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訪問者〜緋色の地図〜
実際には走り書きのメモのようなそれは自分にだけわかればいいのだ。と、省略した名称や記号で埋められていた。
「頭で覚えこまないとダメなのにね」
あたしもまだまだよね。手の中の擦り切れた地図を見て白神・空は苦笑した。
光量の少ないセフィロトの塔内部において、空のエスパーとしての特殊能力は遺憾なく発揮されていた。
「あの先を右に曲がると……」
この間タクトニムに襲われたのね………。
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何度この閉鎖された空間に足を踏み入れただろうか……?虚栄心?冒険心?それとも……ただ、その最上階からこの地を見下ろしてみたいだけ…?
人工的な空間の内部には、計り知れぬ秘密と危険が眠っている。
ただ漠然と、此処にあるものを知りたい、ただそれだけが空を初めとしたビジター達の本心だった。
「本当に此処には何があるのかしら……?」
何のためにこの塔は建てられ、そしてこの塔の内部を徘徊する危険な生命体達は何処から来たのだろう……?
「ま、いいわ」
とにかく、上の階層に行く手立てを見つけなければ……。
「空中から入れれば楽なのに……」
己の変容したした半鳥の形態で上の階層に入れるならば、今も空が地道に第1階層と呼ばれる部分にいるわけはない。
空を含め飛行能力を持つ、エスパー達の力を持ってしても未だその上階への道が開かれたという話は聞かない。
一体何時になったら、上層階への道は開かれるのだろうか?
次第にぴりぴりとした焦りと、やや投げやり的な諦めの勘定がビジター達の間に流れつつあった。
「でも……どこかに道はあるはずよね……」
バイザー越し勝気な銀色の瞳を輝かせ、空は薄暗い通路の先を見つめた。その先にきっと何か答えとなるべきものがあるはずだから……
その騒ぎを耳にしたのは偶然……?否。空の特出すべき聴覚がその物音を必然的なものに変えた。
稀にだが、同じようにこのセフィロトの塔にアタックをかけている仲間の声や、悲鳴、断末魔を耳にすることがある。
数百人という単位でビジターがいるのだからそれは当然の理。得てして、そのようなものはそこに危険な何かがあることを告げていることが多かった。
空達ビジターは遊びにではなく、命をかけてこの場に挑んでいるものだから……
ヘルズゲートを隔て此方側と、あちら側……その門の名の意味をこの地を訪れ生還したものならば嫌というほど心得ている。
その門を入れば即ち……地獄に足を踏み入れたも同じこと故にその名が付けられたのだから……。
「いったい何…?」
争う者達に気付かれなければ平気よね。長年の勘から空は興味を引かれ、物音の方に足をしのばせ近づいていった。
「あれは……」
やや機械的な外見をした八本足のタクトニムと黒い外皮の爬虫類のようなタクトニムが争っていた。
「タクトニム同士の縄張りあらそいか何かかしら?」
通常の生物ではありえない、黒と緑色の体液を跳ね飛ばしながら2体のタクトニムは争いを続けた。
層頻繁にではないが、確かにタクトニム同士の争いも起こっていた。
「いったい、あいつらはなんなのかしら?」
それは全てのビジター達共通の疑問。非日常的な凄惨な場にいたからこそ、その存在に気が付くのが遅れた。
「……え?……嘘でしょう?」
「空!」
黒い爬虫類系のタクトニムの影にいた人影が、だっと駆けて辺りに散らばる瓦礫を器用に飛び越えながら空に抱きついてきた。
「アシャ!?」
「空、空どうしてこんな所にいるの?」
ドゥルジ?とも最初に感じたが、どうやら今日は表の人格の少女のようである。
「あたしはお仕事よ、アシャこそどうして……」
この塔はビジターでなければ足を踏み入れることが出来ないのではなかったのか…?目の前の少女は明らかに一般人である。
「とにかく此処は危ないからこっちへ来て」
争うタクトニムから離れ。でも、その様子がはっきりと見渡せる場所に少女を抱き上げ連れ込んだ。
「……本当にどうして……」
どうやって入ったの……このような危険地帯でよく平気でいたものだ。
「平気よ、アシャにはアフラがいるから」
「アフラ?」
「あっちがアフラ」
道を通ろうとしたらあの人がとうせんぼしたの。
その物言いは相変わらず要領を得ない。
「とにかく、無事でよかったわ」
辺りに警戒を向けつつ、高みの見物を決め込んできた空はひっそりと溜息をついた。
「そういえば、この間のお花蕾をつけたのよ」
「ほんと?」
「えぇ、ホントよ」
少しだけ、硬質的な雰囲気のあった少女の頬が紅色に染まり、心なしか嬉しそうに見えた。
「後で、遊びに来ると良いわ」
花が散らないうちに。少女の警戒心をとかせるように優しく語りかけながら空はその体を自分の膝の上に抱き上げた。
「うん」
見に行く。と、少女は大きく頷いた。
「絶対いくね」
そうしているうちに、タクトニムの争いも終焉の兆しを見せていた。
双方傷つきながらも、銀色の蜘蛛のようなタクトニムが足を食いちぎられ、金属を摺り合わせるような耳障りな絶叫を上げる。
「アフラ行く?」
それまで、大人しく空の膝の上に収まっていた少女はその断末魔を聞きぴょこんとそこから飛び降りたのだった。
「アシャ!?」
どこ行くの!?慌てて捕まえようと手を伸ばすが、丸で宙を切るようにその手の中から少女は抜け出した。
「危ないわ!戻ってアシャ!!」
それでなくても、先ほどのタクトニムの片割れが残っているのだ。
白いワンピースが暗闇の中にふわりふわりと飛び跳ね、丸で夜に舞う白い蝶のようだった。
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必死になって少女の後を追った空だったが、その姿を見失ったのは直ぐのことだった。
「アシャ……」
大丈夫なのかしら?何故あの子が此処にいたのだろう?更なる疑問が空を襲う。
「……考えてばかりいてもいても仕方ない……か……」
額を押さえ、辺りを見回す。
不思議な少女……きっとまた、何でもなかったかのように空の前にひょっこり姿を見せてくれるだろう。
「……ここは………」
思考を切り替え、辺りを見回す。先ほど夢中になって少女を追いかけていたから、場所が曖昧になってしまった。
「さっきまではここだったから…大体この辺かしらね……!?」
長年の勘で大よその位置を把握し、辺りを見回した空は目に飛び込んできたものに息を呑んだ。
それは、箱型の中に人と上を示す矢印が描かれたマーク。
やっと辿り着いたのかもしれない……それは明らかにこの付近にある上層階へ通じる何かの存在を告げていた。
「今日は、此処までかしら……」
体力的にも、これ以上の探索を続けることはきつい。なおかつこの場所も曖昧である。
「次回はこの近辺を中心にアタックかしら」
帰路の際に場所を再確認することが必要だと空のビジターとしての経験が告げていた。
「アシャ……絶対お花を見に来なさいね……」
約束したからね……空の呟きは、無機質な塔の壁に溶けて消えた……
【 Fin 】
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】
【0233 / 白神・空 / 女 / 24歳 / エスパー】
【NPC / アシャ】
【NPC / アフラ】
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■ ライター通信 ■
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白神・空様
毎度、御参加ありがとございます。ライターのはるです。
お届けが遅くなって申し訳ありませんでした><、訪問者〜緋色の地図〜をお届けさせていただきます。
アシャとのお付き合いも段階を踏んでということで…今回はお膝にお邪魔させていただきました。
相変わらず、マイペースなNPCですが今後も構っていただければ幸いです。
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