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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


第一階層【都市中央警察署】ビジターキラー
虎穴に入らずんば……

ライター:高原恵

 おい、死にに行く気か?
 あそこはタクトニム共の要塞だ。行けば必ず死が待っている。
 それにあそこには奴らが‥‥ビジターキラーが居るって話だ。もう、何人もあいつ等にやられている。お前だって知らない筈はないだろう?
 知ってて行くのか? 止められないんだな?
 無理だ。勝てるはずがない‥‥いや、お前なら大丈夫かも知れない‥‥
 わかった。止めはしない。だが、必ず生きて帰ってこい。俺はお前の事を待っているからな。

●よくある風景
 セフィロトの塔――都市マルクト・ヘルズゲートの向こう側に広がる第1階層を、1機のMS(マスタースレイブ)と1台の戦車が慎重に、しかし速やかに移動していた。
 戦車より少し前を先行するMSにはSa30エリドゥーの面影が見られるが、あれこれと改装されているのだろう。今は古代の恐竜を彷彿とさせる姿であった。
 一方、戦車の方は軽自動車くらいの大きさで、さそりを思わせる姿をしていた。様々な戦場をくぐり抜けてきた者がこの場に居たなら、その戦車をシンクタンクと見た目で判断していたことだろう。だが……シンクタンクだとしたら、動きが少々荒いような気がする。車なら、不馴れな者が動かしているような感じで――。
「秀流、しばらく敵は居ないみたい」
 戦車――アリオトの内部に居た高桐璃菜は、センサーによる索敵の結果をMSの中の神代秀流に語りかけていた。けれどもそれは、外には聞こえていない。遠距離会話……ESPで璃菜が直接秀流に伝えたのだ。
「ああ、目視しても敵……タクトニムの姿は見当たらないな」
 秀流が璃菜に言葉を返す。確かに周囲にはモンスターやシンクタンクといった敵の姿は見当たらなかった。
「おかげで、無駄な戦闘をしなくて済む」
 それは秀流の本心であった。今回の目的はタクトニムを倒すことではない。それよりもっと大きなことなのだから。
「このまままっすぐ、しばらく行けば目的の場所ね?」
 璃菜が確認するように秀流に尋ねた。
「そうだ。中央警察署……ビジターキラーが居るって話の」
 秀流はビジターズギルドで忠告されたことを思い出していた。都市中央警察署には、強力なタクトニムが活動しているということを……。

●タクトニムの要塞
 都市中央警察署、廃虚となっているそこはタクトニムの活動拠点と化していた。基地だとか要塞だとか、言う者によって表現は違うが、ともかくタクトニムの数が多いことは間違いがない。
 秀流と璃菜が今回目指しているのがここである。そのことを秀流がビジターズギルドや酒場で話したら、『正気か?』だとか『死にに行くつもりか?』などと言われる始末。もっとも場所が場所ゆえに、そう言われても仕方ない訳だが。
 しかし、秀流にそんな気は毛頭ない。中央警察署に向かうのは、目的のための必然であったのだ。
 その目的とは――塔内の詳細地図を入手すること。警察のデータバンクならば、そういった物が存在していてもおかしくはない。いや、存在しているはずである。事件が起これば急行しなければならないのに、地図がなければ指示に支障が出るではないか。
 セフィロト内での行動範囲を広げるにあたり、無闇矢鱈と塔内をうろつき回るのは愚策。そう考えたからこそ、秀流は思いきってこんな手段に出ることにしたのだ。
 ルーレットに例えるなら、単一の数字に有り金全部賭けるような物かもしれない。それだけリスクは高いが、当たればリターンも大きい……はず。
 なお、有り金とは言うまでもなく、秀流たちの生命そのものだ。

●偵察
 やがて2人は中央警察署の近くへやってくる。さすがにすぐ突入するような馬鹿なことはしない。ぐるりと周辺を回って、まずは様子を窺うことにした。
「裏手の方が見張りが多い……のかな?」
 目視やセンサーによって様子を窺ってみた結果から、璃菜がそのように分析をした。内部はどうだかまだ分からないが、見張りの数は正面玄関より裏手の方に多く見られていたのだ。恐らく裏手からの襲撃を警戒しているのだろう。
「……利口だよな」
 見張りに立つケイブマンを見ながらつぶやく秀流。別にタクトニムを褒めている訳ではない。やりにくい、という意味で言っているのだ。そういうことを考えられる知恵を持った奴が、明らかにここに居るということなのだから。ケイブマンの知能が低いようだということは、経験上分かっていたゆえに。
「どうするの、秀流?」
 璃菜が秀流に尋ねた。2人しか居ないのだから、下手に突入すると返り討ちに合う可能性がかなり高い。突入するには、それなりの作戦を考えなければならないだろう。
「利口なんだったら……」
 しばし思案してから、秀流が言葉を発した。
「……逆手に取るのも面白いよな。璃菜!」
「えっ、何っ?」
 突然秀流に名前だけを呼ばれて、璃菜がどきっとした。
「ルートの割り出し頼む」
「どこからどこまでの?」
「裏手から、正面玄関まで――」

●突入!
 10数分後、中央警察署の裏手で大きな爆発が2回起こった。わらわらと見張りのケイブマンたちがそちらへ向かってゆく。正面玄関に居たケイブマンもだ。
「行くぞ!」
「了解っ!!」
 ケイブマンの姿が正面玄関からなくなったことを見届け、秀流のMSと璃菜の戦車が中央警察署に突入した。見張りが居なくなったのだから、スムーズに中へ入ってゆくことが出来た。
 先程の爆発は、璃菜がアリオトに搭載していたグレネードランチャーを発射したことによる物だった。これで出切る限りの陽動を行い、タクトニムがそちらへ集まった所で突入するというのが秀流の考えた作戦であった。
 それは見事に成功し、内部に突入してもそれほど多くないケイブマンを相手にするだけでよくなった。要は、立ち塞がるケイブマンを排除するだけで済んだのだ。
 だが、じきにこちらの騒動を聞き付けて裏手に向かったケイブマンたちも戻ってくることだろう。それに、噂のビジターキラーだって……。
「あった! 指令室!!」
 璃菜が前方に指令室を発見した。ここならば、データにアクセス出来るコンピュータがあるかもしれない。
 秀流が内部の安全を確認してから、戦車を飛び出して璃菜が生きているコンピュータを探し出そうとする。マシンテレパスの能力で、生きているコンピュータから詳細地図のデータをダウンロードするつもりなのだ。荒れた指令室では壊れかけのモニタが、何台も無気味に点滅を繰り返していた。
(生きてるコンピュータがあるといいんだが)
 祈る秀流。それはデータを確保したいという気持ちもあったが、何より自らの大切な者を長時間危険にさらしたくないという想いもあった。
 と、近くの部屋の扉が少し開いていることに気付き、秀流は慎重に中の様子を調べた。タクトニムが潜んでいてはたまったものではない。
 しかし、部屋の中は無人。ただ荒れているだけだった。そんな場所で、秀流はある品物を発見する。
(盾? 何でこんな所に……)
 それはMS用の盾であった。拾い上げる秀流。
(何かの役に立つかもな)
 秀流の直感だった。その時、指令室の方から璃菜の声が聞こえてきた。
「ダウンロード完了!」
 戦車へ戻ってくる璃菜。何とか生きているコンピュータを発見し、大至急でそれらしきデータだけダウンロードしてきたのだ。詳細を確認する余裕すらなかった。
「よし、もうここに用はない!」
 秀流が璃菜の戦車に先行する。目的は達成した、後は生きて戻るだけだ。2人は撤退を開始した。

●その名は、ビジターキラー
 正面玄関の辺りまで戻ってきた時である。璃菜の戦車に向かって、銃弾が飛んできたのは。だがそれは、秀流が先程拾ったMS用の盾によって戦車に着弾する前に未然に防がれる。
「……さっそく役に立ったか」
 秀流の直感は確かだった。そして2人の前に、1体のタクトニムが姿を現した。紫色の皮膚に覆われた筋肉質の肉体と表情のない白い頭部、さらに背中に巨大な爪のような腕を持つタクトニムだ。
(ビジターキラーか!)
 秀流は瞬時にそう思った。異形の姿もそうであるが、何より両腕を武装サイバー化していることが決定的であった。右腕はバルカン砲だろうか、左腕にはオートライフルであろうか。これをビジターキラーと呼ばずして何と言う。
 ビジターキラーは素早い動きを見せた。秀流のMSに迫ったかと思うと、背中の腕によって攻撃を仕掛けてくる。
 すんでの所で攻撃をかわした秀流であったが、一瞬ビジターキラーの爪が触れた装甲に軽い傷が付いた。もしまともに喰らっていたなら、装甲は引き裂かれていたかもしれない。
 秀流も反撃するが、ともかく動きが俊敏。命中率が悪くなってしまっている。
(このままだと不味いな)
 目の前のビジターキラーが秀流を狙っているのは明らかだった。ただ、それ意外に時間を稼いでいるようにも感じられた。ケイブマンたちが戻ってくるための時間を。
 そうなれば数で押し切られてしまう可能性が非常に高い。生きて戻ることは叶わなくなってしまうことだろう。
(こうなれば……)
 突然秀流は、天井に向けて発砲をした。天井がばらばらと壊れて落ちてくる。それを見て璃菜も気付いたのだろう。同様に天井やら床などに攻撃を行ってゆく。
 2人の攻撃によってどんどんと壊れてゆく正面玄関付近。ビジターキラーの動きが、一瞬止まった。その瞬間を見逃さず、璃菜の戦車がまず外へと脱出する。秀流がその後を追って外へ出る。ご丁寧に、最後に1発天井向けて発砲してから。
 2人の乗る戦車とMSの姿は、たちまち中央警察署から遠ざかっていった……。

●苦杯
 その日の夜、酒場のテーブルで酒を楽しんでいる秀流と璃菜の姿があった。秀流はウィスキーを、璃菜はカクテルを各々嗜んでいた。だが……その表情は浮かない。
 無事に帰還した2人は、ざっとデータを確認した。確かに、それは地図データであった。しかし……『審判の日』以前の、ブラジルのどこかの街の地図の一部。はっきり言って、現在120%役には立たない。どこの街か分からない上に、現在その街が存在しているかどうかすら怪しいのだから。
 よくよく考えてみたら、セフィロトの地図データであったとしても問題は出てくることだろう。改築されていたら、それだけでたちまち役に立たなくなるではないか。だって、ビジターたちの街である都市マルクトだって、あれこれ手を入れている訳で……。
 無言で酒を飲む2人。ビジターキラーと遭遇して、とりあえず無事戻れたことを喜ぶべきなのだろうか。やがて、ウィスキーの瓶をすっと手にし、璃菜が秀流の名を呼んだ。
「秀流」
「うん?」
「……お疲れさま」
 にこっと微笑み、璃菜は空になった秀流のグラスにウィスキーを注ぎ入れた。
「ああ、お疲れさま」
 秀流も笑みを璃菜に向ける。それは互いに無理した笑顔。璃菜には秀流の無念さがよく分かるし、秀流にも璃菜が自分のことを心配してくれていることは分かっていたから……。

【END】


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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【整理番号(NPCID)】 PC名:クラス

【0577】 神代・秀流:エキスパート
【0580】 高桐・璃菜:エスパー

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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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・『サイコマスターズ・アナザーレポート PCパーティノベル・セフィロトの塔』へのご参加ありがとうございます。本パーティノベルの担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・大変お待たせいたしました、中央警察署への突入の模様をお届けいたします。残念ながら目的の物を得ることは出来ませんでした。この分ですと、地道に足で調査を続けてゆく方が近道かもしれませんね。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またお会いできることを願って。