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ブラジル【アマゾン川】ジャングルクルーズ
ライター:有馬秋人
セフィロトはジャングルの中に孤立している。
そこで唯一、他の土地と繋がる道。それがアマゾン川だ。
河口の方とは違って、マナウスからセフィロトの辺りは対岸が見えない程広いって事はない。
それでも、セフィロト建造の際には、外洋で使う様な巨大な貨物船が川を遡ってきて、その資材を運んだというから、アマゾン川の大きさがわかるってもんだろう。
人も物資も、このアマゾン川を通して運ばれている。貨客船の定期航路もあるし、少々稼げば手漕ぎのカヌーくらいは簡単に手に入る。
船旅をしながら、マナウスまでゆっくり過ごしてみるのも良いかも知れないぜ。
ところで‥‥お前さん、船酔いに弱かったりしないよな?
***
クリスマスだ、と入っても気候が単一なセフィロトの塔では季節感も何もあったものでなく。かといって塔の外に出てしまえば南半球に属しているこの辺りでは日差しが元気な状態だ。暑さに茹だるような状態で、皮下の循環液がフル活動している。
降り注ぐのは話に聞く雪ではなく、燦々とした太陽の光。
「提案者は…不参加だっけ」
むぅ、と少しばかり拗ねた顔で振り返ったレオナは、わくわくしている守久と苦笑顔のアルベルトを手招いた。レオナの相棒が提案した、内輪だけのささやかなクリスマスパーティーは予定がない者だけが顔を出している。他の面々はそれぞれの楽しい一日を過ごすと聞いていた。それが少しばかり残念ではあるが強制したり駄々を捏ねても楽しいものではない。それに、少人数でも気心の知れた相手ばかりであれば楽しい。
レオナはマナウス行きの船を指差すして二人に声をかけた。
「早くおいでよ、出航するじゃないか」
「船上のパーティーか、こういうのは初めてだ」
実に楽しげな守久とは対照的に、アルベルトは船を見上げている。
「船上もいいけど…酒場とかでも良かったんじゃ」
「最近よく世話になってる場所だから、ちょうどいいと思ったんだよ」
タラップを踏みながら話すレオナに守久は茶化すつもりで口を挟んだ。
「とかいってたんに変わった場所でやってみたかっただけじゃないだろうな」
「………」
「ちょっと待て、何でそこで目をそらす。俺の目をよっく見て正直に答えろ」
「なんでもいじゃないかっ。会場はここっそう決めたんだから」
「レオナレオナ、ほら守久に怒ってないでさ」
色々用意してきたんだろうと窘めたアルベルトは、先にきていたレオナが持ち込んでいた物の数々に目を見張った。どうやら船は貸切で、甲板に設置されたテーブルにはまだ広げられていない料理が置かれている。それを見て沈黙を選択したのはレオナではなく守久だった。
「………」
「なーにーがーっいいたいのかなぁ?」
付き合いが長い分この手の読みあいはアルベルトよりも守久の方がしっくりくるのか、即座に看破したレオナが詰め寄る。まだ甲板に一歩しか踏み込んでいなかった守久は下がる場所がないと踏みとどまった。
よく分かっていないアルベルトは二人のやり取りに肩を竦めて、脇に放置されていたツリーに目を留めた。
「飾りつけはまだなのか」
「ああそれね、皆でやろうと思って……って龍樹!」
まだ話は終わってないぞと怒鳴るレオナの横をすり抜けて、守久は料理をじっくりと検分しだした。レオナは聞かない守久に飽いたのか、ツリーに飾るオーナメントを運ぶべく踵を返した。守久はカバーの掛かっている料理を眺める。
「大丈夫、そう…だな」
「何が?」
アルベルトが尋ねると、相手は緊張を解いて首の後ろに手を当てた。何を思い出しているのか微妙な面持ちだ。
「いや……まぁ、これがあいつのお手製じゃなけりゃ、いいな、と」
「……………へぇ」
男二人は実に奇妙な顔つきで互いの顔を見、次いで飾りを持って来たレオナに目を向ける。
「二人して何さ」
「いや、別に」
「飾りつけしようか」
「…ボクだって自分の料理の腕前くらい自覚してるよ」
ぼそりと低音で呟かれた言葉に守久は目を逸らし、アルベルトは聞かなかったことにした。手渡された飾りの中にツリーに巻くには長すぎるモールを見つけ首を傾げる。
「あ、それはねぇ」
アルベルトの疑問に気付いたレオナは手にとって実際に飾り付けていく。ただし、ツリーにではなく船の手すりにだ。甲板の周囲をきちんと囲っている金属部に鮮やかなモールが巻かれていく様を見ていると、だんだんパーティーらしい気分になっていく。アルベルトも守久も手近な飾りを取って思い思いに飾りつけ始めた。
***
「に、してもさ。アールってだんだん綺麗になっている気がする…」
「あー、それには俺も同感。今日なんか格好からして、なぁ」
テーブルの料理も粗方なくなった頃合に、幼馴染みコンビはそうぼやく。話の槍玉に挙げられたアルベルトは飲み物片手に自分の服装をチェックした。
伸びている髪を首の後ろで結んでいる他は別段変えているつもりはないのだが。
「可笑しいか?」
「ちっがーう。似合っているんだよ。そりゃもうっ」
「大変よくお似合いだ」
「レオナはともかく、守久は何か含んでるな」
「ボクもちょっと含んでる」
「俺は全力で含んでる」
「…しょうがないだろ」
最近目覚めた力の影響で体格にも微妙な変化が加わっている現状で、綺麗になっているとは褒め言葉なのかどうか迷う。苦笑いを浮かべるアルベルトにレオナは仕方ないなぁと頬を掻いた。
「じゃそろそろプレゼント交換といこうか!」
もちろん用意しているんだろうね、と悪戯っぽく笑うレオナに守久もアルベルトも頷く。食べて飲んでと極めつけにプレゼント交換なんて普通のパーティーで、意外性の欠片もないけれど、楽しいのは確かだ。奇天烈なイベントがあるよりよっぽどいい。
それぞれが持ち込んだプレゼントの箱に番号を振って、予め用意していた1から3までの数字を書いた紙をテーブルに並べた。折られた紙は数字が透けて見えることがない。製作者のレオナは平等性をうたって守久とアルベルトの二人から先に引くようにとすすめた。
「…右…いや真ん中、か?」
「真ん中…」
二人は真剣な顔で三つの紙を見つめている。それはそうだ。三分の一の確率で自分の物が当たり、三分の一の確率でレオナのプレゼントが当たる。そんな危険で魅力的なくじなぞここ暫く経験していない。欲しいのはレオナのプレゼントだ。それを思えば自然と選ぶ視線も厳しいものとなっていく。
「選ばないならボクからひいちゃうよー」
「いやっ、俺は右のを貰う」
「じゃ俺は真ん中ね」
「ボクは左っと」
それぞれ選んだ紙片を手にとって同時に開封した。
「ん」
「ま、自分の物じゃないから外れじゃないか」
守久とアルベルトが数字の通りの箱を手に取った。と、一人だけ実に残念そうな顔をしたのはレオナだった。
「あー、自分のがあたっちゃったよぅ」
「……へ」
「………ってことは」
レオナは箱をぺりぺり開けて中身を披露する。出てきたのは見事な焼き目のついたリンゴだ。
「これだけはちゃんと食べれるってお墨付きだったのにさ。もぅ、今食べようよ」
切れ目も入れてあるからすぐ食べられるよと一切れ摘んで残りをテーブルに置いたレオナを他所に、男二人は互いの手の中を見て深々とため息をついた。
よりにもよって、男二人でプレゼントを交換してしまった、と。
開ける気にもなれず掌サイズの箱を二人ともがポケットにしまい、焼きリンゴに手を伸ばす。それだけは食べられると知っている守久が警戒せずに口に入れたのを確かめて、アルベルトもしゃくりと歯を立てる。じわりとした甘みが口の中に広がって、レオナの手作りを食べているという感慨が湧いてきた。
ああちょっと幸せかもしんない、と浸りかけていた感性は別のモノが引っかかって邪魔された。
「本日休戦って噂はガセだな」
「アール?」
「どうした?」
手の中のリンゴを一息に噛み砕いて飲み込んで、テーブルを端に寄せたアルベルトに二人をは首を傾げ、すぐに気付いた。レオナは傍に置いていた巨大なブレードを引き寄せ、守久は姿勢を正す。動き出したのはレオナが先。
「今日はお祭り騒ぎで出ないって話だったんだけどっ」
距離はすでにない。騒いでいたせいで警戒が緩んでいたためだろう。甲板にまで踏み込んできた河賊に勇ましく斬り込んだ。リンゴを食べていたときの表情とはまた違う、どこか好戦的で鋭角的で、それでいて軽快で。まるでステップを踏むように踏み出し体を捻る。腕力ではなく、体全体を使って操るブレードは手斧を構えていた男を鮮やかに吹き飛ばした。
「レオナは平気そうだな」
「下手に手を出したら怒られそうだよ」
出遅れた二人は多方面から来た賊と相対して自然と背中合わせになっている。呼吸法によって身体能力を上げた守久と直接的な攻撃方がPKのアルベルトでは背中合わせになる意味なぞあまりない。それでも、二人はそれぞれの思惑を持ってしてこの体勢を維持していた。刃の側面を押すようにして切りかかってきた賊の得物を奪い、当て身を食らわせた守久が口火を切った。
「なぁ……後で交換しなおさないか」
何を、とは言わない。その思いはアルベルトも同じのようであっさり首肯する。
「賛成。レオナしか想定してなかったからさ。守久にはまた別のをやるよ」
レオナに当たることを考えて赤と黄色が鮮やかなトルマリンピアスを包んでいたのだ。ちなみに他には怪しげなネックレスをしか用意していない。守久に上げるとすればそれになるが、そんな考え億尾にもださずアルベルトは申し出を飲んだ。
意見が一致したのであればこの状態でいる必要はないし、効率的でない。
「じゃ、後ろ頼む」
「了解」
そんな軽い声を掛け合って守久はレオナの近くへ移動し、徒手空拳のままあがってくる賊を河に投げ飛ばす。アルベルトも壁に背をつけ二人の間合いより遠い場所にいる者たちを、PKで遠慮なく突き飛ばし押し戻しシャットダウンに努めだす。
そのお陰もあって群がるように沸いていた河賊も次第に勢いを失い、バラバラになって戦っていたレオナと守久は互いをフォローできる距離で腕を振るっていた。借りている船をあまり血で汚したくないという意図のもと、狙うのは人ではなく武器だ。大きなブレードで手元だけを狙うのは難しい。いつもより精密な動きを要求されていはするが、それが苦と感じるようではまだまだで。
武器を落とした賊は蹴り飛ばして落とす。新たに上がってくる者はすでになかった。
粗方片付いたのに息を吐き出して、守久はちらりと幼馴染みに目をやった。用意していたプレゼントはシルバーのリング。内側にこっそりと名前まで彫ってあるという念の入れようだ。まさかそれをアルベルトに渡したままにすることも出来ず、うろたえてしまったが返ってくるなら問題はない。
ブレードが刃こぼれしていないか確認して鞘にしまったレオナと、最後の賊をPKで河につまみ落としているアルベルトと、自分を起点とした相対距離を確認してチャンスはきっと今だけだと拳を握る。
このパーティーが終わった後一緒にもうちょっとだけ居ないかというべく、守久はレオナを小声で呼んだ。
2006/01/...
■参加人物一覧
0536 / 兵藤・レオナ / 女性 / オールサイバー
0535 / 守久・龍樹 / 男性 / エキスパート
0552 / アルベルト・ルール / 男性 / エスパー
■ライター雑記
こちら側の事情によりクリスマスに間に合わず、案の定期間ぎりぎりまで粘ってしまいすみませんでした。できるならっ、クリスマスに納めたかったです(涙)。
年明け最初のお届けです。本年度もよろしくお願いします。
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