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都市マルクト【仲間の家】クリスマスパーティーは持ち寄り
ラヴァーズ
千秋志庵
普通、クリスマスは家族や親戚と過ごすんだが‥‥このセフィロトに住んでる奴らはほとんど出稼ぎやら家を飛び出したのやらで、家族は遠くってのが多いから、仲間内で集まる事になるんだろうな。
俺達ビジターなら、仲間のボロ下宿に集まって晩餐ってのが、順当な所だろう。まあ、その方が気をつかわなくて良いよな。
誰の部屋に集まるか決めておいてくれ。それから、晩餐の為の食い物の用意を忘れないようにな。
皆で美味い物を持ち寄ろうぜ。誰が一番美味い物を持ってくるか、競争するくらいのつもりでよ。
それで、食って、飲んで、クリスマスを祝うんだ。悪くないクリスマスだろ?
クリスマスが聖なる日だからという理由でなく、何でもいい、きっかけであったのがたまたまクリスマスだったからであって。
欲しいものは何もない。
大きなプレゼントや両手一杯のプレゼントなんて、欲しいと思ったことは一度だってない。
そう、いつだって求めていたのは、変わらない風景。
大好きな人と一緒にいて、過ごす時。
それだけで満足なのだ。
でも、一つだけ欲しいものを言うとしたら、やっぱりキミは幻滅するのかな。
一つのアカシ。
証明する、カタチ。
本当、困ったような顔をしてくれなきゃいいんだけど。
ブラジルといえども、キリスト教徒の影響は強い。そのせいかどうかは某東国の歴史からして確かだとは言えないが、クリスマスというのは家族や友人、恋人と過ごすのが定番となっている。当然、仕事やバイトとして予定が入っていれば比較的寂しいクリスマスを送ることにはなるのだが。
高桐璃菜はと言えば、自宅でビジター仲間を招いてのクリスマスの準備に追われていた。本来のクリスマスの形である七面鳥料理だけかと思いきや、その内容はバラエティに富んでいる。洋食に中華、和食といった各国の料理がテーブルに収まり切らない程に並べられていた。まだ暖かいところから見ても、丁度先程出来上がったところだろう。適当に仲間に指示を送りながら、璃菜は壁の時計に目をやった。
「……遅い。遅すぎる。一体どこで何やってればこんなに遅くなるのかな」
待つ相手は一人。
「事故、とかかな? ……ううん、それはあり得ない。確証がある訳じゃなくて、勘だけど」
わたわたと頬に手を当てて璃菜は早口になっていく。
「ううん、悪い方向に考えるから駄目なんだ。ただ何かのんびりしていて、それで遅くなっているんだよね。って、確か何か重要なこと忘れているような……」
頼みすぎたかもしれない、と。
今更ながら思ってしまった。璃菜は指を折りながら、頼んだ買い物の品のリストを挙げ始める。だが途中で、その指の本数が足りなくなってしまい、
「頼みすぎて、持って帰るのが大変なのかもしれない」
軽い後悔と申し訳ない気持ちを笑みの中に混ぜ、璃菜はエプロンを壁に掛けて仲間の元へと戻っていった。ノロケだとからかわれながらも、そのポケットの中には大切なものを仕舞い込んでいた。
「頼みすぎ、というか、重すぎ」
それから、これ今買う必要あるのか、と一通りの愚痴を零し、神代秀流は両手一杯の紙袋を抱え直した。その全ては、璃菜に頼まれた食材やら雑貨である。アリオトに文句を垂れているようにも見えるが、流石にそれはそれで哀しい気持ちになってしまう。独りでクリスマスを過ごす予定はさらさらないのだが、と言い訳を繕ってみる。
「さて、と。始めるとしますか」
隠しておいたパーティグッズ、別名・サンタの衣装を寒い屋外で秀流は着込み始める。アリオトと言えばサンタの格好をしている護竜の横で、作ってもらった赤鼻を、鼻らしき部位につけて二機揃って玄関の前に立っていた。
「頼まれていた食材はすぐに冷蔵庫に入れとかないと凍るものじゃないからいいとして、あとはこんなに遅くなってしまった言い訳だけど……まあ、適当にごまかせるかな。嘘は好きじゃないからしたくないんだけど、というか、ストレートに渡しても問題はないんだろうけど」
小声での自身との談義は続いていく。自然と時計の針が進んでいくのに苛立ちがつのるが、仕方なく一息付いて璃菜の家へと入っていった。
それでも気になるのはただ一つ。
本当、困ったような顔をしてくれなきゃいいんだけど。
それだけ、だ。
初めてその架空の人物の名前を聞いたときに「サンディ」と聞き間違えたせいで、そういう名前の犬がプレゼントを配っているのだと思い込んでいたのは今は昔の話。「サンディ」と言えば太陽の光が降り注ぐ下、海へと嬉しそうに向かっていく犬しかない。それを友人に話したら、当然のごとく笑われたのは言うまでもない。
「サンディ……じゃなくて、サンタ。サンディとサンタって発音近いよね?」
「……俺に聞くなって」
「だから私は、間違えても可笑しくはないと思うの!」
「いや、だから力説されても、俺にはどうとも答えられないし」
サンタの扮装をした秀流は、帰宅するなりの璃菜の気の抜ける問いに答えることになってしまった。他の仲間はいつものことだとの談笑続行。それもそれで、非情なものであるが。
「それで、何で遅かったの? 買う物、多すぎた?」
唐突な核心を突く質問に、秀流は軽くたじろぐ。笑顔の裏に鬼は潜んでいないから良いものの、その答えに正しい答えを与えるならば、少しだけだが躊躇うものがある。
それでも、折角の聖なる日を逃したくはない。
クダラナイ理由を与えて、行動の正当化を図る。
それで充分だと、思いたい。
色は白。
全ての色の根源。
大事な人に捧げるのならば、そんな色がいい。
きょとん、とした顔をしていた。
それから、ゆっくりと左手を差し出した。
「薬指で、いい、よな」
こくりと頷く璃菜の指に、秀流はポケットに隠していた指輪を嵌めてやった。後から聞いた話では、この時には璃菜も自作のネックレスを用意していたというのだが、ぼうっとした頭の中は真っ白になってしまい、そんなことなどどこかに忘れてしまったようだったと言う。
白い、透明の色を放つ小さな宝石が薬指で光る。
その光景を惚けた目で眺めながら、璃菜は小さく目を伏せた。
「ね、秀流。一つだけ、言わせて」
秀流は首を縦に振った。
「好きよ」
知ってる、とゆっくり言いながら、彼は一言だけ付け加えて。
「俺は愛してるよ」
【END】
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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【0580】高桐璃菜
【0577】神代秀流
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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お久し振りです、千秋志庵と申します。
依頼、有難うございます。
クリスマスから少し過ぎてしまいましたが、聖なる夜の物語を書かせていただきました。
折角なので、あまり多くは語らないで置きます。
少しでも余韻が残っていれば、と。
兎にも角にも、少しでも愉しんでいただけたら幸いです。
それでは、またどこかで会えることを祈りつつ。
千秋志庵 拝
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