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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


ブラジル【アマゾン川】ジャングルクルーズ

ライター◆なち


 セフィロトはジャングルの中に孤立している。
 そこで唯一、他の土地と繋がる道。それがアマゾン川だ。
 河口の方とは違って、マナウスからセフィロトの辺りは対岸が見えない程広いって事はない。
 それでも、セフィロト建造の際には、外洋で使う様な巨大な貨物船が川を遡ってきて、その資材を運んだというから、アマゾン川の大きさがわかるってもんだろう。
 人も物資も、このアマゾン川を通して運ばれている。貨客船の定期航路もあるし、少々稼げば手漕ぎのカヌーくらいは簡単に手に入る。
 船旅をしながら、マナウスまでゆっくり過ごしてみるのも良いかも知れないぜ。
 ところで‥‥お前さん、船酔いに弱かったりしないよな?


◆◇◆


 アマゾン川は今日も変わらず流れる。黄褐色と黒色の筋が交じり合う事なく及ぶ数十キロもの道のり――一艘の船が緩やかに進む。
 淀んだ川の深底は全く見えない。
 ジャングルの中の、変わり映えしない風景だけが船を通過している。
 そんな面白味を感じられないクルーズを、しかしクレマ・イシリタは嬉々として行っていた。
 長身痩躯の美青年である。線は細いが美しい顔貌を持っていて、編みこまれた新緑の髪は人目をひく美しさがある。立ち居振る舞いに気品が感じられるが、近づきがたいイメージを人に持たせないのは、長い髪の毛を結う黒いリボンがどことなく可愛らしく見えるからだろうか。
 しかし如何せん、この男の色彩感覚によってそれは悉く覆される。
 多分モノクロで見たならこの男のイメージは以上だが、カラーで見ると「うっ」と思わず顔を顰めてしまう。
 まず、びしっと着こなすスーツの色。ド派手な赤に金のボタン。シャツはグレーとホワイトの柄シャツで、ネクタイの色はメタリックブルーでそこにもまた金の刺繍が入っている。ベルトはシンプルな黒、靴は白の革靴でまだ良いのだが全体的に見てしまうとやはり声も無い。
 彼の執事、世話係として同乗する長年の連れでも何とも言えない顔で彼を見つめている次第。
 救いはこの船がクレマの自家用であり、同乗する者も彼以外には彼のスタッフである事だろうか。
「のどかですね」
 瞳を細めて水の音に耳を傾けている美しい主人を見て、世話係の女はそっと息を吐いている。
(服のセンスさえ良かったなら……)
「カワイルカが見たかったのですが」
「早々お目にかかれる代物では無いですよ」
クレマが呟くと、幼少期よりクレマに仕えて来た執事が背後より返した。
「お寒くはござませんか?」
振り返り様に微笑んで、クレマはクルーザーの甲板から中へと入った。
「暑いくらいですよ。ほら、腕まで捲っていますし……。じぃこそ、よくもまあソレで汗もかかない事」
「慣れております故。それよりクレマ様はあまりおはしゃぎになりませんよう……」
「体が弱かったのは昔の事ですよ」
「それは失礼を」
クレマが今一度笑みを上せると、執事も倣って微笑んだ。
「そろそろお食事の時間ですが、食堂へ行かれますか?それともこちらへお持ちしますか?」
「……そうですねぇ。どうせなら外で食べたいのですが……」
「確か夜にも?」
「ええ。なので昼食はここへ運んで下さい」
「畏まりました」
慇懃に頭を下げて退出する執事を目で送りながら、クレマは小さくため息をついた。そして足音が遠ざかってから独りごちる。
「心配が過ぎる事……」


◆◇◆


「――様!!ご主人様っ!!!!」
 騒々しい足音と共に何の断りも無く、三ヶ月目の若い世話係が扉を開けた。
「なんですか、騒々しい」
ぶすりと文句を垂れたのは妙齢の世話係で、それを軽く手で制しながらクレマは食事の手を止めた。
「すみませんっ。でもそれ所じゃないんですよぉ!」
「どうしました?」
「カワイルカですわ、ご主人様。外、外!!」
女の指差すがままに、クレマも窓の外に目をやる。子供のように目を輝かせながら席を立ち、けれども目に映らないと悟ると――
「クレマ様、食事中でございますよ!?」
「ごめんなさい、許して!」
軽くウィンクを放ち、急かすような女に続いて部屋を飛び出した。
 残された世話係は大きくため息。
「いつまでも、子供でいらっしゃること……」


◆◇◆


「これは凄いです!!」
「そうでしょう、クレマ様!」
「きゃ〜可愛い♪」
「うんうん、ですねぇ」
 きゃあきゃあとはしゃぐ若い世話係達に混ざって、クレマも興奮気味に声を上げた。
 黄褐色の水の中、二頭のカワイルカがクルーザーに並んで跳ねる。その度に上がる水飛沫が太陽の光にキラキラと輝いた。
 光沢のある体の顔部分に、ツブラな瞳が何とも愛らしい。
「あー乗りたいなぁ」
「あ、良いですね、ソレ♪」
「気持ちよさそうです!」
「何か良いですよねぇ」
 口々に交わされる賞賛の言葉を左から右に聞き流しながら、クレマはほうっと恍惚の息を吐いた。
 忙しい中を縫って、面倒臭い書類の束を辟易しながら時間を作った事が報われた思いである。
 これが見たかったのだ。
 今では希少の存在、いつ滅ぶか分からぬ滅多にお目にかかれぬ存在。
 愛らしく、かつどこか神秘的。
 この不安ばかりを煽る世の中で、そんな現実に身を浸しているとふと考えてしまう、際限の無い平和の姿――それはこういったものに違いない。
 二頭のカワイルカは寄り添いながら、やがてクルーザーから離れていった。


◆◇◆


 一日をかけたクルージングも、いよいよ佳境を迎える。
 他愛も無い談笑を心地よく思い、何時もは自制する酒も浴びる程に飲んで気分は上々。現実を忘れて、少しの静穏を謳歌して――。
 ほろ酔い気分のクレマを撫でる夜の冷気は、ほてった体を程よく冷ました。
「ふぅ。もうお腹一杯です。下げて下さい」
 並べられた料理を一瞥した後、ご馳走様と呟くクレマに、彼お抱えの料理長は軽く一礼した後トレーを抱えた。
「今日も美味でした。特に格別に感じられました」
去りゆく背に微笑んで、吐息を零す。
「お風邪を召しませんように」
 そこで少し肌寒いなと感じれば、実にタイミングよく上着がかけられた。
 己に付き従う執事が袖を通すのを手伝ってくれる。
「有難う」
 空に光る星々を見上げると、急に現実が押し寄せてきた。
「何だか、店が心配です……」
 武器屋も経営するクレマだが今日という日の為に代理人を立てていた。その店の営業時間が終わるのがそろそろだ。生真面目な所がたまに傷の男の顔が思い出される。
「ご心配召されなくとも、巧くやっておりましょう」
「……そう、ですよね」
「そうですとも」
 執事の点頭にぎこちなく微笑みを返すと、執事は突然、小さく噴出した。
「な、何ですか?」
 必死に堪えようとするせいで肩が小刻みに震え、顔を目一杯逸らした執事にクレマは驚いたように問いかける。
「いえ、ただ……」
 声を揺らしながら執事が言葉を濁すが、
「何?」
 声を落としたクレマに失礼しましたと小さく頭を下げて。
「仕事の事は一切お忘れになると、口にするなと申したのはクレマ様だったでしょう。それをご自分でお破りになりますもので、つい……」
「……それは…」
「昔を思い出しました。お変わりなくてほっと致しましたのですよ」
「嫌味ですか?」
「とんでも御座いません。近年のクレマ様の手腕が見事であればあるだけ、じいめにはクレマ様が遠く感じられたものです。ですからじいの育て申したクレマ様を垣間見た気がして嬉しく思われたのでございます」
「……何を言ってるんです」
 半ば呆れ混じりに返答すれば、執事は小さく笑っただけだった。
「そろそろ時間で御座います。クレマ様、東の空を」
「え?」
 執事の言葉に促されて東方を顧みながら、何か話をずらされた気がすると思ったクレマだったが――。
 突如襲った眩い光に、思考は愚か視界さえ弾けた。

 ヒュルルルル――  ドォオン

 赤。蒼。緑。黄色。
 一筋の光が天を駆け上ったかと思うと、まるで花が開くかの様に鮮やかな色が空に舞った。

 ヒュルルル  ドォン

 音は繰り返し繰り返し。
 光は繰り返し繰り返し。
 小波のように寄せては消えて。
 光る。
 弾ける。
 溶ける。

「……これは、花火……?」
「そうでございますよ」
 惚けたような声を捻り出すと、執事が満足そうに頷くのが視界の端に映った。
「綺麗だ……」
 うわ言の様に紡いだ言葉を最後に、クレマの視線は漆黒の闇空に固定された。


 





ヒュルルル  ドォオオオオン








 クレマはただ、


 物々しい音が響くのを、眩しげに見つめ続けた。





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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【0708 クレマ・イシリタ/27歳/男性/エスパー】

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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご発注有難うございました。話し口調等等少なからず悩み、また初をどのように彩れるか緊張しながら――お届けさせて頂きます。
 個人的にクレマ様の奇抜なファッション好きです(笑)これからどの様に過ごされていくのか、どのようにこの世界を駆け巡られるのか、楽しみにしております。

またどこかでお会い出来ます事を祈って。
有難う御座いました。