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『恋という感情』
●死
最初に死という概念を覚えたのはいつだっただろう。その時のあ
たしはまだ子供で、夜のベッドで泣き出した様な覚えがある。
『あたし』がいて、でもいつかは死んで。死んだら『あたし』が
『あたし』を認識する事は無くなる訳で。つまりは無だ。そこから
先は……ない。思考の螺旋に囚われたまま、夜の闇の中で震えてい
たっけ。
●図書館にて
そんな昔の事を思い出していたら、目的の本棚の前を通り過ぎて
しまった。あたしにとって、大学の図書館は自分の部屋も同然だ。
でも、普段は近寄った事もない分野だったせいで気がつくのが遅れ
てしまったのかもしれない。
最近、あたしの中に芽生えた新しい感情。それを解明する為の手
がかりがここにあるはずなんだ。どれから読み始めればいいのか、
それすら判らなかったけど。とりあえず、一番端にあった本をこの
前借りたので、順番に読んでいく事にした。
そういえば。教室で一巻を読んでいたら、友人が珍獣を見る様な
目であたしを見てたっけ。あたしの研究テーマである、「極限」と
「死の恐怖」を極める為の材料だって言ったら、変わってると呆れ
られた。……恋愛小説のどこが悪かったんだろう。
●極限
(あなた無しでは生きていけないの……か)
恋愛小説の登場人物たちは、日常では殆ど聞く事のない台詞をぽ
んぽんと吐いていた。
あたしはどうだろう? しばらく考えてみる。最近、ちょっと気
になる奴がいる。そいつの前に出ると、ちょっと鼓動が早くなって、
頬が熱くなっていくのを感じる。あいつが死んだら、あたしも生き
てはいけないのだろうか。ほんの数秒だけ考え始めて、あたしはそ
の状況を考えたくない自分がいる事に気がついた。大事な人がいて、
その人が死ぬという状況を忌避する感情。これもまた、「死の恐怖」
の一面なのかもしれない。
じゃあ、とあたしは考えた。逆にあいつはどう思うだろうかと。
あたしが死の瀬戸際にあったとしたら、同じ様に「死の恐怖」を感
じてくれるだろうかと。……ほんの数秒だけ考えて、やっぱりその
状況も考えるのをやめた。
結局のところ。あたしは、あいつが死ぬという状況なんて考えた
くもなかった。あたしが死んで、あいつと一緒にいられなくなる事
を考えるのも嫌だった。どんな「極限」状態に陥ったとしても、生
きて帰ってくるんだという思いが心の片隅に誕生していた事を、あ
たしは今日、初めて自覚したのだった……。
●恋という感情
気がつくと、図書館には夕陽が差し込んでいて、あたしは待ち合
わせの時間が迫っている事にようやく気がついた。本棚に恋愛小説
を戻すと、少し足早に階段へと歩き始める。そうしながら、あたし
はあいつの歩き方、話す時の癖、そんなものを思い返していた。想
像の中のあいつの隣に、自分の姿を並べてみる。
ポッ
生まれて初めて、自分の耳が赤くなっていく音を聞いた……よう
な気がした。
二人でいる事を想像するのが嬉しくて、それでいて照れくさいよ
うな複雑な感情。恐怖を感じさせる性質を持ちながら、一方ではそ
の何十倍もの喜びを感じさせてくれる。
恋という感情を整理するには、まだまだ時間がかかりそうだった。
了
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業
0517/門屋・嬢/女性/19/エキスパート
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■ ライター通信 ■
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どうも。この度はご指名していただき、ありがとうございました。
友人とかを登場させられないシングルシチュエーションだけに、感
情を考えるというのは中々難しいものがありましたね。書き終わっ
てから見ると、あまり江戸っ子らしさは書けてないな(笑)。
次の機会がありましたら、もっと嬢らしくしてあげられるかな。
どこかで再びお会いできるのを楽しみにしております。お相手は、
神城仁希でした。ではまた♪
追伸:実は私の友人にも譲(じょう)という奴がいます。ちょっと
複雑な気分w
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