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ブラジル【密林地帯】インディオ村
メビオス零
【オープニング】
アマゾン流域の密林地帯には、昔ながらの暮らしを続けているインディオの村が幾つもある。
インディオは凄いぞ。あの審判の日と、それ以降の暗黒時代、高度なテクノロジーを持ってた奴らがバタバタ死んでいった中、インディオ達は何一つ変わらない生活を送っていたというんだから。
本当に学ばなければならないものは、インディオの元にあるのかも知れないな。
〜笑う蛇〜
ジャングルの密林地帯。数歩歩けば足を取られるような地形を抜け、ジェミリアス・ボナパルトの一行は、インディオ村へと辿り着いて休憩を取っていた。ジェミリアスは村人から貰ったジュースを飲んで地図を確認し、キリル・アブラハムは来る途中で泥に浸かった銃器を解体し、整備している。キリルと同じようにボディーガードとして雇われたコテツ・アヅマは、インディオ村のあちこちから借りた罠の数々を調べ、今までに記録した地形などを元に、設置場所を割り出している。
同じテント内に居るにもかかわらず、しばらくの間は全員黙り、それぞれの行動をして時間を潰していた。無言の時間が続けば続く程、段々とテント内の空気が張り詰めていく……
その空気に耐えきれなくなったのか、コテツは銃器の整備を終えたキリルへと話し掛けた。
「あの、ここまで念入りに準備をしなければ、会う事も出来ないような相手なのですか?」
「ええ。少々、因縁がありましてね………ジェミリアスさん。大丈夫ですか?」
「…………」
コテツに答えてからキリルは地図を見つめたまま動かなくなっているジェミリアスに気が付き、声を掛けた。だがジェミリアスは聞こえていないようにジッとしたまま、息を少し荒げている。
「ジェミリアスさん?」
「……え!?え、ええ。大丈夫。何でもないわ」
キリルが地図をジッと睨んでいたジェミリアスが反応する。何でもないと言っているが、キリルはジェミリアスの顔を見て眉を顰めた。
ジェミリアスはうっすらと汗を浮かべており、顔色も冴えない。キリルは段々とジェミリアスの精神安定剤が切れてきている事を察し、心の中でだけ舌打ちした。
精神安定剤を打てばまだもう暫くは持つのだろうが、もう市販されているような物では効果がほとんど見込めない。裏物の強い物を持ってきていたが、それでも一体どれだけ保つのか………
(事を急いだ方が良さそうですね)
キリルが装備を装着し、小さなバックパックを背負う。コテツの準備も整いつつあるのを確認してから、そろそろ出立するように伝えようと口を開く。
その時。村から離れた場所から、小さな爆発音が聞こえてきた………
★★★
小さな爆発音と言っても、間近で聞けば肌を振るわせるような爆発音だった。ビリビリと響いてくる衝撃波に、クリスティーナ・クロスフォードは耳を塞いでいた両手に力を籠めて、目を軽く閉じた。
爆発音が通り過ぎたと感じると、すぐに煙に紛れてその場を駆け出した。この程度では、精々足止めが精一杯だろう。爆発物で牽制したが、それ以上の効果は見込めない。直撃していないのであれば、このジャングルの巨木の陰に隠れてやり過ごされているだろう。
ジャングルの木々が倒れ込むのをメキメキという音によって感じ取る。それに紛れて、カサカサという、極々小さな足音が四方から聞こえてきた。
「囲まれた………」
足を止め、巨木の剥き出しの根本に身を隠して、クリスティーナはサバイバルナイフを構えた。狙撃用ライフルも持ってきていたが、既にライフル弾は尽きている。しかも、その弾丸で仕留められた数はほんの数人…………敵の半分も減らす事が出来ずに、ライフルはその役目を終えた。
MSを置いてきて事を悔やみながら、クリスティーナは得意のナイフを構えたままで静かに周囲の気配を探っていた。
(あ〜あ、こんな所の村を襲っている盗賊だって言うから、もっと弱いと思ったんだけどなぁ………大ピンチだね)
クリスティーナは、このジャングルの奥にあるインディオ村に私用があって立ち寄ったのだが、その村が度々盗賊に襲われて苦しんでいるという話を聞いてしまい、こうして盗賊退治に出向いて来たのだった。狙撃用のライフルとサバイバルナイフ………たったこれだけの装備だったが、村から数々のトラップを借り受け、それを使って盗賊達と戦っていた。
だが盗賊達は相当な手練れで、トラップは破られるか躱され、圧倒的な土地勘によってクリスティーナは追い込まれつつあった。
今隠れている巨木とて、自分ではなく相手の計算の内だろう。
唇を僅かに噛みながら、クリスティーナは溜息を付いた。
(年貢の納め時かなぁ………)
相手の装備はまだまだ充実しているだろう。と言うか、相手の援軍も来ているようだ。最初に相手をしていた時よりも、むしろ数が増えている。
自分の死が迫ってきている事を確信し、せめて最期ぐらいはと、きっとジャングルの中を睨み付けた………
だがその時、クリスティーナがせめて相打ちにしてやろうと駆け出そうとした瞬間、ジャングルの木々の中から ザシャッ と言う、何かを切り裂くような音が微かに響いてきた。
同時に、周囲に盗賊達の罵声と悲鳴が響き始める。
「一体何が………」
クリスティーナは状況が掴めず、出来るだけ体が露出しないように、慎重に木の根から顔を覗かせた。ジャングルの大きな植物に阻まれてよく見る事は出来なかったが、盗賊達が誰かに襲われているという事は理解した。
数分程経つと、盗賊達の気配が周囲から消えていく。
「一体どうしたんだろう」
「大丈夫ですかな?お嬢さん」
「え!?」
木の上から聞こえてきた声に、クリスティーナはバッと頭上を振り仰いだ。見ると、巨木の木の枝の上に、軍服を着た中年の男がこちらを見下ろし、その場を跳ぶ。
謎の軍人は、木の周りを巻いていた蔓を手にしてスピードを殺しながら、見事にクリスティーナの横に降り立った。
クリスティーナは唖然としながら軍人をしげしげと眺めた。軍人………こと、アレクサンドル・ヨシノは、クリスティーナを観察し、ウンと大きく頷いた。
クリスティーナの体には小さな傷がチラホラとあったが、すぐに治る物だと見て取り、安心したのだ。その間にクリスティーナは、相手が盗賊達を追い払った張本人だと気が付き、頭を下げる。
「えっと……ありがとうございます!」
「うむ。大した怪我が無くて良かったですな。クリスティーナ・クロスフォード殿」
「え?」
「おっと失礼。私の所属している機関で、少々あなたデータがあった物でしてな。あまり気に成されるな。まだ名乗っておりませんでしたが、私はアレクサンドルと言う者です」
そう言って頭を下げるアレクサンドル。クリスティーナはその機関の軍人が何でこんな所にいるのかについて突っ込みたかったが、そこに踏み込むのは危険だとすぐに気を変えた。
裏事情にあまり首を突っ込むと、ろくなことにならない。経験的に。
「では、私は任務中でありますので、これで失礼します」
「あ、また今度会った時にお礼しますね!」
「ふむ。それは光栄な………」
アレクサンドルの目が急に細まり、クリスティーナの背後を凝視していた。振り返ると、そこには二人の男が木々の間から姿を見せ、二人を見ている所だった。
出てきた男達は、予想外の者がそこにいたのに驚いているのか………一人は面白そうに、もう一人はムッとした表情になって舌打ちした。
「どうやら、彼女たちではなかったみたいですね」
「ちょうど待ち合わせ場所からドンパチする音が聞こえたから来てみたんですけどね………待ち合わせの時間が迫ってきていますし、消しますか?」
出てきたのはクラウス・ローゼンドルフと、ジョージ・ブラウンの二人である。二人ともここに来るまでに逃げていった盗賊に遭遇したのか、クラウスのボディーガードとしてついて来ているジョージの服に、若干の返り血が付いていた。
現れた二人に不穏な空気を感じ、クリスティーナとアレクサンドルは二人に向き直り、武器を構えて警戒した。
ジョージはそれを見てやる気になったのか、一歩だけ間合いを詰める。
だがクラウスは、そのジョージの肩に手を置き、明後日の方向を見ながらほくそ笑んだ。
「いや、その必要も無さそうです。それより…」
クラウスが言い終わるよりも速く、クラウス達とクリスティーナのちょうど中間辺りの深い茂みの中から、一人の女性が飛び出した。真っ直ぐにクラウスに向けて疾走し、手にしていた高周波チェーンを振り下ろす。
ジョージは反射的に高周波チェーンを44オートマグナムで狙い撃ち弾き飛ばした。そして女性の胴に向かって銃を向ける。だが、捕らえられたのは一瞬前までの場所…………銃口は空を切り、既に飛び出してきた女性はジョージの死角に滑り込んでおり、その右顔に重い回し蹴りを入れていた………
「がっ!?」
予想外に重い衝撃に、ジョージの体が浮き、軽々と吹き飛ばされた。体は生い茂っている植物をクッションにしながら、姿を消す。
クリスティーナとアレクサンドルはあまりの出来事に驚き、構えた武器を誰に向けたらいいものかと顔を見合わせた。
出てきた女性に睨み付けられ、クラウスが口元を歪め、心から楽しそうに笑い出した。
「いや参りました。まさか不意打ちとはいえジョージを一撃で………やはり貴女は他の女性とは別格ですね。ジェミリアス・ボナパルト」
「もう少しランクの高いボディーガードを連れてきた方が良かったわね。次撃は躱せないわよ?」
ジェミリアスがクラウスを睨み付け、今にも跳びかかりそうな低い体勢でチェーンを構える。だがクラウスは、そんなジェミリアスを見ても楽しそうな表情を微塵も崩すことなく、嘲笑うかのように見下ろしている。
「どうかな。俺には触れる事も出来ずに終わると思いますけどね」
「試してみましょうか!」
「ダメですジェミリアスさん!!」
ジェミリアスがチェーンを持った手を振りかぶり、クラウスに向かって大きく振るった。それと同時に、ジェミリアスが出てきた所よりもっと奥、今度はクリスティーナ達の背後から、キリルとコテツが姿を現した。
だが、クラウスもジェミリアスも、二人の事など全く目に掛けていない。特にクラウスは、目前で高周波チェーンを振るっているジェミリアスしか、視界に置いてはいなかった。
ジェミリアスの高周波チェーンを軽く身をずらしただけで回避する。ジェミリアスは攻撃が躱されたと判断すると、すぐに次の攻撃に移ろうとチェーンを引き戻す。だがその前に首筋に鋭い痛みが走り、一瞬で意識を刈り取られた。
倒れ込んだジェミリアスを片手で受け止めるジョージ。ジェミリアスに素早く特製の麻酔を撃ち込んだジョージは、手に持っていた注射器(空気圧で薬を送り込む物)を投げ捨てた。
不機嫌そうに蹴られた右顔………サイバー箇所となっている顔を撫でながら、ジョージはジェミリアスを見、それからキリル達に目をやった。
キリルとコテツは、ジェミリアスがクラウス達の手にあるために迫る事が出来ず、武装を構えるだけで、冷静に待機していた。
「いきなり初対面の相手に蹴りか………本当ならもう暫く遊んでいたいところなんだけどな。そうもいかないか」
ジョージが首をコキコキ言わせながら言う。ジェミリアスの髪を撫でながら、クラウスはキリル達にようやく目を向けた。まるで害虫を見るような、明らかに見下し、敵意を持った静かな瞳………
「ええ。ジェミリアスのガードも、来てしまった………また会いましたね。キリル・アブラハム」
「お陰様で。久しぶりに会いましたね、クラウス・ローゼンドルフ。………その方を離して貰いましょうか」
不必要に間合いを詰めようとはせずに、離れたままでキリルは持ってきていた銃を構えた。本当ならばジェミリアスのようにいきなり攻撃したい所だが、今までのこの男と対峙した経験と、ジェミリアスが捕まっている事で、すぐにブレーキが掛かった。代わりに小さく唇を噛み、さり気なくクリスティーナへと近付いていく。
次から次へと場面が移っていくのを見ていたクリスティーナ達も、キリルが来た事でようやく活動を再開した。
(キリルさん!一体何がどうなってるんですか!?)
(話せば長くなるんですが………村で爆発音を聞いた途端、ジェミリアスさんが走り出したんで、追いかけてきたんです。敵に見つかる前に追いつきたかったんですけど………間に合わなかったみたいですけどね。詳しい事は落ち着いてから話しますから、協力して貰えませんか?そちらの軍人さんも)
チラッと、キリルはクリスティーナの横で黙ってジョージ達を見ていたアレクサンドルに視線を向けた。敵に気取られないような極々静かな、短い合図だったのだが、アレクサンドルは小さく頷き、いつでもテレパス能力を行使出来るように集中した。
「しかしクロスフォードにボナパルト、ローゼンドルフとは………今宵は裏表の高名なる方々にお会い出来て光栄至極ですな」
アレクサンドルはそんな事を言いながら、テレパス能力でジェミリアスの眠りを覚ましてやろうと働きかける。だがアレクサンドルのテレパスは、ジェミリアスの暴走状態に陥っているテレパスによって、強引に弾かれた。ESPを弾かれた事で精神的にダメージを受けたアレクサンドルは、一歩下がり、顔を顰める。
それがきっかけとなったのかどうかは解らないが………ジェミリアスに、一つの変化が訪れた。
「ん?なんだこの女……」
一番最初にその変化に気が付いたのは、ジェミリアスを抱えているジョージだった。もしジェミリアスがキリル達に背を向けた状態でなかったら、キリル達四人にもジェミリアスの目が真っ赤になりつつある事に気が付いただろう。そして、それが一体何を意味するのかも、何人かが気が付いていたはずだ………
だが、ジョージにはそんな事情は知った事ではない。ただ単に薬が切れかけているだけだろうと判断に、クラウスに顔を向けて指示を仰いだ。
キリルに視線を向けていたクラウスは、ジェミリアスの様子が変わった事に気が付き、すぐにその場を跳んだ。
瞬間、高周波チェーンがジョージを襲った。その速さは先程ジョージを襲った時より数段速い。一切の手加減抜きで繰り出されたチェーンは、ジョージの体を遅い、その体を切り裂いた………
だが一度は見た攻撃。ジョージは体に巻き付こうとする高周波チェーンを素早く下がり、巻き付かれる範囲を右腕だけに止めさせた。高周波チェーンによって、右肘から先の感覚が消失する。
「っちぃ!」
舌打ちしながらジョージはクラウスの隣にまで下がった。距離が開き、ジェミリアスは赤くなった目でゆっくりとクラウス達を睨み付けた。
義手を切り落とされたジョージを見てからすぐにジェミリアスに視線を移したクラウスは、愛おしい物を見るようにニヤリと、静かに笑みを浮かべた。
「やれやれ。持って帰ろうかとも思ったのですが、そうもいかないようですね。ジョージ、後はキリルさん達に任せて、私達は退きましょう。これ以上ここにいると………殺されてしまいますよ」
「…………分かった」
「待てクラウス!」
「キリルさん。彼女の薬はここに置いておきます。また会いましょう」
狙われている張本人であるにも関わらず、クラウスは薬の入っているであろう小さなケースを足下に置き、いつもの調子で姿を消した。クラウスに続いて、ジョージもこれ以上この場にいるのは本格的に危険だと判断し、すぐにその場を後にする。
その後を追跡しようとキリルが足を進めようとすると、キリルの肩にアレクサンドルの手が置かれた。キリルが振り返ると、アレクサンドルが首を振り、周囲を見渡した。コテツもサイバーアイを稼働させ、周りの茂みを探っている。
クリスティーナも手にしているナイフを構え、既に戦闘態勢に入っていた。
キリルも周囲の気配に気が付き、二人を追う事を断念した。
「一体誰なんですか?大人数みたいですが……」
「たぶん、さっき僕達が追い払った盗賊達だよ」
「どうやら、仲間を連れて戻ってきたようですね」
クリスティーナとアレクサンドルの言葉を聞いて、コテツは「俺達はとばっちりか」と呟いた。それから、周囲と現在の状況を素早く読み取り、指示を出し始める。
「キリルさんはジェミリアスさんを頼みます!周りの奴らは、俺達で相手をしますから!」
「ふむ。それが一番良さそうですな」
「急いでくださいね」
「………わかりました!」
キリルはそうとだけ言い、急いでクラウスが置いていったケースへと走った。ケース近くにいるジェミリアスが、急に近付いてきたキリルに反応し、高周波チェーンを振るう。そのチェーンを掻い潜り、キリルはスライディングするかのように滑り込んでケースを手に取り、追撃を掛けてくるジェミリアスから間合いを取った。
だが精神安定剤が完全に切れたらしいジェミリアスは、理性という束縛の無い獣の如く、躊躇無くキリルとの間合いを一瞬で詰める。その速さは、ジェミリアスの戦闘を度々見ているキリルでさえ目で追うのが難しかった。
(躱しようのないエスパー能力を使われないだけずっとマシですが……長くは保ちそうにないですね)
次々に放たれる攻撃を紙一重で躱し続けるキリル。まだほんの数秒の交戦しかしていないが、とても出はないが長い間は保ちそうにない。
キリルが手にしていたケースにチェーンが掠り、蓋が四散した。飛び散る薬の入った小さな小瓶の数々………その中から一つのアンプルを見つけ、キリルは一緒に飛び散った注射器を手に取った。素早く注射器にアンプルをセット(注射器に直接セット出来るようになっていた)し、ジェミリアスの隙を窺う。
(これが効かなかったときのことは………考えたくないですね)
あの男を信用する訳ではないが、クラウスの作った精神安定剤がもし効かなかった時は、このままジェミリアスが大人しくなるまで戦う事になる。そうなったら、ジェミリアスか自分か………恐らくは、自分の方が只では済まない。
表では元対テロ特殊実戦部隊『銀狼』の指揮官であり、裏でも特殊工作員をしているジェミリアスの実力は生半可な物ではない。
しかも、周りからは盗賊達も来ている。あまり時間を掛けると、他の三人が討ち漏らした敵がこちらにも来るだろう。
キリルは決心を固めると、ジェミリアスの懐に自分から飛び込んだ。今度はチェーンではなく、ボディーブローを決めに来るジェミリアス。キリルはそれをあえて躱さずにまともに受けた。意識が飛びそうになるのを必死にに繋ぎ止め、強引にジェミリアスの手を押さえてチェーンを触れないように押さえつけ、大きな木に押しつけた。
赤い目で睨み付けてくるジェミリアス。キリルは手を振り解かれるよりも速く、ジェミリアスの腕に注射器を押し当てた。
押し当てた途端、注射器の中に入っていた精神安定剤が バシュッ と言う強い音を立てて、ジェミリアスの体の中に流れ込んだ。しばらくの間は藻掻いていたジェミリアスだが、ほんの十数秒も経たないうちに、藻掻く力を弱め、目から赤い色が退いていった……
「大丈夫ですか?」
「ここは………また私やっちゃった?」
ようやく正気を取り戻したジェミリアスは、自分を気に押しつけるようにしているキリルを見てから、そうとだけ呟いた。
村では僅かに目の焦点が合わさっていなかったが、今でははっきりとキリルの事を認識出来ているようだ。
クラウスが置いていった薬がちゃんとした物だったのだと安心し、キリルは脱力したように膝を軽く折った。
そして、ほんのコンマ数秒前まで頭のあった場所を、銃弾が飛んでいく。続いて茂みの中から飛び出してきた盗賊を、ジェミリアスが蹴倒し、チェーンで切り裂いた。
「……あまり安心して良い状況じゃ無さそうね」
「ですね。広場でみんなが応戦してくれていますから、今のうちに合流しましょう」
襲いかかってくる盗賊達を蹴散らしながら、二人はすぐにその場を離れ、仲間達を合流した………
★★★
ジャングルを見回せる丘の上から、クラウスとジョージは盗賊と戦う四人の事を眺めていた。盗賊達を再び蹴散らし、追い散らす四人を見て、クラウスは相変わらずほくそ笑んでいる。
「やはり良いですねぇ、彼女たちは」
「そんなに気に入ってるのか…………あの女が」
切り落とされた義手を撫でながら、ジョージは不機嫌そうにそう言う。
踊る者と踊らされる者。クラウスという指揮者は、自分の愛しい者が戦うのを眺めてか
ら、静かにその場を立ち去った。
★★参加PC★★
0656 クリスティーナ・クロスフォード
0544 ジェミリアス・ボナパルト
0627 クラウス・ローゼンドルフ
0634 キリル・アブラハム
0713 アレクサンドル・ヨシノ
0647 コテツ・アヅマ
0718 ジョージ・ブラウン
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