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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【ヘルズゲート】ゲート守衛部隊の一日


ライター◆なち


 ヘルズゲート。セフィロト内と、都市マルクトを隔てる場所だ。
 問題は、ここを抜けようって奴が、中にも外にもいるって事だな。
 ビジターでもないくせに中に潜ろうとする、ゲート破りの連中の事は聞いた事があるだろう。それに、気を抜けばタクトニムが、こっちに出てこようとしやがる。
 良いか? ビジター以外は絶対に通すなよ? それが、ここを守る守衛部隊の役目だ。


◆◇◆


 分厚い扉を隔てて、平和と秩序は存在する。
 ヘルズゲートと呼ばれるそれを守る者達にとって、その意味は重い。一つ気を抜けば大惨事さえ巻き起こしかねない位置に、己から立とうと思える者は稀かもしれない。
 そんな理由あってか、それともただ単に、日がな一日門番などやってられないという考えあってか。
 ヘルズゲート守衛部隊の人数はそう多くなく、ビジターズギルドの斡旋でビジターがアルバイトをする事も日常的にあった。

 『今日』という一日、守衛部隊に加わったアルバイト達にとって、険しい時間が始まろうとしている――。


 ヘルズゲートの都市マルクト面を表と呼び、セフィロト面を裏と呼ぶと、現在守衛部隊の半数ずつが表と裏に存在した。
 表に位置する者にとっての目下の”敵”は、人間である。本来ビジターズギルドに所属しない者の通行を拒むヘルズゲートを、無謀にも超えようとする連中――この阻止には骨を折る。一応、容赦は必要だ。
 そして裏に位置する者にとっての”敵”は、タクトニム。こちらの侵入を許しては、ビジターの名が泣く。後から後から沸いて出るように、排除しても排除しても、次の日にはまた新たなタクトニムに襲われる。
 この大任は、体力と精力を大いに削るだろう。
 そんな守衛部隊のアルバイトに、エリア・スチールは居た。
 薄ら暗い空間でまだ少女とも呼べる娘は、真紅の瞳を僅かに細めた。けれどそれは剣呑というよりは微笑むという感じで、よりいっそう可愛らしく少女を見せるだけだったのだが。
 そんなエリアが手に握るのは、細身の剣なのだから遠目に見ると状況はややこしい。
 裏側に早速現われたタクトニム――その体高たるは2m程、中々に強敵であるケイブマンと対峙する様に、守衛部隊が緩やかに移動する。
 皮膚を剥がされて筋肉繊維がむき出しになったかのような、不気味で異様な外見のモンスター、その数は二匹。
 対する守衛部隊は、エリアを入れて五人。
 内二人は役に立たなさそうな、弱気な青年。
 残り二人は慣れた表情で、己の得意なスタイルを取った。
 黒髪のショートカットが良く似合う、元気色の強い兵藤・レオナは両手に一本ずづ、大刃のブレードを握り締めている。先程まで不機嫌そうだった彼女の表情には、今は笑みが上っており、傍らでレオナの調子を窺っていたアルベルト・ルールは、小さく胸を撫で下ろした。
 最近付き合いだしたこの二人だが、本日のアルバイトにあたってレオナの機嫌を損ねる事が一つ。
 それはアルベルトが何かというと一緒にいる――とレオナには見える、彼の母親であるジェミリアス・ボナパルトもこのアルバイトに参加していた事。レオナに引っ張られるがまま、ジェミリアスとは反対側の裏に連れてこられたわけだが、今のレオナの頭からそんな出来事は見事に吹っ飛んでいる事だろう。
 そこで視線を感じ、アルベルトは思考を閉じた。エリアの視線とぶつかって、我に返り拳を握りこむ。
 後退した二人の青年を守るように三人は前に出、誰からともなく地を蹴った。


◆◇◆


 がつんと何かがゲートに当たった。振動さえ与えぬ扉に寄りかかって、ジェミリアスは裏側で始まった戦闘を悟った。
「ま、何とかなるでしょう」
 長い手足を組んで、向けられた戸惑いの視線ににべもなく返す。
 造形の美しさ、肌の張りツヤどこをとっても年頃の老いを感じられない姿で、ジェミリアスは微笑んだ。
 裏側に対しての心配は一つも無い。息子であるアルベルトやレオナ達の力は信用のおおける範囲だ。
 長い銀髪を掻き揚げて、サングラス越しに双眸が前を見据える。
 表の守衛部隊の数も裏と同じく五人だが、ジェミリアスを抜かした実力はかなり悲惨なものだった。
 ジェミリアスの言葉の真意はそこにあり、それは瞳に映る範囲の連中に対して向けられたものだった。
 数えるのも辟易ものの集団は、じりりじりりと近づいてくる。質より量といった感じの荒くれ共に、何人か混ざるかなりの実力者。
「エリアさんは……?」
 ゲート破りの連中の間から現われた女が発した見知った名前に、二人の視線が交錯する。
 CODENAME・Dに続いて、大道寺・刹那の視線も混ざりこむ。己等の実力に薄々と感付いて、一瞬の後殺気が膨らみ、そして――弾けた。

『……え…?』

 幾つもの呟きが重なって、正に今力を振るおうとされた攻撃はその動作途中で止まったまま。
 ヘルズゲートが物々しい音を立てて、開くのを信じられぬ面持ちで見つめていた。
「っな!?」
「何してんだよぉ!!」
 ひぃっと小さな悲鳴を上げて裏から表へと転がり込んだのは、青白い顔をした青年。薄っすらと血の滲んだ腕を押さえて、もう一人の青年が続いた事で、六人は我に返った。
 恐怖と困惑――それを煽る様に異形が唸り、その姿が暗闇から這い出した。
「タ、タクトニ――」
「おい、門が開いたぞ!!」
 これを皮切りに無法者共が我も我もと殺到し。
 まず、Dの放った銃声が耳を劈いた。狙いの先は門に足を踏み入れたケイブマンだったが、その青い瞳が見つめるのはケイブマンと対峙するエリアだった。
 たたらを踏んで堪えたケイブマンに、レオナの一刀が追撃する。
 その隙にDはエリアの傍まで走り寄る。
「有難う、ございます」
「タクトニムなんかに殺されては私が困る。エリアさんを殺すのはこの私だ」
 超えるべきゲートを前にして、しかしそれには興味なさそうに一瞥をくれ、Dは右腕に内臓された拳銃を構え撃つ。
 タクトニムとゲート破り、怒号と悲鳴と混乱の中、表と裏の境界線は崩壊している。
 今が好奇と今まで傍観者を勤めていた者達までゲート破りに加わり出し、その数たるは更に凄いことになっていた。
 それでもゲートを越えきれないのは、残った守衛隊の少数精鋭の力ありきだった。


◆◇◆


「Dさん、ケイブマンの動きを一瞬だけ抑えて下さい!」
 強体を誇る異形の体には幾つもの穴が穿たれ血の筋が流れ出していたが、それでも倒すには至らず、エリアはそれならばと声を張った。
 エリアを大いに敵視するDも、今は共同戦闘に抗う意思なくエリアの言葉に小さく頷いた。
 意図を悟ったレオナがケイブマンの裏に回りこむ。
 大振りのナイフの様な、単分子高周波ブレード二刀を難なく振り上げ、颯爽と駆け回るレオナをケイブマンの瞳が追う。
 体に似合わず俊敏な動きを見せて、レオナの刀を鋭利な爪が弾く。盛り上がった異常に発達した筋肉ならではの重量ある攻撃に、レオナの体が僅かに傾ぎ、慌てて後退した一瞬。
「今です!」
 エリアの叫びにDの左腕が、宙を掻くような不思議な動きを見せた。
 銀のきらめきがケイブマンに向かって走ったとしか傍目には感じられぬそれに、ケイブマンの体が硬直した。
 待ってましたとばかりに飛び跳ねたレオナの肢体が、ケイブマンを飛び越すのではないかと思え。
 大きく開いた異形の口に、彼女の一撃が深々と突き刺さった。
 どろりとした血液が飛び散り、獣の咆哮じみた断末魔の叫びが大気を揺らすのと同時、今度はその首からDの左腕へと、銀のきらめきが返って行った。
 そしてそれを見定めてから、エリアは戦闘位置を表側へと移動させた。


◆◇◆


「キリが無いわね……!!」
憎々しげに呻いて、ジェミリアスは狂人めいた顔で踊りだした”敵”を見据えた。周囲には傷一つ追わずに倒れ付す”敵”の姿があるが、言葉にした通り今の戦闘方法ではらちがあかなかった。
 軍時代に編み出した【チェザレーの眠り男】という所謂催眠の術で、冬眠レベルの強制睡眠を強いる事が出来る程だが、人数によって効果は薄い。
 それに何より、厄介な奴が出てきてしまった。
 ジェミリアスの顔を真正面から見つめる、がっしりとした体躯の男――刹那の姿からは、他と比べ物にならない程の何かが滾っている。
 ゲート破りであると認識しているが、それに対してそこまで強い覇気は感じられないのだけれど。
「強そう、だ」
 刹那は握り込んだ拳を突き出して構えると、序動作も無く踏み込んだ。黒髪が風に揺れ、次の瞬間それは残像に変わる。
「はっ!!」
呼気と共に繰り出されたハイキックをジェミリアスは寸前で交わすが、しかし鼻先を過ぎ去った脚の軌道を追ってやってきた裏拳は予想外だったのか、軽く目を見張ったのが刹那の視界に映った。
 が、
(軽い――)
 スピード重視で放たれた拳は虚をつけただけマシだった。
 ジェミリアスは右腕一本で拳を相殺する。
 だが、刹那の攻撃はそれでは終わらない。反対側から襟首を掴まれ、足元が浮き上がる感覚。
 足払いを受け天地がひっくり返る。刹那の投げ技が綺麗に決まった。
 容赦なく大地に叩き落す――が、咄嗟に伸ばされたジェミリアスの片手が大地に突き立ち、しなやかな筋肉が、弧を描くように彼女を跳ねさせた。
 威力を殺さずその力をかりて、ジェミリアスと刹那の間に十分な距離が生まれる。
「……構えは中国拳法、柔道技で極めるなんて、中々ね」
「あんたこそ。実戦経験がいかに豊富か窺える」
美しい笑みを浮かべるジェミリアスにぶっきらぼうに刹那が返し、更に戦闘は激化する。


◆◇◆


(大丈夫そう、だな)
 恋人と母親をちらちらと窺っていたアルベルトだったが、やはり心配は杞憂だったと思い当たって、小さく嘆息した。
 多少マザコンの気があるのは自覚しているが、恋人と同列に心配する辺り何だかなぁと、状況にそぐわない思考に頭を掻くその頭上から、ケイブマンの禍爪が振り下ろされる。
 痩躯ともとれる長身細身の体を糸も簡単に引き裂けるであろう攻撃を、しかし目を瞑ったまま難なく避けながら、アルベルトの悶々たる心情は更に葛藤する。
 ぶつぶつと口内で呟きつつ、右へ左へ最小の動きだけで攻撃をかわす。多少の掠り傷が生まれ、それを認識する前に自己再生能力が働いて無と返し――その繰り返し。
 ケイブマンの攻撃を尾にたかる蝿程度にも歯牙にかけず、しなやかな獣を思わせるアルベルトの四肢が軽く跳ねた。
 影を落とす床壁に二体目のケイブマンの拳が入る。瓦礫が飛び散る。
 舞うように交わす最中、得意の蹴りが放たれた。
 アルベルトを囲むように更に二体のケイブマンが襲い来るに至って初めて、瞼の奥の二つ目が開かれ美しいエメラルドが輝いた。
「ったく……」
 筋肉繊維の塊、動く人体模型のような異形の知能は低い。あっても猿程度のそれに本能以外に危険を察知する能力は無い。
 故、アルベルトの発する静かな、けれど力に満ちた風は感じられなかったに違いない。
 四方から微妙にずらした間隔で爪を振るったが――しかしそれはアルベルトに到達する事無く、彼のPKの前に吹っ飛ばされて意識を飛ばした。


◆◇◆


 計三体のサル――ケイブマンを叩きのめし、レオナは体を反転させた。
 戦闘中にはぐれてしまったアルベルトを見つけるのは容易かった。せっかく近くにいるのだから出来るだけ傍に居たいと思う乙女心。時ならぬデートをいざ!!とばかりに、アルバイトの事等忘れ切って
「アール……――っ」
愛しい恋人を呼ばわった声は、しかし視界を遮った男に眉間を歪めると共に尻すぼみに消えた。
 油断に、腹に一撃を喰らい、レオナの体が背後の壁に突っ込む。義体であるレオナ故、その衝撃は見た目程大きくは無い。
 無いが脳で理解する行動原理に腹を押さえて、苦痛に小さく声が漏れた。
 取り落としたブレードを再び構え直し、キッと睨み上げた先には、刹那の姿。
「あ……悪い」
 刹那は動揺した様にレオナを見、
「でもあんたが……」
「っ何すんのさ!!!」
遮られた言葉に一瞬だけ顔をしかめて、突き上げられたブレードを一歩下がってかわす。
「何って」
怒り露に繰り出される攻撃だが、けれど隙というものが微塵も感じられない程洗練された動きの元。
「あんたが」
「僕が!?」
「俺の拳の軌道、上に」
刹那の頭が沈み、追ってくる切っ先を体を捻って避ける。
「いきなり」
刹那の肘がレオナの握るブレードの柄に入る。
「入ってきたから」
 だがもう片方のブレードが肩先を掠り、たまらず転がって後退。
 人の正当な言い分を聞いているのかと疑いたくなる程容赦を知らない斬激に、防御のみで対処する刹那。
 無論レオナの方は聞いて等居ない。大事なのはアルベルトへ駆け寄る動作を邪魔された事実である。
「っち!」
 舌打して背を翻した刹那を、レオナは追う。
 逃げる刹那。
 追いかけるレオナ。
 ――ゲートから遠ざからんとする二人。


◆◇◆


 けたたましい咆哮は、まるで仲間を呼ぶかの様だ。
 返り血を拭いながらアルベルトはゲートを振り仰いだ。戦闘を繰り返す間に何時の間にやらゲートを抜け、表までやってきていたらしい。すぐ近くに母親の姿を見つけ、そしてお互いに顔を見合わせた。
 タクトニムもゲート破りも残すところ……とお互いの両手両足で事足りる数を切った今、
「おふくろ、あのさ」
「大丈夫よ、誰一人ゲートを越えて無いわ」
 首周りに纏わり付く銀髪を払って背後にやると、ジェミリアスは息子に向き直った。
 安心しろとでも言いたげな微笑に、思わず肩を竦める。
 自身が今程腕をねじ切ったケイブマンの咆哮が切れ切れになり、その背が門を越える事を諦め、闇に解けようとしている。
 守衛部隊の一員である今、深追いは必要ない。
「さっさと閉めちゃいましょう。ホラ、あなたはあっち」
「――はいはい」
急かすように背を押されて、アルベルトは右、ジェミリアスは左へと歩を進める。
 ヘルズゲートを開門した問題の守衛隊員は騒ぎの中どこへとも無く消えていた。つまり、扉は開けっ放し。
 ――分厚い扉がゆっくりと、だが確実に平和と秩序を取り戻そうと動き出す音が、響く。
「お誂え向きに、時間も良い感じだ」
 アルバイトの時間も一時間を切った事を認め、アルベルトが呟いた。

『てめぇら、何してんだ、やめろぉお!!!!!』

 余談だが、この時門の左右でそれぞれ同時に、ジェミリアスとアルベルトに制止の声とナイフが突き出され、二人の長足の前に沈んだ。


◆◇◆


 ヘルズゲートが閉じた。
 それはある意味で、終わりを示していた。タクトニムの侵入に対しての。ゲート破りの目的に対しての。そして仕事の時間に対しても。
「お誂え向きだ」
 同じ言葉をつい先程アルベルトが呟いたとも知らず、Dはそう言うと今まで共同前線を張っていたエリアに向き直った。
 二人の前には程よく開けた空間が広がっている。
 接近戦に持ち込むには確かに丁度良い。
「はあ。……あの……」
 一方のエリアは歯切れ悪く呟いて、おっとりと
「こういうの、えと、やめませんか?」
困ったように眉根を寄せる表情は、エリアの意図ではないにしろナイガシロにし難い。――普通ならば。
 少年少女を悲しませる行動はある程度の常識を持っていれば、大抵の人間が曲げる。
 ――大抵の人間ならば。
 しかしDはその大抵には含まれないらしかった。
「言ったはずだ。あなたを殺すのは私だ、と」
 タクトニムからエリアを庇った理由も、この為だけだった。優しさや守護欲など塵に同じ。そんなもの刷き捨てるだけの価値しかない。
「でも、わたくし……」
「――では私から行こう」
 苛立ち混じりに囁いて、Dの左手が銀色の糸を放った。ケイブマンを戒めた極細ワイヤーはDの滑らかな操作に従って、エリアへと飛ぶ。
「キャッ」
 無意識に、エリアのPKがエリアの手に細身の剣を作り出す。レイピアに似た、けれどエリアが持つに相応しい軽量なそれ。
 普段からは想像の出来ない俊敏さで、エリアの剣が空を走る。
 ワイヤーの先端がDの手を離れてただの糸となって大地に舞い落ちるが、それは予想の範疇。
 けれどその先は、予測不可能。
 先程まで嫌々と首を振っていたにも関わらず、エリアは地を蹴りDの懐に迫ったのだ。剣の軌道は見える。目で追えぬわけでは無い。
 緩慢に思える動作でDは左腕の銃を構え――エリアの額に押し付けたそれは、エリアの刃に内側から外側へと押し出され、Dは己から急所を晒す羽目になっていた。
「っ!?」
 しかしそれでもエリアの武器たる剣も、両手で握られた格好のまま明後日の方向を向いている。
 対するDにはまだ右腕が――がこれは、剣の柄先に弾かれ更に外側へ。
 正真正銘開いた胸元に、エリアの剣が振るわれた。
 けれどそこにはエリアの温情。豊満な胸元を掠っただけで、致命傷は与えない。
 Dは大きく跳躍、エリアから離れると舌打して胸元を見下ろした。
 皮一枚持っていかれた事で勝敗は決まった。
「あぁ、大丈夫で……」
手を伸ばしてきたエリアにさらに飛び退き、更に二歩、三歩と距離を取る。
 もう一度舌打をして、MSを置いてきた事を少しだけ後悔して。
「次に会った時はこうは行かない」
 捨て台詞としか思えぬ言葉を残して、Dは街の中へと駆け去った。


◆◇◆


「よし、仕事完了だな」
「お掃除が大変そうだけれど」
息子の満足そうな言葉に付け足しながら、ジェミリアスはエリアの姿を見つけて手を振った。
 何だか今にも泣き出しそうな顔で佇むエリアに、視線を合わせるように背を屈める。
「どうしたの?何かあった?」
「……、い、いえ」
 一瞬言い淀むが、エリアはまた何時も通りおっとりと微笑んで空を見上げた。
「そういえば、レオナ様は?」
「ああ、あそこ」
 バツが悪そうに背後を指したアルベルトに、エリアは小首を傾げながら、その指を追う。
 不機嫌そうに腕を組んで壁にもたれるレオナの姿が目に映って、真意を図りかねても一度首を傾げる。
「戦っていた相手に、テレポートで逃げられちゃったんですって」
 同じ敵と戦ったジェミリアスにとっても、納得の出来る撤退の仕方らしいのだが――。
「はぁ」
 やはり分かりかねると言いたげに目を見開いたエリアに、母子は苦笑のみを返した。


 『今日』という一日、守衛部隊に加わったアルバイト達にとって、長い時間が終わった。



END


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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━□

【0592 エリア・スチール/16歳/女性/エスパー】
【0536 兵藤・レオナ(ひょうどう)/20歳/女性/オールサイバー】
【0544 ジェミリアス・ボナパルト/38歳/女性/エスパー】
【0552 アルベルト・ルール/20歳/男性/エスパー】
【0684 CODENAME・D(こーどねーむ・でぃ)/25歳/女性/エスパーハーフサイバー】
【0689 大道寺・刹那(だいどうじ・せつな)/28歳/男性/エスパー】


■━┳━┳━┳━┳━┳━┓
┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━□
初めましての方、お初にお目にかかります。二度目ましての方、こんにちわこんばんわ。この度はご発注、真に有難う御座いました。
にも関わらずかなり遅くなってしまいまして、本当に、大変申し訳御座いません。
もう言い訳の仕様もなく……あぁあ(泣)
兎にも角にも少しでも楽しんで頂ける事を願うばかりです。

苦情等はぜひともぶつけてやって下さいませ。ご感想は頂けると励みになりますです。
またどこかでお会い出来た際には、せめて遅延だけは避けたい次第ですが――ご縁がありますことを祈って。
有難う御座いました。