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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【繁華街】マフィアの裁き

メビオス零



【オープニング】
 おいおい、俺がマフィアだからってそう睨むなよ。敵じゃないってんだ。
 言うだろう? 「マフィアは信用出来るが、信用し過ぎるな」って。ありゃ、こう言う時に役に立つ格言だと思うぜ。
 何、他でもない。仕事を頼みたいのさ。
 うちの構成員が勝手をやらかしてな。
 組織は、構成員が勝手をするのを許さない。
 ここまで言えばわかるだろう? 他の組織との間も焦臭いってのに、馬鹿を始末するのに組織ごと動いてなんかいられないって訳だ。
 報酬は金か? それとも、上物のコカインか? 酒に女でも構わない。
 受けるか受けないか、今すぐ俺に言ってくれ。







〜裏切りの報酬〜

 繁華街、主に酒や水商売の店が建ち並んでいる様な暗い区画の一軒に、一人の男が屯していた。騒がしい酒場で酒を飲み、時折窓越しに店の外をチラチラと見て、様子を伺っている。
 仲間を裏切り、殺した事で、自分がマフィアから追われる立場に立っているという事を自覚しているらしく、少々神経が過敏になっているようだ。店の客からも出来るだけ距離を取り、何かあってもすぐに逃げられるように、椅子に深く座り込んだりはしていない……

「さすがは暗殺者ってとこだが………腕前は三流ってところだろ。あれ」
「そうですか?資料では、それなりの腕前のようですが……」
「今までの標的を見ても、大した奴を宛われてないみたいだぜ?ま、あれでもマフィアの幹部の隠し子だしな……少しは気を遣われてたって事か」
「ラーフ、悪いが少し黙ってくれ。奴が動くぞ」
「へいへい」
「では、私達は所定の場所へ行きます。気を付けて」

 路地裏に隠れながら様子を伺っている四人の影………ロディ・カーロン、翠・エアフォース、リュイ・ユウ、ラーフ・ナヴァグラハの四人である。 四人のうち三人は、マフィアから直接依頼を受けたロディに声を掛けられて集められた者達だ。
 それぞれタクトニム達と戦う時よりも軽装で、出来る限り装備を軽くし、街を歩いていても不自然でないように纏めていた。その為か、標的の暗殺者も、こちらの気が付いている様子はない。
 ………もっとも、これから気が付いて貰わなければ困るのだが………
 三人は待ち伏せるための倉庫へと向かい、ロディだけが、そこまで相手を誘い込むための囮としてその場に残る。

「ああ。では十分程経ってから合流する。それまでに例の場所へ行っていてくれ」

 立ち去っていく三人にロディはそれだけ言い、店から出てきた暗殺者の後を追った。暗殺者の男は数メートル後ろを付いてくるロディにはすぐに気が付いたらしく、歩調が微妙に変わり、速くなった。
 様子を伺いながらどうやって誘い込もうかを考えていたロディは、相手がこれ見よがしに路地裏に入っていくのを見、半ば呆れながら、すぐには入らずにその路地裏を眺めた。
 逃げ続けるぐらいなら、逆に返り討ちにするつもりらしい………解りやすい程の誘いだが、人目に付かない方がこちらにとっても優位に事を運ぶ事が出来る。暗殺者は入っていった路地裏も、三人が待っている場所へ行く事が出来るルートの範囲内だ。

(さて、ここからが本番だ…………)

 ロディも、今まで隙だらけだった意識を戦闘用に切り替えて、路地裏へと入っていく。右目のサイバーアイを駆使し、敵の奇襲に備えていつでも義手の高周波ナイフを使えるようにして暗い路地をゆっくりと進み出した。
 やがて、表の通りからの光が届かない、喧噪だけが聞こえてくる狭い通路へと入っていく。


ヒュッ

「っ!」
「はっ!惜しい!!」

 真上からの奇襲。ビルの壁をよじ登っていたらしく、高度のある場所からロディの脳天目掛けて打ち下ろされたナイフは、必至を喫して繰り出されていた。
 だがロディは躱した。暗殺者が壁から離れ、飛び降りる時の微かな音を聞きつけ、ほとんど反射的に回避運動に入っていた。並の者なら、今の攻撃で終わっていただろう。

(どうやら、腕前自体は良い線にいっているみたいだな)

 地に着地した暗殺者から距離を取り、高周波ナイフを構えて対峙する。相手は深追いするような事をせず、こちらの顔を窺い………不意に笑い声を上げ始めた。


「あんたもしかして、ロディ・カーロン…………いや、ディアルト・シグルーンか!?」
「ん?知ってるのか?」
「ああ、そっちの方は色々とあったんでな」

 笑いながら、暗殺者はロディに向かってそう言った。シグルーン財団の暗黒面を担当しているロディの事は、それなりに有名だ。もっとも、ロディ本人が変装の名人であるため、あまり顔は知られていないはずなのだが………

「覚えてないのか?数年前にお世話になったんだけどな」
「……………ああ、あの時のか」

 ロディは相手のセリフを聞いて記憶を探り、心当たりを思い出してみた。
 そうしてみると、確かに数年前、この男の組織がロディの弟に手を出してきたため、追い払った経験がある。敵の部下を捕らえて吐かせた時、組織の名前と一緒に指揮をしていたこの男の名も出てきていた。

(あまり成長していないようだな)

 あまり記憶に残っていないが、当時とあまり変わっていないようだ。裏切ったのはその証拠………自分のミスを精算するために部下を捨て、自分の盾にして去る辺り、本当に変わっていないようだ。
 こちらが思い出した事で上機嫌になったのか、ニヤニヤとした笑みを浮かべて暗殺者がナイフを遊ばせている。

「良いね。あんたの首を取ったとなれば、何処の組織でも俺を雇ってくれる………組織を出てきて良かったぜ」
「それはどうだかな」
「五月蠅い!」

 シグルーン財団の暗黒面を統括する者を殺したとなれば、むしろ復讐を恐れて敬遠されるだろう。目の前の男は、それにすら気が付いていない。
 それどころかロディの余裕を見せるようなセリフを聞いて、まるで逆上したように襲いかかってきた。
 ロディは静かにナイフを払い、繰り出される攻撃を次々に払い落とした。先程の一瞬の戦闘で、相手の力量は図れている。自分だけでも倒せない事はないが、傷の一つや二つは確実に出来るだろう。
 万全を期すため、ロディは仲間達と合流する事を選び、適当に切り結んでから再び間合いを離して走り出した。

「逃げるかっ!?」
「色々事情というものがあるんでな」

 追ってくる暗殺者。ロディは、予め下見をしておいた路地裏を駆け、目的の倉庫へと急ぐ。少々繁華街から離れる事になるが、相手は仮にもマフィアという組織にいた暗殺者だ。もしかしたらどこかに仲間がいるかも知れないのだから、これぐらいはしなければならない………
 数分程走り回った頃、ようやく目的の場所へと辿り着いた。周囲から喧噪は消え、静まりかえっている。
 ロディは暗殺者の位置を確認しながら、倉庫へと入った。後を追ってきていた暗殺者は、さすがに誘い出されているという事に気が付いたのか、ここに来てようやく歩調を弛め、倉庫の中に入ろうとはしなかった。
 注意深く倉庫を注視し、足下や周りの建物に罠がないかを調べようと、遠回りに円を描いて慎重に倉庫を調べ出す。
 だが暗殺者がいるその場所は、既に彼らのテリトリーと化していた………

「よう。よく来たじゃん。待ってたぜ」
「!?」
「思ったよりも時間が掛かっているから、少し心配してたんだけど……問題なかったみたいね」
「なっ!?」
「ロディ、大丈夫?」
「ああ。これと言って、問題もなかったからな」
「き、貴様ぁ!!」

 暗殺者が吼える。ロディは隠れていた倉庫から武器を取り出して構え、倉庫前に居た暗殺者と真っ正面から向き合った。そして暗殺者の斜め左右にある建物から、ラーフ、そして翠が現れる。二人とも仕留めるための準備は済ませており、ラーフはPKブレードを、翠は拳銃を構えて、暗殺者に向けていた。
 唇を噛む暗殺者。どうやら目先の獲物に気を取られてここまで来てしまった事を悔いているようだが…………後悔するのなら、それはあまりにも遅い。遅すぎる。
 暗殺者として向いていないであろう彼とて、相手の力量を図るぐらいなら出来るのだ。目で見て判断するだけでも、周りにいる者達の一人一人が自分と同等、それ以上の使い手だという事を……
 だが、諦めるという事はないようだ。ここに来て彼は薄く笑い、組織を裏切った時にも浮かべていたであろう、狂気に近い雰囲気を発し始めた。

「投降する気は……無いみたいね」

 翠が言う。暗殺者は不敵な笑みを浮かべた後、ロディに向かったまま静かに言った。

「本気でいってやる。リミッター解除してやるよ!」
「「「!?」」」

 次の瞬間、暗殺者が弾けた。正確には、その場から跳躍しただけなのだが、暗殺者が立っていた地面(コンクリートではなかった)に小さな穴が空いており、そこを中心に砂や砂利が舞っていた。

(こいつ、オールサイバーか!)

 マフィアから渡されたデータには載っていなかった。恐らく稼いだ金か、幹部の隠し子としてのコネを使って闇医者に掛かり、ばれないように改造していたのだろう。予想外の出来事に、三人の体が硬直する。
 その中で、最初に反応したのは、一番に暗殺者の標的にされた翠だった。真横から来る刺突を素早く顔を後ろに反らす事によって回避する。だが追撃として入った肘打ちを頬に受け、距離を取るためにその場を跳んだ。その間に、攻撃を仕掛けてきた暗殺者に向けて数発拳銃を発砲する。
 だが肘打ちの所為で視界がぶれており、弾丸は地面を叩いただけで命中する事はなかった。揺さぶられた脳の機能は、もう暫く回復しそうにない……
 翠に次撃を回避する余裕はないと踏み、暗殺者はさらに攻撃を仕掛けようと勢いよく踏み込む。

「やらせるか!」

 ラーフが暗殺者の背後にスッと現れ、PKブレードを容赦なく振り下ろした。テレポートだ。距離を取っていたはずのラーフがいきなり迫ってきた事で、暗殺者は舌打ちしながら標的をラーフに変更した。
 ラーフと暗殺者が斬り合う。その間に、ロディは倒れ込みそうになっている翠に走り寄った。

「大丈夫か?」
「ええ。大丈夫…………彼の援護は?」
「下手に入ると、返って邪魔になりそうだからな。それに………」

 ロディがフッと周囲の建物群を見渡した。この辺りは暗く、どの建物も使われていないのか、悠然とそびえ立つビルは、まるで幽霊が住み着いていそうだ。
 その建物の一角に………一人の男が居た。

「彼が居るからな。射線に入ったら大変だ」

パシュ

 ロディがそう言うと同時に、数百メートル離れた所で、そんな音が鳴った。離れているからこそ、それは撃った本人にしか決して聞かれない音………
 ラーフとの戦闘行為に集中していた暗殺者には、勿論聞こえておらず。その攻撃を回避する事が出来なかった。
 発射された弾丸は、忙しなく動き回っていた暗殺者の足に命中した。それも関節部…………関節の自由度を阻害しないため、もっとも強度の低いその場所に、ピンポイントで命中されていた。
 弾丸で一部が砕かれた足は、片方だけがガタッとバランスを崩し、膝を付く。

「なっ!?」

 暗殺者の驚愕の声が上がると、ずっと互角に切り結んでいたラーフが待ってましたとばかりに暗殺者が持っているナイフを弾き飛ばした。そして切り返すついでに、残った方の足を切断する……
 両足を失い、武器もなくなった暗殺者には、もう戦闘力は残されていなかった。

「くそっ!こんな筈じゃあ………!!」
「あ〜、危なかった。短い間だったけど、やっぱり疲れるな」

 ラーフが肩から力を抜いて、PKブレードを掻き消した。そのラーフ肩越しに、ライフルを手に持っているユウが姿を現した。
 遠距離からの狙撃を担当したユウは、関節部を破壊されて壊れている暗殺者の足を見て、ホッとしたように息を吐いた。

「良かった。ちゃんと命中したんですね。狙っていた時には、足が残像しか見えなかったので、ほとんど勘だったんですが………」
「か、勘って………俺に当たったらどうするつもりだったんだよ!!」
「…………その時にはその時です」
「マジか!?」

 ラーフが愕然とした様子でユウを睨み付けた。そして、さすがに呆れたのか怒ったのか、ラーフがユウに詰め寄っていく。
 ユウはどうと言う事もないのか、ラーフの追及をサラッと躱し、翠の治療へと移った。怪我の程度が比較的軽い事を見て取り、その場で簡単な治療を開始する。
 ロディは動けなくなった暗殺者の両手に手錠を何重にも填め、完全に動きを制した事を確認してから、その体を荷物のように肩に担ぎ上げた。
 暗殺者は拍子抜けしたように、怪訝な表情でロディを見る。

「オイ……殺さないのか?」
「別に殺せとは言われていないがな。俺達が依頼されたのは、基本的には捕獲だ。お前を組織に引き渡すが、その前にお前に掛かっている賞金を貰っておく。……まぁ、色々と利用させて貰おう」

 ロディはそう言って、休んでいる三人に向けて「行くぞ。クライアントとの約束の時間に遅れる」とだけ言い、その場を後にした。三人もそれぞれの報酬を受け取るため、その後をついて行く………





 その暗殺者が組織に戻った後、どうなったのか………それは四人の知る所ではない………







★参加PC★
0584 ロディ・カーロン
0330 翠・エアフォース
0487 リュイ・ユウ
0610 ラーフ・ナヴァグラハ