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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【繁華街】マフィアの裁き

〜大掃除大作戦〜

深紅蒼

【オープニング】
 おいおい、俺がマフィアだからってそう睨むなよ。敵じゃないってんだ。
 言うだろう? 「マフィアは信用出来るが、信用し過ぎるな」って。ありゃ、こう言う時に役に立つ格言だと思うぜ。
 何、他でもない。仕事を頼みたいのさ。
 うちの構成員が勝手をやらかしてな。
 組織は、構成員が勝手をするのを許さない。
 ここまで言えばわかるだろう? 他の組織との間も焦臭いってのに、馬鹿を始末するのに組織ごと動いてなんかいられないって訳だ。
 報酬は金か? それとも、上物のコカインか? 酒に女でも構わない。
 受けるか受けないか、今すぐ俺に言ってくれ。

◆◇喰えない爺
 その爺はかなりな高齢だった。痩せて骨ばかりの様な身体にゆったりとした柔らかい素材の服をつけ、大きな革張りの椅子に座っている。しかし、ただの爺でないことはその男を見ればすぐにわかる。尋常ではない目の輝き、威圧感のある雰囲気。どれをとっても『マトモ』ではない。もっともそういうモノが見えない『普通の人』は、爺の側に並ぶ3人男達の方にこそ、恐怖を感じただろう。いずれも屈強な身体を持ち、そしてスーツの下に物騒な得物を仕込んでいそうな不自然な凹凸がある。
「『朱の』が囮になったんで居場所はわかっている。阿呆どもを始末してきてくれないか?」
 爺の右横に立つ男がなんでもなさそうに言った。
「それくらいのこと、俺が出る幕でもないだろ? 何故お鉢が廻ってきた?」
 神代・秀流(かみしろ・みのる)は男達に気圧される事なくぞんざいな口調で言った。まったく、こういう『組織』の内部抗争に巻き込まれる理由はまったくない。強いて言えば爺と先代の交友ぐらいのものだが、それはどちらかが下風に立つ様なつきあいでは無かったはずだ。借りも貸しもない。そこまで人材に事欠く『組織』ではないはずだ。
「‥‥自分達はこれからバカンスだ」
「‥‥はぁ?」
 強面の男から発せられた言葉に秀流は耳を疑った。バカンスだと? バカンスと言ったのか、このヤロー? さぞや珍妙な表情をしていたのだろう、爺がしゃがれた声で笑った。
「そうじゃ。儂等は予定通りバカンスに出る。これは誰もが知っている予定じゃ。その間に儂に逆らう輩は自滅する。理想的な大掃除じゃろうが」
「てめぇ等は絶対に手出ししてねぇってアリバイ作って、俺に大掃除を押しつけるって事かよ」
「まぁ簡単に言えばそういう事じゃ。古馴染みの後継者じゃし報酬ははずむ。なにより囮役は結構な手練れじゃ。なんとかなるじゃろう」
 爺は悪びれることなくニヤリと質の悪い笑みを浮かべた。

◆◇妖艶な囮
 若い男はどうして良いのかわからない様子だった。見るからに粗暴でがさつ、そして脳のほとんどの部分を有効活用してなさそうな下卑た男だった。そいつには目の前の『人質』をどう扱って良いのか判断が出来ない。それもそのはず、『人質』は普段、触ることも口をきくことも許されない程の組織の大幹部であった。ボスよりも遥かに上にいるべき人だ。しかも、とびきり佳い女だった。年は30前後。グラマラスなボディを黒いスーツで包んでいるが、その熟れきった魅惑の曲線と色香は隠せようはずもない。こんな女を目の前にして、しかも手錠で縛めて椅子に座らせている状況なら、当然己の欲望のままに行動する。しかし、今回ボスには『大事な人質だから見張れ』といいつかっている。 それとも、多少の『役得』があってもいいのだろうか。見張り役の男には、この状況が理解できていなかった。何故ボスが大幹部の自由を奪っているのか、この先どうなるのかさっぱりわからない。
「‥‥ねぇ」
 重い沈黙を破ったのは人質の女だった。その低めの声も官能的だ。
「え? 俺?」
「そうよ。今この部屋の中にアタシとアンタ‥‥他に誰がいて?」
 伏せられていた女の顔があがり宝石みたいに光る緑の目が男を射抜いた。

◇交渉決裂
 秀流は一目でカタギとは見えない男3人と対峙していた。
「親父の使いってのはお前のことか?」
 中央に立つ壮年の男は無駄に凄んで秀流を睨む。こういう行為一つを取ってみても、自分の格が低いということをさらけ出しているのに何故気が付かないのだろうと秀流は思う。自分が強いことをアッピールしなければ周囲に認めて貰えないということは、つまりあんまり強くないと自らが証明しているものなのだ。『弱い犬ほどよく吠える』というやつだ。本当にヤバい奴はこういう無駄はしない。する必要がないからだ。
「ま、そういうことだ。あの爺さんも身内でごたごたしたくはないらしい。で、俺が仲介に来たって訳だ。なんか言い分があるなら聞いて交渉するぜ」
 秀流は内心の『侮蔑』を隠し、ことさらに軽く飄々と言ってみた。多分、相手は若造である自分を舐めている。どうせやり合うなら、その寸前までそういう油断した気持ちでいてくれた方が都合がいい。勝負は一瞬だろうが、警戒されていると色々とやりにくい。男は大げさに声をあげて笑った。
「親父も日和ったぜ。なぁ。こんな小僧を立ててくるとはよ。だが、悪いが言い分なんざもうない。俺達は親父も組織も見限ったんだ。親父が直に詫びるってなら考える余地はあるが、来ねぇんならしょうがねぇ。人質もお前も血祭りにあげて親父に送りつけてやる」 男は勝手に興奮して大声でまくし立てる。
「俺達にはもっとデカイ組織がついてるんだ」
「そうだ! やっちまえ」
 男の左右に立っていた2人の男も同調する。

◆◇火の葬送
 幸い部屋には他に誰もいない。これ以上は意味のある会話もなさそうだ。『やるか』と、秀流が思った瞬間。どこか遠くで悲鳴があがった。男の聞きたくない断末魔の悲鳴だ。
「なんだ!」
 3人の男の注意が一瞬秀流から逸れる。好機だった。
 銃声が3度響く。存外軽いタイヤがパンクしたような音が部屋にこだました。何が起こったのか判らないまま、男達は倒れていた。血が安物のカーペットにしみ出してゆく。秀流の両手には愛用の銃があった。入念に隠して持ち込んだ銃だが、それでもこの程度の早撃ちなら朝飯前だ。さしたる達成感もなく、秀流はさらに2発ずつとどめを刺した。昔のドラマでそういうシーンを見たのだと老人達から聞いて以来、秀流は弾に余裕があるときはそうしている。
「ま、これで任務完了だな。あ、証拠‥‥っと」
 秀流は男達の服から組織の構成員であることを示すピンをむしり取る。これで始末をしたことを証明できるだろう。
「これでよし」
 大事な証拠品をポケットに押し込み、立ち上がった時にドアが開いた。
「な、なんだ! おめぇ!!」
 秀流とそう年の違わない、けれど粗暴そうな男が室内を見て一瞬動きが止まる。けれど、すぐにその胸から赤い血が噴き出した。男の顔が苦悶のまま凍り付きそのまま倒れる。その向こうには黒いスーツの女がいた。
「あんた‥‥」
 秀流はそれが『囮』となった女幹部であることを知らされていた。女は胸元や手を血で染めていたが、どうやら返り血らしい。手には大型の銃を携えている。
「仕事は済んだのね。来るのが遅いからアタシが始末しなきゃイケナイかと思ったわ」
「まぁ、あんまりやりたい仕事じゃなかったからな。ま、キッチリ片づけたけどな」
 さして苦労したわけでもないので、秀流はごく普通に答えた。どこか女は満足げにうなづく。
「なら、長居は無用ね。行きましょう」
 くるりときびすを返す。
「OK。帰り道はアンタがいるから安全だって爺さんも言ってたぜ」
 秀流は片頬だけに笑みを浮かべる。こういうニヒルな笑みはまだもう少し年を取らないと似合わないのだといつも言われるが、自分では結構気に入っている。女は少しだけ笑った。
「坊や、騙されているよ。アタシの二つ名は『朱雀』といって炎の神鳥の名さ。当然アタシの絡んだ現場は火の海って決まってるんだよ」
「なんだそれ。全然安全じゃないじゃねぇかよ」
 冗談ではない。したくもない汚れた仕事で得た報酬を生活費にして、幸せに生きていく予定なのだ。これ以上泥を被るつもりも火傷一つ負うつもりもない。
「悪いが先に行くぜ。後のことはよろしく」
 秀流は銃を素早く元に戻し、女の横をすり抜けて廊下へと出た。既に辺りはきな臭い。何かが焦げる様な臭いがしている。これはもう猶予はない。秀流は案内されて通った廊下を全力疾走で出口へと走った。
「った〜く。喰えないにも程があるぜ、爺!」

◇幸せはそこに
 幹部達は本当にバカンス中であったがすぐに報酬は支払われた。仕事の難易度から言えば相場の倍ほどの破格の礼金を手に入れ、秀流は我が家へと急ぐ。担当になった者は至極丁寧に対応してくれて、バカンス先まで出向いてはどうかとも言ってくれたが、あの爺どもの顔を見る気にはなれなかった。手応えがないほどの『仕事』が気になっていた。振り回されて遊ばれただけの様な気もしてくる。だから、妙に心が疲れたこの一件を早く忘れてしまいたかった。それに、家には待っていてくれる人がいる。
「‥‥」
 会いたかった。何故だか今は無性に会いたかった。あいつと軽口を言い合って、メシを喰って‥‥それからちょっとばかり工場にも出てみたい。それが俺の日常なのだ。

 面倒な一日が終わろうとしていた。
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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【整理番号(NPCID)】 PC名
【0577】神代・秀流(かみしろ・みのる)

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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お待たせ致しました『PCパーティノベル・セフィロトの塔・都市マルクト【繁華街】マフィアの裁き』の結果ノベルをお届け致します。妙なノリのマフィアさんですが、色々考えていましたら、こんな組織と構成員になってしまいました。妙に気に入られているみたいなので、或いは秀流さんへ勧誘の魔手が伸びるかもしれません。フィアンセとの幸せなカタギの生活を守るため、心を強く持ってくださいませ。
 では、またいつかどこかで〜。