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僕はサンタ、欲しいのは君の頭脳
□Opening
「おい、相棒、俺達もそろそろ出発しないとまずいぞ」
全身ふさふさの茶色い毛皮で覆われた着ぐるみ。長いこの廊下で、その衣装を身に纏っている人物は、この男しかいなかった。男は、裾に白いボアのついた真っ赤な衣装の男を小突く。先程から、プレゼントの袋を持ったまま立ち尽くす姿がどうも気になったのだ。
プレゼント、つまり、クリスマスのプレゼントを宅配するサンタ業。今は、一年で一番忙しい時期なのだ。
「うわぁぁん、ト、トナカイ君、どうしようどうしよう」
しかし、突然の涙声。茶色の着ぐるみ男……トナカイ君は、相棒……サンタクロースの衣装を身に纏ったサンタ君の慌てた姿を見て、顔をしかめた。
「ああああ、配達表を洗濯しちゃったんだよ、洗濯」
サンタ君が震える手で差し出したのは、配達先の住所・氏名とプレゼント内容が書かれた……、筈のボロボロの紙だった。
「……、どうするんだよ……」
何度も往復して子供達に確認する時間は無い。彼らが配達をする子供達は、『春子』『夏彦』『秋雄』『冬実』の四人。苗字は、『源』・『平』・『藤原』・『橘』だが、苗字と名前の組み合わせも分からないのだ。配達場所は、『東京』・『アルマ通り』・『ビルシャス』・『マルクト』と正に世界の端から端まで。ちなみに、プレゼントは『虎のぬいぐるみ』・『豹の図鑑』・『熊の置物』・『羆の写真』とこれも様々だ。
二人の記憶とボロボロの紙。必死に探り出したヒントを元に配達先を特定するしかなかった……。
☆ボロボロの配達表から
●『東京』には『熊の置物』を配達する。
●『秋雄』の苗字は『橘』。
●『平』という苗字は『マルクト』に有る。
☆二人の記憶
●『春子』は『ビルシャス』にいるが、『豹の図鑑』は欲しくない。
●『夏彦』は『虎のぬいぐるみ』は欲しくない。
●『冬実』の苗字は『平』ではないし、彼女は『アルマ通り』には居ない。
●『ビルシャス』に『虎のぬいぐるみ』を届ける予定は無い。
●『ビルシャス』配達予定に『源』と言う苗字は無かった。
春子・夏彦・秋雄・冬実、子供達はどこでどんなプレゼントを待っているのだろうか? 貴方の頭脳で何とかしてあげて欲しい。尚、プレゼントや住所、苗字がかぶる事は無い。配達表・二人の記憶に間違いは無い。
□01
絶望に暮れ果て、瞳にいっぱいの涙をためたサンタ君。その隣で、煙草をふかすトナカイ君。他の配達員達は、とうの昔にクリスマス配達に出かけてしまった。
静まりかえった廊下。ファンシーな衣装の青年達を取り囲む様に、彼らは集まっていた。
「アレだな、ビバ聖筋夜に健やかナウ筋頭脳鍛えマッチョでGO★ってかね?」
びしり、と。オーマ・シュヴァルツは親指を立て非常に爽やかに周りを見まわした。
「しかし迂闊な着ぐるみね」
その隣で、何も見なかったかのように由良・皐月が目を寄せサンタ君を小突いた。
「えぇっ?! 僕も着ぐるみ仲間なんですか?」
ボロボロになった配達表を大切そうに抱えたサンタ君は、驚いた様にびくつく。
「洗濯前にはポケット類チェックは基本でしょうに」
しかし、皐月はサンタ君の様子をお構いなしに話を続けた。あうあうと言葉を無くすサンタ君。その後ろで、ホレ見たことかと頷くトナカイ君。
「いや、そんな華麗にスルーされても」
なぁ、と。
オーマは、行き場を失った親指を今度は反対側に立つリュイ・ユウヘ向けた。
「また厄介な事を持ち込んでくれましたね」
ユウはと言うと、まるで何事も無かったかのように片手で眼鏡を持ち上げ、ちらりとサンタ君を見た。
「うううぅ〜、すみません〜」
また怒られたと思ったのだろう、サンタ君は更に小さく身をすくめる。彼の様子をどう思ったのか、ユウは冷静にこう付け足した。
「まあこの手の事に思考を働かせるのは嫌いではないですが」
と。
そんなやり取りを辛抱強く見守っていたオーマだったが、シュライン・エマへ勢い良く向き直し、これで最後だからとか後が無いとか色々な思惑の元に笑顔を向けた。
「やっぱり、表を作って答えを出すのが良いと思うんだけれど」
にこり、と。
シュラインは優雅に微笑みオーマへ返事を返す。マッチョでGO★については、何一つコメントが無かったわけなのだけれども、誰も何も言わなかった。そのかわり、シュラインのその意見に皆同意したように頷き合った。
□02
┏━┳━┯━┯━┯━┳━┯━┯━┯━┳━┯━┯━┯━┓
┃★┃春│夏│秋│冬┃源│平│藤│橘┃虎│豹│熊│羆┃
┣━╋━┿━┿━┿━╋━┿━┿━┿━╋━┿━┿━┿━┫
┃東┃□│□│□│□┃□│□│□│□┃□│□│□│□┃
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┃ア┃□│□│□│□┃□│□│□│□┃□│□│□│□┃
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┃ビ┃□│□│□│□┃□│□│□│□┃□│□│□│□┃
┠─╂─┼─┼─┼─╂─┼─┼─┼─╂─┼─┼─┼─┨
┃マ┃□│□│□│□┃□│□│□│□┃□│□│□│□┃
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※:春→春子、夏→夏彦、秋→秋雄、冬→冬実
※:東→東京、ア→アルマ通り、ビ→ビルシャス、マ→マルクト
※:藤→藤原
※:虎→虎のぬいぐるみ、豹→豹の図鑑、熊→熊の置物、羆→羆の写真
ユウは取り出した紙とペンでさらさらと表を書き出した。それを、皆に見える様に一度持ち上げ確認する。
「が、只それ紙でやるは腹黒ナンセンスビバノンノン」
にやり、と。
くじけぬオーマは何やら皆から一歩離れ、人差し指をちっちと何度か振った。つっこんだ方が良いのか、それともそっとしておいた方が……? オーマのその行動に、一同が隙を見せる。その一瞬。次に誰かが気がつくと、目の前には非常に奇妙な……いや、奇怪なモノが現れてしまった。
「オーマ等身大ナマサイン付きポスター四枚★」
地名毎に自身が映ったポスターを、開いている壁に機嫌良く張りつけて行くオーマ。
「ちょ……それ、いつ撮ったの?」
見た事も無いような景色でポーズを決めるオーマのポスター。皐月は、極めて冷静に事実を確認しようと、その辺だけを問いかけた。
しかし、突っ込み親父愛無視とばかりに、オーマは次々にアイテムを手にする。各名字書いたアニキ印Xmasカラー鉢植え、各名前の名札を提げた人面草、模造プレゼントなどなど。
「東京の贈物が熊、マルクト苗字が平、ビルシャス名前に春子、よね」
何も言うまい。
出来あがって行くオーマワールドを静かに無視し、シュラインは表を指差した。
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┃★┃春│夏│秋│冬┃源│平│藤│橘┃虎│豹│熊│羆┃
┣━╋━┿━┿━┿━╋━┿━┿━┿━╋━┿━┿━┿━┫
┃東┃×│□│□│□┃□│×│□│□┃×│×│○│×┃
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┃ア┃×│□│□│□┃□│×│□│□┃□│□│×│□┃
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┃ビ┃○│×│×│×┃□│×│□│□┃□│□│×│□┃
┠─╂─┼─┼─┼─╂─┼─┼─┼─╂─┼─┼─┼─┨
┃マ┃×│□│□│□┃×│○│×│×┃□│□│×│□┃
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「ええ、こんな風に解っている事から埋めていけばそれなりに何とかなるんですよ」
シュラインに合わせるように、ユウが表を埋めて行く。
『姉ちゃん、おいちゃんとどっか行かへん? この辺、案内して欲しいわ』
ずるずると。シュラインの足元で、何かが動いた。いや、丁度真下で、何だか声が聞こえたような気もする。そして、シュラインは見てしまった。
『春子』の名前を掲げた人面草が、ひょいひょいと『ビルシャス』を背景にしたオーマのポスターの辺りへ移動している様を。しかも、ポスターに向かっているのに、何故か顔面だけはシュラインの方向を向いたまま固定されている。ああ! 物凄い熱い視線でシュラインを見ているのだ。
ぴくり、と。シュラインの眉が動いた。
「ええと、平でなくて、アルマ通りには居ないから、冬実は東京決まり、と」
微妙な空気を取り繕う様に、皐月も表に見入る。平=マルクトと言う事は、平では無い冬実はマルクトには居無いという事だ。頷きながら、ユウはペンを走らせる。
その様子を、オーマが笑顔で眺めていた。それは、決して健やかな笑顔ではなかったけれども。
「同様に、苗字が橘だから秋彦はマルクトじゃない、つまり残ってる枠のうちアルマ」
こほん、と。気を取り直すようにせき払いをし、シュラインは再び表に集中する。
「んー、後はチェック出来る所、ビルシャスは源ではなくて……あ、虎もバツ」
皐月も、また、指で表を確認する。
「春子は豹は要らない……夏彦は虎は要らない」
ユウは、二人と確認を取りながら、自らも表を埋めて行く。
「秋彦はアルマに居るから、アルマはビバ★橘で決まりだな」
最後に、足りない部分をオーマが補う。
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┃★┃春│夏│秋│冬┃源│平│藤│橘┃虎│豹│熊│羆┃
┣━╋━┿━┿━┿━╋━┿━┿━┿━╋━┿━┿━┿━┫
┃東┃×│×│×│○┃○│×│×│×┃×│×│○│×┃
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┃ア┃×│×│○│×┃×│×│×│○┃○│×│×│×┃
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┃ビ┃○│×│×│×┃×│×│○│×┃×│×│×│○┃
┠─╂─┼─┼─┼─╂─┼─┼─┼─╂─┼─┼─┼─┨
┃マ┃×│○│×│×┃×│○│×│×┃×│○│×│×┃
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あっという間に、表が完成した。
頷く皆のその後ろ、各世界を舞台にしたオーマ等身大ナマサイン付きポスターの前で、熱い視線を送る鉢入り人面相セットも完成していた。
人面草達は、ラブ視線を皆に送りながら、模造プレゼントを待っているようだった。とにかく、見上げてくる、見上げてくるのだ。
「子供の間の特権よねぇ、クリスマスにプレゼント」
くすり、と。
皐月は、足元に転がる虎のぬいぐるみの模造品を拾い上げ秋彦の名札を掲げた人面草に添えてやった。
「指定された項目はこれでクリア出来ている筈です」
仕方が無いと。
ユウは豹の図鑑を夏彦の鉢にぽんと乗せた。
「ええ、無事、届けられます様に」
シュラインも、羆の写真を春子の鉢の横に添える。
『姉ちゃん、ありがとうなぁ』
鉢の中の人面草がにやりと笑った気がした。シュラインは、優雅に微笑みさらりと受け流す。
「理解できたか? お二人よ」
最後にオーマが熊の置物を持ち上げ、サンタ君とトナカイ君をニヤリと見た。
□03
「結果、まとめると……」
出来あがって行く表をぼんやりと眺めていたサンタ君とトナカイ君。オーマに声をかけられ、はっと我を取り戻した様だ。しかし、展開について行けなかったのか、まだぼんやりとしている。
その様子に、シュラインが丁寧に二人を覗き込んだのだ。
「藤原春子はビルシャス、プレゼントは羆ね」
「そ、平夏彦はマルクトで豹、橘秋彦はアルマ通りで虎」
続いて、てきぱきと皐月が補足する。
「最後に残った、源冬実は東京で熊だ」
鉢と人面草に満足はしたのだろうか。オーマも付け足す。
「ここからはあなた達の管轄ですから、間に合うように頑張ってください」
ユウは、言葉こそ淡々としているのだが、丁寧に結果をメモとして二人に手渡した。
★春子(藤原/ビルシャス/羆)
★夏彦(平/マルクト/豹)
★秋雄(橘/アルマ通り/虎)
★冬実(源/東京/熊)
全員の答えは一致した。後は、プレゼントを二人のファンシーな青年が運んであげるのみ。
その事に気がつき、サンタ君にようやく笑顔が戻る。
「うわぁぁん、皆さん、ありがとう、あ、ありがとうございます」
そして、すぐにぐすぐすと、また涙する。
その頭を、トナカイの気ぐるみがぽんと一つなで、一同を見渡した。
「サンキュ、これで子供達に夢を届けられるぞ」
彼なりの精一杯のお礼だった。
「着ぐるみなんて夢のないトナカイだけどね!」
ぽん、と。笑顔で皐月が着ぐるみの肩を叩く。
「俺が協力したんです、間に合わなかったなんて言わないでください」
にっと、ユウが笑った。早く行けと言う。その、ちょっぴりキツイ言葉にサンタ君はびくつきながら、ふわりと浮かび上がった。一気に、世界の果てまで飛んで行けそうだ。
「ふふふ、怖がられてしまったわね」
その様子を、可笑しそうにシュラインが笑う。
「そうですか?」
何が? と、ユウは不思議そうに眼鏡の端を持ち上げた。
「つまりアレだろ、ビバ聖筋夜に健やかナウ筋頭脳鍛えマッチョで……」
びしり、と。オーマが親指を立てようとする。
「いや、それ、もう良いから」
それを、皐月は静かに止めた。
「では、皆さん、本当に本当にありがとう」
大きなプレゼント袋を肩に背負い、サンタ君は最後にもう一度頭を下げた。
目指す先は世界の果てから果て。
手を振る皆を後に、サンタ君とトナカイ君は静かに飛び立った。
■Ending
それは、全てが終わった後の話。
ユウは、夢を見ていた。
ビジョンが不鮮明で、どんな音も良く聞こえてこない。だから、きっと夢だった。
「わぁ、サンタさん、来てくれたんだぁ」
突然、明るい男の子の声が聞こえてきた。
彼を取り巻く風景は、いつも通りの風景。と言う事は、ここはマルクトか?
男の子は、何かを大切そうに抱えていた。こちらからは確認出来ないが、それは豹の図鑑だった。ユウには、何故かはっきりと分かる。
『ああ、間に合ったんですね』
全て合点が行った。
ただ、ユウの言葉は声にならない。
やはり、全てが不鮮明だった。
『はい、ありがとうございます! おかげで大成功です』
立ち尽くすユウの背後から、いや横からか? 聞き知った声が聞こえてきた。
つまり、自分達の提案は間違っていなかったのだ。
それは良かったと、笑顔を返したつもりだが、伝わったかどうかは良く分からなかった。
ただ一つ、夏彦の笑顔だけはユウの心に優しく残った。
<End>
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0086/シュライン・エマ/女性/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員/東】
【1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39(実年齢999)/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り/ソ】
【5696/由良・皐月/女性/24/家事手伝/東】
【0487/リュイ・ユウ/男性/28/エキスパート/サ】
(※:登場人物一覧は発注順で表示させていただきました。)
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■ ライター通信 ■
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メリークリスマス、ライターのカギです。この度は、サンタ君とトナカイ君にお付き合いくださり、ありがとうございました。そして、何より皆様ご正解おめでとうございます! ……簡単でしたか? そうですか。
□部分は集合描写、■部分は個別描写になります。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
■リュイ・ユウ様
はじめまして、初めてのご参加ありがとございました。丁度紙とペンをお持ち下さいましたので、ユウ様には、皆を代表して表を仕上げると言う大役を担っていただきました。ありがとうございました。多分、書かれた表は、綺麗にまとまった物だったと思います。
それでは、また機会がございましたらよろしくお願いします。
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