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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【整備工場】武器マーケット

ライター:有馬秋人





整備工場名物の武器マーケットだ。
自分にあった新しい武器を探すのも良い。
頼めば試し撃ちくらいはさせてくれる。弾代は請求されるけどな。色々試してみたらどうだ?
新しい武器がいらないとしても、今使ってる武器の弾や修理部品を探す必要もあるだろう。
まあ、楽しみながら色々と見て回ってくると良い。売り子の口上を楽しむのも面白いぜ。
それに、ここで目を鍛えておかないと、いつか不良品を掴まされて泣く事になりかねないからな。
何事も経験と割り切りながらも慎重にな。
あと、掘り出し物だと思ったら、買っておくのも手だ。商品は在庫限りが基本で、再入荷なんて期待は出来ないぞ。





***





「高いっ、もう少し負けて」
「冗談じゃねぇっ、これ以上削っちまったら商売になんねぇな!」
「あらそう? 本当に?」
ずいっとせり出して迫るシャロンの迫力に負けず、露店の親父が頷いた。その引かない態度に自分が折れるべきか迷っていたシャロンだが、後ろからかけられた声に開きかけていた口を閉じる。
「おかしいですね…その商品でしたら四件ほど隣の、そう、あそこで二割ほど安く…」
のんびりとした声色だが、露店の親父の目が険しくなる。シャロンが振り返るとその場に似つかわしくない気配を漂わせた青年が覗き込んでいた。
「アデリオンっ、奇遇ね」
「そうですね。……護身用ですか?」
「うーん、それは半分かな。ちょっと実験に使いたくて…」
先ほどから値切り続けている対象に目を落とす。
「……実験」
「そ。タクトニムって植物の養分にできないかなぁ、と思ってね。貫通力が高いのが欲しいのよ、弾の改良方法も知りたいけど、まずは銃」
銃を使う実験と聞いて、些か驚愕していたアデリオンだが内容を聞くと露骨に表情を緩めた。改めて二人のやり取りを見ていると、ハンドガンの方は話がついているのか別に取り置かれている。問題はショットガンのようで、シャロンは再び露店の亭主とにらみ合いかけはたと思いとどまった。
「二割安く?」
親父の目が狭まり、シャロンが顔を上げるより先に、提示していた価格を下げて示す。
「どうだ」
「予算の範囲内ってとこかな。それとさっきハンドガンのため仕打ちで使った弾薬代、チャラしてくれたら手を打ちましょう」
「わかった」
少しばかり不本意なのだろう、露店の親父はむっつりとした顔でショットガンのレバーを引き、落とした程度では弾が出ないようセーフティをかける。代価をてきぱきと払ったシャロンは、銃を受け取るとようようとアデリオンを振り返った。
「助かった!」
「どういたしまして、ですよ」
くすくす笑うとシャロンの隣に立って歩き始める。
「そっちの買い物は終わったの?」
「まぁ、資金はありましたからほどほどに買い込めましたよ。あとは防弾チョッキ、です」
「私は防刃チョッキ」
用途は同じだが、対象が違うものに二人を顔を見あわせて軽く笑う。きっと似たような場所で売っているに違いない。そんな予測で連れ立って歩きだすが、いくばくもしないうちにアデリオンが「おや」と楽しそうに呟いた。シャロンが視線を重ねると、延長線上に血の気の引いた顔の、見知った人間が立っている。
「顔悪いわね」
「この場合顔色が妥当だと思いますよ」
シャロンの発言を訂正したアデリオンは、ゆったりと片手をあげて一度振る。長い黒髪がゆれ、相手の目が僅かに丸くなった。
「相変わらず目立つ目」
「その言葉は彼に返されるでしょうねぇ」
初対面時に自分の髪色に驚愕した彩を思い出し、シャロンは違いないと同意する。店がひしめき合い、歩く場所も立ち止まる人間で埋め尽くされているのに、するすると通り抜け近づいてくる青年に片手をあげて歓迎を示した。
「シャロン、アデリオン」
彩は精彩を欠いた顔で二人に微笑み、すぐに口を噤む。その様子にアデリオンは首を傾げ、シャロンは心配気に顔を覗きこんだ。
「具合悪いならどっかに移動しましょう。この人ごみじゃまず気力が削がれるじゃないの」
「あ、いや。そんなことはないから」
「その顔色では何を言っても駄目ですよ」
やんわりとシャロンの援護をするアデリオンに、彩は困った顔をして、かすかに顔を背ける。その様子に埒が明かないと舌打ちして、強制的に移動しようとしたシャロンは、伸ばした腕が空を切ったのに眉根を寄せた。問いかけるよりも先に、弁解が聞こえる。
「本当にっ、大丈夫だから…」
あまり追求して欲しくないと、透けて見えるように渋々肩を竦めた。がし、と髪を何度かかき混ぜ、中立体勢に移行しているアデリオンにほんの少し咎める目を向けて思考を切り替えた。
「それで、何を探してるの。見たとこ何も持っていないけど…あんたの性格じゃ冷やかしとか物見遊山でもなさそうだし」
「もしお手持ちが足りていないようでしたら、多少は融通できますよ?」
「そうそう。ここに来る前だいぶ野菜売って稼いだからあたしも平気よ」
「そういうわけではなくて、」
顔色から話題が離れたことで多少口のすべりがよくなった彩は、緩んだ口元を片手で隠した。困惑した表情だ。
「今まで身一つで十分だったが、もしもの時の為に一つぐらい持っていた方がいいのかもしれない、と」
「具体的には?」
シャロンが突っ込むと、彩は視線を宙にさまよわせる。そして一度シャロンの荷物に目を留め、何か怯んだ顔をした。
「…ナイフにでもしておこう。ペシュカドあたりがいいかな」
「その間が気になりますね」
「あたしはむしろさっきの視線が気になるわ」
確かに自分で一度止まったはず、と目を眇めたシャロンに彩は慌てて他意はないと言い募った。どうにも、初対面の時からシャロンとこの相手の相性は、絶妙の一言に尽きているようだ。
「でしたら、露店はあの辺りですね」
二人のにらみ合いに割って入ったアデリオンは、つっと指でその方面を示す。
「妙に詳しいけど、何度も来ているの?」
「いえ、初めてです。ただ…相場が自分の知っているものとかなり違うので、何点かの店を回って平均値を計算したんです。おかけで価値のあるものを選べられましたし、店の分布傾向も分かりました」
次回からは多少楽になると思いますよ、と付け足した青年に残りの二人は瞠目する。この穏やかな外見から推し量っていい相手ではなかったと、改めて実感した次第だ。
シャロンは少し考え込み、目を上げる。
「なんとなく…」
「なんとなく?」
彩が鸚鵡返しで聞き返すと、アデリオンも目で尋ねる。そんな二人に破顔してみせ、先に立って歩き出す。
「なんとなくよ。こうやって会って、立ち話で終わるんじゃなくて、自然と道行きを重ねられるってのはいいもんだと思っただけ」
人ごみは半端ではない、友人と出会ったからと言って肩を並べて歩けるわけではなく、誰かの背中を誰かが追って、会話はぎりぎりで成り立つ形だ。それでも二人はシャロンの科白に自然と笑みを浮かべ、言葉は出さずとも同意する。アデリオンにしても、彩を見つけて自然と呼んでしまった自分の行為がある。彩にしても、呼ばれて素直に近づいた自分がいる。シャロンが現在自分の悩みの種を荷物にしていると知っても尚、別行動しようとは思わなかった。
気付いてしまえば、それが嬉しい。
示された近辺に一番乗りでたどり着いたシャロンは、自分が言った言葉に今更ながらに照れを感じ、肩を竦めることでやり過ごす。さて、と辺りの店を見回して、どこが一番お買い得なのか同行人一人に尋ねようと視線を上げて、首を傾けた。先のアデリオンのように、片手をあげて見るが相手は気付かない。さっぱりだ。片手に抱えている袋には、消耗品が詰め込まれている。そしてその眼差しは、躊躇いたっぷりに巨大なブレードに据えられていた。
「ええと…間違いは無い、わね」
首元の鈴が金色に光っている。その反射に確信を得てシャロンは相手に近づいた。
「レオナ?」
「うううぅ…う?」
相手はべたりと張り付いていた視線を引き剥がすように自分を向けてくる。
「シャロ、ン。だよね」
「ええ、久しぶりね」
「うん。キミってこういうとこあんまり来ないように見えたけど…」
「入用だったのよ」
率直に尋ねるレオナに苦笑して、シャロンは荷物を見せる。銃に興味がないのかレオナはさらりと視線で確認するに留め、うな垂れた。
「ボクはそろそろブレードの買い替え時かと思ってみているとこ」
「そのサイズじゃ大変ね」
レオナが身に佩びているものはだの高周波ブレードではない。MSサイズのものは物自体が少ないうえ、半端でなく値が張った。うな垂れるのも仕方が無いだろう。
「これが一番いいだけど、ちょっと予算ギリギリだし……」
あうぅと視線が彷徨っている。その様子に、シャロンは一つの方角に目をやった。レオナはブレードとある場所の交互に見ているようで、比重としてはブレードでない場所が重いように見られる。戦う物にとって武器は大切だ。それを躊躇わせるものはなんだろうと目を凝らしてみると、その一角には武器という定義が少し外れた、衣料品が並んでいるようだった。偶然だが防刃か防弾っぽいチョッキも発見した。後で行ってみようと内心で零して、うろうろと視線を迷わせているレオナを微笑ましく思う。ボーイッシュなレオナだが、やはり女の子だと自然と笑みがこぼれていた。
「可愛い服だって思ったなら、買っちゃえばいいじゃない」
「でもっ……てっ、何でわかったの!?」
シャロンに唆されそうになった頭を一振りして後に目を見開く。どうして自分が服に迷っているのが分かったのかと問われて、シャロンはレオナの視線が正直だっと説明する。
「ば、ばればれだ」
頭を抱えて唸るレオナの前で立ち止まっていたシャロンは、自分の後ろを振り返り、残り二人がいないのを確かめる。話している間に追いついてくると思っていたのに声が全く聞こえないのが不思議だったのだ。アデリオンはともかく、どうやら人の気配などに繊細そうな彩ならば、自分の元に来るのに困らないと仮定していた分、不可思議で。
どうしたのだろうと、レオナから意識を外したシャロンは人ごみの中、ここからそう離れていないは場所でアデリオンと彩の姿を見た。二人ともが長身なので、周囲に埋没せずに済んでいる。けれど、少し目線を落としてしまえば、何か、そう、見えてしまっている気がする。
いけ好かない呼称で自分を呼ぶ人間が。
「すみません、少し…気になるものがありまして」
そう謝りながら追いついてきたアデリオンは、プログラム媒体と思しきクリスタルを持っていた。そんな、この辺りの機材では迂闊に使えないようなモノがどうかしたのかと問いかけようとするが、持っている相手の生き生きとした顔に事態を察した。これが見えたからこそ、遅れたのだ、と。
心のメモ帳、アデリオンのページに「コンピュータ関連注意必要」と書き加え、何も無かったように視線を外す。そう、問題はそこではなかった。アデリオンと彩の間にいる者が問題なのだ。
「ボースっ、聞いてくれよっ。こいつなんかすげぇふらふらしてるって見てたらさ…」
「誤解だっ」
シャロンの眉間の皺に気付かず、いや気付いても構わず話しかけてくるラーフの声を遮って、彩が否定するがその程度で黙るようなたまではない。
「銃持ってる奴から出来るだけ距離とろうとしてんの。弱点発見っだ…」
「彩、ほらそんなとこに立っていないで、この辺りにあるんじゃないの。ペシュカドだっけ」
立て板に水、とばかりにまくし立てようとしていたラーフはすげなく無視されて肩を落とす。けれどすぐに立ち直ると彩の前からどいた。彩はなんとなく言い出しにくく感じ黙っていたことをあっさり暴露されたものの、発言者が発言者だったお陰か無視され、どうしたものかと迷う。けれどすぐに浅く首を引いた。
「…何と言うか…潤滑油やら火薬の匂いがキツイ。少し顔色が悪いのはそのせいだろう」
「あらら、じゃ少し離れて歩いたほうがいいかも」
「いやっ、先も言ったが大丈夫だ」
距離を取ろうとしたシャロンを制した彩に、アデリオンも笑って頷いた。
「そうですよ、話が遠くなってしまいます」
「そうそう、こいつ気遣ってボスが離れることはないって」
「あんたは黙ってなさい。っていうかいつから混ざってるんのよ」
口を挟んだラーフを一瞥してきっぱりと言い切ったシャロンだが、相手が素直に黙ったのを見ると多少は気が咎めたのか奥歯を噛んで、一度目を閉じ、問いかけた。
「武器使ってるとこ見たこと無いけど、使えるの?」
「ほどほどにな。銃系統がいいかって思ったんだけど、よく考えると弾切れすると無用の長物になっちまう。色々考えてナイフはナイフでも常時携帯は高周波ブレードがいいんじゃないかってさ」
「なるほど」
「あー…買うなら動力切れも考えてSHBのスペア何本か追加した方がいいよ」
シャロンの連れが大勢着たと黙っていたレオナが自分の使っている武器だからと発言すると、シャロンの以外の視線が一斉に突き刺さった。
痛い、となんとなく呟いたレオナにシャロンは軽く笑い、自分の知り合いだと紹介する。他の者もそれぞれが紹介し、ちょいと片眉が上がったが珍しくラーフも名乗った。
「とりあえず、彩とラーフのナイフを買いましょうか。その後で何か他にもあるなら…」
「あ、ダイナマイトとか欲しいです、ボスっ」
挙手して、悪戯っぽく丁寧な語尾にしたラーフにシャロンは微妙な顔で頷いた。確かにラーフの名前も口にしたが、別行動をとると思っていた。どうやら珍しいことに、今回はこのまま付いて来る気らしい。
「いいけどね…レオナはどうする?」
「ボクは………も、もうちょっと迷ってるっ」
ブレードを見て、情けない顔をするレオナに苦笑すると、シャロンは無理には促そうとしなかった。
「一通り買ったらまたその辺りで流すか、向こうの露店で休憩しているから、気が向いたらいつでもどーぞ」
「うん、ありがと」
ナイフ類の多いこの辺りと、衣類の境目あたりにあるスペースには、飲食の露店が続いている。その椅子まで用意されて賑わっている一角を示したシャロンに、レオナは首肯した。
「あ、ボス。今日は俺もついて行くんでよろしく」
「あんたは来なくてもいいわよ」
「いや行くから」
「だからっ」
いい品を見つけたのか露店の亭主と交渉に入っている彩の後ろで、掛け合いの会話しているシャロンとラーフをアデリオンが実に楽しそうに眺めていた。






2005/07/...


■参加人物一覧


0645 / シャロン・マリアーノ / 女性 / エキスパート
0536 / 兵藤レオナ / 女性 /オールサイバー
0576 / 彩・月 / 男性 / エスパー
0585 / アデリオン・シグルーン / 男性 / エキスパート
0610 / ラーフ・ナヴァグラハ / 男性 / エスパー


■ライター雑記


ご依頼ありがとうございました。有馬秋人です。
武器の並ぶ露店という光景を考えると少し穏やかなやり取りかなぁとも思いましたが、
シャロン嬢というキャラクターは場が明るくしてくださる方のようで(笑)。
色々拙い部分もあるかと思いますが、この文が娯楽となりえるよう祈っています。