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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


 第一階層【廃棄物一次処理プラント】ゴミ山の守衛隊

メビオス零


【オープニング】
 ダークゾーンを抜けた場所がここか。
 都市区画‥‥都市マルクトも含んだそこで使われた水が、ここに集まっているようだな。まあ、下水道の行く末がここなのは当然なんだろうが。
 こんなゴミ溜めでも、何か拾い物があるかもしれねぇ。ちょっと、探してみるか。
 しかし、酷い臭いだな。鼻が曲がりそうだ。
 ん‥‥おい、待て。何か聞こえないか?
 何か‥‥囲まれているような‥‥






★★★

 ビジターズギルド専属情報屋・ムーンアイで得た情報を元に、ダークゾーンを抜け出た白神・空は、疲れた様に溜息を吐いた。
 目に見える光景は、どう見てもゴミの山………命懸けで真っ暗な闇の中を駆け抜けてきた割には、正直見たくない光景ではある。

「ここであっていたかしら……?」

 色々あって、場所のことを記録していた紙面などは紛失していたため、ムーンアイで得た情報を、記憶を頼りに呼び起こす。恐らくここであっているだろうが、ゴミ処理場であるだけあって、本当にゴミばかりである。掘り出し物があるとも思えない。
 しかし、ここで帰っていたら来た意味がない。空は、とりあえず当面の目的を達成するために、ゴミの上を歩き始めた。

「酷い臭いね……」

 ゴミの上で、顔をしかめる空。
 ゴミの下にはリフトか何かがあるらしく、重いゴミを乗せて、少しずつ動いて行っている。ゴミから垂れ流しになっている汚水は、眼下に広がる巨大なプールに落ちていき、異臭を放ちながら、これまた非常に太いパイプに入って、外へと排出されていた。
 空の【人魚姫】なら、何とか潜っていくことも出来るだろう。こんな汚い汚水、追いつめられでもしない限りは入りたくもないが………
 周りにタクトニムが居ないかどうか、用心深く見渡した。時々ゴミの合間に大きな害虫(汚水の所為か、不必要に大きい)が居る程度だった。もっとも、そう言った害虫も、こちらに襲いかかってくれば驚異になる。
 ここの情報を貰った時にイーターバグのことを聞いたが、今は別のフロアにでも行っているのか、見える範囲には数匹しかいない。
 仲間を呼ばれると厄介なため、空は出来るだけ刺激しない様にしながら、足下に注意して歩みを再開する。
 何かめぼしい物はないかと、ガラクタをひっくり返したりしながら、注意深く、上っていくゴミの上で作業する。
 と、その上っていくゴミの中で、一瞬何かが光り輝くのが見えた。

「あら?お宝かしら」

 空は【天舞姫】で鳥人に変身し、足下でガサガサと動いているゴキブリを飛び越えて、空中を通ってその光の下場所へと到達した。
 ガラクタを退けて、その物品を回収する……

「人形……目が宝石になっているわね。……古そうね、ボロボロじゃない」

 ボロボロに朽ちている人形を叩いて埃と汚れを落としながら、空は人形をジッと見つめた………
 人形は古いフランス人形で、服は汚水で汚れ、あちこちが破れている。かなり年代物の様で、汚れと破れさえなければ、大きな博物館などに置いてありそうだ。

「………これで良いかな?」

 空は何となく手放すのが惜しくなり、手荷物の中にその人形を大事そうに押し込んだ。それから、頭上を見、ゴミが上がっていく先を眺める。
 この先は、恐らく第二階層に通じているのであろう。探せば、第二階層へ行くためのエレベーターもあるはずである。
 だが空は、それを探すよりも、まずは自分に向かって飛んできた羽虫を叩き落とすことに集中した。羽虫は拳程の大きさを持っており、大きな口でかぶりついてくる。
 あちこちから飛んでくる羽虫を殴りつけながら、空はそれがどんな虫なのかを観察する。まるでクワガタと蛾を足した様な醜悪な外見……この場所に適応するために進化したのか、何らかの毒物などで突然変異してしまったのかは分からないが、際限なく空中を飛んでいる空を食いちぎろうと、四方八方から襲いかかってくる。

「逃げた方が良さそうね」

 何十匹と叩き落とさないうちに、空は形勢が悪いと踏んで高度を下げ、ゴミの山ギリギリの場所を全速力で飛んだ。虫達を振り切るために、真っ直ぐに飛んで処理場の端っこまで突っ切っていく。
 【天舞姫】の速度についてこれず、虫達は諦めた様にガラクタの陰に引っ込み、姿を見せなくなった。

「助かっ……てない!?」

 一瞬だけ安心しかけていた空は、自分の体に掛かっている陰が動いているのを察知し、急いでその場を退いた。途端、空中を飛んでいた空が居た場所を突っ切って、一匹のイーターバグが落下していった。イーターバグは汚水のプールの中へと落下していって、中にいた何かに食われて消えていった。
 顔を上げる空。

「うわぁっ……」

 思わず出てきた声を切って、空は急いでその場を飛んだ。非常に高くまで作られている壁にビッチリと掴まっているイーターバグの群れは、それぞれの手足の筋肉をバァッと使い、空中を飛んでいる空を捕まえようと、狙いを反らさず、一斉にその場を跳んだ。
 まるで空を埋め尽くさんばかりに一斉に飛び出したイーターバグの群れをかわし続けられないと踏み、イーターバグが無惨に消えていった汚水目掛けて真っ直ぐに突っ込んでいく。

「南無三!」

 叫んでから汚水へと飛び込み、すぐに【天舞姫】を解除する。そして瞬く間に水中仕様の【人魚姫】へと姿を変えた。下半身は銀色の鱗に覆われ、魚のそれへと変化する。
 汚水へと飛び込んだ瞬間、獲物を嗅ぎ付けたピラニアの様な魚が群れとなって襲いかかってきた。先程、イーターバグを喰い殺していた奴らだ。軽い酸性となっている汚水に対応するためか、魚の体は、堅そうな鱗で覆われている。

(速いわね)

 汚水を外へと排出しているパイプに飛び込みながら、空は予想以上の速さで迫ってくるピラニア系タクトニムから離れようとした。追って汚水の中へと飛び込んできたイーターバグの群れは、尽く同じようなピラニアに襲われているらしく、空の後を追おうとせずに、喰われていく仲間に食い付きながら、なおかつ自分は陸に上がろうと藻掻いている。
 そんな光景を顧みる余裕など、空には与えられていない。パイプに飛び込んでも、その中にまでピラニアは存在していた。
 水流はゆっくりだったため、パイプの中にまで侵入できていたのだ。群れとなって行く手を阻み、パイプの中を突っ切ろうとする空に食い付いてくる。
 空は、全速力で汚水の中を進みながら、ピラニアを掌で叩いて退けていった。空中の虫とは違い、水の抵抗が激しいために、殺しきることが出来ない。汚水である所為で、普通の水中の感覚では戦えないのだ。

(うう、水が苦い)

 味覚で感じている訳ではないが、呼吸するたびに吐き気を催す様な悪寒が走る。
 空は、嫌になる程、住処の川を汚されていく魚の気持ちを理解する事になった………





★★★

 汚水の所為か、空は慣れているはずの水の中で、珍しく目を細めて進行していた。
 少しずつ汚水は流れる勢いを増し、今では普通の下水道と変わらない。
 それは、もう少し行った所に、このパイプの終わりがあることを現していた………

(もうピラニアも居ないし、これでやっと美味しい空気と水に有り付けるわ)

 汚水の中をずっと潜っていることに辟易していた空は、少しずつ泳ぐ速度を調節し、ゆっくりとした速さにしていった。
 ここで喜んで突進していくと、泳いでいった先が滝だったりした場合に痛い目を見る。特に、このような汚水の場合、それなりの処理場を通過するのは珍しくもない。

(私まで処理する様な場所じゃありません様に………)

 目の前の汚水の色が若干変わっているのを見て取り、空はパイプに掴まって前進した。思った通り、そこは汚水の、先程まで居たゴミ処理場で取り損なった細かいゴミを除くための施設になっていた。
 幸い、いきなり網に掛かったりしたりはしなかった。パイプの外は、入った所と同じようにプールになっていたため、空はパイプから出ると、すぐに上に向かって突き進んだ。

「ぷはぁっ!ああ、空気が美味しい……」

 空は汚水の中から顔を出すと、一気に深呼吸をした。周囲にはタクトニムもおらず、ゴミもない。この施設には餌がない様で、タクトニム達も見かけなかった。

「一休みしていきましょうか」

 深く息を吐いてから、空は手近な所に手をかけて陸に上がった。少々錆び付いているが、金属の網の様な場所である。恐らく、まだ人が使っていた頃の通用路だろう。
 空は【人魚姫】を解除してから、手荷物の中を改めた。耐水性になっているバッグの御陰で、中に浸水していることはない。ピラニアも、これには噛み付いていなかった様だ。
 中から人形を引っ張り出して、暇潰しによく調べてみる。ゴミの中から回収できたのは、結局それだけだった。

「一体何かしらね、この人形……」

 不思議な雰囲気を持つ人形。はっきり言って、ここまで壊れていると修復は不可能に近いだろう。目の宝石だって、このご時世どれだけの値打ちがあるか分からないし、何より古めかしい印象で目だけが光っているため、正直怖い。目の宝石だけを外そうとしたが、なんだか祟られそうだったため、思わず手を引っ込めてしまった。
 …………暗闇に置いたら、呪いの人形で通用するかも知れない。

「ま、良いかな。偶にはこうゆうのも……」

 良いながら、人形を手荷物に仕舞い込む。
 さて、後は、この処理場から脱出するだけ。ここに来た時と同じように、パイプの中を下っていけば大丈夫だろう。
 空は金網の上で体操をしてから、勢いよく処理場の水の中へとダイブした………



FIN




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
  0233    白神・空  女    24歳  エスパー

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■         ライター通信          ■
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 またお会い出来て光栄なメビオス零です。期限ギリギリまで書くのはもはや癖ですな。直るように、善処します。
 さて、今回入手したアイテム、『ちょっと怪しい人形』……あって意味があるのかないのか、かなり不明。夏の怪談っぽいアイテムですなぁ。でも髪が伸びたりはしませんよ?(^_^)
 汚水まみれで大変な目にあった空様。もし御機会がありましたら、またお会いできることを願っております。
 では、最後まで読んで頂き、本当にありがとうございまふ。