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迷える魂。全ては罪人
一人の少女は其処にいた。
盲目の目を隠す為、目隠しをしている。
少女の名はマイと言う。
古ぼけた遺跡。
忘れ去られた遺跡。
名もない遺跡。
其処に、呼ばれたかのように彼女は一歩ずつ歩み出す。
しかし、其処で彼等を見た。
多分、知っている人なのだろう。
もしかしたら、知らない人かも知れない。
彼女は彼等に微笑んだ。
「貴方も、来てみますか? ここはどうやら、忘れ去られた遺跡みたいです。トラップも沢山あるでしょうね……」
彼女は続けて言葉を紡いだ。
「もしかしたらお宝とかがあるかも知れませんね。…え? 盲目なのに、大丈夫なのか? ふふ、大丈夫ですよ。いざとなれば何とかしますもの」
彼女の傍には、何時もの彼の姿はない。
本当に一人で大丈夫なのだろうか?
とにかく、貴方は彼女についていく?
それとも…お宝を狙いますか…?
「お?あんた……」
遺跡の前で見つけた少女。
其れは彼、アルベルト・ルールとは知り合いである。
知り合いというか、彼女の全てを知ってしまっているというか。
少女、マイはアルベルトの声を聞くと以前とは違う、異様にも落ち着いた笑顔を見せる。
「アルベルトさん?お久しぶりです、まさか貴方が来るだなんて思いもしませんでした」
「そうかい?ま、今回もあんたについて行こうと思ってね。忘れられた遺跡に行くんだろ?」
「はい。私の求めているものが其処にあるかも知れませんから。だから、行きます」
彼女の求めているもの。
アルベルトにはなんとなく分かっていた。
以前なされていると言われた「死の予言」についてだろう。
そして、自分の中に住まう魔物の手がかりを求めているのだろう。
しかし、其処にカイルがいない事は不思議だった。
……アルベルトにとって、其れはとても好都合だったようだが。
「一緒に、来てくれるのですか?」
「さっきも言ったじゃん。行くよ」
「そうですか。貴方の探し物も、見つかるといいですね」
やはり何処か落ち着いてしまっている。
あの占い師の言葉の一件以来、彼女は妙に悟ってしまっているようだ。
アルベルトには其れが悲しく思えながらも何処か安心した。
もしかして、気が狂ってしまったのかもだと思っていたからだ。
「安心したよ。あんた、少しは落ち着いたみたいだ」
「そうですか?そう見えるのなら、私も案外やれるものですね」
「……其れはそうと。忘れ去られた遺跡に一体何があるのかあんたは分かってるのか?」
「分かっていたら、とっくに一人で進んでいますよ。分からないから、お誘いしていたのです」
「そうか。じゃあ俺が求めるものもあるかも知れないな」
「そうですね。行きましょう、光は私が作ります。貴方はトラップの処理、お願いしますね?」
こうして二人は遺跡へと足を踏み入れる。
中は暗く、乾いた空気が漂っていた。
アルベルトは盲目である彼女の手を引いて歩き出す。
彼女はそれに抵抗する事なく一緒に歩を進めていく。
耳を澄ませば聞こえるのは不気味なまでの風の音。
狭い通路を離れないように歩いていく。
光はマイが用意してくれていた。
人差し指の上に小さな光がふわふわ浮いている。
それのお陰でよく見える。
「大丈夫か?ゆっくりと歩けよ?」
「えぇ、ありがとう。……本当にここにあるのでしょうかね」
「其れを確かめる為にここにいるんだろ?でも、どうしたっていうんだ?カイルの所には戻らないのか?」
「彼の元に戻るべきではないのです。私は、一人で探し続けなければならないから」
思い出されるのは占い師の言葉。
一人にしてはいけない。カイルに連絡がつけられれば…。
と、思っていた時。ガコンと言う音が聞こえた。
どうやらトラップ壁に触れてしまったらしく、後方から物凄い音が響いている。
「トラップ発動させちまったか……!」
「水の音…?…水計。まさか古代の人間がここまで手が込んでいるとは思いませんでしたね」
「走れるか、マイ!?」
「何とか、やってみます」
「……いや、俺が抱える!あんたが走ると危ない!」
アルベルトはマイを抱きかかえると、急いで奥へと走り出す。
もしここで水に飲まれてしまえば、自分達だけではどうしようもないだろう。
急いでここから逃げなくては。しかし、まだ遺跡の事を確かめていない。
せめて、確かめるだけでも……。
「くそ…水の流れの方が速い…!」
「アルベルトさん、目を閉じて。そして立ち止まってください」
「へ!?」
「いいから、早く」
マイの言葉を信じて、アルベルトはその場にて立ち止まる。
そして、ゆっくりと目を閉じるのだ。
マイが小さく何かを呟く声が聞こえたと思うと、水の音は聞こえなくなっていた。
不思議と思って目を開けると、其処は先ほどいた場所ではなかった。
まるで神殿のような作りの建物の前にいたのだ。
「こ、ここは?」
「太古に沈んだ、歌姫を祭る神殿です」
「歌姫を、祭る?」
「そうです。…人に踊らされ、海に落とされ歌と世界を奪われた歌姫……セイレーンを祭る神殿」
セイレーン。
確か神話として聞いた事がある。
歌姫は、魔物に変わり果てたという事も。
「歌姫は、ヴェスティア…魔獣の手によって世界を奪われたと聞きます。遺跡がここに繋がっているという事は、私の答えはある意味ここにあるのでしょう。しかし、私は納得出来ません」
「マイ、あんたは確か体内に魔物がいるって事を聞いたよな?あんた、まさか其れを確かめる為に?」
「そうです。この神殿は、人を寄せ付けないと聞きました。しかし私達はその目の前に立っている……特別な人なのか、もしくは人間ではないのか…」
「……」
「貴方が求めるものも、どうやらここにはないみたいですね……」
マイが小さく苦笑を浮かべると、マイの背後に一つの影が降りてきた。
その姿は黒きマントの男。
アルベルトはカイルかと思って警戒をしていたのだが、男はマイを見つけるとマイに向けて銃を発砲したのだ。
「マイ!」
「気配…完全に消えていましたか…!」
銃弾をぎりぎりで回避すると、マイはフラフラとしながらも立ちなおした。
アルベルトは急いでマイの元へ走り、マイを抱えてまた走り出す。
無意味な戦いは避けたいのだろう。
しかし男は追いかけてくる。アルベルトに危害を加えようとはしない。
ただ、マイだけを狙っているようだ。
「あんた、あの男に狙われるような事したのか!?」
「私が分かるわけ……あの人、においがなくて、記憶にないんですよっ!」
「くっそ…!このままじゃ……!」
「……っ!」
マイの頬に銃弾がかすった。
白い肌を染める赤い血。
マイは、知らずに瞳を開いていく。
<開眼>
ドクンッという音と同時に、周りがセピア色へと変わる。
アルベルトは驚いて辺りを見回すと、マイを見下ろす。
盲目のはずなのに、開かれた瞳。不気味な緋色で、アルベルトを見上げた。
「急いでください。私の力で止められるのにも限界があります。どうか、走って……!」
二人が遺跡から出ると、遺跡は音もなく入り口を閉じた。
そして、その戸は二度と開かないだろう。
結局二人が求めていたものは、ここにはなかった。
「…やれやれ。ここにもなし、か」
「探し物は、ほしい時に見つからず、いらない時に見つかります。私がそうでしたから」
「自分の記憶、自分の事かい?」
「…其れは、どうでしょうね」
「それよりあんたはこれからどうするんだ?」
「一人で、行きます」
「…ダメだ。カイルを探そう。手伝う」
彼女を一人にしてはいけない。
死の予言がもし正しければ……
一人にすると、彼女は死んでしまうかも知れないのだから……。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】
【0552】/アルベルト・ルール/男/20歳/エスパー
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、神無月です。
この度は発注ありがとうございました。
…あはは、もうマイが壊れちゃってますorz
というか、こんな我侭娘に付き合ってくださるなんてありがたく…!
アルベルトというキャラは私としても書きやすいのですが
何分神無月の表現力が乏しいのでこんな事に(汗)
今回の文から見てとれると思いますが
これから神話?っぽいのを少しずつと思っています。
彼女の開眼能力と、彼女の行く末を
どうか見守ってあげてくださいね。
それでは、また何時か会える時まで…。
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