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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


あの子の真っ白な兎


 メイ・フォルチェは青と蒼の二つの欠片を手に、ふと考える。
(エアティアって、やっぱり“空”と“涙”かしら……)
 空を表すAirと、涙を表すTear。
 まるでソレを二つ併せたかのような名前。
 エアティアの両親がどういった気持ちでこの名前をつけたのか分からないけれど、メイの手の中にある石は確かに“空”と“涙”を表していて―――
『助けて』
 キーン――…と、耳に響いた声に、メイは辺りを見回した。この声は……エアティアのものだ!
『僕のラ・ルーナが見えない。助けて』
 しかし声の主はメイの事など気にした様子もなく、またその声を飛ばしてくる。
「落ち着いてエアティア!」
 メイは両の耳を塞ぎ、空へと向かって叫ぶ。
『―――…!』
 すっと言葉に篭る力がとかれ、メイはやっと塞いでいた耳から手を離す事が出来た。
「そんな強くテレパシーを飛ばしたら痛いのよ?」
 誰もがエアティアほどのESPを持ち合わせているわけではない。
『ごめん……』
 メイは見えていないと分かっているけれど、
「ううん」
 と、首を振る。そして、先ほどエアティアが叫んだ言葉を思い出し、問いかける。
「助けてって、どうしたの?」
 つい辺りを見回して、誰かに怪しまれやしないかと考えながらも、小さくエアティアに問いかける。
 きっと、口にしなくても思うだけで言葉は通じてるとは思うけれど、会話は口から声を出していないと話している気がしなくて。
『ラ・ルーナが見えない。僕のラ・ルーナが』
「探せばいいのね?」
『…うん、探して、見つけて』
 探すのはいいけれど、そのラ・ルーナはどういった存在なのだろう。
「…あっ」
 メイがそう考えた瞬間、1つの映像が脳裏に送り込まれる。
 それは、白いコートに目深に被ったフード。そしてウサギ手袋とウサギ足ブーツの年の頃5歳くらいの女の子。
 こんな小さい子が見つからなくなれば、それは確かに心配もするはずだ。
『子供じゃない』
「え?」
 ついエアティアの突っ込みを受けメイは問い返すが、エアティアは答えを返してはくれなかった。
「怪我ならともかく、物騒な事になっていなければいいけど…」
 そんな事にもしなっていたら、メイには気を逸らして逃げる手伝い位しか出来ないだろう。
 世の中にはいろんな人間がいるから、ルーナが何か事件に巻き込まれていなければいいけどと思いつつ、メイは歩き出す。
「ねぇエアティア、どこで見えなくなったか分かる?」
 ルーナが最後立ち寄った場所が分かれば、そこを中心として探していく事が出来る。
『生鮮市場…』
 マルクトで生きる人の食のライフラインとも言える野菜や合成肉を売っている市場。そこがエアティアが見たルーナの最後の場所だったらしい。
 確かそこには横へそれる細道や裏道も沢山あったように思う。
 要するに何かあったならば隠れる場所は沢山あると言う事だ。
「向かってみるね」
 メイは足を向けていた方向を変えて、都市マルクトの市場へと歩き出した。





 市場の建物に手を触れて、メイは過去視を試みる。
「おかしいな…」
 幾ら意識しても過去の映像が壁から伝わってこない。
 それはルーナがここに訪れたかもしれない映像だけでなく、全ての画像が見当たらないのだ。
 意識しても何時までたってもただ壁に触れているのと変わらない。
 これでは壁に両手を当てている変な人だ。
(どうして?)
 何時までも発動しない自分の力に頼っていても仕方がない。
 メイは一度ため息を付くと、探偵は足で稼ぐもの。と、気を取り直して歩き出す。
 思えば、先ほどからエアティアの声さえも聞こえてこないだ。
「………」
 メイはふと不安を感じて立ち止まり、辺りを見回した。
 市場は何も変わらない。
 野菜売りのおばちゃんは豪快に笑っているし、魚屋のおじさんはなぜかピラニアを売り込んでいる。
 メイは一度両手を見下ろし、ぐっと拳を握り締めると気合を込めて顔を上げた。
(引き受けたんだもの)
 自分に何か多少の変化があったからって、約束を違えるような事はしたくない。
 白いフードにいつでもウサギ手袋やブーツを履いた女の子だったら、その見た目も特徴的だし見かけた人がいるかもしれない。
 メイは適当な店主さんに声をかけようと顔を上げる。
「―――…それでは」
 ふと隣の店から出てきた人物の声に振り返る。
 ニコニコと笑顔を浮かべているだけならば、人の良さそうなおじさ――青年が1人、店の店主に手を振ってメイが立つ位置とは逆の方向へ歩いていく。
 何時もならそんな事気にも留めないことなのに、なぜか振り返ってしまった。
 とても強い印象を持っているのに、どこか存在感の欠ける青年。
 メイははっと顔を上げると、その一瞬を取り戻すようにかけだした。
『メイ!』
「あ、はい!?」
 突然の強い呼びかけに、メイは思わず背筋をびしっと伸ばして答える。
『良かった』
「??」
 どこかほっとしたようなエアティアの声に、メイは首を傾げるが、
『―――居た』
 呟くようにそう告げたエアティアに、何が良かったのかと問う切欠を逸する。
「うん」
 歩く先、1つの露店でエアティアが送ってきた映像通りの白いコートが、一生懸命背を伸ばして店のおじさんにお金を払っている姿を見る事が出来た。
 どうやらエアティアの声もルーナに届いていたらしく、お金を払ったルーナはメイへと身体を向ける。
 メイは軽く駆け出して、ルーナに声をかけた。
「ルナはずっとここに居たデショよ? おかしいデショね」
 首を傾げるルーナに、メイも先ほど壁に手を触れたとき過去視を行えなかった事を思い出す。
 メイは徐に関係のない壁に触れて意識を集中させてみた。
「…………」
 駆け抜ける数時間前の映像に、確かに自分のESPがなくなったわけではない事が分かったが、どうしてあの時はこのESPを使う事ができなかったのだろう。
 だがどんな事よりも、メイは小さなルーナが見つかった事の方が重要で、喜ばしい事だった。
「手を繋がない?」
 また何処かへ行ってしまわないように、自分が一緒なら絶対安心とは言えないけれど、多少なりともほっとできるかもしれない。
「いいデショよ〜」
 メイが伸ばした手をルーナのふわふわの手袋が重なる。
 ぎゅっと繋がれた手の暖かさが、どうにも手袋と言ってしまうには違和感を感じなくも無い。
(まぁ、いっか)
 フードの裾からみえる口元はちゃんと人間のものだし、言葉も通じるし、何より可愛い。
「人参、やっぱり好き?」
 ウサギ手袋とブーツ装備なんていうここまでのウサギ好きなら、ウサギが好きな人参も好きかなぁ? と、メイは少し腰を屈めてルーナに問いかける。
「美味しいものなら、ルナな〜んでも好きデショ♪」
 にこにこと笑ってそう答えたルーナに、メイは何かを思いついたようにその顔に笑顔を浮かべると、
「ねぇ、エアティア。ルーナと一緒にお買い物に行ってもいいかな?」
 確かこの通りのどこかにお菓子屋さんもあったはずだ。
『構わない…けど』
 メイはその言葉ににっこりと笑って、ルーナの手を引いて歩き始めた。





 エプロンのお姉さんが経営している小さなお菓子のお店。
 クリスマスには結構なお客さんがいるみたいだけど、普段は本当に趣味のお店として経営しているような、のんびりとしたお菓子屋さん。
 メイは駆け足で店の中へと入ると、程なくして1つの袋を持って店から出てきた。
「はい」
「なんデショか?」
 メイの手にあったのは、淡いサーモンピンクのラッピングが施されたお菓子の袋。
 それをルーナの身長に合わせるように腰を屈めて、目の前に差し出した。
「人参のお菓子。エアティアと一緒に食べてね」
 袋の中に入っているのも、綺麗な淡いオレンジのクッキー。
「わぁ、ありがとうなのデショ。メイ優しいデショね〜」
 クッキーの袋をまるで宝物のように掲げて笑うルーナに、メイはなんだか妹が居たらこんな感じなのかなぁと仄かに考える。
 それにしても……
(エアティアとルーナって、どうして一緒にいるのかな?)
 透明で本当が見えないエアティアと、今こうして手を繋ぐ事が出来るルーナ。
 ルーナは本当のエアティアの側にいるのかな?
 不思議な事ばかりだから気になるけど、今ルーナにそれを聞いてしまうと、だしにしてるって思われてしまうかもしれない。
 メイはぶんぶんと首を振ってぐっと言葉を飲み込む。
 聞きたい気持ちは確かに大きいけれど、その事で嫌われてしまったら悲しいから。
 繋がった手の先のルーナは本当に嬉しそうで、喜んでくれてよかったと本当に思う。
(エアティアとルーナって、いつも何処に居るんだろう)
 空が“見えない”と言ったエアティア。
 もしかしたら、色々と見た事が無いから、見ても分からないのかなと、考えて。
『此処のどこかには居るよ』
「確かにそうだけど…」
 空を見る事が出来ない場所ならばこのセフィロトの塔にずっと居たのだと考えれば納得がいくし、メイは素直にそう頷く。
「全部聞いてたのね」
 今まで声をかけてこなかったエアティアが何も気にしていなかったわけじゃない。メイが考えていた事も行動もきっと“見えて”いたのだろう。
 ちょっとだけ意地悪なのかもしれない。
「そろそろ帰るデショ〜」
「もうそんな時間?」
 日の当たらないセフィロトの中では昼も夜もないのだけど、ルーナは何かを感じ取ったのか顔を上げて、すっと繋いでいた手を解く。
「バイバイデショ〜」
「え? ル、ルーナ?」
 こんな市場の中で帰るなんて、二人の家は此処からそんなに近いのだろうか。
 しかし、メイがその瞳に困惑の色を浮かべて立ち尽くしていると、一瞬の風の後、その場からルーナの姿は消えてなくなっていた。
「ルーナも…どんな子なんだろう…」
 この場所から一瞬で居なくなるだけの実力を持った女の子。
『ありがとう。メイ』
 その一言だけが淡く脳裏に響き、メイはふっと息を漏らして肩を竦めるように笑うと、そっと踵を返した。









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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0712 / メイ・フォルチェ / 女性 / 11歳 / エスパー】

【NPC / エアティア / 無性別 / 15歳 / エスパー】
【NPC / ラ・ルーナ / 無性別 / 5歳 / タクトニム】


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■         ライター通信          ■
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 あの子の真っ白な兎にご参加ありがとうございます。ライターの紺碧 乃空です。
 かなり結構唐突に窓明けを行ってしまいましたがご参加本当にありがとうございました。どうしましょうね、自分でもこの先どう進んでいくのか分からなくなってきました(笑)見た目的には4歳差で、多分実際の差は殆ど無いとは思うんですが、どうにも犯罪チックな気持ちになってしまいます。
 それではまた、メイ様がエアティアに会いに来て頂ける事を祈って……