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The Hermit of Silence
はる
都市マルクトの片隅でその男を見かけた。
漆黒の肌に、真紅の瞳…異様な空気を纏うその男は悠然と人間の間をすり抜けていった。
ビジターではない、かといって堅気の人間ではありえない。奴は何者だ。思わず、男の後を追った。
路地から路地へ、入り組んだマルクトの街並みの中。既に何処をどう歩き自分の現在地すら曖昧になったころ。
突然、開けた場所へでた。
「……俺になにか用か？」
尾行にいつの間にか気が付いていたのか、ジャンク品の山の前で悠然と長身の男が腕組みをして立っていた。
「いや、別に……！？」
辺り散らばるゴミの間にある、白いものが目に飛び込んできた。滑らかな白いそれは……人骨。
「たまに、人間の中にもお前みたいな勘の鋭いやつがいる……と、いっても俺も自分のことをいいふらされちゃこまるんでな……」
悪いが……大人しくして、もらうぜ。
不敵に微笑む男はその背から巨大な翼が広がる。異形の存在に姿を変えた。
「ま、まさか…」
タクトニム！？
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「いちお、名前だけは名乗っておくわ。あたしは空、白神・空よ！」
ギラギラと獲物を狙う獣の眼差しで、空は目の前のタクトニムを睨み付けた。
知っていうる、この匂いは覚えがある……
「あんた、あのとき傍にいたわね」
「あの時？」
それは、何回か前のセフィロトへの挑戦の最中…あの少女の周辺で嗅いだ匂い。どこか虚ろな鉄錆のようなくぐもった匂い。
「惚けてもムダ、あの子とどういう関係なの！」
落したいと欲しながら、落しきれなかったことも稀ならば、この手から逃げ去ってしまったのも希少。それなのに……この、目の前にいる存在は、彼女にその残り香がつくほど傍にいるというのだ。
「ゆるさない……あの子はあたしが見つけたのよ！！」
変容は一瞬。空の体は白銀の獣毛に覆われた獣に姿を変えた。
「何なんだいったい……？」
空の剣幕に、タクトニム眉をひそめる。
「あの子のことを知っているのは、私だけで十分なの！」
鋭い爪の一撃は交わされた…相手は空中、ならば……白銀の狐の毛並みが逆毛立ち、その尾が大きく膨らむ。
パリパリと周囲に放電が散る。
「……これでも、食らうがいいわ！！」
妲妃と空自身が呼ぶ、獣の意志に従いその毛並みと同じ色合いの光の柱が中天からそれを貫いた。
光の槍と呼ぶにふさわしいであろう、激しい雷撃。一呼吸置いて、その後に轟音が鳴り響いた。
「あはははは……いい気味♪でも…これで終わりなんていわないわよね？」
けたたましく笑う。いつもの空ではありえない、まるで嫉妬に狂った女の様。
否、空はその嫉妬に狂う自分の様に酔っていた。
「……いったい何なんだ…貴様…」
たたき付けられた、地面からゆっくりとタクトニムが体を起こす。軽く頭を振るその様子に、さほどダメージらしいダメージは見えない。
とっさに、地に電撃の衝撃を逃がしたのだろう。
「そうこなくっちゃ」
面白くない。
「あたしから、あの子を奪う奴をこんな簡単には許してあげない」
「奪うとはなんのことだ」
「わからないならそれでいいわ、あたしがわかってるから」
理屈など何も無い、自分本位な物言い。
「ぐっ……」
ダンっとヒールの鋭い踵で、起き上がろうとするその胸を踏みつけた。
呻きを無視して、その顎を回転を加えながら蹴り飛ばす。手加減などは一切加えていない、鋭い本気の一撃に流石のタクトニムも手を焼いていた。
「あら、そんな顔もできるの？」
人間じゃないのに上手ね。苦痛の表情を作るそれをあざ笑いながら、さらに獣人の重い拳が追い討ちをかける。
「やる気あるの？」
「やる気とか関係あるのか……これが…」
「関係ないわね。あたしがやりたいからやってるの」
当初の目的など、些細なこと。その目的こそが口実に過ぎないともいえた。
強者が弱者から搾取する……それは、人のみならず獣達の世界にも共通する生命の道理。
話し合いなどコミュニケーションといったことは弱者のすること…欲しいなら力で奪い取ればいいのだ。
「あの子は、蕾なの。それを花開かせるのはあたしだわ」
「そんなこと俺には関係ない！」
空の叫びにタクトニムも、力で応える。
爪と爪、牙と牙……本気の力のぶつかりあい。
「俺は貴様など知らぬ！」
鋭く伸びた、爪が空の胸元を引き裂く。だがそれは浅く、絶対的な一撃にはなりえない。
「あんたが知らなくても、あたしはが知ってるからそれでいいのよ！」
活性化した細胞が、傷を瞬時に癒す。傲慢な物言いに、見合った強気な視線がタクトニムを射抜いた。
「あたしからあの子を奪う全てをあたしは許さない」
それが本心………そして、全て………
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あはははは………」
ふっと突然に殺気を解き、体を九の字にして空が笑い出した。
「あー楽しかった」
「？」
何なんだこの人間は、といいたげな眼差しが用心深く笑いつづける空の動きを見つめる。
「たまには、思い切り発散することも大切よね」
一頻り纏った嫉妬に狂った女という役柄に空は満足してた。
「いったい貴様は一体何なんだ……」
「貴様じゃなくて、あたしは空よ」
破れてかぎ裂きだらけのジャケットを脱ぎ捨て、長い髪を掻き揚げニッと空が微笑んだ。
「タクトニムと言えども男だし。共存共栄できそうだし」
「は？」
好みとは少し年が重ねているが、このタクトニムの顔も悪いわけではない。
「あんたが女だったら…殺してたかもしれないけどね……」
突然の空の変容に戸惑うような表情も、また面白い。
新しいおもちゃを見つけ、空は心の中でほくそえんでいた。
まったくもって、この町は面白い、つくづく飽きる暇がないほどにいろいろなことが立て続けに起こるものだ……
「どうせ、こんなところにいるんだから暇でしょ？」
朝まで付き合いなさいよ。
「何をだ……」
この女は何を言い出すのだろう……まったく状況が把握できずに、目の前のタクトニムはがりがりと頭を抱えていた。
そんな人間のような様子を観察するのも面白い。
「付き合うっていったら決まってるでしょ♪」
こんな時間にあいている店といえば、アルコール類を出す大人の店ぐらいしかない。
「この格好でか…？」
二人ともかすり傷だらけ、服も余りきれいとはいいがたい。
「大丈夫よ、どうせこの町の人間なんだからちょっとした痴話げんかぐらいにしかおもわれないわ」
そう、他人のことに気をとめるような奇特な人間などここでは皆無に近い。埃さえ払ってしまえば、体裁を余り気にせずに気軽に飲める店もまた多い。
「それとも、あんたの正体がばれるのが心配？」
「いや…どうせここの人間に俺のことなどわかるはずがない」
俺はこの場にいるはずのない、存在だから……公言しなければばれるわけがない。
「ならいいわよね♪」
はたして、タクトニムはアルコールに酔うのだろうか？ふと浮かんだ疑問を笑顔で振り払い、空はまるで年頃の恋人達がそうするようにタクトニムの腕を取った。
瞬きのような逡巡の後、あきらめたようにタクトニムは軽く頭を振った。
出会いは偶然と必然のめぐり合わせ…この出会いがこの先めぐりめぐってどのような形をなすのかはまだ誰も知らない……。
【 Fin 】
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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【整理番号 / ＰＣ名 / 性別 / 年齢 / クラス】
【0233 / 白神・空 / 女 / 24歳 / エスパー】
【NPC / アフラ】
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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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白神・空様
お届けが大変遅くなってしまって申し訳ありませんでした。
何時もお世話になっておりますはるでございます。
パーティノベル専用シナリオ『The Hermit of Silence』へのご参加ありがとうございました。
嫉妬に狂った女のように……ということで書かせていただきましたが…何時もの空様のイメージを壊していないかどうか……
二人称をどのようにするかで、少々迷いましたがあえてこのような形をとらせていただきました。
イメージと違うというようなことがありましたら遠慮なくお申し付けくださいませ。
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