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都市マルクト【整備工場】武器マーケット
相棒探し
徒野
整備工場名物の武器マーケットだ。
自分にあった新しい武器を探すのも良い。
頼めば試し撃ちくらいはさせてくれる。弾代は請求されるけどな。色々試してみたらどうだ?
新しい武器がいらないとしても、今使ってる武器の弾や修理部品を探す必要もあるだろう。
まあ、楽しみながら色々と見て回ってくると良い。売り子の口上を楽しむのも面白いぜ。
それに、ここで目を鍛えておかないと、いつか不良品を掴まされて泣く事になりかねないからな。
何事も経験と割り切りながらも慎重にな。
あと、掘り出し物だと思ったら、買っておくのも手だ。商品は在庫限りが基本で、再入荷なんて期待は出来ないぞ。
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「うっわ……凄い数の店と人……。」
――整備工場名物の武器マーケット。
其の入り口で、多少呆気に取られた様に少女が一人呟いた。
丈の短いタートルネックの黒いノースリーブシャツ、レザー製ショートパンツ姿の上に白衣……と云った特徴的な格好をした少女の名は門屋・嬢。
護身用の銃を求めて遣って来たのは良いのだが、嬢自身にそう云った知識が全く無い為、さて如何したものかと云った体だった。
だからと云って店の主人に任せ切るには少々……否、大分不安だ。
此方が素人なのを良い事に、粗悪品やら不良品やらを売り附けられかねない。
「ま、考えてても仕方無いし。取り敢えず、何か探してみますか。」
嬢は腹を括って歩を進めた。
此のマーケット、出ている店は凡て露天で、然も其の殆どが路上にシートを広げ商品を並べていると云ったフリーマーケット状態なので、斯う云った場に慣れていない嬢でも気軽に見て廻れた。
――どれどれ……。
嬢は一件目の露天を覗き込む。
「よ、色々揃ってるからじっくり見て行ってよ。」
店主の声に、頷きはするが。
――確かに種類は多いんだけど……ちゃんと使えるのか、此。
ともすればアンティークと呼べそうな機器を前に嬢は考える。
「……んー、パス。亦今度な。」
結論、そう云って手を振って店を離れた。
彼の店は何方かと云うとコレクター向きなのだろうか。
二件目は……。
「ぁ、其処の可愛い御嬢ちゃん。見てって見てって。」
「…………。」
スルーした。
相手に悪気が無いのは解っているのだが、長年のコンプレックスには勝てず、其の呼び方に多少腹立った為である。
「……ん、」
其の侭の勢いで三件目の前迄行くと、嬢は不図足を止めた。
「何か気に為るモノでも有ったかい、」
店主にそう笑い掛けられて、嬢は苦笑を返す。
「否、此……。」
嬢はしゃがみ込んで紅房と蒼房が其れ其れ附いた武器を指す。此なら自身でも使えそうだ。
「嗚呼、此は『十手』とか云う古い時代の武器らしいよ。使ってみるかい、」
店主は軽く武器の説明をした後、其の二本を嬢に差し出した。
「良いんですか、」
嬢は嬉々として其れを受け取ると、周囲に人が居無いのを確認してから軽く振ってみる。
重過ぎず軽過ぎず、持ち手も確りと手に馴染む。こんなにも扱い易くしっくり来る武器は初めてだ。
「気に入ったかい、二つセットなら勉強するけど。」
にこにこと人の良い笑顔を崩さない店主の言葉に、嬢は二つ返事で頷いた。
「勿論、二つ共頂きます。」
* * *
「さて、良い買い物をしたのはしたんだけど……。」
――本来の目的は銃の方なんだよな。
嬢はそう思い乍も、選びかねて店を覗いたり離れたりする。
そんな、一寸余所見して居た時に、向かいから歩いてきた誰かにぶつかった。
「……わっと、済みません。」
「いえいえ、」
相手は、女性的な躯を男物のシャツとジーパンに包んだ少女。
其の少女は微笑むと、其の侭嬢に話し掛けてきた。
「貴方、先程から何か探している様だったけど……私で良ければ手伝いましょうか、」
文字通り、一人で途方に暮れていた嬢に取って其れは魅力的な申し出であったが。
「ぇ、でもあんたの用事は……、」
彼女も此処に居る以上、何かを求めて来ている筈だ。其れを邪魔するのは忍びない。
「良いのよ。もう終わってるわ。」
此の辺りでは珍しく、きちんと紙袋に収められている商品を掲げると、相手の少女は名を告げた。
「私はマリア・スミスよ。貴方の名前は、」
「門屋・嬢だ。……ぇー、じゃぁ御言葉に甘えて。」
――良かった、あたし一人じゃさっぱりだったんだ。
そう云って苦笑する嬢に、マリア・スミスは先を促す。
「其れで、何を探していたのかしら、」
「嗚呼、護身用の銃を買いたいんだけどさ……何を選べば良いかさっぱりで。」
「銃か……。」
呟いて、僅かに表情を曇らすマリアに嬢は慌てる。
「ぇ、駄目……か、」
「いえ、駄目じゃないんだけど……あんまり薦めないわね。」
――何から身を護るかに因って銃は全く役に立たない事も有るし、何より武器に依存して仕舞うとより危険だから……。
説得力の有る説明に嬢も納得する。
「そう、だなぁ。」
「まぁ、でも頼り過ぎなければ持ってて損する事はないと思うわ。」
マリアは嬢を連れて、眼を附けていた良品店を廻る。
「何か御奨めとかって有るか、」
嬢の問い掛けに、マリアが答えようとした時だった。
「おや、見た顔が居ると思えば嬢か。」
「……ヒカル、」
背後から掛けられた声に振り返ると、知り合いであるヒカル・スローターが居た。
「御知り合い、」
首を傾げて問うマリアに嬢は頷いて、紹介する。
「ヒカル・スローターって云うんだ。」
其れに合わせてヒカルはマリアに一礼した。
「私はマリア・スミスよ。」
マリアも一応自己紹介を返し。
其れに一言「宜しく、」と告げてから、ヒカルは視線を嬢に戻した。
「嬢が如何してこんな処に、」
問われて、嬢は本日二度目の返答をする。
「護身用の銃を買いに来たんだけどさ、さっぱりで。」
――今、マリアに見て貰ってた処なんだ。
成程、とヒカルは頷くと斯う云った。
「ならば私も手伝おう、任せておくが良い。」
「其れで嬢は、何から身を守る為に銃を持つ積もりなんだ、」
三人に為って、もう一度店を周り乍ヒカルが問う。
「そう、だなぁ……其の辺のチンピラなら素手で如何にでも為るし……。」
嬢は考え乍答える。
「矢っ張、一寸強い人間から……はぐれタクトニム位かな。」
「ほう。」
ヒカルは其の条件に合いそうな銃を頭の中で即座に検索する。
「護身用って云う位だから、別に戦って倒したい訳じゃないのよね、」
「嗚呼、逃げる隙を作る程度で良いかなと思ってるけど。」
僅かに首を傾げたマリアに、嬢は頷く。
「そ。私も、襲われたら隙を見て全力で逃げる方。」
笑い返すマリアの横から、ヒカルが顔を出す。
「嬢、矢張り大型はキツイか、」
「うん、前デザートイーグル使ったんだけど反動が大きくてなぁ……。」
と或る店の前で、実物を前に話し合う。
「小型ならデリンジャーSSBが御薦めよ。若しくはワルサーPPK/Sね。」
偶然有った実物を、マリアが持ち上げて見せる。
ワルサーPPK/Sの方が若干大きいが、確かに何方共掌サイズだ。
「人間なら未だしもタクトニム相手なら実弾で無いと駄目だな。」
――まぁ、実弾ですら意味を成さない場合も有るが……。
そう云ってヒカルはマリアからデリンジャーSSBを受け取る。
「実弾以外にも有るのか、」
不思議そうに嬢が首を傾げる。
「ガスガンって云ってね、……大体8mmのBB弾を使うのが有るの。」
「そうだ。ガスガンなら此のデリンジャーでも八発装填出来るのだが……実弾となると二発しか装填出来ない。」
マリアとヒカルが丁寧に説明する。
「ワルサーの方は実弾でも七と一で八発装填出来るがな。」
「ふぅん……。」
二人の説明を聴き乍、嬢はデリンジャーとワルサーを交互に見る。
「ま、要人暗殺とかに使用される位だからデリンジャーでも威力は充分よ。」
マリアが肩を竦める。
「嬢が気に入った方を選ぶと良い。」
ヒカルとマリアが其れ其れ一丁を嬢に手渡す。
「……うーん……。」
嬢は暫く二丁を見ていたが、其の内一丁を店先に返した。
「じゃぁさ、こっちにする。デリンジャー……っての、」
嬢は苦笑して、掌に収まる曲線を帯びた銃を示した。
「矢っ張さ、あんまり弾数多いと頼っちゃいそうだからさ。」
「そうか、」
そう云って頷く二人の前で、嬢は其れを購入する。
「さて……、今日は有難うな、」
嬢が頭を下げてから微笑むと、ヒカルは僅かに驚いた様な表情をした。
「何を云ってるんだ。」
「否、本当に助かったから……、」
「未だだぞ。」
「……ぇ、」
そう云うとヒカルとマリアは両脇からがっしと嬢を捕まえた。
「では射的場をレンタルして、試射しないとな。」
「ぇ、えぇ。」
「何、貴方如何遣って練習する気だったの、」
「え、否……、」
――でも、其処迄迷惑は……、
嬢がそう云い掛けると、ヒカルは微笑んだ。
「何、情けは人の為ならずと言うではないか、先行投資と云う奴だ。だから気にするでないぞ。」
そして嬢は其の後、二人の見守る中みっちりと射撃の訓練をさせられたのだった。
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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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[ 0517:門屋・嬢 / 女性 / 19歳 / エキスパート ]
[ 0541:ヒカル・スローター / 女性 / 63歳 / エスパー ]
[ 0717:マリア・スミス / 女性 / 18歳 / ハーフサイバー ]
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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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初めまして、徒野です。
此の度はパーティノベル『セフィロトの塔』、御指名頂き誠に有難う御座いました。
三名様での此が初めてで……。口調の不備等、至らない処が有りましたら済みません。
其れ其れタイプの違う御嬢さん方が書けて愉しかったです。
此の作品の一欠片でも御気に召して頂ける事を祈りつつ。
――亦御眼に掛かれます様に。御機嫌よう。
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