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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


第一階層【ショッピングセンター】救援
切磋巧実

 ラジオビジターを聴取中の皆さん、番組の途中ですけど、ここでレアに緊急通信が来てますよ〜
 報告者はラジオネーム『恋するビジター』さん。えーと‥‥ショッピングセンターで偶然、救難信号をキャッチ? 救援に行きたいけど、弾薬がもう少ないから自分は行けないと。
 ふみふみ、リスナーの皆さん、ショッピングセンターから救難信号の発振を確認しました。
 余裕のある方は、救援に向かってくれると、レアは嬉しいです。
 敵の罠って事もあるし、助けに行ったら大戦力がって事も有り得るから、十分に注意してね?
 では、救援に向かう皆さんへ、レア一押しの曲をプレゼント。
 と、その前に、救援に向かう皆さんは、今から言う周波数に通信機をあわせてね? それで、救難信号をキャッチできるはず。


 ――閑散としたショッピングセンター内が映し出された。
 様々な形状の台や棚には、幾つもの商品が並んでおり、来る筈もない買い手を手招いているようだ。
 ふとメインモニター越しの視界に、約3mの『恐竜』の後ろ姿が割り込む。尻尾型の長いスタビライザーと、頭部のバイトファングも相まって、正に古代の恐竜を彷彿とさせる姿のMS(マスタースレイブ)である。
『璃菜、救難信号はどの辺りから発信されているんだ?』
 モニターに映る恐竜――MS『護竜』が半身を向ける。飛び込んで来た声は、ぶっきらぼうな男の声だった。
 パートナーである神代秀流からの問いに、高桐璃菜は屈託のない明るい響きで答える。
「以前きた所から遠くないわ。記録を辿ると‥‥ポイントL辺りかもしれないよ」
 大きな赤い瞳がセンサーとレーダーを追う。二人は、前にショッピングセンターを訪れた事があるのだ。その時の記録と照らし合わせれば、どの辺りかは絞り込める。
『よし、取り敢えず向かってみるか』
「そうだね。今のところタクトニムの反応は無いよ」
 璃菜は操縦桿を倒して、戦車『アリオト』を前進させる。僅かな振動がコックピットに伝わり、柔らかそうな緑色のロングヘアが上下に揺れた。
 二人がショッピングセンターを訪れた理由は、ラジオビジターで流れた救援依頼を引き受けた為である。元々、ショッピングセンターにマッサラなCD−ROMやMOを取りに行こうと計画し、ヘルズゲートから少し進んだところだったが、彼等は予定を変更したのだ。一両の小型戦車と恐竜を模したMSは、静寂に包まれた店内に機動音を響かせてゆく――――。

『待って!』
 璃菜の声が飛び込み、長めの黒髪にヘッドギアを付けた青年が、護竜の歩行を止めた。僅かにあどけなさの残る精悍な風貌に、不安の色が浮かぶ。
「どうした? タクトニムか?」
『近いわ。ここは迂回して別のルートを通ろうよ』
「そうだな、救出時に嫌でも戦闘になる。迂回しよう」
 二人の行動は慎重だった。アリオトのセンサーとレーダーを常に確認し、タクトニムとの遭遇を極力避けているのだ。
『秀流、どうやら発信地点は貨物用エレベーターみたいよ』
「貸物用? あれか?」
 護竜の望遠カメラがズームする。視界に捉えたのは、筒状の半円が覗く地点だ。周囲には数体のケイブマンが確認された。
『ちょっと待ってね。今、周囲のタクトニムの数を確認してるから』
「しかし、貨物用エレベーターに逃げ込んだが救難信号か‥‥」
『恐らくエレベーターが動かなかったって状況よね。出たわ』
 少女が敵の数を秀流へ伝える。次第に青年の表情は変容していった。頬に冷や汗が伝う。あまり喜べない数らしい。
「璃菜、エレベーター付近のタクトニムを誘き寄せて、合流できるボイントは計算できるか?」
『ちょ、無理だよ! 包囲されちゃうよ!』
 慌てるような声に、秀流は瞳を研ぎ澄ますと、不敵な笑みを浮かべる。
「蹴散らす間に救助するしかないか。璃菜、エレベーターの相手に遠距離会話を使えるか?」
『え〜!? この能力は秀流と会話する為だけに使うんだもん!』
 途端に少女の声は調子を変えた。秀流の提案には賛成したくないらしい。彼はダメ元で食い下がる。
「だがな、そんなこと言ってる状況じゃ」
『やだやだやだ! これは特別なの!』
 青年は溜息を吐く。きっと戦車の中では首を横にブンブンと振って、可愛らしい顔を膨らましてるに違いない。
「‥‥分かった。他の手で行こう」

●timing&speed
「行くぞ!」「了解よ!」
 恐竜を模したMSが躍り出て、リボルバーとサブマシンガンの銃声を響き渡らせた。次々と薬莢が転がる中、筋肉が剥き出しの異様なモンスターが体液を飛び散らせてゆく。それでも多勢に無勢だ。ケイブマンは俊敏に接近し、鋭い爪の餌食にせんと肉迫する。
「気味悪いんだよ!」
 飛び掛かるタクトニムへ銃口を向け、トリガーを絞り捲った。尚も近づくケイブマンには、ランスシューターの鉄槌を叩き込み沈黙させる。忽ち護竜はモンスターの肉片と体液に塗れた。
「璃菜、今だ!」
 中距離には銃を放ち、接近されれば強固な恐竜の顎で噛み砕き、護竜が大立ち回りを繰り広げる中、璃菜の駆るアリオトが、車体を傾けながら滑り込んで来る。直ぐに小型戦車から降りると、少女はエレベーターのドアをリズムカルに叩く。これで救援だと気付けば開けてくれる筈だ。
「もしもーし! 生きてるー? 助けに来たよー!」
 刹那、僅かに開くドア。
「ビ、ビジターか? 女?」
「もおッ、早く来てよ! 時間が無いんだから!」
 剣幕に押されて救難信号の主は中から飛び出した。長いコートを翻して姿を見せたのは、割と強面の屈強そうな男だ。
「すまねぇな。助かったぜ‥‥あんた雑誌か何かで」
「さあ、早く、この中に入って!」
 璃菜はアリオトの後部トランクを開いて促がす。グズグズしている時間は無いようだ。男が跳び込むと、少女は強引にグイグイと押し込み、「我慢してよね」と告げて手早く閉じた。
「秀流! 救助対象を確保したわ!」
 璃菜が左右の腰から2丁の銃を引き抜き、壁を伝い飛び掛かって来た化物に乾いた銃声を響かせながら、操縦席へと無事辿り着く。
「分かった! 撤退するぞ!」
 望遠カメラ越しの視界には、未だケイブマンは数体確認できた。既に肉塊と化した仲間だったモノを跳び越え、尚も鋭利は爪を振り翳す。一両と一機は後退しながら銃声を轟かせる。
「秀流、待って! コッチのルートは駄目だよ!」
 遥か前方に確認されたのは、メタリックなボディを輝かす巨大なサソリ型のシルエットが浮かんでいた。璃菜が顔を強張らせる。
「スコーピオン! 警備用が銃声を確認して来たんだわ」
「シンクタンクだと!?」
 二人が唖然とするのも無理はない。サソリをフォルムとしたシンクタンクは、脚を広げて畳2枚分はある大きさなのだ。しかも単体ではない。レーダーには数体反応が点滅している。
 ――尚も向かって来るケイブマン、行く手を遮るスコーピオン。
「お願いよ〜アリオト。急いでルートを計算して〜」
 両手を合わせてコンソールパネルに呟く璃菜。モニターはマップと現在地点を計算し、最も安全なルートを弾き出そうとしていた。刹那、モニターにワイヤーフレームのマップが描かれ、ポイントが表示される。
「これって‥‥。秀流! ケイブマンの間を擦り抜けるわよ」
「お、おい! ‥‥それが最も安全なルートなのか?」
「そうだよ、突破するだけなら硬くて大きい奴より、小さくて脆い方がダメージは少ないわ」
「仕方ないか、この救助は高く付くな! 行くぞ! 護竜!」
「頼むわよ、アリオト!」
 小型戦車が30mmマシンガンを轟かせて突撃する中、恐竜型MSがサブマシンガンのマズルフラッシュを迸らせて駆け出す。或るモノは体液を撒き散らせて吹っ飛び、或るモノはアリオトに轢かれて肉片を飛び散らせる。一両と一機が通り過ぎた後には、幾つもの死骸がぶちまけられた――――。

 二人がヘルズゲートまで辿り着いた時には、アリオトと護竜は凄まじい有様だった。ケイブマンだった肉片や体液がベットリと付着しており、爪による創痕やシンクタンクの攻撃で受けた銃創が至るところに覗えた。一目みれば、如何に壮絶な激闘を繰り広げて来たか分かるというものだ。
 流石に救出された男は顔を引き攣らせて頬を掻く。
「‥‥いや、おかげで助かったよ。しかし、スゲエな‥‥」
「ところでオッサン」
「あぁ、言いたい事は分かるぜ。慌てるなよ」
「そ☆ じゃあ、ゆっくりお話しましょ♪」

 ――ヘブンズドア
「それじゃ、無事生還を祝して、かんぱ〜い♪」
 上品なカクテルグラスを掲げて、璃菜が音頭を取った。秀流は氷の音も心地良いウイスキーグラスを掲げ、短髪の男は肩を落として小さな声で安酒の入ったグラスを二人と合わせる。
「へぇ、一番高いカクテルってこんな味なんだぁ。美味しいじゃない♪」
「ああ、この高級ウイスキーも深みがあって最高だ。疲れが癒されるって感じがする」
 ――まあ、いいさ。
 元々、いきがって一人で行った俺が間違っていたのだ。
 この二人が来なきゃ、いずれにしろ死んでいたかもしれねぇ。
 命の値段と思えば、高級ウイスキーと高級カクテルなら、安いってもんだぜ‥‥。いや、決して安くはねぇが――――
「‥‥じさん? ねぇ、おじさん?」
 ふと耽っていた男の顔を璃菜が覗き込む。
「な、なにかな?」
「お代わり良ーい?」
 満面の笑顔だ。男は若干強張った笑みを浮かべた。
「ああ、す、好きなだけ飲んでくれ‥‥」
「オッサンも飲みなって! せっかく助かったんだからな」
 男は決めた。
 暫らくここでタダ働きする覚悟を――――。

『はい、リスナーのみんな、元気かな〜? レアは元気ですよ〜、今日もビシバシいっちゃおう♪ あ、そうそう、この前の救難信号の件だけど〜』

 それでも彼は幸運だったのかもしれない。
 何故なら今も何処かで救難信号が発信されているのだから‥‥。

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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【整理番号】PC名/性別/クラス
【0577】神代秀流/男性/エキスパート
【0580】高桐璃菜/女性/エスパー

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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度は御参加ありがとうございました☆
 はじめまして♪ 切磋巧実です。
 今回のノベル納品が一番最初なのに、沢山発注頂き恐縮です。本当に切磋で良いんですか? って感じですが、いかがでしたでしょうか?
 今回のミッションは、タクトニムに追われ逃げ回った挙句にエレベーターに隠れた――という状況から、知能の低いケイブマンが付近を徘徊していない訳がないと判断して、あのような状況と演出させて頂きました。シンクタンク戦は割合させて頂きましたが(かなりの文字数になりそうでしたので)、破壊するというより突破して来たって感じです。
 しかし、先ずは機体の洗浄が必要ですね(笑)。
 楽しんで頂ければ幸いです。
 よかったら感想お聞かせ下さいね。
 それでは、また出会える事を祈って☆