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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【ビジターズギルド】初めての会員登録



はる



 ビジターズギルド。ゲートの前のでかい建物だと言えば、その辺の婆ちゃんだって教えてくれる。
 中に入っても迷う必要はないぞ。上のフロアにお偉方の仕事場があるんだろうが、用があるのは一階の受付ロビーだけだ。階段昇らずまっすぐそっちに行けばいい。
 軌道エレベーター『セフィロト』探索を行う者達は、まずここで自らを登録し、ビジターとなる。書類の記載事項は余さず書いたか? 書きたく無い事があったら、適当に書いて埋めておけ、どうせ誰も気にしちゃ居ない。
 役所そのまんまで、窓口ごとに担当が別れている。お前が行くのは1番の会員登録窓口だ。
 並んで待つ事になったり、待合い席に追いやられる事もあるが、気長に待つんだな。
 同じような新人を探して、話なんかしてるのもいいだろう。つまらない事で喧嘩をふっかけるのも、ふっかけられた喧嘩を買うのも悪かない。
 まあ何にせよ、書類を出せば今日からお前はビジターだ。よろしく頼むぜ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ほえぇ〜」
 ここがビジターズギルドか。フォルスライ・アレイナ(0697)は物珍しげにきょろきょろと辺りを見渡した。おのぼりさんさながらだが、ここでは極ありふれた光景だった。
 如何にも、筋骨隆々の男達がカウンターに肘を付き硬質な表情を湛えたオールサイバーと思われる女性と語らっている。
 かと思えば、フォルスライとそれ程変わらぬか、寧ろ幼いように見える少女が、傍らに置かれたカウンターテーブルの上で手馴れた手つきで愛用の銃器の手入れをしていた。

「ここがビジターズギルドか……」
 彼のビジターズとしての第1歩は正に今ここから始まるはずだった。
 思えば長かった……直ぐに見つかるさと、言われたものの先日は全く見当違いの方向に進んでしまい、結局その日のギルドの登録時間に間に合わずに今日まで持ち越しになってしまったのだ。
 それも、先輩ビジターに運良く途中で会うことが出来たから幸運にも助けられてやっと場所に到着することができたのだ。
「もっとわかりやすい看板とか出しておいてくれりゃ良いのにさ」
 自分が極度の方向音痴だということを棚に上げてフォルスライはぼやく。
 まぁ、そのお陰で普段はけして会えないものと出会うことが出来たのがからよしとしよう。
「で、結局ここで何をすりゃいいんだ?」
 ずぶの素人である彼が何をすればいいのか迷うのも仕方がないといえた。
 ギルドの中には幾つかの窓口が設置され、その全てが違う用途に合わせて利用されるものだったから。
「あれ?フォルスじゃないか?」
 何処から手をつけて良いのか間誤付いていたフォルスライの肩を気安く叩く人物。
「あ、あんたは……たしか…」
「アルベルト・ルール」
 折角迷子だったお前さんを、ギルドまで連れてきてやったの忘れたのか?
 にっと笑う青年は以前、都市セフィロトの内部で迷子になったフォルスライをビジターズギルドまで案内してくれたアルベルト・ルール(0552)その人だった。
「いや……あの時名前聞くの忘れてたからさ」
「そうだったけ?」
 もごもごと言い訳を口にするフォルスライの様子にアルベルトが苦笑する。
「で、今日こそはギルドに登録しに来たわけだ」
「あぁ、そうなんだけど……」
「どうした?」
「いや…どこの窓口にいったらいいわからなくてさ………」
 気まずそうにフォルスライが口篭る。
「あ〜…最初に来た奴は大抵迷うんだよ。俺?おれは今日彼女と待ち合わせ♪パスを失くしたんだとさ」
 入り口に入って直ぐの窓口を指差す。
「とりあえず、あそこに行って名前書いて来な」
 結構時間かかるから、整理券は早めに取ったほうが良いぜと忠告をする。

 一旦アルベルトと別れ、フォルスライが窓口に近づくと、銀色の髪のオールサイバーの女性が無表情な顔で応対してくれた。
「ここに生年月日とお名前を記入してください」
 言われるがままに必要事項を記入する。
 簡単な適正テストと、前もって受けていた健康診断書を提出する。
 別室で簡単な顔写真を取られて、ライセンスが発行するまでの間待つように言われフォルスライはギルドの入り口付近に用意された狭い待合所の椅子に腰掛けた。
「よ、どうだった?」
「1時間ぐらい待ってろだってさ」
「まぁ、そんなもんだろうな」
 今日は比較的空いているせいか、アルベルトの話によるとこれでも何時もよりは早いらしい。
 そんな先輩ビジターの話を聞くのもフォルスライにとってはこれから始まる新しい生活に向けて心沸き立つものだった。

 些細な揉め事が起きたのはそんな歓談を交わしていたときのことだった。
 小さな悲鳴と、物が倒れる音。続いて聞こえてきたのは罵声と怒号。思わず腰を浮かしそちらへ向かいかけたフォルスライを押し留めたのはアルベルトだった。
「ビジター同士だ。ESPは、止めておけよ」
「いや、でも……」
「なぁに、このぐらいのことはここじゃ日常茶飯事さ、あんたが出なくても時機に収まる」
 気性の荒い、荒くれ者の集うところで、揉め事は頻繁に起こることだった。
「やるなら拳でな、力を使うのはご法度だ」
 被害が大きくなるだけだからな。
 それがここでのルール。そんな小さなルールを新人に教えてやるのも、アルベルトの様な玄人の役割でもあった。
 それでなくても、この新人は他の新人に比べて何処か抜けているところが多いのだからと、内心アルベルトは苦笑する。
 しかし潜在能力は他の新人より頭一つ抜きん出ているものがあった。
 こいつは化けるな……傍で、困ったように辺りを見渡すフォルスライを盗み見たアルベルトの直感はそう告げていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『フォルスライ・アレイナさん』
「やっとか」
 小一時間待たされ、先ほどの窓口に赴くと手の平に乗るくらいの小さな顔写真入りのカードを手渡された。
「そちらが貴方のライセンスカードになります」
 ヘルズゲート通過の際や、都市セフィロトの外に出る際に提示を求められますので必ず携帯するようにして下さい。
 と、やや表情に欠ける硬質的な声で、係員が告げる。
「貴方の個人情報等が此方のカードの中に登録されておりますのでくれぐれも紛失にはご注意下さい、紛失した場合には再発行に時間がかかる場合もございますのでその点はご了承下さい」
 事務的に告げられる内容にいちいち頷きながらフォルスライは手の中のカードに目を落す。
 これでやっとビジターの仲間入りを果たせたわけだ。
 内心ほっとしながらも、これから始まる探索の日々に胸が高鳴る気がした。
「これで、やっとお前さんもビジターの一員だな……ようこそ地獄に一番近い場所へ♪」
 手の中のライセンスをじっと見つめているフォルスライの肩を、バンっとアルベルトが叩いた。
「あぁ……これで、俺もビジターなんだ……」
「そうさ、これからあんたも俺たちの仲間だ」
 経験なんかは関係ない、生きるか死ぬかの瀬戸際で必要なのは生に対する執着心とその人物の生まれながらに持ちえる運と能力。
 きっとこの新人は、いつか名の知れわたるビジターの一人になることが出来るだろう。
 アルベルトは何時かフォルスライが自分と肩を並べて戦うときが訪れる……そんな予感に口元をゆるませるのだった。

 
【 Fin 】



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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】


【0697 / フォルスライ・アレイナ / 男 / 17歳 / エスパー】

【0552 / アルベルト・ルール / 男 / 20歳 / エスパー】


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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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再びの御指名ありがとございます。
恐らく前途有望であろう、フォルスライさんと既に玄人の域にあるアルベルトさんの掛け合いは書いててとても楽しかったです。
ビジター登録前から迷子になって出遅れてしまったフォルスライさんでしたが、きっと何時かはアルベルトさんに負けない立派なビジターになれると信じております(笑)
お二人のこれからのご活躍をお祈りいたしております。