、例えば取調官達に言い寄られて殴っていたりした時のために、ジェミリアスは幾らかの保釈金を用意していた。
 息子が言い寄られている状態を容易に想像できる辺り、よく出来た母親である。

「いやはや、貴方の様なお方の息子さんでしたとは、なるほどなるほど、道理で美しい筈だ」

 牢屋へと案内中、一人の取調官に案内されながら、ジェミリアスは雑談に付き合っていた。案内している初老の男は、無駄によく喋ってきた。

「お世辞は良いですわ。それより、息子の釈放のことですが……」
「ああ。それでしたら、先程お連れの女性からお聞きしました。何でも、痴漢として挙げるお方を間違えたとか……いやぁ、それでしたらこちらの不手際ですな。申し訳ありません。彼を取り調べた取調官は何をしていたんでしょうなぁ。ほっほっほ」

 笑いながら、荒くれ者達が入っている牢屋の並ぶ道を歩いていく。荒くれ者達は、ジェミリアスを見るなり口笛を吹いたり囃し立てたりと忙しそうだ。
 そんな中を、眉一つ動かすことなく、ジェミリアスは進んでいく。

「このすぐ先ですよ。………なんだか静かですねぇ」

 取調官が怪訝な表情で呟いた。いつもは、自警団の者が来ただけでも騒ぎ立てる荒くれ達が、この区画だけシーンと静まりかえっている。先程まで通ってきた廊下の喧噪が、何となく遠くに聞こえてくる程だ。
 ジェミリアスも、不審に思い、もしや息子が何かしらの能力を使って黙らせているのではないかと心配になった。普段はフェミニストを徹底しているアルベルトでも、まさかこの荒くれ達には適応させていないだろう。しつこく言い寄られたりすれば、殴って黙らせたりしていても、全く不思議ではない。

「着いた着いた………ッと、どうやらお邪魔だった様だ」
「? お邪魔って……ああ、そう言う事ね」

 ジェミリアスは呆れた様に肩をすくめた。
 牢屋に入っているアルベルトと是緒羅は、それぞれ眠っている。まだ朝であることを考えれば、それは別におかしいことでも何でもない。

「ん〜………是緒羅〜〜」
「アルベルト……くっ……そこはダメ…グハァッ!」

 二人がそれぞれ、寝苦しそうに床に転がりながら、寝言を言う。
 アルベルトは是緒羅を押し倒す様にして眠っている。その為か、下になっている是緒羅は非常に寝苦しそうだ。二人してくっついて眠っているため、二人ともグッショリと汗に濡れている。
 さらに言うと、アルベルトのキス魔・ハグ好きが発揮されて…………

「あらあら……」

 ジェミリアスは、腕を組んで呆れていた。辺りが静かなのは、二人をジーーーっと見守っているからだった。中には嫉妬しているのか、アルベルトに押し倒されている様な構図になっている是緒羅に向かって、憎しみの籠もった視線を向けている危ない男もいる。
 初老の取調官は、とりあえず牢屋の鍵を取り出して扉を開けたは良いが、このまま自然に起きるのを待つか、それともどちらか一方を起こすかで判断に迷っている。
 ジェミリアスは、そんな取調官や荒くれ達を放って、ズケズケと牢屋の中に踏み込んだ。
 そして、是緒羅ではなくアルベルトの方を揺り起こす。
 是緒羅の方を先に起こしてしまったら、かなりの精神的負荷を掛けてしまうだろうと判断したのだ。

「起きなさいアルベルト。早く手続きして、帰るわよ」
「ん〜〜〜あと五分」
「あなたはそう言うキャラじゃないでしょ?早く起きなさい!」

 アルベルトを掴んで振り、強引に起こすジェミリアス。さり気なく是緒羅から引き離し、何時二人が起きても、事態を察しない様にした。
 二人ともノーマルなため、先程の状態を知ったら少なからずショックを受けそうだからだ。特に是緒羅。眠っているアルベルトに絡まれて、まさかあんな……

(……私も忘れましょう)

 アルベルトを起こしながら、ジェミリアスは先程見た光景を無理矢理記憶の奥底へと追いやった。
 そして、是緒羅と周囲の者達の記憶を操作してやろうかと、半ば本気で考え出すジェミリアスであった………





★★★

 掃除は人通りの少ない通りや裏路地から始められた。そんな所に軽犯罪者達を放つのはどうかと思われるが、腕に発信器付きの腕輪をはめられているため、まず逃げることは出来ない。それに、たかが清掃作業である。サボる者は居ても、別段、この程度の罰則から逃げようとする者は居なかった。

「やれやれ。アルベルトさんもジェミリアスさんも、見捨てていくなんて酷いなぁ」

 ぼやきながら、是緒羅は遙か昔から使われているであろう、あからさまに安物の箒を、休まずに動かした。
 朝、アルベルトが連れて行かれているのに立ち会ったのだが、ジェミリアスが一人分の保釈金しか持ってきていなかったため、それはアルベルトに使われることになった。
 アルベルト自身は無実で、それは証明されたのだが、なにぶん取調官の機嫌を損ねていたのが不味かった。結局、冤罪を証明したにもかかわらず、ガッポリと保釈金を取られたのである。

――――悪い。迎えが来たんで、先に俺は出るわ。なぁに、俺が居なくったって、もう狙われたりはしないだろうよ――――

――――ごめんなさいね。確かに知らない仲じゃないんだけど、一人分しかお金を持ってきていないのよ………清掃作業、頑張ってね――――

 別れ際の、二人のセリフが回想される。

「……はぁ」

 溜息が出る。ジェミリアスには非がないが、アルベルトの方は、間違っていた。
 ゲイカップルとして見せている間は良い。いや、本当は良くないのだが、それでも回りの者達から言い寄られるよりかはマシである。
 だがしかし、だ。それは、“そう見せている間”だけである。

「よう、兄ちゃん。ちょっと話があるんだけどよ、そこまで来いや」
「はぁ、またですか」

 溜息を吐きながら、逃げることはせずに大人しく付いていく。行く先は裏路地、そこには、数人の、牢屋にいた時に見たことのある荒くれ達が控えていた。
 アルベルトとの関係を完全に誤解された所為で、返って是緒羅の敵は増えていた。
 どうやら、牢屋で二人のことを見ていた者の大半はアルベルトに惚れていた様だ。アルベルトの前でならこんな事はないのだろうが、本人が居ない以上、恋敵を亡き者にしようとする者達が続出していた。

「おらっ、俺様達のお嬢ちゃんにガフッ!!」
「ああ!兄貴ぃ!!」

 口上の途中で、とりあえず殴って黙らせた。うん。清掃中、こういう路地裏なら、目撃者は誰も居ない。
 是緒羅は、アルベルトをお嬢ちゃん呼ばわりしたリーダー格の男にトドメを刺しながら思った。

「はぁ、なんだか、最初ッからこうしておけば良かった気がします……」
「ええい!ごちゃごちゃと……ヤッちまえ!!」
「「「おお!!」」」

 掴み、殴りかかってくる荒くれ達。一人一人に打撃を与えて黙らせながら、是緒羅はポツリと呟いた。

「………清掃作業。今日中に終わりますかね?」

 殴り飛ばされ、悲鳴を上げて吹っ飛んでいく荒くれ達…………
 その乱闘の仲で、是緒羅に恐怖を覚える者。惚れる者。なんだか快感を覚える者など、怪しい雰囲気が漂い始める。

「二度とこんな所に来るか!!」

 必死になって撃退していく是緒羅。やがて夕日が上り、清掃作業は、むしろゴミを増やした状態で終了を告げた…………







――――ちなみに、その日の清掃作業は遣り直しとなり、是緒羅の釈放は数日分延ばされたという――――



■━┳━┳━┳━┳━┳━┓
┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━□

【整理番号(NPCID)】 PC名
0593 大道寺・是緒羅
0544 ジェミリアス・ボナパルト
0552 アルベルト・ルール

 ☆☆☆☆☆☆☆☆
 ☆ライター通信☆
 ☆☆☆☆☆☆☆☆
 何度もこんにちは。メビオス零です。
 さて、いきなりですが、ホモばかりですみません。何だかノリでこんな物になってしまいました。ちなみに、二人が眠っている時にどんな状態だったかは、ご想像にお任せします。(^_^)
 また何かしらのご感想や、何らかの注意点などがございました、是非送って下さいませ。次回から参考にさせて貰います。
 では、最後まで読んで頂き、誠にありがとうございました。(・_・)(._.)