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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


The Hermit of Silence

はる



 都市マルクトの片隅でその男を見かけた。
 漆黒の肌に、真紅の瞳…異様な空気を纏うその男は悠然と人間の間をすり抜けていった。
 ビジターではない、かといって堅気の人間ではありえない。奴は何者だ。思わず、男の後を追った。
 路地から路地へ、入り組んだマルクトの街並みの中。既に何処をどう歩き自分の現在地すら曖昧になったころ。
 突然、開けた場所へでた。
「……俺になにか用か?」
 尾行にいつの間にか気が付いていたのか、ジャンク品の山の前で悠然と長身の男が腕組みをして立っていた。
「いや、別に……!?」
 辺り散らばるゴミの間にある、白いものが目に飛び込んできた。滑らかな白いそれは……人骨。
「たまに、人間の中にもお前みたいな勘の鋭いやつがいる……と、いっても俺も自分のことをいいふらされちゃこまるんでな……」
 悪いが……大人しくして、もらうぜ。
 不敵に微笑む男はその背から巨大な翼が広がる。異形の存在に姿を変えた。
「ま、まさか…」
 タクトニム!?



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「…お前が食ったのか……?」
 辺りに散らばる白骨。何かに違和感を覚えながらも宵待・クレタ(0692)は、目深に被っていたフードを上げた。
 アマゾンを越えた先に聳え立つ、アンデスの山の峰に積もる万年雪の様に白い肌に真紅の瞳。何処か他人を拒絶したような雰囲気をもつ、白皙の美貌が露になった。
「もし、そうだとしたらどうする?」
 目の前で腕組みをした、異形の男が面白そうに尋ねる。
「…別に…言いふらす相手はいない…僕は…………ただ…そう…知りたいだけだ……」
 純粋なる好奇心。クレタがこの男を追ったのも、その好奇心からだった。
 表情を動かすことなく、呟いたクレタの様子に男が何かに興味を惹かれたように、此方もまた鮮血の様に赤い眼を眇めた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 クレタが眼前の男を見かけたのは偶然。何かが違う。本能が告げる違和感に従いストンと視界に入った男を追っていたのだが、どうやら尾行していたつもりがばれていたようである。
 狭い路地裏を、泳ぐように巧みに渡り歩く男の後を追って、この場に辿り着いたのだった。
 無数の白骨の散らばる廃品置場。もしかしたら、自分がこの骨の仲間入りをするかも知れぬ絶体絶命ともいえる状況でも、クレタの眼差しは静かに男の双眸に向けられていた。
「……この骨は…」
 お前が食った、食い残しか?
「俺が?これを??」
 そんなことをするまでもない。ニヤリと男が口元を歪めた。
「なんで、己の糧にもならぬ物を口にしなければならない?これをやったのは……」
 そして、お前をやるのは…
「………こいつらさ!」
 バッと、背に生えた両翼を広げ、男が空中に舞い上がる。
 その背後からクレタに襲い掛かったものは、ジャンクパーツを弾き飛ばしながら飛び掛る無数の原生動物。
「…!………ジャイアントワーム!?」
 タクトニムの中でも知性の全く見られない、群れで活動する肉食の獰猛な存在に、慌てて光の壁を展開しながらもクレタが後方に飛び退った。
 いつの間にか安全なはずの都市セフィロトの中に、タクトニムの巣が作られていたのだろうか。そこは、都市の中にありながら狭間の様にできた人のあまり立ち入らない場所の所為なのだろうか。
 襲い来るワームの群れを眼前の壁で防ぎながらも、クレタの背を冷たいものがつたい落ちた。
 都市セフィロト内にこのようなタクトニムの温床があるのは問題だが…余計な思考は命取りになり兼ねない。
「さぁ、足掻かないとこいつ等のお仲間になっちまうぜ」
 空中に浮びながら飄々と、明らかに知性を持つ上位のタクトニムと思われる男が楽しそうにヌメヌメとした外皮に包まれた無脊椎生物と対峙するクレタに言葉をかけた。
 そうか……最初に覚えた違和感は、余りにも白骨の状態が綺麗な形で残ってたということ。津波の様に次々と襲い掛かる蛭のようなワームに光の矢を雨の如く降らせながら、脳裏の片隅でクレタは納得した。
 まるで肉だけが溶けた様に、略死んだと思われる原形のまま積み重なる骨。それもこのワームが食ったというのなら納得がいく。
 では、あの男は何者なんだろう……更なる疑問がクレタを襲った。
「…もしかして……僕をこいつ等の餌にするために………?」
 必死になって応戦するあまり、脳裏を横切った疑問がそのまま口に出ててしまう。
「いんや、お前をここに連れて来たのはこいつ等が綺麗に後始末をしてくれるから、後の処理が楽なのさ」
 別に俺がこいつらを飼っている訳じゃない。
 好き好んで、このような治安の悪い裏道に入り込む輩は少ない。例え、いたとしても尽く、このワーム達の餌食になってしまっていたのだろう。
「ほらほら、頑張ってくれよ」
 まるで猫が逃げ回る獲物をじゃらして楽しむように、クックックと喉の奥で男が笑った。

 どのぐらいの時間を、ワームと戦っていたのだろうか……
 気が付いたときクレタは、辺りに散らばる原生動物の残骸の中で立ちすくんでいた。
 頬に付いた、薄緑色の体液を拳で拭い去る。
 全身を襲う虚脱感は、PK能力が略限界にきている証。既に立っているのさえも辛い。
「やるな……お前」
 あの、連中を全て一人でやっちまったか……。
「……僕は……」
 荒い息の下で、億劫そうにクレタが男を見上げる。
「……自分に危害が及ばなければ構わない……僕達が戦って…互いに痛手をこうむるのも……騒ぎを聞きつけて誰かがやって来るのも…避けられるのなら避けるべきじゃないだろうか……」
 既にクレタに、男と戦う力は殆ど残っていなかった。それでも気力を振り絞り問いかける。
「人間って……タクトニムから見ると、どんな風なんだ……?旨そうな肉?……汚い生物?………会話をする事に意味がある?」
 倒れこまないように、過る疑問を男にぶつける。
「……僕をどう思う……?」
 そういえば、今更ながらに、最初にした問に答えをもらっていなかった、と遠退きそうになる意識の下でぼんやりと考える。
「この状況の下で、よくそれだけの疑問が浮かび上がってくるんだな」
 やや呆れたように、男が肩を竦める。
「そうだな、一つだけ答えてやろう」
 俺は今日機嫌がいいからな。
「俺たち全てが、人間なんてもんを喰う訳じゃない。俺たちにも食い物を選ぶ権利がある」
 何を食べるとまでは言わない。それでもクレタには、その様子から目の前のタクトニムが好んで人間を食べる存在には感じられなかった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 一つだけと、言ったとおり男はその後のクレタの質問にはのらりくらりとかわしていった。
 何故彼がここにいるのか、どの様な経緯を経て都市セフィロトに辿り着いたのか、そもそもタクトニムとはなんなのか………
 考え付く限りの問いをぶつけてみたが、無しのつぶて。尽く、その全てをはぐらかされてしまった。

 今クレタの前にあるのは、無人となった廃品の広がる廃墟の城。
 漆黒の都市セフィロトの天(そら)に消えた男は一頻り、クレタとの会話を楽しんでいったように思えた。

「……どうせなら……教えてくれ……」
 お前ぐらい知性のあるものなら、名の一つでももつのであろう?
「はっ……何故俺に名があると考える?へんな人間だな」
 クレタの最後の問に男は微妙に表情を歪めた。
「そもそも、人の名を聞く前に自分の名を名乗るもんだろ?」
 困ったような、笑い出しそうな曖昧な表情。そう、この異形は人間以上にヒトらしい表情を見せていた。
「……ま、次にあったときにでも答えてやるさ」

 次があるか否か、先の事はクレタ自身にも分からない。
 でも都市セフィロトの片隅でであった、不思議なタクトニムに何れまた会う……そんな予感を覚えていた。


【 Fin 】



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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】


【0692 / 宵待・クレタ / 男 / 16歳 / エスパー】




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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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宵待・クレタ様
はじめまして、ライターのはると申します。
今回はThe Hermit of Silenceへの御参加ありがとうございました。
『一時、異人との邂逅』ということで……あえて、直接対決は避けさせていただきましたが如何でしたでしょうか……?
少しでも楽しんでいただければ幸いです。