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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【繁華街】マフィアの裁き

writer:少路戒





おいおい、俺がマフィアだからってそう睨むなよ。敵じゃないってんだ。
言うだろう? 「マフィアは信用出来るが、信用し過ぎるな」って。ありゃ、こう言う時に役に立つ格言だと思うぜ。
何、他でもない。仕事を頼みたいのさ。
うちの構成員が勝手をやらかしてな。
組織は、構成員が勝手をするのを許さない。
ここまで言えばわかるだろう? 他の組織との間も焦臭いってのに、馬鹿を始末するのに組織ごと動いてなんかいられないって訳だ。
報酬は金か? それとも、上物のコカインか? 酒に女でも構わない。
受けるか受けないか、今すぐ俺に言ってくれ。






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パサッとテーブルの上に投げられた数枚の紙。

「―――……やれるか、エルダー?」

私をその名で呼ぶでない、と盛大に眉を顰め、この男は卑怯だとヒカルは内心密かに思った。
今更、本当に今更過ぎる事を訊いてくる。
しかもそれに答えを求める処が更に憎らしい。

『殺れるか?』と訊いてくる。

この血塗られた通り名が板に付いてしまってから一体幾らの人の血飛沫の中を走ってきたと思っているのだろう。
しかもこの男はそれを全て知っての上で訊いてくる。
ヒカルは冷たい感じのする整った顔に身震いがする程の嘲笑を貼り付け吐き捨てた。

「愚問を。……勿論だ。」

その自信に満ちた言い方に依頼主は満足そうに報酬金をテーブルの上に置く事で答えた。
ヒカルはそれを手に取った後、その隣に置かれていた弾を1つずつ慣れた手付きで銃に込めていく。
カチッと全ての弾を込めた処で銃口を静かに依頼主の方へと向けた。

彼は顔色1つ変えず平然としていて、試す様な眼を奇行乱行をしている女の方へと向けている。
バァン、とヒカルは力無く銃声に似せた声を発した。

「実行は3日後だ。」

少し申し訳無さそうに自嘲気味に笑いながらヒカルは銃を下ろした。






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この手の業界の人間は動物的だとも思う。
知識が豊富で情報に精通している訳でもないのに、何が自分達に1番利益となるか、と言う事を動物的な勘のみで嗅ぎ取り即行動に移す。

ヒカルはこの『野良犬』に手を噛まれる未来を偶に予想する。
そしてその後直ぐに大笑いをするのだ。
噛まれたく無いとも思うが、噛まれれば良いとも思う。
そう、結局は自分も『野良戌』である事を解っているから。
『犬』より『戌』の方がタチ悪いわ、と大笑いした。




「……豚。」

繁華街の中心部から西へ少し行った処の風俗店。
店の裏口から潜入し、ターゲット本人を確認する為に女の出払った控え室からちらりと店内を覗いた。
鼻を突く程のきつい香水の匂いが充満する部屋からその匂いに顔を歪ませて、組織のナンバー3の顔を見た途端にヒカルは歪んでいた顔を更に歪ませた。

幅ネクタイに派手な色のシャツ。
何とも表現のし難いスーツに身をくるめた中肉の男。
『野良犬』ではなく『野良豚』だったわね、と控え室から外へ出ながら1人言ちた。




そして閉店の時間を回り、俄に店内が静まり返ってきた。
依頼主から貰った資料に目を通した処に因ると、ターゲットは大抵1人の女を侍らせて帰宅するとの事。
店から出る迄はボディガードも流石に気を利かせて女と2人きりにさせるであろう。
其処が狙い目。

控え室から裏口への通路の真ん中に堂々と立って標的を待つ。
陰で待つ何て卑怯な真似はマニュアル通りの暗殺の仕方はこの女の辞書には載っている筈も無かった。

少しずつ男と女の話し声が近付いてきて、ややあってギギィと控え室の扉が開く。
そう、其れは運命の扉を開く音にも酷く似ていて、その音と共に女の声にも成らない悲鳴が響いた。

銃口を控え室から出てきた中肉中背の男へと真っ直ぐに向ける。
勿論その男も既にこの暗殺者と全く同じ格好をしていて、2人の間には数歩で心臓を一突き出来るだろう程の距離しかない。
流石にこう言う事が頻繁に起こるこの世界に居る男でさえも、息を呑み少しばかり畏れで震えてしまう程であった。

「ご機嫌いかがかしら?」
「……ごっつ胸糞悪いですわ。」

何処か訛りのある声でニヒルににこりと嗤いながら言い返され、ヒカルはそれに対し あら、それは残念ですね、とさも残念そうに吐き捨てた。

「こんな物を少しばかり見付けてしまいまして。」

そう言って空いている方の手で依頼主から渡されていた紙を取り出す。
それには、組織ナンバー3と言われている男の全ての容疑を裏付ける証拠物件が書かれていた。

ひらひらとその紙をちらつかせてやると、元々余裕の無かった男の顔から更に余裕が無くなり、これが精一杯の虚勢なのであろうか 、それとも本当に心から目の前の小娘に勝てる自信が有るのであろうか、喧嘩を売る様な目つきをして酷く低い声で吐き捨てた。

「ええ加減にしときや、お嬢ちゃん。わしかてこんな可愛い子殺したないねん、解るやろ?」
「よくそんな嘘が吐ける。……愚かな所業をあれだけ。」

大きく目を丸め見開き、驚いた表情を見せながら軽く嘲笑の笑みを浮かべてやると、低かった声が更に又低くなり、ヒカルの言葉からややあって、ターゲットの男は目を細めながら銜えていた葉巻を吐き捨てた。

「生まれてくる意味のあらへんかったモンに、わしらが意味を与えたってんのやで?」
「……それはそれは、御熱心な事で。」
「要らへんモンを必要なモンにしたってんのや。感謝の言葉1つでももろときたいもんやねんけどなぁ。」

その言葉を聞いてヒカルはくすくすと肩を揺らせながら笑い出し、片目を少しだけ細めて、堪えきれなくなったのか、あははっと声を上げて大笑いをし始めた。
男はそれと同時に見て取れる程に眉間の皺を増やしていく。
それを片目で見遣り、見下した眼差しを注いで遣った。

「……『聖者』にでも成ったつもりでおるのか?」

……愚民共が、ぽつりと付け加えの様に呟くと、その言葉が引き金となり、完全に理性を失った野良豚は殺気に充ち満ちた眼をヒカルの方へと向け、銃の引き金へと力を掛けた。

「死ぬ覚悟は出来とんのやろなぁっ?!」

もう狂気と殺気に心を奪われた男は、その台詞を吐き捨てると同時に、引き金を引き銃を放った。
ガウンと言う鈍い音が建物内に響き渡り、紙を持っていた方のヒカルの二の腕をほんの少しだけ掠めたが、全くその酷い痛みにも顔を歪めず、聞こえるか否かの小さな声で言った。

「……上等だ。」

弾を受けたのは特別油断していた訳ではなく、命乞いを全くせず目の前の小娘には勝てるであろうと、決して自信を失わなかったこの豚の滑稽な虚勢に、 少しなら付き合ってやるのも悪くないわ、と思った。
この傷は餞よ、と心の中で呟く。


2発目を直ぐ打って来ない所や、銃を持つ雰囲気からして、余り慣れていないであろうと言う感を受ける。
守られて出し抜いてナンバー3にのし上がったタイプかしら、と思いつつ、それなら、とヒカルは片手を添えず左手だけで銃を持ち直し、凍り付いた様な笑顔と呼び難い氷の笑顔を貼り付け、照準を頭へと向けると静かに引き金を引いた。

「……安らかに。」






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床に置いてあった証拠資料の入っている袋を手に持ち、くるくると銃を手で弄びながら、先刻迄生きていた屍の横に立つ。
そして袋を逆様にして中身を死体の上へとバラバラと落とし、暫くその吐き気がする迄の光景を瞼に焼き付ける様に見入っていた。
人身売買された女の子達の写真や資料がターゲットを戒めるかのようにして包み込む。
実を言うと先刻から吐き気が収まらず、偶に軽い嗚咽さえも漏らす程嘔吐感に嘖まれていた。
顔面蒼白、手も血が通っていないと思える程白く、震えが収まらない程体が凍る様に冷たくなっている。
依頼の度にこう言う症状が出始めたのは何時からだったか。

「怖いのかしら……?」

その見開いた侭の目を見つめ、ふとぽつりと呟くように自問自答してみるが、勿論答えを持ち合わせている訳ではない。
思い出した様に手元の銃へと視線を落とし、ネオンで照らされた夜空の星へと銃口を向けた。





[ end ]



- 登場人物 -

0541 / ヒカル・スローター / 女性 / エスパー


- ライター通信 -

発注有難う御座いました。ライターの少路戒と申します。
出来る限りヒカルが「エルダー」として生きていく事を厭い、それでも「エルダー」として生きていく道を選択する、という、矛盾した思いを書いたのですが、文章力が追い付かず申し訳有りません。
最後にヒカルが撃ち落としたかったのは、きっと彼女自身だったのかも知れません。
少しでも何か感じて貰える所が有れば幸いです。この度は本当に有難う御座いました。