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受難と災難、当然の罰。後日譚
先日、とある派遣会社の職員の一人が、依頼人の色香(といっても依頼人は全く意図していないのだが)に(勝手に)迷い、無理な仕事を引き受けてしまう、ということがあった。
偶然通りかかった少女を助っ人として巻き込み、なんとか依頼を完遂する事はできたのだが…。
そして今日、助っ人として働いた少女、メイは彼らの働く派遣会社の事務所の前に立っていた。
彼女がそっとドアを押し開けるとドアの上部に付いていたベルがちりり、と音を立てる。
すぐにその音に反応するように足音が聞こえた。
「ようこそ、人材派遣会社FLEERSへ……っと、んあァ?」
笑顔を浮かべて口上を述べかけた足音の主…───大柄な金髪の男がすぐに訝しげな物へと表情を変えた。
「よォ、どした。メイじゃねーか」
「この前ぶりね。フェルナンド。そのの事なんだけど…」
フェルナンドと呼ばれた男は少しまなじりの下がった特徴的な目に柔らかい物を浮かべ、メイの言葉の続きを片手を上げて制する。
「ま、立ち話は無しだ。上がれ上がれ。どーせ今日は客の予定もねェから」
メイに応接室のソファを勧めて、その向かいに腰掛けるフェルナンド。
「…で。この前がどうしたって?何かマズイ事でも有ったか?」
フェルナンドが真顔で聞く。メイはぱたぱたと手を振った。
「ううん、ただ、ほら。私最後寝ちゃったでしょ。毛布かけてくれたのがあなただって聞いて」
「…おっ前律義だなー…」
「…そうかな、普通だと思うんだけど。あとほら、他に聞きたい事も有ったし」
感心したようなフェルナンドと、対照的に呆れた表情のメイ。
「聞きたい事?」
「あ、待って、その前にこう、座ったままで良いから体を前に倒してみて」
「………?」
不審気な顔をしながらも素直に、ソファの間に置かれたテーブルに覆い被さるような体勢を取るフェルナンド。
その頭をメイは迷うことなく、よしよし、とばかりに撫でた。
「手土産は無いから代わりに撫でてあげる。よしよし」
「……オ嬢サン、俺もう三十過ぎなんだけど」
「…精神年齢の差だろう」
不意にルーファスが奥の扉から現れた。
メイの後ろにまわり、彼女の前に紅茶の入ったカップを置く。
「砂糖とミルクは?」
笑顔で問いかけるルーファスに、メイはとりあえず頷いて砂糖壺やらを受け取った。
「……ルーファス、俺のは?」
「お前に?茶葉と湯と労力が勿体ない」
「……良いけどよ……。ああ、そうだメイ、で、聞きたい事って何だよ?」
体を起こしながらフェルナンドが尋ねると、メイはにっこりと笑顔を浮かべた。
「あの後あなたがどんな風になったかちょっと気になって訪問してみたんだけど……怒られなかった?お礼よりもまずこっちが気になっちゃって」
ぶは、とわざとらしく吹き出してフェルナンドが笑う。
「あー。そうだなあ、何というか…。なあ、ルーファス」
同意を求めるようにメイの顔から視線を上げ、彼女の背後に佇むルーファスへと目をやり、フェルナンドは少し沈黙した。
「…何か、有ったか?俺は全く覚えていないが」
静かにルーファスが答えた。
フェルナンドは明るく軽い笑顔のまま、少し固まる。そう、まるでメイの背後に何かとても恐ろしい物がいるかのように。
気のせいか、普段は血色の良い顔が少し青ざめ、冷や汗が頬を流れて行ったようだ。
「……?」
メイが訝しげに後ろを振り返ってルーファスを見上げると、ルーファスはとても綺麗な笑みを浮かべてメイを見返した。
「どうしました?」
「あ、いえ…?」
「なら良いんですが。じゃあ、俺はこれで。……フェル、呆けてないで客のもてなしくらいちゃんとこなせ」
後半を酷く温度の無い声で言ってルーファスが踵を返し、盆を持って奥へと引っ込む。
しばらくその背と、固まっているフェルナンドの笑顔とを見比べて、メイは何となく事情を察した。
しばしの沈黙が落ちる。
「ご愁傷様でした」
メイがさめかけた紅茶を飲み干して立ち上がり、フェルナンドの頭を再びよしよし、とばかりに撫でた。
「……お、おー…」
少女に慰められ、より哀愁を感じさせる表情を一瞬浮かべてから、彼はすぐに『にかっ』とした彼本来の笑みを見せた。
「ま、何はともあれ、さんきゅな。この前は本気で助かったぜ」
「うん、役に立てたなら良かった。…可愛い弟分が困ってるんだもの、助けてあげるのは当然よ」
自分の席に戻り、にこり、と笑顔で言いきったメイに少しだけフェルナンドは間を置いてから。
「おいおいおいっ、待て待て!?何だ、その【弟分】ってェのはっ!?」
「あなた」
「…そうか俺か…ってそうじゃなくてなっ!?」
対照的に即答したメイの言葉に、流されかけてからフェルナンドはテーブルにばん、と手を付いて身を乗り出した。
「よしよし」
ここぞとばかりに再びメイがその頭を撫でる。
力つきたようにぐんにょりとテーブルに落ちるフェルナンド。
「あら、大丈夫?」
さすがにメイが問いかけたところで…。
飛来してきた灰皿がすこん、といい音を立ててフェルナンドの後頭部へと直撃した。
「…ッ…!、…!」
さすがに痛かったらしく、少し涙目になりながらフェルナンドは灰皿の飛んできた方向へと顔を上げた。
そこには笑顔のルーファスの姿。
「てめっ、何しやが…」
「いちゃつくなら外でやれ、馬鹿め」
フェルナンドの言葉を遮ってルーファスが微笑んだ。
「……いちゃつく、ってオイ…」
「メイさん。あなたに一つ忠告を。……弟分というのは確かに精神年齢的にとても正しいです。だが、お勧めは到底できない」
フェルナンドを完全に無視する形でルーファスがメイに語りかける。
「なので、体験版ということで本日一日、この馬鹿を貸し出します。ああ、派遣会社ですがお代は結構ですよ。寧ろこちらが支払わなくてはいけないくらいだ。
荷物持ちでもなんでも、お好きにご活用下さい」
「有り難う。じゃあ遠慮無く持っていくわね」
「……………オーイ」
なかば諦めたように小さくフェルナンドが二人に声をかけた。
「往生際が悪い」
「往生際ってな……。……あー!良い、分かったよ!今日はメイのお供をして過ごしゃァ良いんだろッ!?」
開き直ったのか吠える彼に、メイは少し心配げに問いかける。
「…良いの?忙しかったら良いんだけど」
「良いよ、お前は気にすんな。どうせ暇なのは事実なんだ。来いよ、アイス位奢ってやるぜ」
頭をがりがりとかいて、フェルナンドが立ち上がる。メイを促して扉に手をかける
あまり根に持たないタイプらしい。フェルナンドは扉をくぐりながらルーファスに「んじゃ、行って来るわ」などと片手を上げ、ルーファスはルーファスで「ああ」などと軽く手を振っていた。
変なの、とメイは笑いながらフェルナンドの手を取って引っ張る。
「んじゃ、まずどこからお供しましょうかね?」
フェルナンドの問いにメイはしばらく考え、そして行き先を告げながら笑った。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【0712/メイ・フォルチェ/女性/11歳/エスパー】
【NPC/フェルナンド/男性/32歳/エキスパート】
【NPC/ルーファス/男性/21歳/エスパー】
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■ ライター通信 ■
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メイ・フォルチェ様
こんにちは。新米ライターの日生 寒河です。
馬鹿男はあの依頼の後、ルーファスさんをはじめとするメンバーに相当物凄い目に遭わされた模様です。
しかし反省を活かさない人間なのでまたきっと繰り返すかと思われます。
その際はまた宜しければカツを入れて頂ければ幸いです。
ではでは、再びのご来訪、誠に有り難う御座いました!
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