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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


扉を開く鍵


 いつものようにいつもと変わらない時間、風景、人々、そして自分。
 多少の変化はあるものの、特異というわけではない毎日。
 だが、
『少し…話さない』
 いつもの日常の中に居る人たちとは違う、声。
 テレパスで脳に直接響く声は、呼ぶ。
 軽い眩暈を感じ、瞳を開けた時にはまったく違う景色の中に居た。
(おや)
 こちらの都合などまるで考えていないのか。
 相変わらずの白い空。
 その中で際立つように黄緑色をした広い草原の中でポツンと立つ家の前で、エアティアが立っていた。
 リュイ・ユウは一度見た事がある光景に辺りを見回し、その先に立つエアティアの元へと歩を進める。
「ここに来るのは久しぶりですね」
 草を踏みしめる音を引き連れてたどり着いた家を一度見上げ、そしてゆっくりとエアティアを見下ろしてリュイは答える。
『そう頻繁に来られるようになったら、ここの意味がないよ』
 くすっとどこか微笑んで答えるエアティアに、リュイはふむっと顎に手を当てる。
『リュイ?』
 前に来た時は自分の意思でこの場所に入り込んだが、基本的にこの場所に来る事が出来る条件は“偶然”か“呼ばれるか”のどちらかのみ。
 少々顔色をうかがう様なエアティアの声音に、何の事はないとリュイは視線を向けて、
「いえ、タイミング良く誰かに後を付けられていた所だったので、逆に助かりました」
 それだけの事です。 と、言葉を〆る。
 そしてはたっと思い出したように鞄を漁ると、
「良かったらどうぞ」
 と、鞄からジュースが入った瓶をエアティアに差し出す。
『ありがとう』
 本当だったら無償でもらえる物に対して多少警戒をしてもいいものなのだろうが、きっと相手が見知った人物、しかも自分から呼んだ相手なのだという事がその警戒心を薄れさせているのだろう。
 まるで古き良きアメリカ開拓時代を描いたドラマにでも出てきそうな形の木の家には、小さなロックテーブルとロックチェアー、そして一人座りの木のブランコ。
『座っていいよ』
 リュイは促されるままにロックチェアに腰掛ける。
「ところで、何か変わりはありませんでしたか?」
 リュイが誰かに後を付けられたこのあたりは、最近何かと物騒になってきている。
『あの場所で呼んだから、この場所があそこにあるわけじゃないよ』
 心配してくれてありがとう。と、エアティアはリュイが腰を下ろした椅子の反対側の椅子に腰を下ろした。
「何かあってからでは遅いですからね。エアティアもラ・ルーナも二人とも気をつけてください」
 何かしら警戒をしておいたり、警戒まではいなくともそう言った事を心に住まわせておくだけで多少の危険回避にはなるだろう。
『今日は本を読まないんだね』
 確かに鞄の中に本は入っているが、今日は何となく聞いてみた事があってリュイは口を開く。
「エアティアはどうしてここにいるんです?」
 しかしエアティアは、きょとんとして小首を傾げるのみ。本心からのどうして? という気持ちを読み取って尚意味が分からなかったのだろう。
「いえ、最近は損得関係なく色々気になり始めてきまして」
 その手始めとして周りを知る事からリュイは始めることにした。
『うん』
 探究心を追い求める事はいい事だと思う。
『リュイも探してるんだね』
 ボソリと呟いたエアティアに今度はリュイが首を傾げる。心のどこかで感じている過去への思いに、リュイ自身の自覚はまだ低いようだ。
「此処はいい場所だと思います」
 リュイにしてみればタイミングよく付けられていた状況から脱する事が出来たように、この空間は何かから隠れるのに便利で、もしそれ以外の使い道をしているのだったらやはりどうしてなのか気になった。
『そうだね……』
 エアティアはリュイに向けていた視線を外し、広がる草原へと移す。
『僕は確かに隠れているんだ』
 見なくていいものを見ないため、聞かなくていいものを聞かないため、エアティアの目も耳も“良すぎる”から。
『ううん逃げてるんだよ―――きっと』
 逃げているとすれば、それは何から逃げているのか。
 他人から? それとも自分から?
「物騒ですからね。逃げ場所に篭る事が悪い事だとは思いませんよ」
『そうじゃない』
 エアティアは呟き、そしてまた『そうじゃない』と言葉を繰り返して首を振る。
 そしてどこか虚空を見つめるような仕草で顔を上げた。
 言葉をどれだけ着飾らせても、心の中では蔑んでいる人だっている。まだ聞こえていた頃にはそういった人が沢山いた。だから声を発するのが煩わしくなった。
 いっその事煩わしいなら隔絶してしまえばいいとこの空間を作り逃げ込んだ。
『人が嫌いなわけじゃないんだ』
 ただ煩わしいのが嫌いなだけで。
『僕はそんなに強い人間じゃない。だから』
 “自分”を護るために、この場所という逃げ場を作った。
 耳を塞いだとしても潰れてしまいそうになるほど流れ込む音を、超能力のないリュイに理解してほしいとは言わない。
 それこそ酷だと分かっている。
「超能力の制御の関係でしょうか」
 ふむっと考え込むリュイに、エアティアは淡々と答える。
『どうだろうね』
 幼かったから全てを拒絶する以外に方法を思いつかなかった。
 そして気が着けば普通になって今に至る。
 今ではここにずっといるせいか、自分で自分の能力を制御できているのかどうかさえ曖昧になってしまっている。
「エアティアの場合、逃げているばかりでは解決にならない事ですね」
 人の身に余る力は周りを壊すか、自分を壊すか―――制御するしかない。
『分かってる』
 エアティアはただ薄く口元に笑みを浮かべ、何時までもこのままではいけないとどこかで感じているようだった。
 もし外へ出る事があるのならと思い、リュイはふと呟く。
「最近は俺も料理が上手くなってきましたからね」
 エアティアはこの言葉に一瞬きょとんと口元を薄く開けると、その後クスクスと声を上げて笑う。
 正直笑われるなど心外ではあるのだが、ルーナから話を聞いていれば分からないことではない。
 そしてすっとエアティアは腕を上げると、今まで草原だった景色がこの家だけをそのままに金属的な街並みへと変わる。
「これは…?」
 行き成り都市マルクトの中へと戻されたのかと思ったが、行き交う人々はリュイをそして家をすり抜け、誰もこちらに気が着かない。
 この空間の中自体が大きな立体スクリーンとなって場面を写しているような状態。
 しかし、この場所がリュイに見覚えが無いと言うことは、きっとエアティアの記憶の中の場所なのだろう。
「ここは?」
 リュイはエアティアに視線を向けて問いかける。
 だがエアティアは微笑むばかり。
『ここは―――――』
 言葉を最後まで聞く事無く、リュイを突然の耳鳴りが襲う。
 視界にノイズが走り、まるで電波不良のテレビやラジオのように耳障りな音が広がっていく。
『リュイ』
 声を媒体としないエアティアの声は綺麗に聞こえるのに、自分の喉から発せられた声はノイズに掻き消える。
「エアティ……」
 やっと聞き取れるような声で名前を呼んだときには、リュイは呼ばれたとき歩いていた場所から少し離れた人目のつかない裏路地に立ちつくしていた。


―――――いつか、本当に――






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0487 / リュイ・ユウ / 男性 / 28歳 / エキスパート】

【NPC / エアティア / 無性別 / 15歳 / エスパー】


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■         ライター通信          ■
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 扉を開く鍵にご参加ありがとうございます。ライターの紺碧 乃空です。色々好きにとありましたので、結構好きに書かさせていただきました。それなりに伏線を張らせていただいたのですが、伝わっていれば幸いに思います。
 それではまた、リュイ様がエアティアに会いに来ていただけることを祈って……