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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


もふもふっ☆

 もこもこもこっ♪

「毛玉?」
 ユーリ・ヴェルトライゼンは呟いた。
 巨大食料品マーケットはさながら市場のようだ。その中に小さな箱に入った毛玉が動いているように見え、ユーリは立ち止まって覗いてみる。
 何かケモクジャラの新種の怪物かと期待して覗いて見れば、そこには入っていたのは子猫だった。
「小さいな……新種の地球外生命体か?」
「何言ってるんですか! 子猫でしょう……生まれて1週間経ってませんよ」
 相方の清音・響はユーリにすかさずツッコミを入れる。
 片や銀髪の美青年、響は黒髪美女顔の青年とくれば、ナニか妖しい事を想像してしまいそうな間柄かと誰もが思いそうだ――が、どちらかと言えば『相方』と言う言葉が似合う間柄だった。
 死と硝煙と策略が渦巻く軌道エレベーター「セフィロト」内でそれほど深刻にならずに済んでいるのは互いのお陰かも知れない。
 ともあれ、今日も気分は晴天。セフィロト内は晴れ時々血の雨。お日柄も良く、目の前の子猫はミィミィと啼いていた。
「……で、このサイズじゃ食うとこないぞ」
「食べれません! じゃーなくって、食べませんよ」
「買い物帰りの冗談なのに……」
「はいはいはい……まったく」
 響は言った。
 仕事帰りの帰宅中、ついでに食料品買出しに行ったユーリは響と鉢合わせし、同じマンションに住んでいるために何となくそのまま一緒に歩いていたのだ。
 通りすがりの路地裏から何かの細い鳴き声が聞こえ、赤ん坊かと思ってやってきたが。
「可愛いですね〜♪」
 ぶち子猫が気に入ったのか、響はにこやかな笑顔で子猫を抱き上げる。
 子猫の体は小さく、手のひらに乗るサイズだ。10センチぐらいかもしれない。ピンク色の口を大きく開けて入る姿が「ミルクくれ〜」と言っているようにも見えなくはなかった。
「このサイズで捨てられて、生きていけるのか?」
「生きていけるわけ無いじゃないですか。だから私が拾うんですよ」
「えー……」
「別に良いじゃありませんか。私の部屋で飼うんですから」
「飼うのか!?」
「何ですか、唐突に。このままほったらかしじゃ死んでしまいますよ」
「部屋が汚れるだろ〜」
「いつも私が綺麗にしてるでしょう? 汚くなりようがありません」
「まあな……」
 おせっかいにも拾って帰えろうとする響の横で、それに付き合わされることが決定したユーリは深い溜息をついた。
 しかもこともあろうに響は「この子抱いてると手が塞がってしまいますねぇ」という始末。
 荷物持ちするハメになり、帰り際に買い物へとここまで来ただけなのに、ユーリは響の荷物を持たされ、さっき買った大量のコーヒー豆やら砂糖やら夕飯用の豪州米を持って歩かねばならなくなった。
「……何で俺はこんな事してるんだ?」
 自問自答したところで響は振り返らない。
 すっかり愛らしい子猫に夢中だった。
 ずっしりと重い買い物袋を抱え、ユーリは終始無言であった。

 もふもふとした毛並みの子猫は響の部屋に入るなり寝始めた。
 いつも起きてるのだか寝てるのかわからない表情なのだが、鳴かないあたり寝ているらしい。
 響はお湯を入れたペットボトルに布を巻いて子猫の近くに置いてやった。子猫は親の体温を必要とするのだが、捨てられた子猫にそれは無理というもので、ペットボトルはそれの代用となるのだ。
 しばらく見つめていたが、ふと目を覚ました子猫がユーリの方を見て「みィ〜」と鳴いた。
「お、起きたな」
「そうみたいですねえ。お湯を取り替えるまで時間もありますし、ミルクでしょうか?」
 何か子猫が欲しくて起きたのだと思った響は様子を窺ってみる。
 ユーリは響が猫の世話をする様子を見ているだけだった。
「みィ〜」
 子猫はユーリに向かって鳴く。
「ん〜?」
「み〜ィ〜」
「これは……懐かれてるのか?」
「どう見たってそうでしょう。ユーリをご指名ですよ」
「困ったお客さんだなぁ。高いぞ?」
「何言ってるんですか、相手は子供ですよ。子供からチップ取る気ですか、あなたは」
 そんなことを言いつつも、響は笑っている。
 ふと、響が話を振った。
「名前、どうしましょう?」
 白地に額の黒ブチ。
 何となくアレに似ている。

――どうだろう……

 しばし考えたが、ぽつりと言った。
「………ゴルバチョフ」
 ユーリは20世紀の政治家の名前を素で言ってしまった。
「ご、ゴルバチョフ?」
  最初は何が起こったかわからないといった風な様子でこっちを見ていた響はユーリの顔を見るや口元を抑え、床に突っ伏して笑いを堪える。
「イイですね……それ。ゴルー、ゴル〜。ゴルバチョフ〜♪」
 名前はソレに決定し、響はことのほか嬉しそうに名前を呼ぶ。
 子猫の名付け親になってしまったユーリは子猫の方を見た。
 有線が遠くで流れている。
 お決まりのラブソングとこのシュチュエーションにユーリは溜息を付いた。

 ジャスミンティーの向こう側にあなたがいて
 子猫が足元でじゃれてる
 そんな幸せな午後の日差し
 市場に行こう 雨が上がったら
 子猫を連れて

 わたしと あなたと
 新しい明日
 カフェで過ごすひとときを
 わたしと あなたと……

 ◆end◆