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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


第一階層【ダークゾーン】の中を抜けて

メビオス零


【オープニング】
 ダークゾーン‥‥暗黒地帯って奴だな。全行程の半分を、下水道が占めている。
 何が怖いって、ここには光って物がない。つまり、何にも見えないって訳だ。
 IRカメラじゃあ、空気との温度差がはっきりしている物しか見えない。
 スターライトカメラは、光を増幅して物を見る以上、全く光のない所じゃあ役立たずだ。
 音波カメラ‥‥無いよりはましだが、視界が荒いのは否めない。見えない訳じゃないんだが、とっさの時に後れを取るのは必須だ。
 懐中電灯? 良い考えだな。相手は懐中電灯の光に向けてぶっ放すだけで、お前を蜂の巣に出来るって訳だ。
 ここを抜ければ、未探索地帯に行けるとは思うんだが‥‥生きて抜けれればな。





〜狩人〜

 ライトを消せば360°、全てが完全な闇になってしまう下水道内で、五人のビジター達が足下を流れていく下水を掻き分けながら進んでいた。先頭を歩くアルベルト・ルールは、ライトを前方に向けている。下水道内の様子はその光の箇所以外は、仲間内ですらよく解らなかった。

「本当に足場が悪いな……暗いし水っぽいし、何より臭い………最悪だ」
「あなたが言い出した事でしょう?アルベルト」

 思わずぼやくアルベルトに、ヒカル・スローターが冷静に返してきた。後ろに付いてきている者達も、何人かが頷いている。

「そうなんだがなぁ、こんな所を通らなきゃゴミ集積場に行けないとはね……迷ってないだろうな?」

 ヒカルの横で短めの高周波ブレードを持っているシオン・レ・ハイに訊くと、シオンは静かに首肯した。真面目な性格を買われてか、この下水道内のマッピング担当として活躍している。いざというときには、シオンが先頭に立って逃走路を確保してくれるだろう……
 この下水道内で迷ったりしたら、それこそ命はない。ここは未知の生物たちの巣窟だ。長居しすぎると攻撃され続け、いつかは問答無用で全身啄まれて、餌になってしまう。
 だからこそ、来た道を辿って戻るという事は、実に重要な事だった。
 まぁ、シオンは時々蛍光塗料で壁に印を付けているため、実に慣れたものである。

「逃走をは良いとして…………これ、ちゃんとゴミ集積場に向かってるのか?」
「先頭に立ってるあなたがそんな事言ってどうするのよ」
「あ、悪い。大丈夫だ。今のところは」
「な、なんだか嫌な予感がしますよぉ」

 ジェミリアス・ボナパルトが呆れ、エリア・スチールが不安そうにジェミリアスのすぐ後ろにくっついている。辺りが暗く、自分の足下さえ見えないため、皆の危険を知らせる“目”の役割をしているジェミリアスにくっついているのだ。
 エリアは虫なども苦手らしく、時々飛んでくる拳大のゴキブリに、何度もキレそうになっていた。

(やれやれ、こんな狭い所でキレられたら、こっちの身が持たない……………?)

 ふと、アルベルトは進めていた歩を止めた。ライトの光は突き当たりの壁まで真っ直ぐに伸び、どうやらゴミ集積場への入り口らしい大きな鉄格子を照らしている。
 それは良い。その場こそが目的地だ。それは良いのだが…………

「なぁ、気が付いてたか?」
「え?何にですか?」

 エリアがキョトンとした表情でアルベルトを見つめてきた。だがエリアがしがみついているジェミリアスは事情を察しているらしく、表情を硬くして下水道内を“見渡した”。

「これ全部………よね?」
「ああ。ライトでチラチラ照らしてたりしてたから気を抜いていたけどな……やばい、な」

 アルベルトとジェミリアスが言っている間に、ヒカルとシオンも敵のカサカサという足音に気が付き、一斉に武器を構えた。だが上手く敵の場所が解らないらしく、生態感知能力のあるアルベルトとジェミリアスに視線を向けた。
 アルベルトが、下水道の先ではなく、壁に光を当てて照らし出した………
 そこは“黒”かった………“暗い”のではなく、“黒い”。
 カビが生え、染みで満ちている壁に、黒い何かが密集して張り付いている。
 それらはザワザワと蠢きながら、光に照らされたモノ達がその首を上げ、一同を見る……

「ひっ!ムカデーーーー!!」

 エリアが悲鳴を上げてPKブレードを突き立てた。鎌首を上げていた体長一メートル程はある巨大大ムカデは、胴体の半ばで断ち切られ、二つに分かれて足下でのたうち回った。元々生命力の強さでは、昆虫の中ではかなり強い内に入るムカデである。ここまで大きくなると、完全に人間を越えている……
 胴体半ばで断ち切られたムカデはまだ生き続け、五人に向かってその鋭く、大きな目を向けた。

「まずい、逃げろ!!」

 アルベルトが言うのと、壁に張り付いていたムカデ達が一斉に鎌首を上げたのは同時だった。どいつもこいつも体長一メートル以上はある巨大なモノばかりだ。それが壁にびっしりと……推定でも五十匹は下るまい。
 ここは奴らの狩り場…………巣なのである。いくらアルベルト達が戦闘に秀でた者達であろうとも、逃げる以外に、生還する方法など皆無に等しいだろう。
 全員でザワザワと壁を張って移動してくるムカデを斬りつけ、撃ちながら逃走を開始する。だが暗闇の中で狙いが付け難く、ムカデの体が黒いために保護色になり、実に攻撃し難い。
 しかも足場が悪い所為で、走るスピードは普段と比べて数割は低下している。壁を這って走ってくるムカデは非情に速く、すぐに追いついてきて飛びかかってきた。
 壁から跳んで噛み付こうとしてくるムカデを、ヒカルは対物ライフルで殴り飛ばし、壁でジャンプ体勢に入っているムカデの眉間を撃ち抜いてから舌打ちした。

「殴っても撃っても全く減る気配がない………爆弾を使いたい所だの」
「やめてくれ。崩れたら脱出方法がない」

 走りながらぼやくヒカルの声を聞きつけて、アルベルトが慌ててそれを止めた。ヒカルは「解ってる」と一言言い、再び背後から襲ってくるムカデを迎撃した。
 走る速度を上げながら、対策会議が始まった。

「解っている。だがどうする?このままでは出口に着く頃には、こいつらに全員を相手にする事になりそうだぞ?」
「そうだな………閃光弾とかはどうだ?」
「アルベルトさん、たぶん無理ですよ。この暗闇の中ですから、目は退化していると思います」

 シオンが高周波ブレードで、前に回り込もうとするムカデを両断した。

「そうか……シオンには提案はあるか?」
「現状なら、このまま振り切れると思いますよ。最初は挟み撃ちを危惧していたんですが、もう暫くは大丈夫そうですから」

 シオンが一番先頭を走るエリアを見ながら言った。ジェミリアスに援護されながら、エリアはPKで作り出した二本の細身の剣を振り回し、時々行く手を阻もうとするムカデ以外のタクトニムを切り刻み、凄まじいスピードで走っていく。

「うわあああ!!ムカデは嫌ぁあああああ!!!」
「いつもの暴走状態とは違って正気は有りか………だが手が付けられない事には変わりなし、と」
「エリアさんがどんどん敵を倒してくれていますから、このまま最後まで逃げ切れそうな勢いですよ」
「そうだな。んじゃ、ゴールまではソッとしておくか」
「…………お前達」

 アルベルトとシオンが結論に達すると、ヒカルが呆れながら「助けてやれい」と呟いた。暴走と言うよりも錯乱し、涙を流しながら駆けていくエリアを見るのが忍びないのだろうか………
 まぁ、ああなっても、事前に用意しておいたアメを見せれば大人しくなってくれる。エリア・スチールという少女はそういう者なのだ。
 ………エリアが脱出ルートから外れないように、ジェミリアスは行く先を調整する事で大忙しだった。エリアは前述したように錯乱気味なため、分岐点の時には落ち着いて選ぶ事は出来ない。ジェミリアスは、ここに来るまでにシオンがたくさん付けておいた蛍光塗料を辿って道を選択し、時々散弾銃で援護をしている………
 走りながらここまでの事をするのは大変だった。ムカデの相手をする事は後衛の三人の御陰であまり無いのだが、それでも体力を消耗するに連れて厳しくなってくる。
 その為か、いつかはなると思われていた、最悪の事態に陥った。

「エリア!そっちじゃないわよ!」
「★○±; .;凵\@×※!!」

 道を外れ、別の下水道へと入っていくエリア。ジェミリアスはエリアに制止の声を掛けながら追っていく。

「やべっ!錯乱状態が最高潮に達してやがる!」
「そっちの方は行き止まりですよ」
「ムカデが来る!とにかく走れ!」

 ヒカルに言われ、ぼやきながらも、アルベルト達はエリアの後を追跡していった。エリアは猛スピードで走りながら前方に立ち塞がるタクトニムを倒していたが、やがてピタリとその動きを止めた。続いて、後を追っていたジェミリアスも足を止める。
 追いついたアルベルト達は、二人が止まった理由をすぐに察した。アルベルトが、今まで照らす余裕の無かったライトを使い、行く先を照らし出す………
 そこはカビが一面を覆ってどす黒くなっている壁だった。ちょうど足首程のところに鉄格子が嵌り、水を通しているが、鉄格子を壊しても人が通れるような大きさにはなりそうにない。
 エリアは追いつめられた事で錯乱状態が落ち着いたのか、肩をブルブルと震わせて……

「――!―――!!―――!!!」

 訂正。全然落ち着いてなかった。

「落ち着けエリア!放ったらかしにして悪かったって。ほれ、飴やるから」
「〜〜〜♪」
「あれで落ち着くんだ………?」
「そこらの子供よりも扱いやすそうですね」
「和むな。そっちの問題が片付いたのなら、こっちの方を手伝えい」

 ヒカルがそう言いながら、手にしている対物ライフルで次々にムカデの眉間を狙撃する。壁を這い進みながら身を起こしたり伏せたりするムカデ達を狙撃する事は難しい筈なのだが、ヒカルは獲物に集る蟻のように迫り来るムカデの群れを、全く取り乱すことなく迎撃していた。
 もっとも、残念ながら当たってもそう簡単には死んでくれないらしい。眉間を撃ち抜かれようが何だろうが、このムカデという生物は、ゴキブリに匹敵する程の生命力なのだ。
 眉間を砕かれたムカデに高周波ブレードでトドメを刺しながら、シオンはムカデ達を掻き分けながら迫ってくる“何か”を察し、目を細めた。

「何かが来ます」
「ああ。もう何でも良い!追いつめられちまったし、ここで徹底抗戦しかないんだが…………」

 アルベルトが言葉を切る。ジェミリアスはエリアが再び錯乱しないように、エリアの視界を塞ぐようにして立ち、ヒカルとシオンは武器を構えながら呻き声を上げた………

「「「「でかい……」」」」

 エリア以外の四人が、異口同音にそう言った。エリアは事情がよく解っていないようで、ジェミリアスの隙を突き、ジェミリアスの体を避けて顔を覗かせた。

「!?!?!?!」

 エリアが声にならない声を上げる。それもそうだろう。目の前にいるムカデは、どう見ても今まで倒してきたムカデ達の数倍……この下水道いっぱいいっぱいの大きさである。
 今まで五人を追ってきていたムカデ達は、この超大ムカデの存在を恐れるかのようにその後ろへと陣取り、決して前に出ようとしない。この状況でアルベルト達に襲いかかれば、恐らく自分達が食われる事を知っているのだろう……
 親玉を目の前にし、むしろ今までよりも落ち着いた様子で五人が構える。エリアもここまで大きくなると、“虫”ではなく“タクトニム”として見る事が出来るのか、まだ震えてはいるが、それでも錯乱せずにPKブレードを構えている。

「ここら辺の主か?」
「そうだろうな………全く、この下水道には何が流れてるんだ?」
「知らん。それより………来るぞ!」

 ヒカルが叫ぶと同時に、主ムカデは『キキィィーーーー!!』と大声を上げながらヒカルへと喰らい付いてきた。虫とか野生動物とか、そういうモノの動きは非情に素早く、視認すら難しい。
 ヒカルは身を反らせて躱しながら、ライフルで軌道を若干変え、強引に回避した。ただ身を反らせるだけでは反応が間に合わず、回避しきれないのだ。
 ヒカルが回避すると、主ムカデはその後ろにいたジェミリアスへと軌道を変えて襲いかかった。ジェミリアスはすぐに両手に持っていた38口径オートを連射し、主ムカデを向かい撃つ。だが一体どういう皮膚をしているのか、まるで重戦車のように弾丸をめり込ませ、挙げ句には数発弾かれてしまった。
 迎撃出来ると踏んでいたジェミリアスは一瞬反応が遅れ、咄嗟に背後に向かって跳んだものの、主ムカデの長い牙に脇腹を刺され、壁に叩き付けられた。

「ジェミリアスさん!!」

 エリアがPKブレードで牙を切断する。主ムカデは自慢の牙が切断された事に戸惑っているのか、怯んだ様子で素早く身を退き、初期位置へと立ち戻る。
 ジェミリアスは脇腹に刺さったままの牙を一気に引き抜き、ESPで回復を開始する。
 食い付かれなかったのは幸いだった。牙は幸い毒を持っておらず、通常の修復で足りそうだ。

「大丈夫ですか!?」
「何とかね……操ろうと集中した瞬間を狙われちゃったわ」

 苦笑いしながら、ジェミリアスはヒカルとシオン、アルベルトに追撃されている主ムカデを見やった。主ムカデの生命力は他の奴らの数倍はあるのか、手足を切断され、胴体に大きな傷が出来ても、さらに動きの激しさを増していく。
 牙が切断されてもまだ尻尾から何やら針のようなモノを伸ばし、隙あらばこちらを串刺しにしようと睨み付けてくる。

「野生の生物って勘が良いのよね……真っ先に倒すべき敵を知ってるわ」
「え?」

 エリアが疑問の声を出すが、何も言わずに意識を集中させ、目の前にいる主ムカデの行動を抑制、制御を開始する。主ムカデはまるで電撃に当てられた様に痙攣し………攻撃の矛先を、背後で隙を窺っていたムカデ達に変更した。





「ふぅ、助かった」
「行動操作か。最初からああしていれば良かったのではないか?」
「あまり使いたくないのよ。こういうのは」

 逃げ去っていくムカデ達を見送りながら、ジェミリアスは戦闘中にアルベルトが落としたライトを手に取った。ヒカルがに手に持っていたライフルを弄りながら言う。

「だが助かった。もうあまり弾丸が残っていないでな」
「それじゃあ、まだ安心は出来ないわ。あまり離れると、元に戻っちゃうから」
「急いで脱出しましょう。もう、出口はすぐそこです」

 シオンがそう言って先頭に立ち、一同の用意が終わったのを確認してから走り出した。エリアとアルベルトは、負傷したジェミリアスを助けながら、出来るだけ速く走る。殿はヒカルが勤め、持ってきていた銃器の弾丸を確認しながら、こまめに背後を確認して走っている。
 暫く走っていると、真っ暗な下水道の中に、外の光を現す出口が見えた。
 周りが暗いだけあって、この出口はいつも光って見える。

「やれやれ、ようやく脱出だ」
「全く………この下水道、一体何が流れているのか、調べた方が良いんじゃないですか?あんな虫が育つなんて、普通あり得ませんよ」

 気が緩んできたのか、口々に話ながら走り続ける。
 だが不意に、ヒカルが足を止め、背後へと対物ライフルを発砲した。
 突然響いた銃声に驚き、皆が一斉に背後にいるヒカルを振り返った。

「どうしたんですか?」
「いや。何でもない」

 エリアの問いにヒカルはそれだけ言うと、すぐに元の通りに走り始める。








 出口近く、光がギリギリ届かない場所まで追って来た主ムカデは、やがて他の生物たちによって啄まれ、跡形もなく消滅した………







★★参加PC★★
0552 アルベルト・ルール
0375 シオン・レ・ハイ
0541 ヒカル・スローター
0544 ジェミリアス・ボナパルト
0592 エリア・スチール