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EP1:The First Contact
アデリオン・シグルーンがその少女を見かけたのは、本当に偶然のこと。
ヘルズドア近くのビジターズギルドから出た先で、見かけたのが少女との最初の邂逅であった。
「めずらしいですねぇ」
多少がらの悪い、荒くれ者が出入りすることが多い、この界隈で10代そこそこの少女を見かけることはまずない。
アデリオン自身はビジターズでは珍しく比較的、仕立ての良い服を身に着けているがこれはビジターズの中でも稀と言えた。
ふわふわと、まるで蝶が飛ぶように路地裏を歩く少女に今は家出中の異母妹の姿が重なり興味を引かれ、思わずアデリオンは少女の後を追いかけたていた。
綿菓子の様に柔らかそうな淡い桃色の髪を靡かせて、後を追うアデリオンに気付かずに少女は路地から路地を渡り歩く。
「やっぱり、この辺りは物騒ですから……」
やや、スローテンポながら無理やり、少女を追う理由を作って己を納得させる。
年端も行かない幼い少女を食い物にしようとする、輩がこの界隈には履いて捨てるほど入ることをアデリオンは熟知していた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
路地に置かれた不用品や廃棄物を身軽に飛び越え、路地裏に不釣合いな真っ白なワンピースをきた少女はなれた足取りで、危なげなく進む。
『うにゃ〜』
少し開けた空き地に出たとき、少女を見つけた猫たちが我先に駆け寄ってくる。
「お友達ですか?」
「?………誰?」
不意に声をかけられて、少女が驚いたように振り替える。
「始めまして、私はアデリオン・シグルーンといいます」
少女を怯えさせないように人好きする微笑を浮べ、アデリオンが微笑みかけた。
「?」
1匹の猫を抱き上げ、少女が首を傾げる。
「アシャに何か御用なの……?」
「アシャさんというんですか」
いい名前ですね。不思議な響きを持つ名に目を細める。
アデリオンの頭脳の持つ膨大な知識が、その名と同じ音を持つ火を崇める古代信仰の神の名を探し当てていた。
「この辺りは物騒ですからね、あんまり一人で出歩いていたら危ないですよ」
「……あぶないの?でも、アシャ何時もここで遊んでるよ」
心に思う愛しい少女とは正反対の大人しそうな少女。それでも、アデリオンは放っておくことができなかった。
何よりも見かけた少女があの子に年齢が年頃の所為もあり、余計に面影が重なって見えた。
「変な人が来たらお空に上がればだいじょうぶだよ」
「空ですか……?」
「うん、みんなと一緒に屋根の上に上がって走るの」
ぽつぽつと話す少女の話を繋げていくと、どうやらESPの能力が多少なりとも見受けられた。
話の間にも、周囲に集る猫の数が増えていく。既に10匹以上の猫たちが二人の足元に思い思いに寝そべり、寛いでいた。
「これ、全部お友達ですか?」
いくらここが、繁華街から一本入った場所にある路地裏だからといって、これは集りすぎである。
「うん、アデリオンにはお友達いないの?」
「いないこともないですけど、流石に猫の友達はいないですね」
「そうなの?」
エスパーの子供達は不遇な育ちをする者も少なくない。もしかしたらこの子もそうなのだろうか?
今でこそアデリオンの手元を飛び出してしまったが、あの子もエスパーだったこともあり妙な親近感が湧いてきた。
親に疎んじられ、捨てられ、挙句の果てには非合法な研究施設に収容される幼いエスパーの話を聞いたこともある。
家を飛び出してしまったあの子は、今無事だろうか?
怪我などしていないだろうか、どこかで泣いていないだろうか……?
兄馬鹿と、いわれることが多々あったが好きでもない財閥総帥の座を押し付けられた、アデリオンにとって心に思う少女だけが心の支えだった。
大切に守り育ててきたあの子が……
ひょっとしたら、そんな心配性な兄が鬱陶しくてあの子は出て行ってしまったのだろうか……?
何にも変えがたい大切な少女が姿を消してから、しばしば落ち込み反省する日々が続いた。それでもあの子が帰ってくる場所で在りたいと、アデリオンはその日が来るのを待っていた。
「……アデリオン?」
どうかしたの?寂しいの??
エスパー特有の感応能力を持つのだろうか、沈黙してしまったアデリオンの顔を見上げるようにアシャの金の瞳が覗き込んだ。
「あぁ……すみません」
アシャさんを見ていたら、あの子を思い出してしまいました……
「アデリオン、誰か大事な人がいるの?」
「はい、私の一番の家族です……」
誰よりも何よりも大切な子です。
いつも間に取り出したのか、小魚の干物をポケットから出してアシャが回りに集っていた猫たちに与えていた。
「アシャさんは誰か、ご家族がいるのですか?」
「アシャと一緒にいるの?アフラとドゥルジ!」
構っていた猫たちから顔をあげ、元気良く少女は答える。
どうやら、彼女は一人ではないらしい。そのことを知っただけでもアデリオンの心は幾分軽くなった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「もう、時間も時間ですし」
送っていきますよ。お家はどちらですか?時計は既に、夕刻を過ぎている。
いくら、昼夜の区別のあまりない都市マルクトの中にあっても、幼い子供が出歩く時間帯ではない。
あまり遅くなると、それこそ人攫いにかどかわされそうなアシャの外見と幼い心にアデリオンは苦笑するしかなかった。
「まだ、だいじょうぶだよ」
アシャお腹すいてないもん。
アデリオンの心配とは見当違いの答えを返しながら、アシャは足元で撫でろとばかりにごろりと仰向けになる猫の腹をくすぐる。
「そうは言っても、もう遅い時間ですしアシャさん見たいな方はそろそろ寝ないといけませんよ」
「そうなの?」
「きっと、お家の方も心配してますよ」
途中まで送っていって差し上げますから、そろそろ家に帰りなさい。
「アフラは別に心配してないと思うけど……アデリオンがそういうならアシャ帰る」
優しく、諭すように促すと渋々アシャは頷いた。
「アシャさんは何時もあの辺りにいるんですか?」
「うん、お友達がたくさんいるからあそこで遊んでることが多いよ」
他愛もない会話をしながら、少女の手を引きアデリオンは繁華街へと歩みを進めた。
「さて、アシャさんの御家はどちらでしょう?」
「おうち、あっちー」
居住区とは反対、ヘルズゲートの方向をアシャが指差す。
と、言うことはこの子の家族はビジターズの関係者なのだろうか?
まるきり居住者がいないわけではないが……あの辺りに好き好んで住む人間は少ない。
「あ、アフラいた!」
二人がビジターズギルドの前に来たとき。少女の口元が心なしか笑みを作る。視線の先にいる男性がこの子の保護者なのであろう。
よほど信頼しているらしい……その人影になにやら不穏な気配を感じながらも、冷静にアデリオンは何時もの癖でそう分析していた。
「ここで、だいじょうぶありがと。アデリオン」
あ、そうだと少女がごそごそとワンピースのポケットを探る。
「送ってくれたお礼、これあげるね」
それは小さな、小さな花の種。流石に種だけではなんの植物だかわからなかったが、都市マルクトの中ではまずお目にかかれないしろものだ。
「ありがとうございます」
でも、これはアシャさんの大切なものじゃないんですか?
「アデリオン、アシャに優しかったからあげるの♪」
じゃあね、と小さく手を振って少女は漆黒の肌の男性の下へ走っていった。
「さて……これは何の種なんでしょうか……?」
無理やり握らされた小さな、植物の種らしきものを転がしているアデリオンの口元は微笑んでいた。
ひょっとしたら………この種が芽吹くころ大切なあの子の笑顔がまた見れるかもしれない。
久々に懐かしい少女の記憶に浸れた小さな邂逅に、アデリオンは笑みを隠せずにいた………
【 To be continued ……? 】
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】
【0585 / アデリオン・シグルーン / 男 / 27歳 / エキスパート】
【NPC / アシャ】
【NPC / アフラ】
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■ ライター通信 ■
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アデリオン・シグルーン様
始めましてライターのはると申します。
この度はご参加ありがとうございました。
家出中の妹さんがいらっしゃるということで、そちらを気にするややシスコン系のお兄さんになってしまいましたが……(汗)
如何でしたでしょうか。
初めての男性PC様のとの邂逅ということで、少し緊張しながら書かせていただきました。
アシャも始めてのお兄様の来訪に興味深々の様子。
なにやら、余計なNPCまで出来ておりますが……
これに懲りず遊びに来ていただければ幸いです。
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