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ボトムラインアナザーｅｘｔｒａｃｔ私に教えて下さい！
――フェニックス。
アメリカ南西部ソノラン砂漠の中心にある町である。
太陽の谷とも呼ばれたこの町を訪れる者は様々だが、皆どこかに焦燥感を持っている者ばかりだ。中でも、戦場の硝煙の匂いと緊張感が忘れられない者が多く訪れる。
――ボトムライン。
かつて警察の賭博だったモノが何時の間にか広まったＭＳ（マスタースレイブ）バトルだ。
何ゆえ金色の大海に囲まれ、気温は４０度を越える町で開催されているのか定かでないが、密かな話題になっていた。
この物語は、硝煙の匂いと鋼鉄の弾け合う戦いを忘れられない者達が、トップ・ザ・バトラーを目指して戦い合う記録である――――
●出会い
フェニックスの町には、ボトムラインコロシアムを中心とした大きな商店街がある。
灼熱の陽光から身を守るように建てられた商店街は、ソーラープラントの復旧により、快適な温度でショッピングを楽しめるようになっていた。今日も多くの人々が溢れ、買い物や食事を楽しむ。
そんな平穏を絵に描いたような一郭を、壮年の男と魅惑的な美女が歩いていた。彼の方は額が広く、茶髪はオールバックに纏め上げられており、口髭を浮かばせる顰め面。彼女の方は金髪にテンガロンハットを被り、カウガールの衣装から豊か過ぎる二つの膨らみを揺らし、振り返る男達の視線を釘付けにしている。しなやかに延びた手足も程好い肉つきで、所謂、ムチムチぷりぷりってやつだ。どこから見ても不釣合いな二人。加えて男の方は迷惑そうにも窺えた。女――べラ――が若草色の瞳を流す。
「何だよキリル、いつまでも仏頂面しやがってよ。ちったぁ微笑み掛けてもいいんじゃねーの？」
「‥‥話し掛けないで下さい」
「はぁ？ あんた何いうかなぁ。こんなムチムチぷりぷりな美女と歩いてさぁ、話し掛けるなだぁ？ ほれほれ、男達が羨望の眼差しであんたを見てるぜ☆」
べラは僅かに離れて歩くキリル・アブラハムの褐色の腕にしな垂れ、グイグイと胸を押し付ける。行き交う男達の視線は羨望を通り越して殺気すら感じさせる光景だ。
『あ、あのぉ、ボトムバトラーですか？ あ、ごめんなさいッ！』
人波が行き交う道端から焦ったような戸惑う少女の声が流れた。べラが瞳を流すと、一人の少女を捉える。ボリュームのある癖っ毛の赤いショートヘアと極めて童顔の顔立ち――――。
「キリル、あの娘、サーキュラーのボトムバトラーじゃねーの？」
「‥‥誰かを探しているのでしょうか？」
キリルが褐色の風貌に眉を顰める中、女は不敵な笑みを浮かべてキサトを見つめた。
「俺は、彼女とサーキューラーに興味があるんだ。チャンス到来ってか★」
「‥‥アルベルト、何を」
男の声を無視するかのように、魅惑的に腰を振りながらべラが少女に近付いてゆく。明らかにコチラへ向かって来る美女を捉え、キサト・テッドは‥‥怯える色を見せた。
「あんた、キサトってボトムバトラーだよな？」
「‥‥そうですけど。あの、わたし‥‥あ、キリルさん！」
べラの背後から様子を窺う男を捉え、少女は美女を擦り抜けてキリルの背中に身を隠す。まぁ、男を虜にする魅惑的な美女ではあるが、キサトには危険人物と映ったようで、怯えた瞳を覗かせていた。
「‥‥アルベルトは刺激が強いようですね」
ヒクッと壮年の男が口元を僅かに痙攣させる。否、キリルは苦笑したのだ。べラは両手を縊れた腰に当て、胸を張って溜息を洩らす。
「随分じゃねーの？ 乳臭いガキには俺の魅力が分からんかねぇ」
どうやら知り合いらしい。キサトはキリルに赤い瞳を向ける。
「あの、この女の人は‥‥」
「アルベルト・ルール‥‥押し掛けメカニックです」
「お、押し掛けってなぁ！ それに今の俺は『べラ』ってんの！」
アルベルト・ルールに、べラ？ ‥‥よく分からない会話に呆然としていると、その美女がズイとキサトの前に佇んだ。ギラリと視線を研ぎ澄ませるべラ。刹那、突風が頭上から降り注ぐと共に、少女はパッツンパッツンの果肉に包まれた。一気に腰を落として抱き締めたのである。
「恐がらせたかぁ？ 俺はそんなに怖かねぇぞ！ ほら、友情のハグだ★」
「‥‥アルベルト、キサトが溺れそうですよ」
――さて。
「わたし、バトルに勝ちたいんです！ 戦い方を教えてくれませんか？」
何とか誤解を解いて場所を換えると、少女は豊かな胸元で両手を組み、切り出した。
「‥‥だからボトムバトラーを探していたのですか」
「だって‥‥あそこにいても勝てないんだもん。他のバトラーさんにも教えてもらいました‥‥でも、あたし、もっともっと、色んなバトラーさんの戦い方も学びたいんです！」
寂しそうに視線を逸らした後、再び瞳を潤ませて哀願を始める。
「勝ちたいんです！ ダメですか！？」
「ならよ、サーキューラー持って来いよ。そんなら俺が許してやるぜ★」
「‥‥アルベルト、俺は何も」
交換条件を出されて、キサトは視線を逸らして顔色を曇らせた。
「あの‥‥サーキューラーは持って来れなかったの。あれだけは駄目って‥‥」
「あー、仕方ねぇな！ サーキュラーが無いのは残念だが、俺が見てるよ！」
面倒そうにべラが声をあげると、キリルが珍しく驚愕の色を見せた。
こうしてキリルとべラはキサトを自宅へと連れて行く事となる――――。
●ＭＳは人殺しの道具
「‥‥先ずは、あなたに聞きたい事があります」
レンタルを行ったブルーナンを前に、キリルはキサトに訊ねる。
「何を考えてボトムラインに参加していますか？」
「え？」
少女はあどけない顔を上げ、困惑の色を浮かばせた。なかなか言葉が見つからない。望んでバトラーになったのなら漠然とでも答えは直ぐに出るだろう。キサトが視線を逸らすと、壮年の男はゆっくりと口を開く。
「私は人に銃口を向ける時は、相手を確実に殺す気で向けています。ＭＳには人が乗っています。キサトは人に銃口を向ける事をどう思っていますか？」
乾いた黒い瞳は哀しげな色を僅かに浮かばせていたが、キリルは確実に相手を殺す戦いを繰り返して来た。それは彼の機体『Ｋａｔｚｅ』にランスシューターという鉄槌が装備されている事からも窺える。ＭＳは人間をいとも容易く殺害できる兵器なのだ。
「わたしは‥‥殺すつもりはありません。倒せればいいなって思うけど‥‥ボトムラインなら、相手を殺さなくてもいいじゃないですか？」
「確かに‥‥ボトムラインで意図した殺害はフェニックスで禁止されています。スポーツ的な傾向も高いかもしれませんが、人を殺す可能性とそれに対する覚悟が常に持つ必要はあります」
「人を殺す、可能性‥‥」
キサトにも覚えがあった。偶々狙いが逸れて負けが嵩んでいるが、確実にヒットしていれば殺していたかもしれない。そう思うと、少女の足はガクガクと震え出した。
「キリルさんは‥‥人を殺す為にボトムラインに参加しているんですか！？」
困惑と哀しさを湛えた瞳が壮年を男に問い掛ける。何故、参加しているのか？
過去を硝煙の匂いで掻き消す為か？ それとも純粋に戦場を渇望しているからか？
「私の答えはあなたにとって何も意味がありません。訓練に移りましょう」
――人の意見に惑わされず自分で考えろと察したか。
――曖昧に言葉を濁して逃げたと察したか。
今のキサトからは窺い知る事が出来なかった――――。
●覚悟を確かめた上での射撃訓練
望遠レンズ越しにキサトの視界に映るのは、１リットルのペットボトルだった。
他には何も見当たらず、ただ、岩の上にあるものだけが標的とされた。
『標的までの射程距離はオートライフル限界の１２０ｍです。命中するまで撃って下さい』
キリルからの通信に、少女はカメラをＫａｔｚｅへと流す。
視界に映し出されたバリエベースの機体が右腕を標的へ向けた刹那、乾いた銃声を響かせると、次の瞬間には固定されたペットボトルの中心に風穴が開いていた。早い！ まるで人間が銃を撃つのと同じ感覚で、精度の高い射撃をやってのけたのだ。
『‥‥さぁ、始めて下さい』
「は、はいッ。えっと」
正に見様見真似。右腕のライフルを向けて直ちにトリガーを絞った。しかし、乾いた銃声が響き渡るものの標的は健在だ。キサトは顔色を変え、何度も引鉄を絞った。次第に表情は訝しげに変容する。
「あれ？ おっかしいなぁ。そこッ！ えいッ！ とぉッ！ やぁッ！ このッ！」
『‥‥よく狙って下さい。あなたはボトムラインのコロシアムでしか戦闘経験がありませんね？ しかも小さな標的を撃ち慣れていないでしょう？ 銃には僅かな癖があるものです。着弾位置を見極め、照準に微調整を行って下さい』
普段かな寡黙な彼がこれほどまでＭＳ内で話すのは珍しい。
「へぇ、教官らしいじゃん」
通信を傍受しながらアルベルトは感嘆の声をあげたものだ。眺める先でブルーナンが銃口を再び標的へと向けた。銃声――ハズレ、銃声――ハズレ、銃声――ハズレ、銃声――ハズレ。
「うぅ〜ッ‥‥落ち着いて‥‥よく狙って‥‥」
望遠カメラ越しの視界に映る標的にＭＳが浮かび上がる。
――ＭＳには人が乗っています。キサトは人に銃口を向ける事をどう思っていますか？
ピクンと肩が跳ねた拍子にトリガーが絞られ、何度目かの銃声が荒野に響き渡った。次の瞬間、標的が風穴を開ける。流石にキリルほどの精度はないが、ようやく着弾したのだ。
「あ‥‥」
『‥‥まぁいいでしょう。この感覚を忘れるか否かはあなた次第です。この位にしましょう』
「‥‥はい」
狙って撃ったとは言えない。しかし、これ以上続けても当らない気がして、少女は小さく返事を送った。戸惑いに赤い瞳が揺れる。
――人を殺す可能性とそれに対する覚悟。
キリルが教えたかった事‥‥。漠然と勝ちたいと願う少女に何かを学ばせたようだ――――。
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号／ＰＣ名／性別／年齢／クラス】
【0634／キリル・アブラハム／男性／45歳／エスパーハーフサイバー】
【0552／アルベルト・ルール／男性／20歳／エスパー】
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■ ライター通信 ■
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この度は御参加ありがとうございました☆
お久し振りです♪ 切磋巧実です。遅くなり申し訳ございません。
外伝への参加とても嬉しく思っています。
始めに『この物語はアメリカを舞台としたボトムラインです。セフィロトにボトムラインはありませんので、混同しないようお願い致します』。また、ＭＳの演出面もオフィシャルでは描かれていない部分を描写したりしていますが、あくまでライターオリジナルの解釈と世界観ですので、誤解なきようお願い致します。
さて、いかがでしたでしょうか？ ちょっと、キリルさんに喋らせ過ぎたかなと思いますが、訓練となると過去の経歴からも指導とか行ったものと解釈させて頂きました。今回の訓練でキサトは改めて様々な事を学んだ事でしょう。次に対戦する時、どんな戦い方をするか見届けて下さい。
楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
それでは、また出会える事を祈って☆
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