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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


◆◇闇の淵◇◆

◇依頼者の思惑
 それは『裏』から出た仕事らしい。下卑た仕事だと歯牙にもかけなかったが、色々な噂や会話、口コミのネタ、情報屋からのタレコミなどを総合すると少々興味深いものがあった。知的探求心というものの恐ろしさは、それ相応の『知識と知性』を持ち合わせている者だけしかわからない。時には己の身をも滅ぼしかねない危険な媚薬だ。

 私はそれらを充分判った上で、あえてその『仕事』を受諾した。
「アバウトな依頼ですね。そういう事では仕事をする者も能力が成長しないし、依頼した側も本当に欲しいモノが入手出来なくなる」
 私‥‥世界最高峰の頭脳を誇るクラウス・ローゼンドルフは『裏』の男に話し掛けた。たった今、納品をしたばかりだ。品物を吟味してきたばかりの男は少し機嫌が良いようだった。或いは、そう演技しているのか。
「依頼の詮索ですか? ドクター」
 男の目が変わる。それをなんと表現したら良いだろう。一瞬でその場の雰囲気さえ変えてしまうほどの劇的な効果がある。レンズの様に喜怒哀楽もなく、ただ冷たく見つめるだけの目となる。その変化が興味深い。つまりは、外見に現して広く他人に『見せて』いるモノはこの男を構成する部分の、ほんの一握りでしかないということだ。もっと別の違う部分を多く持っているのだろう。ただ、こうまであからさまに警戒するのは器が小さいと言わざるを得ない。並の者にならば立派な『威嚇』となるだろうが、この私にまで通用すると思うのは浅慮だろう。そもそも、これでは『死体集めには裏がある。けれど立ち入って欲しくはない』と語っているかのようだ。
「詮索ではないが‥‥そうか、なるほど。詮索されたくないためにぼかした依頼を行っているわけだ。つまりは、欲しい死体は若い生身の女性。しかし、出来れば‥‥」
「ドクター。どうぞ」
 男は強い口調で私の言葉を遮った。不逞な輩だ。しかし、どうやら的を射ているようだ。私は哀れなるこの男に情けを掛けてやることにした。隠したいことならば隠させてやってもよい。いずれ何かの『駆け引き』の材料にもなるだろう。私に限って忘れるということは、ない。
「‥‥よろしい。この事は口外しないでおくこととしよう」
 私は笑ってその場を出た。男がどういう様子をしていたかなど見もしない。そんな事しなくても、当惑を隠しきれない男の表情は手に取るようにわかるというものだ。

◇報復の手
 女は眠るように息絶えた。甘美な夢を見たまま逝ったから、その濃い化粧の顔を安らかで微笑みさえ浮かべている。まだ若い、少女の様な女だった。街で客をとる売春婦達は様々な人種、年齢、容姿の者がいる。クラウスが手にかけたのは若過ぎで痩せすぎの女だった。その細い身体を抱き上げ手早く梱包する。さっきまで生きていた女は荷物となり、クラウスと一緒に夜の街へと出る。街灯もない暗い道を正確な足取りで進む。
「‥‥」
 クラウスは薄く笑った。なにやら満足げでもある。しかし何もせずにどんどん進む。このまま行けば『裏』との取引を行う場所がある。
 その時、攻撃があった。音もなく銃弾がクラウスを襲う。しかし、それは僅かに逸れて道路に当たり軽い音を立てる。この攻撃は想定されたものであった。クラウスは指を鳴らす。その合図に街の暗がりから何者かが立ち上がった。微かな動きの後どこかで低い悲鳴があがる。
「ふっ‥‥断末魔の悲鳴をあげるなど、どうやら何も知らない者を雇った様ですね。つまり、私への『警告』ということですか‥‥笑止」
 つぶやくクラウスの足元にもう1つ大きな荷物が差し出された。クラウスが既に持っている荷物と同じ物の様だ。多分、中身も同様なのだろう。
「ご苦労です。しかしこの合図は止めにしよう。どうにも品がない」
 クラウスはニコリともせずそういうと、苦もなく二つの荷物を持って歩き出した。暗がりから立ち上がった者は無言のまま、また暗がりへと帰っていった。

 窓口の男は『品物』を納めたクラウスに黙って報酬を出す。女の死体はそのまま、そしてもう一つは部分的にサイバー手術をした男の身体だったので、各部分ごとに買い取りってもらう。
「ありがとうございました。また良いモノが手に入りましたらこちらにお持ち下さい」
「‥‥承知した」
 クラウスは返答した。心なしか男の表情は固いように見えた。

「たぶん、あの男は『不死』や『蘇り』に興味があるのだろう」
 遥か遠い昔から、人は死を恐れ死から逃れる方法を模索してきた。錬金術、呪術、医学もその1つだろう。ありふれた欲望、しかしその切ない願いをクラウスは笑い飛ばそうとは思わない。
「多少は面白くなくては困りますが‥‥ね」
 薄い笑みを浮かべ、クラウスはその場を立ち去った。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0627/クラウス・ローゼンドルフ/年齢性別に意味はない/最高の頭脳(自薦)】
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■         ライター通信          ■
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 大変お待たせいたしました。『アナザーレポート・PCゲームノベル』をお届けいたします。2体の死体を納品しました。窓口の人にはちょっと煙たがられているかもしれませんが、気になさらないですよね?
 また、機会がありましたら是非ご参加くださいませ。ありがとうございました。