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The Hermit of Silence
都市マルクトの片隅でその男を見かけた。
漆黒の肌に、真紅の瞳…異様な空気を纏うその男は悠然と人間の間をすり抜けていった。
ビジターではない、かといって堅気の人間ではありえない。奴は何者だ。思わず、男の後を追った。
路地から路地へ、入り組んだマルクトの街並みの中。既に何処をどう歩き自分の現在地すら曖昧になったころ。
突然、開けた場所へでた。
「……俺になにか用か?」
尾行にいつの間にか気が付いていたのか、ジャンク品の山の前で悠然と長身の男が腕組みをして立っていた。
「いや、別に……!?」
辺り散らばるゴミの間にある、白いものが目に飛び込んできた。滑らかな白いそれは……人骨。
「たまに、人間の中にもお前みたいな勘の鋭いやつがいる……と、いっても俺も自分のことをいいふらされちゃこまるんでな……」
悪いが……大人しくして、もらうぜ。
不敵に微笑む男はその背から巨大な翼が広がる。異形の存在に姿を変えた。
「ま、まさか…」
タクトニム!?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その男に気が付いたのは本当に偶然だった。
『ヘルズゲートの直ぐ傍にある建物だから、分かるはずだぜ』
酒場で声をかけた、先輩ビジターの言葉に従いヘルズゲートとやらを探して早1時間……ビジターとしての登録をしようとしていたフォルスライ・アレイナ(0697)ははっきりいって、迷っていた。
「つうか、ところで…ヘルズゲート…って何処?」
都市マルクトに来たばかりの彼に、その場所を探せといっても無駄なことであろう。
まさか、中央に聳え立つセフィロトの塔の存在すらも、人づてでしか知らないずぶの素人であったから。
「どうすっかなぁ……」
いい加減歩き疲れ、自分の現在地すら危うくなって来たそのとき、その男の存在がストンと視界に入ってきた。
人の中にあっては、目だって仕方がないであろう漆黒の滑らかな肌に真紅の瞳。
アフリカ系の顔立ちではなく、どちらかというとアジア系のすっきりとした顔立ちの男。
まとう空気は、明らかに通常の人ではありえなかった。
それはエスパーとしてのフォルスライの勘。悠然と人波を巧みに泳ぐように進む、その男に興味を感じ。犬が気になるものを追いかける本能のようなものと同じような感覚で、フォルスライはその男を追いかけてみることにした。
「お?」
「どうなさいましたか、ご主人様」
ふと、足を止めた主にシュワルツ・ゼーベア(0607)は腕いっぱいの荷物抱えなおしながら問いかけた。
「見ろよ黒丸」
シュワルツの主の目線の先には、常人ならぬ気配を待とう男と、その後を尾行(?)している青年が一人。
「おお、あいつ、あの男を尾行しているぞ。すげー、下手。バレバレじゃん」
なんか面白そうな予感がしねぇ?
主のアルベルト・ルール(0552)は、抑えきれぬ好奇心をその瞳に写し気付かれぬように二人の様子を伺った。
「えっと……ご主人様……」
トラブルの予感を感じながらも、執事としての勤めを怠らずシュワルツが声をかけようとしたときにはもうおそかった。
「面白そうだから、俺たちもついていってみようぜ」
「あの……お買い物のお荷物の中にアイスクリームがあることは………お忘れになっていらっしゃるようですね…」
嬉々として先にたって歩き出したアルベルトに忠実な執事の助言は聞こえていなかったようだった。
「帰るまでに、溶けてしまわないと良いのですが……」
ドライアイスも一緒につめてもらったので、暫くは平気であろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
降ろしたてのコンバットブーツが、路地に溜まった水溜りを気にせずに突き進む。
小道から横道へ、一体幾つの路地を曲がったであろうか?
フォルスライはすでに、自分の現在地が何処だか分からなかった。
「う〜ん……俺ってひょっとして…迷った?」
ひょっとしなくても、迷子になっていたのだが楽天的な彼は聊かその辺りの感覚が通常の人より数段鈍かったようだ。
そんなフォルスライの心配を他所に目の前の男は、迷いもなく路地裏を抜けていく。
さらにその後ろから、付いてくる二人の人影にフォルスライが気が付くことはなかった。
足音と気配を殺しているつもりであったが、その辺はまだ登録も済んでいないビジター見習い。
前を行く男にはバレバレであったようだ。
小道を抜け、開けた場所にでた。
ジャンクパーツがの山がある……所謂ところの不良品置き場のような場所。
「とりあえず……そこの奴ら、でてこいや」
俺に何の用があるのかしらないが……
ジャンクパーツを背に悠然と、腕を組む男は小道の方を振り返った。
「えっと…やはり私の体型が問題だったのでしょうか」
物陰に隠れているつもりでも、その大柄な体格のオールサイバーは既にあるはずのない汗腺から冷や汗のようなものが出る錯覚に陥った。
「まぁ……お前の図体じゃ見つかっても仕方がないけどな」
そんな彼の主の一言は、相変わらず素っ気無い。
「しかし、あいつ何者だ?」
只者ではありえない、殺気を今は抑えていない。
ビリビリと感じる威圧感、それはアルベルトも何度か体験のしたことのある感覚。
「まさか……こんなところで……出会えるとはな……」
上位タクトニム特有の気配にアルベルトは全身の毛が総毛だつのを感じた。
それは恐怖ではなく、純粋なる闘争意識よるもの……
「出てこないなら、こちらからいかせてもらうぞ……」
漆黒の肌の男の背中から、皮膜に覆われた漆黒の翼が広がり爪が長く鋭く延びる。
「たまに、お前たちのような勘の鋭い奴がいるが…俺の存在を言いふらされることはあまり嬉しい状況じゃないんでな……」
悪いが……大人しくしてもらうぜ!
「おい!逃げろ!!」
アルベルトが叫ぶが既に、漆黒の爪がフォルスライの喉元を捕らえていた。
懐から、拳銃を取り出すが間に合わない。
足元に転がる数対の骸の様に、どこか間の抜けた青年も仲間入りするかとその場の誰しもが思った。
「あ、あぶいねぇな……」
驚いたような、呆れたような物言いが頭上から降ってくる。
「運のいい奴だな」
「いや、運とかそういう問題じゃなくてさ……突然攻撃してくることはないだろ」
間一髪のところで、空中に逃れ、その場で胡坐をかくフォルスライを男が呆れたように見上げる。
「何で、あんたの事に気が付いたからって突然襲われなきゃならないのさ?」
「それは……俺の存在が表ざたになるのは、あまり嬉しいことじゃないからだ」
「?あんたの存在……??」
「その男がタクトニムだっていうことだ」
様子を見守っていたアルベルトも、タクトニムの戦意が低下しつつあることを感じ取り小道から姿を現す。
公にはされていない事だが、セフィロトの塔以外でも数例タクトニムの存在が確認されているというビジター達の間で実しやかに囁かれている噂を、今更ながらにアルベルトとシュワルツは思い出したのだった。
「へ?あんたがタクトニムってやつなのか!?」
「知らなくて、追いかけてたのか……」
呆れて物がいえない。
始めてみるタクトニムという存在に興味深々でフォルスライが地上に降り立つ。
「へ〜……なぁなぁ、タクトニムって普通セフィロトの塔ってとこにいるんだろ?なんであんたここにいるの?」
恐れ知らずにも、ぺたぺたと物珍しげに、フォルスライがタクトニムの翼に手を触れる。
「これって飛べるの?」
あまりの神経の図太さに、傍で見ていたアルベルトもあきれ返っていたが、フォルスライに質問攻めに会っていたタクトニムは突然笑い出した。
「お前、俺が怖くないのか?」
無遠慮に触る、フォルスライの手を止めることなく目を細めた。
「そりゃ怖いさ、でもあんただったら俺を殺すのなんて一瞬でできるだろ?だったらその前に少しくらい教えてくれてもいいじゃん。一体あんたは何食べてるんだ?やっぱ人間?」
「すげぇ、天然だ……」
もはやあきれ返ってかける言葉すら浮ばない。
「ビジターの中にも、お前みたいな奴もいるんだな」
フォルスライの質問には一切答えず、くすくすと笑いを堪えるあまり屈みこんでいた男がゆっくりと身を起こした。
「見たところ、新人のようだが……まぁ、何時かまた会うことがあるかもしれん」
そのときは容赦しないぜ。
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餞別だと渡されたポーチをこねくり回して、フォルスライが首を傾げる。
一頻り、笑い終わった後、漆黒のタクトニムは翼を広げ薄暗い都市セフィロトの暗い空に消えていった。
「えっと……とりあえず、助かったのかな?」
「どうやらそうらしいな」
見逃してもらえてたらしいと、その場にいた三人が安堵の溜息をつく。
このところ言語理解力とかある癖に、いきなり人に襲い掛かって来る上位タクトニムしか相手にしていないアルベルトにしても今回の邂逅は興味深い物だった。
「ご主人様……そろそろ戻りませんと、折角買ったアイスクリームが溶けてしまいますが…」
上機嫌の主の耳元で、シュワルツが進上する。
「あ、そういえばそうだったな」
そんなものもあったっけ。
「あ―――――――!?」
「どうした?」
「ビジターズギルドの場所聞くの忘れてた……」
がっくりと肩を落とすフォルスライの様子に、遠慮の呵責もなくアルベルトが爆笑し、職務に忠実なる執事のシュワルツも必死で噴出すのをこらえていた。
「なんだ、お前迷子だったのか?」
どうせ帰り道の序だ、送って行ってやるよ。
新人ビジター、フォルスライ・アレイナの最初の一日はハプニングとも呼べる幾つかの邂逅と共にこうして幕を上げたのだった………
【 Fin 】
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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】
【0697 / フォルスライ・アレイナ / 男 / 17歳 / エスパー】
【0552 / アルベルト・ルール / 男 / 20歳 / エスパー】
【0607 / シュワルツ・ゼーベア / 男 / 24歳 / オールサイバー】
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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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始めまして、ライターのはると申します。
この度は『The Hermit of Silence』への御参加どうもありがとうございました。
初めてのパーティーノベルでドキドキしながら書かせて頂きましたが、少しでも御気に召していただければ幸いです。
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