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【ボトムラインアナザー≪battle2:bloody≫】
●ハードワークとハプニング☆
――モニターにグリーンの文字とワイヤーフレームで描かれたMSが映し出された。
「うーんと、今回は射撃武器使用可能なのね」
室内の明かりに反射して映り込むのは、柔らかそうな長い緑髪で未だ幼さの残る風貌の少女と、ボサボサな黒髪で精悍さの中に少年の雰囲気を醸し出す青年の顔だ。
「となると、機動力よりも装甲をどうにかした方がいいのかもしれないわ」
高桐璃菜は大きな赤い瞳を流しながら、マウスをクリックすると、モニターに映るMSのシルエットが2種類表示され、比較される。
少女は細い顎に指を当て、独り言のように呟く。
「重量はそのままに装甲強化‥‥うん、全体的に流線型に加工して表面にゴム板を張って、その上からセラミックコーティングして剛性と弾力も兼ね備えた装甲の完成ね」
璃菜はシミュレートを始めてから説明を聞いているだけの、神代秀流へと顔を向けた。
「これなら入射角が直角でなければ結構弾丸を逸らせる筈だし、格闘武器や爆風にも効果を発揮できると思うわ。どう?」
「そうだな、理論的には可能だが緻密な計算が必要になるな」
腕を組んだままの青年に、反対意見は無いようだ。少女は大きな瞳をクッと見開き、輝きを増す。
「うん☆ 後は図面を引かなくっちゃ。実際の作業は秀流も手伝ってね。ハード面の作業は秀流の方が慣れてるし」
それから璃菜の図面作成は続いた。何度となくパソコンにデータを入力しては顔色を曇らせ、時には端整な風貌の眉間に皺を寄せて唇を尖らしたものだが、秀流がミルクを入れたコーヒーを差し出してくれると笑顔を取り戻す。長い図面との格闘は続いた――――。
「よし、角度はこれで良いな」
防塵マスクとゴーグルを掛けた秀流は、MSの胸部装甲に顔を寄せながら再確認する。一度装甲を削り、その上から角度を付けた鉄板を溶接し、角度を微調整しながらグラインダーで表面を削らなくてはならない。失敗は作業の遣り直しを意味する、精密さを要求される仕事だ。装甲に火花の尾を疾らせ、けたたましい研磨盤の回転音が響き渡った。
「秀流、ゴム板を手に入れて来たわ」
「おう、胸部装甲には細かく切らないで張り付けたいな」
「うん、分かったわ」
青年は再びグラインダーを唸らせると、背後のテーブルで璃菜はゴム板のテープを剥していた。一枚の幅はかなり大きく、両手一杯広げて何とか運べるものだ。「んしょ!」と短い気合の後、ゴム板を運んで来る。
「秀流〜、持って来たよー」
「おい、大丈夫か? 言ってくれれば一緒に持つのに、無理するなよ。ゴム板の張り付け部の粘着力は相当なものだからな」
「え? ‥‥あれ?」
刹那、少女の顔色が蒼く染まる。頭の上には大きな汗マークでも浮かんでいるような、そんな表情だ。
「璃菜?」
「ごめん、張り付いちゃったみたい‥‥」
苦笑する璃菜に、血相を変えたのは秀流だ。
「やだ‥‥そんなに怒らないでよ〜」
「肌には触れてないな?」
「‥‥うん。でも、なんか胸の辺りがヒンヤリとッ!?」
鋭い瞳を疾らせ、青年は少女の持つゴム板を引っ張る。慌てたのは璃菜だ。
「やん! 何よいきなり‥‥ちょっと、そんなに引っ張っちゃ‥‥きゃあッ!」
布地が破れる音と共に少女は小さな悲鳴をあげた。二人は互いに反対側に倒れ、強かに尻餅を着く。
「いってぇ〜、大丈夫か? 璃‥‥」
ゴム板の下敷きになりながら顔を覗かせた秀流は言葉を呑み込むと、呆然と見つめた。青年の瞳に映るのは、前部の衣服が破られた恰好の少女だ。粘着剤が張り付いた部分の衣服が持っていかれており、両手で肢体を隠して頬を染めている。二人の関係は一通り済んでいるものの、なかなか見られる光景ではない。
「もう‥‥なに食い入るように見てるのよ」
「あ、いや‥‥悪かった」
どうやら粘着剤は外気に触れる事でジェル状になり、浸透してゆくそうだ。もたもたしていたら白い皮膚すら持っていかれる羽目になる危険性があったのである。説明を聞いた少女は蒼くなり、ゴム板に怯えた表情を浮かべたものだ――――。
「こんなもんかな?」
「うん☆ 計算通りだよ」
ハプニングを起こしながらも作業は終了し、二人は照明に照り返す護竜の勇姿を見つめた。
●決勝の舞台へ
「行って来るよ、璃菜」
「‥‥頑張ってね、決勝戦」
抑揚の無い少女の声が応えた。端整な風貌は唇を尖らせ、見るからに不機嫌だ。秀流は溜息を洩らして苦笑する。
「まだ怒っているのか?」
「‥‥怒ってなんか、ないわよ」
――ちょっと、通信機使っていたでしょ!?
先のキサトとのバトル後に放たれた璃菜の言葉だった。自分意外の女の子に真剣な顔色を見せた秀流の姿は、ちょっと面白くない。「あーいう娘が気になるんだ?」なんて言われたものだ。
「だから、通信に出なかったのは俺のミスだが、キサトと話をしたのは偶然で‥‥」
「ほら、やっぱり話していたのね」
ジトっと赤い瞳が流される。女の勘という誘導尋問だ。
「いい加減にしてくれよ。相手が倒れたから心配になったんじゃないか‥‥それに、あれは異常だろ!?」
「それは‥‥そうだけど。だからって首を突っ込む必要はないじゃない‥‥」
寂しそうな表情を浮かべる少女に、秀流は苦笑する。
「馬鹿だな。俺には璃菜だけだから」
拗ねる頬に口付けすると、青年は胸部ハッチを閉じて機体を前進させた。手を差し延べ掛けたが、今は帰りを待つしかない。
‥‥無事に、帰って来てね。秀流――――。
――フェニックス。
アメリカ南西部ソノラン砂漠の中心にある町である。
太陽の谷とも呼ばれたこの町を訪れる者は様々だが、皆どこかに焦燥感を持っている者ばかりだ。中でも、戦場の硝煙の匂いと緊張感が忘れられない者が多く訪れる。
――ボトムライン。
かつて警察の賭博だったモノが何時の間にか広まったMS(マスタースレイブ)バトルだ。
何ゆえ金色の大海に囲まれ、気温は40度を越える町で開催されているのか定かでないが、密かな話題になっていた。
この物語は、硝煙の匂いと鋼鉄の弾け合う戦いを忘れられない者達が、トップ・ザ・バトラーを目指して戦い合う記録である――――
「さぁーて、レディースあーんどジェントルマーン!」
スポットライトを浴びたテンガロンハットの美女が両手を広げると、周囲で歓声を響かせる観客達に声を響かせる。
「これよりボトムラインGPセカンドバトル『ブラッディバトル』決勝戦を行いまーす♪」
スポットライトが切り替わり、艶消しブラックと灰色に染められたバリエと、尻尾型スタビライザーに大きく裂けた口が古代の恐竜を彷彿とさせるエリドゥーが照らし出された。尚も司会は声を響かせる。
「ボトムラインフリーク達よ、狼は再び帰って来た! チーム名! 銀狼!! Katze! なんと今回はファーストバトル優勝者を初戦で敗退させた、いぶし銀の風格漂わすオジ様、キリル・アブラハム!!」
MSからライトが集束し、茶髪をオールバックに流した男を捉えた。小麦色の肌と広い額が照り返す。口髭が渋さを強調するナイスミドルだ。キリルは軽く手をあげ、声援に応える。
「さすがオジ様、渋い! 無口な所が大人だぞキリルさん!」
拳を滾らせ褒め捲る金髪美女。次にライトは反対側で機体から集束し、バトラーを照らし出す。
「チーム名! ブレーヴハート!! 護竜! ティラノザウルスよ、おまえは戦いに飢えていたのか!? ここでも覇者の王冠が欲しいというのか!? バトラーは未だ幼さの残る青年よ☆ 長髪とヘッドギアがチャームボイントなのかしら? 神代秀流!!」
「ありがとう!」
声援が飛ぶ中、長身の青年は観客達を見渡し、笑顔で手を振る。どちらかと言うと、子供達や女性の応援が多いようだ。
「この2名のバトルによって、優勝者が決定します! 今度こそ狼が勝利の遠吠えをあげるのか!? それとも、決勝でも抜群の操縦技術で覇者となるのか!? ボトムラインフリーク達よー、その目に新たな歴史を刻み込むがいいッ! それじゃ行くわよ♪ ボトムライン! レディィィゴーー!!」
●読まれる戦い――Katzevs護竜
「さあ、決勝戦だな。選べる武器にリボルバーがないのは不満だけど、それならそれで何とかするだけだ!」
サイレンが響き渡ると同時に動いたのは護竜だった。しかし、相手はバリエ。機動力ではキリルが優っている。脚部ローラー音を響き渡らせると、Katzeは動きながら、7.62mmバルカンの鈍い銃声を奏で捲った。しかし、恐竜は簡単に狩られはしない。
「同じ武器か。威力が同じなら装甲の薄いバリエが不利だな!」
護竜はベイルを構えながら、7.62mmバルカンのバレルを回転させた。艶消しブラックと灰色に染められたバリエが装甲に火花を迸らせ、キリルの表情が僅かに歪む。
――よくもエリドゥーでここまでやれるものです。
壮年の男は意識をカメラ越しに映る機体へと集中させた。ヒクヒクと頬が痙攣を起こす中、脳裏に残像を描く恐竜が浮かぶ。
「!? 何だ? この感覚は!」
同時に青年は例え様のない違和感を覚えていた。圧迫するような感覚‥‥しかしプレッシャーでもない。
「くそッ! 回り込まれる!」
Katzeは牽制のバルカンを放ちながら旋回し、次第に距離を詰める。護竜は後退するものの、軌道が分かっているかのように、狼は恐竜に食い付いてゆく。
――戦場での永年の勘と同じ感覚ですからね。
キリルには秀流の考えが見えているのだ。先のバトルで銀髪の少女は抵抗を果たしたものの、青年に撥ね退ける精神力がない。況して機動性ではバリエが上だ。遂にはバルカンの洗礼がベイルを砕き、護竜は壁を失った。
「何なんだいったい! 俺の動きが読まれているだと!?」
衝撃がコックピットを揺らす。確実に何発かは着弾している。
――なるほど、装甲に仕掛けを施しましたね。
望遠カメラ越しに映る恐竜は、火花を迸らせるものの、弾丸は着弾後に僅かだが逸れていた。狼はバルカンの牽制を続けながら距離を詰めると、ランスシューターを打ち込む。
「うあぁぁッ!!」
放たれた鉄槌は装甲に食い込むと共に、機体の破片を舞い飛ばし、青年の身体を傷付ける。鮮血が流れる中、激痛が襲い、意識が遠退く。護竜は遂に膝を着いた。
――場内にけたたましいサイレンが鳴り響く。
この瞬間に勝敗が決したのだ――――。
「ふう、やっぱリボルバーがないと調子悪いのかなぁ」
霞む意識の中で、秀流は微笑み、メカニックパートナーが胸部ハッチを開くまで、静かに瞳を閉じた。
望遠カメラ越しに映る護竜に少女が駆けてゆく。
「秀流ッ! 大丈夫!?」
青年が薄く瞳を開くと、赤い瞳に涙を潤ませる少女の顔を映った。秀流は力ない声で口を開く。
「璃菜‥‥」
「喋らないで‥‥うん、怪我は思ったほど酷くないわ」
応急手当を施すと、やっと少女は微笑みを浮かべてくれた。璃菜は零れそうな涙を指で拭うと、未だ潤む瞳で笑って見せる。
「‥‥無事に帰ってくる約束だもんね。無事なら、次があるから。もっと頑張れるから‥‥ね」
語尾のタイミングで小首を傾げてみせる少女。緑色の長い髪がサラリと揺れ、シャンプーの甘い香りに秀流は安堵すると、再び瞳を閉じる。
「‥‥そうだな。次があるんだからな‥‥」
璃菜は青年の身体を包み込む。優しく温かい柔らかさに包まれ、秀流は穏やかな微笑みを浮かべていた――――。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/クラス】
【0580/高桐璃菜/女性/18歳/エスパー 】
【0577/神代秀流/男性/20歳/エキスパート】
【0634/キリル・アブラハム/男性/45歳/エスパーハーフサイバー 】
【0656/クリスティーナ・クロスフォード/女性/16歳/エキスパート】
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■ ライター通信 ■
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この度は御参加ありがとうございました☆
お久し振りです♪ 切磋巧実です。
続けての参加とても嬉しく思っています。
始めに『この物語はアメリカを舞台としたボトムラインです。セフィロトにボトムラインはありませんので、混同しないようお願い致します』。また、MSの演出面もオフィシャルでは描かれていない部分を描写したりしていますが、あくまでライターオリジナルの解釈と世界観ですので、誤解なきようお願い致します。
はい、今回のサービスカットです☆(笑)。でも、次回参加して頂ける場合はシチュエーションを明記して頂けると助かります。
今回は笑ったり怒ったり泣いたりと忙しい璃菜さんでしたが、いかがでしたでしょうか? 演出上、嘘っぽい事もしていますが(ゴム板とか通信とか(笑))楽しんで頂ければ幸いです。
よかったら感想お聞かせ下さいね。
それでは、また出会える事を祈って☆
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