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ボトムラインアナザーｅｘｔｒａｃｔ私に教えて下さい！
――フェニックス。
アメリカ南西部ソノラン砂漠の中心にある町である。
太陽の谷とも呼ばれたこの町を訪れる者は様々だが、皆どこかに焦燥感を持っている者ばかりだ。中でも、戦場の硝煙の匂いと緊張感が忘れられない者が多く訪れる。
――ボトムライン。
かつて警察の賭博だったモノが何時の間にか広まったＭＳ（マスタースレイブ）バトルだ。
何ゆえ金色の大海に囲まれ、気温は４０度を越える町で開催されているのか定かでないが、密かな話題になっていた。
この物語は、硝煙の匂いと鋼鉄の弾け合う戦いを忘れられない者達が、トップ・ザ・バトラーを目指して戦い合う記録である――――
●出会い
フェニックスの町には、ボトムラインコロシアムを中心とした大きな商店街がある。
灼熱の陽光から身を守るように建てられた商店街は、ソーラープラントの復旧により、快適な温度でショッピングを楽しめるようになっていた。今日も多くの人々が溢れ、買い物や食事を楽しむ。
そんな平穏を絵に描いたような一郭を、神代秀流と高桐璃菜は歩いていた。長めの黒髪にヘッドギアを装着する青年は、両手一杯に買物袋を抱えており、一歩前を、柔らかそうな腰ほどまで届く緑色の髪をふわりふわりと揺らした少女が、満足そうな笑みを浮かべながら軽やかにステップを踏んでいる。どうやら買い物の帰りらしい。
「意外とフライトチキン美味しかったね♪」
肩越しに秀流へと大きな赤い瞳を向け、璃菜が話し掛けた。青年は買物袋の隙間から、少年の面影を残す端整な風貌を覗かせる。
「あぁ、値段の割りにはボリュームもあったしな」
「そうね、私には多過ぎたけど。でも、秀流はタンクトップとショートパンツのウェイトレスに目がいってたんじゃないのぉ？」
悪戯っぽい微笑みを向けられ、青年は「からかうなよ」と困惑した表情を浮かべた。こんな余裕のある会話が成立するのも、お互いの絆が確かな証だろう。
『あ、あのぉ、ボトムバトラーですか？ あ、ごめんなさいッ！』
人波が行き交う道端から焦ったような戸惑う少女の声が流れた。璃菜が瞳を流すと、見覚えのある顔が映る。ボリュームのある癖っ毛の赤いショートヘアと極めて童顔の顔立ち――――。
「あら？ 秀流、あの娘‥‥」
「あん？ ‥‥キサトじゃないか！？」
しなやかな指が注した方角へ視線を向け、青年は素っ頓狂な声をあげる。暫し呆然とする中、器用に人波を潜り抜け、璃菜が歩み寄ってゆく。明らかにコチラへ向かって来る少女を捉え、キサト・テッドは、あどけなさの残る端整な風貌の美少女へと顔をあげた。
「あなた、キサトってボトムバトラーよね？」
「‥‥そうですけど。あ、ボトムバトラーですか？」
「んー、ボトムバトラーのパートナーかな？」
やや腰を屈めて赤毛の少女と会話する中、遅れて秀流が二人の元へ辿り着く。キサトの瞳が青年を捉え、期待に広がってゆく。
「わたしと戦った事あるよね？ キサトだよッ！」
「あぁ、元気そうだな。それより何しているんだ？」
一歩踏み込み、キサトは秀流を見上げて、豊かな胸元で両手を組む。
「わたし、バトルに勝ちたいんです！ 戦い方を教えてくれませんか？」
僅かな沈黙が過ぎった後、青年は頬をポリポリと掻きながら困惑の色を浮かべた。
「‥‥戦い方って、おまえ、それでこんなとこに突っ立ってたのか？」
「だって‥‥あそこにいても勝てないんだもん」
寂しそうに視線を逸らした後、再び瞳を潤ませて哀願を始める。
「勝ちたいんです！ ダメですか！？」
「ダメっていうか‥‥」
脳裏に端整な風貌の青年が過ぎる。まさか逃げて来たのか？
「いいんじゃない？ 秀流」
青年を現実に引き戻したのは璃菜の軽い声だ。予想しなかった展開に、秀流は大きく瞳を見開いて彼女を見つめた。パートナーの少女は穏やかな微笑みを浮かべる。
「私達で力になれるなら、いいんじゃない？」
「本当ですか♪ ありがとうございます☆」
こうして秀流と璃菜はキサトを自宅へと連れて行く事となる――――。
●神代コーチの場合
自宅の備え付けガレージで特訓は開始された。
「んー、まずは基礎知識からかな」
キサトと対峙する中、青年はＭＳに乗っての特訓を直ぐに行わない事を告げる。僅かに赤毛の少女は戸惑いを浮かばせたが、素直に従うようだ。元気な声で「はい☆」と返事すると、秀流の言葉を待った。慣れないのか、困惑の色を見せながら咳払いを一つ、神代コーチは説明を始める。
そんな様子を見守りながら、璃菜は気づかれないようにクスリと笑った。
「ＭＳ操作の基本だが、要は自分の動きをトレースするものだから、まずは自分自身の身体をある程度自由自在に動かせるようにならないといけないんだ。‥‥分かるか？」
「はい！」
「‥‥よ、よし。つまり、自分を鍛えなければＭＳも応えてくれないって訳だ。先ずは自分の身体を動かす事から始める。璃菜、キサトに運動できる服を貸してやってくれ」
「え？ 構わないけど」
「あ、わたし、バトラースーツ持って来てるよ♪」
赤毛の少女はバックを指差すが、秀流は首を横に振る。
「いや‥‥もっと普通のにしてくれ。璃菜、レオタードとか運動着はあるだろ？」
「それは‥‥モデルもやってたから、あるにはあるけど‥‥良いわよ、こっち来て」
璃菜に手を引かれ、少女達が自宅へと消えると、青年は深い溜息を吐いた。殆ど独学で技術を磨いた秀流にとって、教えるという感覚に慣れていない。まして、成り行きの如く少女を預かったようなものだ。彼は頭の中で、訓練メニューをイメージしていた。暫らくして二人が姿を見せる。
「‥‥なんか、胸の辺りがキツイよぉ」
「バ、バランスが大事なのよ。さ、用意できたわよ☆」
璃菜とてモデルを務めた経験もあるスタイル抜群の少女である。ただ、若干、たわわな果実は負けていたらしい。
秀流は何度か瞬きを繰り返す。瞳に映ったのは、レオタードに身を包んだ二人の少女だ。健康的が色香が無機質なガレージに漂う中、突っ込まずにいられない事がある。
「璃菜、なんでおまえまで着替えるんだよ？」
「ヨロシクね、神代コーチ☆」
ピョンと跳ねて緑の髪を揺らして満面の笑みだ。
訓練は小学校の体育でやるような基礎的な運動から行われた。二人の少女は未だ１０代後半の若さであり、平均的な体力と柔軟性、そして瞬発力もあるようだ。多少へばり易いのは、エスパーの性であろうか。秀流が吹く笛の音が響く中、少女達の運動は続く。
「よし、次は鬼ごっこでもするか」
「鬼ごっこ？ うん、やる♪」
赤毛の少女が胸元で拳を固める傍らで、璃菜は素っ頓狂な声で返す。
「なに？ 秀流も遊びたくなったの？」
「おいおい、子供じゃあるまいし、特訓メニューだよ。鬼ごっこはな、如何に相手の動きを先読みできるか、つまり瞬発力と判断力を鍛えるのに最高の遊びなんだ」
「ふーん、そうなんだ」
「試しに二人で俺を捕まえてみろよ」
秀流が不敵な笑みを浮かべ身構える。次第に瞳が研ぎ澄まされ、端整な風貌に精悍さが浮き出す。対する少女達は微笑み合うと、一気に青年へと駆け出した。
「えいッ、とおッ、あれッ、それッ」
「このッ、なんでッ、あんッ、ちょっとッ、捕まえさせてよッ」
秀流は駆け回る事なく、縦横無尽に軽やかなステップを刻み、僅かな体捌きで少女達の手から逃れ続けてゆく。ストリートファイトで培った技術は、璃菜の願いを叶えてはくれない。
「甘いな！ よく相手の動きを見ろ！ ‥‥っておい？」
余裕の笑みを浮かべて軽やかに黒髪を揺らす中、二人の少女は腰を屈め、荒い息を弾ませていた。仕方なく青年は動きを止め、顔を覗き込む。刹那キサトと璃菜の瞳がキラン☆と輝いた。
「「えーいッ！」」
不意打ちの突撃を食らい、秀流は強かに背中を打ち付け、二人の少女に押し潰される。これはこれで役得かと思ったか否か。
暫らく休憩した後、鬼役は交代された。当然、神代コーチに敵う訳が無いのだが、甲高い悲鳴をあげられたり、痴漢とか言葉の牽制を浴びせる璃菜に難儀したものだ。逆に彼女が鬼役になると、いとも簡単にキサトが捕まえられたのには唖然とした。璃菜とて護身術位は身に付けているのだ。赤毛の少女が鬼役では‥‥言うまでもないだろう。
「キサトは動きが硬いな。もっと柔軟に動けなければ勝てないぞ」
「ハァハァ、は、はい！」
疲労を色濃く浮かばせるものの、キサトの瞳は死んではいなかった。
一旦夕飯を取り、暫らく休憩した後、次のステップに続く――――。
「ドッジボール！？」
璃菜が素っ頓狂な声を響かせると、赤毛の少女は円らな瞳で二人に視線を流した。青年は不敵な笑みを浮かべてボールを指で回しながら口を開く。
「あぁ、まあ、この人数でやれる球技を考えたら一番かなってな。キサト、ボールは敵の射撃武器だ。相手が自機の何所を狙っているか判断しなければ思わぬダメージを受ける」
「え〜、敵の銃弾なんて避けられないよぉ」
「そんなの当たり前だろ？ 大切なのは狙わせない事だ」
上目遣いで唇を尖らす少女に、秀流は当然のように答えた。璃菜が口元に指を当て、訓練の意図を読み取る。
「んー、つまり動き回れってこと？」
「あぁ、撹乱するんだ。当然、ボールより銃弾の方が速いが、大きなは小さい。この訓練は効果的だぞ。璃菜とキサトが組みで、俺と対戦な」
「よーし！ 叩き込むわよ、キサトちゃん」
「はいッ、璃菜さん！」
少女達が可愛らしい顔に不適な笑みを浮かべ合う。これでは正義のヒロインと対峙する悪の指揮官のようだ。しかし、ここでも簡単に秀流がやられる事はない。それでも、少しずつ、キサトの動きに変化が見られ、青年は薄く微笑んでいた――――。
●最終特訓
――翌朝。
荒野に赴いた三人はＭＳでの特訓を繰り広げていた。
キサトにはエリドゥーが貸し出され、璃菜が見守る中、機動音と鈍い打撃音が周囲に響き渡る。
「よく狙え！ １、２！ 何をしている！ 機体に当っているぞ！ もっと大きく動いて躱すんだ。ほら、直ぐ戻らないと攻撃できないぞ！」
それはボクサーのミット打ちを連想させる特訓だった。秀流の駆るＭＳの掌が向けられた時にパンチを繰り出し、偶に放たれる反撃を躱すというものだ。当然ＭＳの視界には限りがあり、感覚も微妙に違うのだが、何度も何度も繰り返された。極度の緊迫感と集中力で、キサトはコックピットで息を荒げる。
「１、２！ くぅッ、３！ １、２！ ３！ ハァハァ‥‥」
『よし、前より良くなったぞ。じゃあ、俺に一発当てたら講義終了な。俺も攻撃するから先にヘバるなよ』
「は、はいッ！」
望遠カメラ越しの視界で、恐竜のシルエットが小刻みに動く。キサトは瞳を研ぎ澄ますが、なかなか隙を見付ける事が出来なかった。刹那、コックピットが激しく揺れ、鈍い打撃音が反響する。
『ちゃんと見ているのか？ 何をしている！ ガードか躱すかしたらどうだ！』
「うぅ〜ッ‥‥はい！ えーいッ！ それッそれッ！ わっ！ やんッ！」
『忘れているんじゃないか？ こんな攻撃はサービスでも当たる訳にはいかないな』
――接近戦は直線じゃない！ 曲線を使うんだ！
「‥‥曲線。あ、でも、そればかりじゃダメだよね」
「ほぅ」
護竜の視界で動き回るエリドゥーの攻撃が変わった。フックやアッパーを追加したコンビネーションを繰り出して来たのだ。秀流が口元を緩ませると同時、鈍い打撃音が響き渡る。
「‥‥あ」
見守る璃菜の赤い瞳の中で、ＭＳがゆっくりと崩れた。
「ス、ストップストップ！ 秀流！」
緑色の長髪を舞わせながら少女が慌てて駆け寄り、膝を着いたＭＳの胸部ハッチを開いて中を覗き込んだ。
「ちょっと、大丈夫？」
「‥‥あ、当りましたよね？ さっき」
息を弾ませながら疲労が色濃く浮かぶ顔を向け、赤毛の少女が微笑んで見せた。璃菜も同じ表情を浮かべて応える。
「うん、ちゃんと護竜にヒットしてたよ☆」
「自分の機体をもっと好きになればもっと上達すると思うよ」
傍に歩み寄った秀流がキサトへ伝えた。赤毛の少女に肩を預けて璃菜が力強く頷く。
「自分の、機体？」
「そうよ。さ、疲れたでしょ？ 汗を流そうね☆」
短くも充実した特訓は終演を迎えた。寄り添いながら車に向かう二人を見守り、秀流はポツリと呟く。
「後はキサト次第だな」
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号／ＰＣ名／性別／年齢／クラス】
【0577／神代・秀流／男性／20歳／エキスパート 】
【0580／高桐・璃菜／女性／18歳／エスパー】
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■ ライター通信 ■
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この度は御参加ありがとうございました☆
お久し振りです♪ 切磋巧実です。
需要があるか不安でしたが、外伝への参加とても嬉しく思っています。
始めに『この物語はアメリカを舞台としたボトムラインです。セフィロトにボトムラインはありませんので、混同しないようお願い致します』。また、ＭＳの演出面もオフィシャルでは描かれていない部分を描写したりしていますが、あくまでライターオリジナルの解釈と世界観ですので、誤解なきようお願い致します。
さて、いかがでしたでしょうか？ 今回は特訓内容から格闘中心として演出させて頂きました。球技は小人数でも楽しめるドッジボールとしてみました。基本は鬼ごっこと同じ感じですので、割合させて頂きました事を御了承下さい。なかなか良い特訓メニューだと思います。きっと、キサトのバトルに変化が訪れる事でしょう。
楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
それでは、また出会える事を祈って☆
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