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第一階層【居住区】誰もいない街
メビオス零
【オープニング】
ここいら居住区は、タクトニム連中も少なくて、安全な漁り場だといえる。まあ、元が民家だからたいした物は無いけどな。
どれ、この辺で適当に漁って帰ろうぜ。
どうせ、誰も住んじゃ居ない。遠慮する事はないぞ。
しかし‥‥ここに住んでた連中は、何処にいっちまったのかねぇ。
そうそう、家の中に入る時は気を付けろよ。
中がタクトニムの巣だったら、本当に洒落にならないからな。
誰も居ない街……
そう呼ばれているだけあって、この街には、自分達以外の人の気配がない。
見渡す限りが民家、民家、民家………。中にはタクトニムが壊したのであろう、倒壊している建物まであったが、特に気にする者は居ない。
この誰一人として住む者が居なくなった街にとっては、民家の一軒二軒崩れた所で、どうと言うことはないのだから………
〜面影の街〜
「本当に、誰一人いない…………静かだな」
セシリア・アイルフィードが呟く。本人にとっては独り言として、極小さく言っただけなのだが、それでも周りに何の喧噪もない街なため、後ろにいる三人にも、良く聞こえていた。
開け放たれている民家の窓から中を眺めながら、ラーフ・ナヴァグラハは「本当にそうだな」と相槌を打った。
「話には聞いていましたが、タクトニムすら居ませんね」
「たぶん、餌になる様な物がないんでしょうね。食料なんて、残ってても食べられないでしょうから……」
リュイ・ユウが言うと、シャロン・マリアーノが民家の庭に生えている植物を手に取りながら言った。誰も刈ろうとしないだけあって、野生化した植物(主に雑草)は伸び放題だ。
四人はあっちこっちの民家を覗き込んだり、実際中に入ったりしながら、ブラブラと見て回っていた。特にこれと言って、探し出さなければならない様な物もないため、関係ない者達から見れば、只の観光にしか見えないだろう。
今回の依頼人であるセシリアは、昔は幸せな家庭として使われていたであろう大きな家を見上げてから、後ろの三人を振り返った。
「タクトニムの類はやはり居ないか……これなら、バラバラに別れても大丈夫だろう」
「そうですね。ですが、油断は禁物です。やはり一人で行動というのは止めておきましょう」
「そうか。ならばそうするとしよう」
「んじゃ、二人一組にするか。ちょうど四人いるしな。ここは……」
「男女別に別れましょ。と、言う訳でセシリアは私と一緒にこの家に入りましょ」
「む?待てまだそっちの二人の意見を……」
シャロンに手を掴まれて引かれ、セシリアは手近にあった大きめの民家に歩み寄った。振り返って残された二人に視線を送ると、ラーフが手をヒラヒラと振っている。ユウも、セシリアに静かに頷いて返した。
セシリアの手を引きながら、シャロンは扉を開ける。
「ちょうどフライパン壊しちゃったのよ。良い物探すの、手伝ってくれないかしら?」
「まさか、本当にそれだけが目的でここに……?」
流石に驚いたのか呆れたのか、セシリアは珍しくも半眼になって後に続いていった。残された男二人は、それを見送ってから、別の家を探し始める。
その途中で、ポツリと、ユウは後ろからやる気の無さそうにしながら着いてくるラーフに訊いた。
「本当に良いんですか?」
「なにが?」
「この組み合わせです。私達二人は、共に戦闘系の技術と能力を持っていますが、あちらの二人は持っていない………タクトニムに遭遇した場合、あちらの二人が危険ですよ」
「真面目だなぁ、良いんじゃないか?どっちも場数は踏んで居るんだから、逃げることぐらいは出来るだろ?こんな民家じゃ、ビジターキラーとかは居ないだろうしな。つーかイーターバグだって、居やしねぇ」
「それはそうですが……」
「そう考えるなって。ほら、俺達は俺達で、あっちこっち見て回ってようぜ」
「………では、そうしますか」
二人も民家の一軒に足を踏み入れていく。
だがこれが、後にこれでもかとばかりに危険な出来事のきっかけを作るのだが………
それはもうちょっと先の話………
〜断片捜索〜
民家の中は荒らされた跡も、誰かが立ち入った形跡も残されていなかった。居住区は広いため、同じビジターか、タクトニム達が迷い込みでもしない限り、家の中は昔のままで残されているのだ………
セフィロトの第一階層の住民が一体何処に行ってしまったのかは解らないが、民家のほとんどが原型を欠けさせることなく残していることから、戦闘の気配のないこの区域から、どうして人だけが消えてしまったのか、それが気になる所であった………
家の中を適当に見て回る。今居る場所はリビングであろう………大きめのテレビが置かれ、ソファーも破れ箇所なく残っている。それは、この家の主が居なくなってから、誰も足を踏み入れていないことの証拠である。
棚の上に置かれている写真立てに積もった埃を、指先でそっと拭ってみる。出てきたのは、元の持ち主達の家族写真………
特にこれと言って感慨もない筈なのに、ユウはジッとその写真に見入ってしまっている自分に気が付き、苦笑しながら写真立てをソッと伏せた。
(まさか………こんな所にあったら、苦労はしないというのにな………)
自分でも気が付かぬうちに、周りの物から記憶の手がかりを掴もうとしているのを意識し、ユウはソッと目を閉じた。自分の記憶のことなど普段は意識する様なことは滅多にないというのに、こうも人気の無く、行ったことのない場所に行くと、自然と探してしまうのだ………
「何かお探しかい?」
背後から、ひょこっとラーフが顔を出した。ユウは苦笑気味だった表情から一変して無愛想に戻り、倒した写真立てに視線が行かない様にしながら振り向いた。
「いえ。探している物などありませんが」
「冷たい上に無愛想だなぁ。言ってくれれば手伝うぜ?」
「お気持ちだけで十分です。それと、無愛想なのは元々こうですので、お気になさらずに」
素っ気なく言うユウ。ラーフは「あっ、そう」と言い、再び家捜しに戻っていく。ラーフはあちこちの戸棚などを調べながら、肩越しにチラチラとユウの様子を伺った。
(記憶の断片を、無意識ながらも探してんのか……ま、気長に待つか)
ラーフは、静かに家の中を見て回るユウを見てから視線を外し、窓を開けて庭に出る。壊れた塀から頭を覗かせて、少し離れた所にある、セシリアとシャロンが入っていった民家を眺めた。
「あっちの具合はどうなってるんだかなぁ……そろそろ合流してみるか」
やる気無さそうに言いながら、ラーフは眺めた家から煙が立ちつつあるのを見て取り、慌てて走り始めた………
〜嘗て在ったかも知れない風景〜
この家の住民は、恐らくは裕福な家庭であった。台所は広いし、居間は大きなテーブルに凝った装飾が施された椅子が並んでいる。特に、居間の壁に作られた暖炉が、セシリアの目を引いていた。
「こういう家庭に住んでいた人々は、どういう暮らしをしていたんだ……」
「さぁ?普通の暮らしじゃない?」
居間と同じ空間にある台所をガサゴソと漁りながら、シャロンが返事をする。
セシリアはそんなシャロンに肩をすくめ、近付いてから返事をした。
「私は、そんな“普通の暮らし”がどういう物かを知らないんだ。ここに住んでいた人達は、どういう暮らしをしていたんだと思う?」
「そうねぇ……ん〜〜」
セシリアに問われ、シャロンは忙しなく動かしていた手を止めて考えた。改めて考えてみると、ビジター・セフィロト関係の者達の暮らしは、“普通”とは言えない者達が多い。
農園を経営し、怪しげな研究をし続けている自分の暮らしだって、周りの者達から見たら“普通”とは言えないだろう………
セシリアの以前の暮らしを知っている訳ではないが、それでも“普通の暮らしとは?”と聞いてくる辺り、真っ当な暮らしをしてきてはいないだろう……
「そうね。家族と暮らして、一緒にご飯を食べたりとか………?改めて言われると、ちょっと難しいわね………………………………………実践してみる?」
「?」
「いや、ちょうど良さそうなフライパン見つけたから、試してみようかなぁっと…」
「唐突な……。食料の類は持ってきてないぞ」
「そこら辺にある物を使って……」
「無いだろう。……庭に出てどうするつもりだ?」
「植物学者を舐めないで。この庭に野生の謎植物があるのは確認済みよ。この家には何とスプリンクラーがあるらしくって、庭の植物が枯れてないのよ」
「スプリンクラーは兎も角…………謎植物?」
「ちょうど台所に木炭とかがあったし、試してみましょう。セシリアって、料理出来る?」
「趣味の範囲なら出来るが……何だその毒々しい色の植物は」
「さぁ?私もよく解らないから、ちょっと彼らに試して貰いましょう」
古くなっていた所為か酷く煙を出す木炭に火を付けながら、シャロンは煙を見て駆けてきたラーフとユウを見ながら言った。ラーフはシャロンが持っている謎植物を見て「うっ…」と言って退き、ユウは素早く距離を取って、体術の構えに入る。
「シャロン………まさかその植物、俺達に食わせようとか考えてなかっただろうな?」
「よく解ったわね。まさにその通りよ」
「さて、帰って飯でも食うか」
「うむ」
「そこでさり気なくリュイまで行くんじゃないわよ」
「俺もそれを食べる気にはならないのでね。実験なら、持ち帰って自分で試してくれ」
「はぁ、しょうがないわねぇ。案外大丈夫かも知れないのに」
「“かも”でそんな物食べて堪るか!?」
ギャーギャーと口論を始めるラーフとシャロン。ユウとセシリアは互いに二人から少し離れ、傍観を決め込むことにした。
「記憶の方、手がかりになりそうな物は見つかった?」
「いいえ。流石にそう簡単には見つかりません。もっとも、見つからなくても、特に困りませんので」
「そう……」
「しかし、あの二人、止めなくてよろしいのですか?ラーフが怪しげな植物を口に放り込まれておりますが……」
「そうだな。では止めてこよう。……時に、これから時間は空いているか?」
「ええ。本日の予定はこれだけですので」
「ならばこの後、皆で私の施設に来て食事でもどうかな?警護の特別報酬だ」
「有り難く受けましょう」
セシリアはユウが頷くのを見てから、泡を吹いているラーフと、「やりすぎたか」と呟いているシャロンに駆け寄り、とりあえずラーフを介抱してやった。早々に意識を取り戻させて、施設へと誘う。
「有り難いわね。是非ご一緒させて頂戴」
「“これ”の口直しに、美味い物を頼むぜ」
これと言いつつ、ラーフが謎植物を足蹴にする。シャロンは勿体ないとそれを回収し、持ってきていた荷物に、フライパンと一緒に放り込んだ。ぞんざいな扱いだが、本人が気にしていないのだから大丈夫だろう。
ユウは無愛想に三人を見つめていたが、セシリアに声を掛けられ、街の出口の方向へと歩いていく…………
この日の施設では、暗い過去も、忘れてしまった記憶の事も完璧に忘れてしまう程、楽しげな声が響いていた………
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 】
0694 セシリア・アイルフィード
0487 リュイ・ユウ
0610 ラーフ・ナヴァグラハ
0645 シャロン・マリアーノ
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■ ライター通信 ■
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初めまして、メビオス零です。とりあえず先に、納品が遅れた事をお詫びします。すみません。
さて、今回は………最初はシリアス風味、最後はほのぼの(?)系で纏めさせて頂きました。多少暴走気味ではありますが、そこら辺はご勘弁を。
またご依頼を頂けたら幸いです。その時は、もっと余裕を持って書かせて頂きます。(・_・)(._.)
要望・感想などは、HPの方で受け付けております。色々と言いたい事がある作品でしょうから、遠慮無く言ってきて下さると助かります。
HPURL:http://mebiosuzero.poke1.jp/
アイテム入手:シャロン・マリアーノ→スーパーフライパン(笑)
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