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ＥＰ２：Another Mind
『いっしょに遊んで！』
そう宣言した少女を前にアデリオン・シグルーンはやや困った笑みを浮かべた。
以前あったときと似たデザインの膝丈のワンピースは、この辺りでは既に入手困難な天然シルクで作られていることをアデリオンの審美眼は見抜いていた。
一体この少女はどういった環境で育てられたのだろう？
そんな疑問が先走る。
「遊びといっても……」
私は体力はビジターとしては余りあるほうではありませんし……と更にアデリオンは困った顔で少女を見下ろすのであった。
「アシャさん……ではないんですよね」
それは、確信に満ちた確認。
「アシャなら寝てるよ〜」
以前の様な一歩引いたような用心深さは微塵も感じられない。
くるくると良く変わる表情で少女は、満面の笑みを浮かべた。
「なんでもいいの」
だから、あたしと遊んでよ！
人好きする笑みを浮かべ遊んでとせがみながら、少女はアデリオンの白衣の裾を引いた。
「わかりました、では僕は貴女をどのように呼べばいいんですか？」
少女の笑みが心の中の思い出と交差する。屈託のないその眼差しに懐かしさを覚えアデリオンは、白衣の裾を引く少女の手に自分のそれを重ねた。
「ないしょ〜♪」
「それは困りました……それでは貴女とお話ができませんから……」
何処か二人の足元に屯する猫たちに似た、何処か気まぐれな性格の少女のようだ。
「そうですね……」
名前を呼べないと不便ですし。
「貴女のことをレディと呼ぶことを許していただきますか？」
「れでぃ？」
その言葉の響きに少女が首を傾げた。
「はい」
「うん、いいよ！今日のあたしはれでぃなんだね？」
「はい、レディ」
さて、実際に何をして遊ぼうかという段階で、アデリオンは考え込んでしまった。
彼が普段暇つぶしにやっているゲームなどはこの年頃の少女には少し難しいであろうし、かといってアデリオンは自分の体力の無さも自覚していたから……。
額を押さえるアデリオンの傍で、本日はレディと呼ばれることになった少女が今か今かと楽しい遊びに期待して目を輝かせている。
少女の期待に応える遊びをなかなか見出せず、アデリオンは詰まってしまった。
自分がこのぐらいの頃は……どの様な遊びをしていただろう……
『坊ちゃま！』
また、ベッドから抜け出しましたね。
呆れたような、朗らかな声が頭上から降って来る。
「だって、暇なんだもん」
口を尖らせて言い返す、自分の手には分厚いコンピュータの専門書。今でこそビジターとしての活動に支障が無いぐらいには体力のあるアデリオンは、幼い時分はベッドの上で時を過ごすことが多い子供だった。
「寝てばかりじゃ、つまらないよ」
「そんなことをいっていると、また夜にお熱が上がりますよ」
大らかな声の主は随分前からシグルーン家に使えていた、極東の島国の血を引く家政婦だった。
アデリオンを実の息子の様に可愛がってくれた小柄な彼女に、当時は随分わがままをいって困らせたものである。
体調を崩してはベッドの上で過ごす日々に、アデリオンは飽いて幾度と無くベッドを抜け出しては怒られていたのも今では幼い頃の思い出の一つとなっていた。
あの頃のアデリオンはといえば、体調の良いときも外で走り回るということより、コンピューターを相手に遊んでいたころが多かったする。
そんなアデリオンに日系の彼女がベッドの上でも遊べる遊びを教えてくれた……そうあれは………
「あや取りをしてみませんか？」
「あやとり？？」
何それ？聞き覚えのない言葉に少女は身を乗り出した。
そんな微笑ましい少女の様子に笑みを浮かべ、アデリオンは己の上を束ねていた紐を解き、結び合わせ一つの大きな輪を作った。
「丁度ここの反対側に浮ぶ島国に伝わる古い遊びだそうですよ」
少女の目線に合わせ近くの箱に腰をおろしたアデリオンは、今では記憶の中に埋もれかけた懐かしい遊びの手順をたどっていった。
「ここを、こうして……こうすると」
箒や橋等の簡単なものから、カニや小枝を咥えた鳩といったものまで次々に変幻自在に形を作り出していく妙技に少女は目を丸くした。
「すごい、すごーぃ」
以外にも、体に染み付いたことは忘れないもので…なんどか怪しいところもあったが、アデリオンの指先から生まれる紐の模様に少女は感嘆するばかりだった。
「貴女もやってみますか」
レディ？と紐の輪を渡してみる。
「えっと……これを、こうして……あれ？」
わかんな〜ぃ！ムリ！！と少女は適当に指と指の間に紐を通して絡ませてしまい、直ぐに投げ出した。
「大丈夫、直ぐにレディにも覚えられますよ」
絡んでしまった紐を解いてやりながら、アデリオンは少女の髪を撫でる。
「ほんと？」
「えぇ、そうですね……二人でやる方法もありますから最初はそちらからやってみましょう」
仲良く紐の輪を挟み、暫し二人は極東の島国に伝わるという伝統的な遊びに没頭した。
その様子は、寒々とした硬質的な都市セフィロトの中でどこか微笑ましい空気をかもし出していた。
「そろそろ行かなきゃ！」
お夕飯の時間だと、少女が辺りを見回す。
見れば、アデリオンの腕にある時計は１８：００を指していた。
「もうそんな時間でしたか」
確か、少女と会ったときは３の位置を長針が指していたから……かれこれ３時間近くあや取りに没頭していたことになる。
「そうだ」
はらり、頬にかかるアデリオンの長い髪をみて少女が笑う。
「これで、あたしと一緒♪」
ごそごそと、ポケットから取り出した御揃いのリボンでアデリオンの髪を不器用な手つきで一つにまとめた。
「えへへ〜おんなじだ♪♪」
「おなじですね」
楽しそうなその様子に、釣られてアデリオンの口元にも笑みが浮んだ。
「あぁ……そういえば……」
お名前を聞くのを忘れてしまいました。
少女の姿は既にない。
アデリオンの手の中に残された、輪になった紐と、立て結びになってしまっている白いリボンだけが少女とであったことが夢でないのだと告げていた。
懐かしい思い出を呼び覚ました小さな出会いに、アデリオンは何処か安らぎを感じていた………
【 To be continued ……？ 】
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 / ＰＣ名 / 性別 / 年齢 / クラス】
【0585 / アデリオン・シグルーン / 男 / 27歳 / エキスパート】
【NPC / ドゥルジ】
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■ ライター通信 ■
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アデリオン・シグルーン様
こんにちは、ライターのはるです。
路地裏への再びのご来訪ありがとうございました。
遊びはあや取り……ということで、私も久々に古い記憶を思い出しながら書かせて頂きました。
何処か繊細なイメージのあるアデリオンさんのイメージを壊していまっていなければよいのですが（汗）
今後ともお付き合いいただければ幸いです。
またのご来訪お待ちいたしております。
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