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Valentine dyed with blood
入り組んだ路地裏で少女は何かに躓いた。
「……?」
「どうした?」
傍を歩いていた男が、あきれたように無造作に少女を抱き起こした。 一つ二つ三つ……ここで争いがあったのだろうか……
「アフラ……」
どうしてこの人ここで寝てるの?ベッタリと膝と手についてしまった赤いものをどうしようかと少女は途方にくれる。
「…気にするな、ここでこんな人間のことを気にしていたらきりがないぞ」
「そう?」
冷たくなった躯の手には小さなリボンのかけられた包みが見えた。
少女は手に付いた血糊を白いスカートの裾で無造作に拭い去った。
どこかで爆音と銃声が響く。
「……何かが来るな……」
争いの気配に追い立てられるように二人は闇に溶け込むように路地裏へと消えた。
嗅ぎ慣れた硝煙の匂い、聞きなれた罵声と怒号。
「増援はまだかよ!」
そろそろ弾薬が衝きそうだぜ…魔力も使い果たし疲労の色が濃くなっていた。
「折角のバレンタインにひっでぇ話だぜ」
「そんなこといったってどうせ貰う人もいないくせに」
軽口を叩きながらもなれた手つきで、静流は手にしていた5.56mm機関銃のマガジンを交換する。
バレンタインの日に行われたテロリスト掃討作戦は苦戦の色を濃く見せていた。
「やってらんねぇぜ」
「敵はまってちゃくれないよ」
大体なんで上は、もっと緻密に作戦を考えないのだろう口を開けばとめどなく文句ばかりがあふれ出る。
「わかってる」
悪態をつきつつも、血臭に塗れた空気に何処かほっとする自分に透は苦笑しながら、ライフルを構えるのであった。
「折角……折角あいつに渡そうとおもって……」
チョコレートを用意しておいたのに…思ったよりの苦戦になりそうな戦況に門屋・嬢はため息をついた。
バレンタインに決行されたテロリスト掃討作戦はテロリスト側の思った以上の反撃に随分と手を焼かされていた。敵味方入り乱れての銃撃戦が始まってしまっては嬢が得意とする陽道作戦は通じない。
「絶対にあたしは生き残る」
生きて帰ってあいつにチョコを渡すんだ。そうでないと何のために慣れない手つきでこのチョコレートをつくったのか分かったもんじゃない。
懐にいれた手作りのチョコレートをそっと押さえて嬢はデリンジャーの弾丸の残数を確認した。
「まだいける」
まだ大丈夫、自分には戦うすべがある。
どちらかというとぎこちない構えではあるが、それでも嬢の銃弾は敵戦力を確実にそいでいった。
どれくらい銃撃戦が続いたであろうか。
後方からの援護もあり、随分と撃ち返される弾丸の数が減っていた。
「そろそろ、かな……」
自分は生き抜くことができそうだ、と嬢が少しだけ肩の力を抜いたとき、物陰から幼い少女がまろぶように飛び出してきた。
「危ない!」
「撃ち方やめろ!」
「何でこんなところに民間人が!?」
叫んだのはだれだったか……
思わず嬢はデリンジャーを投げ捨てて飛び出していった。
「やめろ!」
と、後ろから声がかけられるがそんな事を気にしてはいられない。
それはごく自然ななりゆきだった。
防弾チョッキは銃弾を止めはするが、その衝撃までは防ぐことはできない。
バスッバスッと、チョッキにを着込んだ背に銃弾が突き刺さる鈍い音が響く。
「クッ」
歯を食いしばり衝撃に耐えた嬢が少女を抱きかかえ路地に転がりこむ。
「……大丈夫?」
どこかを切ったのか口の中には血の味がした。
「……お姉ちゃん怪我してるよ……」
こわばった表情の少女が恐る恐る額から血を流す嬢に手を伸ばした。
「あたしは大丈夫、それよりもここは危ないから早くにげるんだ」
誰かが駆け寄ってくる気配がする。
「この子を頼むよ」
「分かった」
少女を駆けつけた仲間の手に託し嬢は再び戦場へと舞い戻った。
「これ以上好きにはさせない……」
決着をつけてやる。流れる血を乱暴に拭い嬢は顔を上げた。
「援護を頼む」
「ちょっとま……」
仲間の静止を振り切り腰に挿していた十手を手にした嬢は単身銃撃戦が続く渦中へ飛び込んでいった。
無謀ともいえる奇襲。背後からの仲間の援護射撃を期待していたわけではない。それでも、嬢は単身特攻をかけた。
「いい加減にくたばってよ!」
十手を構えテロリスト達の中へ飛び込む。
「あんた達がおとなしくつかまってくれないと……あいつに直接、チョコを手渡せないじゃないかっ!!」
半ば八つ当たりのように、十手で相手を叩き伏せ急所を突く。
「今日はバレンタインなのに!」
なんでこんなときに騒ぎを起こすんだ!
乙女の怒りは最高潮に達していた。
「この日の為に一生懸命チョコレートをつくったんだよ!!」
おとなしくお縄につきな!もうあんた達の逃げ場なんてないんだから!
びしりっと最後の一人の脳天を十手で叩き伏せた。
「…まだ間に合うよね」
随分と時間を食ってしまった。どうにかテロリストの制圧は成功した。
懐に入れていたチョコレートは多少箱がいびつになってしまったが、なんとか無事であった。
「急いがないと」
今日が終わってしまう。折角作ったのだから今日中に届けたい……
一人の少女の顔に戻った嬢は少しひしゃげてしまった箱を手にして静寂の戻った町へ歩き出した。
【 Fin 】
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】
【0517 / 門屋・嬢 / 19歳 / 女性 / エキスパート】
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ライター通信
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門屋・嬢様
はじめまして、ライターのはるでございます。
バレンタインのテロリスト掃討作戦へのご参加あろうがとうございました。
無事にチョコレートを届けることができていればよいのですが・・・
何か、イメージと違うというようなことがありましたら遠慮なくお申し付けくださいませ。
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