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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


タクトニムではないらしい 〜いいひと。


 少し前の事。
 セフィロトの塔第一階層イエツィラー内部。
 人間と呼ばれるものが誰も住まない建物の合間、ふと立ち止まっていたのはアルビノ体質の青年一人――クレイン・ガーランド。
 さすがにこんな場所でただ立ち尽くしていたわけでは無く、手持ちの小型無線を少しいじっているようだった。だが――無線の調子が悪いのか相手が出ない。数名で組んで入ってきたパーティメンバー。…ひょっとするとこちらの無線の調子が悪いのではなく相手方に問題が起きているのかもしれないが――どちらにしろ通じない事に変わりはない。
 …困った。
 パーティメンバーと通じない無線を荷物の中に仕舞い、クレインは再び思案。…先程タクトニムに襲われ、命からがら――と言う程彼の場合は切羽詰まっているようには決して見えないが――逃げ出した結果、気が付いたら一人になっていた。武装も乏しい。銃弾も今ピストルに装填してある分で終わりである。…さて、どうやってここから帰還しようか。
 ここから独力でヘルズゲートまで戻る事を考えると、実は結構、本気で切羽詰まった状況である。恐らくタクトニムとの戦闘は避けられない。それ程奥深い場所とは言えないが、それでも――どれ程注意したとしても一度や二度の戦闘で済むとは思えないくらいは奥に居る自覚がある。ピストルの残弾がヘルズゲートまで持つかは微妙な線だ。そしてクレインは射撃が然程上手くない。ついでにピストルの威力もタクトニム相手では申し訳程度で大した事は無い。よって、弾も無駄に消費してしまう確率の方が、高い。となると余計にゲートまで戦い切れるか不安になる。
 が、その置かれた状況にしては、クレインの場合――どうも呑気である。
 …うっかり死んでしまった時はその時、と予め覚悟が決まっている人間だからかもしれない。
 さりとて自分から死のうと思うのは取り敢えず止めている現状、クレインは何とかここから生き延びる術を思案し続ける。と、そんな投げやりなんだか肝が座っているんだかよくわからない思案中なクレインの身体に、死角から小柄な影がぶつかってきた。とは言えその正体はタクトニム――と言う訳では無く、赤毛の頭を持つまだ年端も行かない子供である。…男の子か女の子か、判別付け難い線の容姿。
 当然、死角からなので避けられない。
「…っと、貴方!?」
「あ、ごめんなさい!」
「…いえ。大丈夫ですが――貴方こそ、こんな場所ですからお気を付け下さいね」
「…ありがと」
 クレインの忠告に目を瞬かせ意外そうに礼を言いつつ、赤毛の子供――来栖・コレットはそのままクレインから離れ、走り去ろうとする。

 と。
 …そんな、折。





 …回収品&装備掻っ攫うつもりで銃突き付けて来たジェダと若宮に出くわした、訳で。

「おや、横取りですか」
「――っ」
 全然動じないクレインに、反射的に息を飲むコレット。
 が。
 …どちらも結局、別に怯えて身動き取れないと言う程でもない。あくまでいきなりだったので驚いた、反応が大きかったコレットの方でさえその程度の反応と言えた。
「…っと…出せって言われても…金目のもの…んー…」
 これっくらい?
 言いながらコレットが見せていたのは元々手に持っていたデリンジャー。一応塔内なのでポーズで申し訳程度の武装を見せてはいる。
 ただ。
 …コレットの持つその上下二連銃身の小型拳銃は、あまり頼りにならないクレインの持つピストル以上にタクトニム相手では意味の無い確率が高い代物である。むしろジェダの持つショットガンや若宮の抱えるアサルトライフルの方が余程贅沢に見えてしまう程。
 塔内でコレットのその装備が効果あるか否かで考えれば、余程当たりどころが良くない限り効果は期待出来ない。正直、玩具みたいなものである。それは――何らかの超能力が使えるのならまた違って来るのだろうが。そう、例えば【PK】の系統で発砲時銃弾の加速度を上げる、弾自体を強化する。【時間停止】や【敏捷性増加】を併用して急所を狙う…等々、考えれば幾つか可能性はある。ただ、それでもカバーできない装弾数と言う壁がある。たった二発で店仕舞い、いちいち弾を込め直す必要があるとなると…やっぱりメインの武装としては少々心許無さ過ぎる。隠し武器なら何とか使いようがある、妥協してその程度が精々だ。
 …はっきり言う。略奪者の目から見ればこの程度の銃では武装に入らない。めぼしいものとは決して思わない。
「…嘘だろ」
 やや呆れ混じりでぼそりと呟く若宮。…確かにそれだけの装備でこんなところに来るのは嘘だろと言いたいのはわからないでもない。それは多少の例外も存在するが。…例えば、その身一つで既に武器になるもしくは手ぶらに見えてもいつでも何処でも即座に有効な武器をその手に持てる連中。もしくは…いつでも何処からでも即座に逃亡できる手段を持つ連中。そう、この世の中にはエスパーやらサイバーなる連中が存在する。コレットがそれに該当するか否かとなると、今遭ったばかりの若宮やジェダには知る由も無い。
 場所柄、武装からして――該当すると考えた方が自然ではあるが。
 だが、該当するからと言ってその『能力』は具体的に何なのかはわからなくて当然である。
 そんな訳で――警戒しているんだか呆れているんだか判別付け難い態度を若宮から取られ、コレットは少し慌てて訴える。本当に、金目の物は元々持ってない。…さっき誰かさんから掏り取ったものも…少し目測を誤ったようで、ちゃんと確認してはいないがポケットの中の感触からして財布だった気がしない。…やっぱり金目のものではないだろうと思う。
「っ嘘じゃないって。見た通り。…だって僕最初っから戦う気なんかないもん。ここに来たんだって人捜しの延長だし、装備なんてろくにしてないってばー!」
 重いもん持ったって動き難くなるだけだし!
「つーと、てめぇ何か? やっぱりエスパーかサイバーか?」
「…ってそれ何か関係あるの?」
「…幾ら何でもてめぇの武装がそれだけってのが信じられねぇ」
 ここで俺らの方が不意打ち食らっちまったら目も当てられねぇからな。サイバーなら内蔵武器あるかも知れねぇし、エスパーならどんな隠し玉が出て来るかわかったもんじゃねぇ。出来るだけ警戒しといてし過ぎってこた無い。言いながら若宮は自分のアサルトライフルもコレットに突き付けた。
 と。
 そのタイミングで。
「…私はどちらでもありますけど?」
 何か問題が? と、しれっとした顔でクレインが横から申告。と、ぎょっとしたように若宮がクレインを見た。同様、ジェダも興味を抱いたかクレインを改めて見直す――密かに機能を切り換えた眼帯の方で。
「…マジかよ!? てっきり…」
 単なる場違いなカモなだけだと。
 と、若宮は何やら思いっきり失礼な事――と言うかさすがに思っても当人に真正面から悪気無く言うとは到底思えない科白をクレインを見ながら吐いている。一方のジェダの方は暫くクレインを見ていたかと思うと、眼帯で無い方の目で窘めるよう若宮を見た。
「…熱分布からして…左半身か。サイバーとは言え軍事用じゃないな」
 ならば、注意すべきは超能力の方か、とクレインに向け、続ける。ジェダの付けている眼帯はサイバーアイと同じだけの機能が付いている。そのくらいは見切れて当然か。
「…そして赤毛の方は、エスパーか」
 不自然な熱分布が一切無い。生体だ。
「つゥといよいよ警戒の必要があるよな。何処からどんな『武器』が出てくるもんだか」
 言って、若宮はすぐ撃てる形に銃把を握りつつも、片方の手をコレットに伸ばしてくる。コレットも反射的にびくりと後退り、自分を守るよう若宮の手を遮った。…ただ何となく、少し、違う意味の反応に見える。
「っ、ちょっと何する気!?」
 コレットのその行動。それは…男の手から反射的に身を守ろうとするような、初心な女の子の仕草に見えた。
 但し、コレットは男だが。…つまり、反射的な行動に見えても計算の上の行動ではある。自分より若いような少年にこれを見せたならば、きっと途惑うだろうと見て。
 が。
「…何ガキの癖に色気出してんだよ」
「…っ」
 お前なんかに言われたくない。今度こそ本当に反射的に出そうになったその言葉を飲み込み、コレットは怯えたように――恐る恐る口を開く。…役者だ。
「…だって怖いもん」
「っ…【読む】だけだっつの。それと確認な」
 本当に何も持っていないか、の。
「あ、そういう君も…エスパーなんだ」
「…無駄口叩いてっとドタマに風穴開けっぞ」
「…っ。…でもでも、僕、本当になんも持ってないよ。…これから稼ぎに行くとこなんだから!」
 だから探ったって何も出て来ないって!
「ふ〜ん。…んじゃこりゃ何だ?」
「…」
 と、無造作に若宮がコレットのポケットから探り出したのは――やけにきちんとした薬らしき包み。この場に詳しい者が居ないので何とも言えないが、粗製濫造な危ないおクスリの類では無く確り医療用の品のようである。…売る相手を間違えなければ高額になるだろう。外界では薬物は貴重だ。
 ちなみにそれは実は――クレインが持っていた筈の物。…どうやら、先程ぶつかった時にコレットがクレインの懐から掏り取っていたのはこれだったらしい。
 財布では無かったが、捌き方によってはスリに見合った稼ぎくらいにはなる物だった。
「おや、スリの方だったのですか」
 若宮に取り出されたその薬を見て、道理で、とあっさり合点するクレイン。いきなり図星指されたコレットは、げっ、とばかりに条件反射。…その反応をしてしまっては最早否定できない。仕方無く【記憶操作】の使用を考える。クレインからは掏り取った物に関しての。そしてジェダと若宮には自分からは既に金品を奪った後と記憶を刷り込んで――無理そうだったら【時間停止】も使って逃亡。…行ける筈。
 と、コレットは咄嗟に頭の中の算盤でそこまで弾き出していたのだが、クレインはそんなコレットを見、顔の前でいえいえ、と否定するよう手を振っている。
「…別に構わないんですけどね。こんな御時世ですし私のような者がこんな場所で一人で居るのを見掛ければ良いカモだとは思うでしょう」
 そちらの都市型迷彩服の少年が仰ったように。
「…へ?」
「ですが…まず場所が場所です。こんなところにまでスリに来られるとは…勇気があるのですねぇ」
 しみじみと言いながら、クレインはコレットの顔をまじまじと見詰める。
「何こっち無視してやがる」
 すかさず、若宮。
「いえ、貴方がたより平和で安全な方法の上に鮮やかな手腕なのでいたく感服しまして」
「…は?」
「…喧嘩売ってんのかコラ」
「いえそんな。…ただ…ほら、こんな場所で物を掏り取られて気付かれなければ掏られた方だって何処かに落としたと考えるでしょう。誰か犯人が居るとは考えない…考えてもそれがこの子だとは思わない…後々敵を作らずに済みます。それに、たった御一人でこれだけの武装しかないのにこの塔内という場所でこれまで無事で居られる方法が何かあると言うのなら――無ければ入って来る事はできないでしょうし――、銃突き付けて横取り狙うより余程良心的で安全確実な稼ぎ方だと思いますからね?」
 私はわざわざ塔内イエツィラーでスリに狙われるとは思いませんでしたし、タクトニム以外の人型な人物に襲われるとも考えていなかったんですよ。…さすがセフィロト、生き馬の目を抜く社会なんですねぇ…。
「…」
 そう言う問題なのか。
「…で、ジェダさんと若宮君の御要望は…持ち物全部、と言うお話でしたよね」
「出す気になったか」
「少し考えてみたんですけれど…トレードでは、どうでしょう?」
 それなら構いませんが。
「…立場わかってんのかてめぇ」
「それは勿論。ただ、トレードと言っても物と物では無く…私の荷物と、貴方がたの腕を、って事です」
「…ああん?」
「いえ、私は別に貴方がたから何か『物』を頂こうとは思っていませんので」
 ただ、荷物も武装も全部持って行かれてしまっては…到底、ここから無事に生還できるとは思えませんから。一応エスパー能力があるとは言っても、戦闘タイプの能力や直接相対したタクトニムから逃げるのに都合がいいような能力は持ってませんし…さすがに命まで投げ出すつもりはありませんので。
 ですから。
「…持っている荷物を差し上げるのは構いません。ですがその代わり、ここを出るまで送って頂けませんか?」
「…何を持ってる」
「こんなところですが」
 と、クレインは持っていた鞄を開け、ジェダにも若宮にも見え易いように口を大きく開く。そして中での動きが見えるような状態にしてから手を突っ込み、一つ一つ中身を取り上げ説明し始めた。ちなみにクレインが持っていた武装――ピストルは現在、足許に放られている。
 そんな感じで鞄の中身を幾つか説明し、その内。
 何事か彫刻された鋼板の付いた腕章らしき物を取り上げ――それについて、説明し掛けた。
「――…で、これは」
 途端。
 ジェダと若宮が――特に若宮の方が――目に見えて凍り付いた。
 一時停止。
 その過剰とも言える反応に、いったい何事かとクレインは説明しようとした言葉を思わず止める。
「?」
「………………てめぇ連中の関係者かよ」
「はい?」
「何か言い難い長ェ名前の…コードネームな意味半分放棄してるようなコードネーム使ってる傭兵連中居るだろ、それと、ブラッドサッカーとかよ…」
「ああ、『四の動きの世界の後の』の方々、お知り合いですか?」
 ブラッドサッカーさんとも。
「…」
「色々と御世話になってますよ。ブラッドサッカーさんにも色々良くして頂いてますし」
 あっさりとそう言うと、若宮は複雑そうな顔でクレインを見上げてから、どうしようと問うように縋るようにジェダへと視線を流す。
 ジェダも、沈黙。
「? …どうか、なさったんでしょうか…?」
「…面倒だな」
「?」
 ぼそりと呟くジェダの声に、コレットもコレットでジェダ&若宮二人の態度が急変した事に小首を傾げている。それはこの流れ――ジェダ&若宮が何やら引き気味である事――は良い兆候のようだとは思うし、今若宮とクレインが名を出した連中が事態を切り換えた原因なのは漠然とわかるが…それで態度が急変するのは何故なのかの因果関係が掴めない。今聞いた限りでは何らかの組織、集団、コードネームか何かの事のようなのだが。
 …ここ、まだまだ知らない事が多いみたいだなあ、と、コレットは暫く都市マルクトで腰を落ち着けて捜し人の情報を追ってみる事を考える。都市内、目立つ盛り場はこのイエツィラー内に来る前に大抵顔を出してみたつもりなのだが、目の前の状況を見る限りまだまだ情報不足と言う事らしい。…それに、折角ビジターライセンスも取った事だし。有効活用して損は無い。
 コレットがそんな事を考えているところで、ジェダがショットガンの銃口を下ろした。…死にたくないのは当然か、と無表情に呟き、クレインを見る。
「…ゲートの手前までだぞ」
「ええ。ビジターライセンスお持ちでないんですものね」
 ジェダさんは。
 そうなると…色々面倒が起きるでしょうし。
「…」
「…どうかなさいましたか?」





 ――体格の大きな人ですから、体力が有り余ってそうなところが有望ですよね。
 ジェダさん――私でもお名前を聞いた事があると言う事は有名な方なのでしょうし。その上に若宮君の態度見てますと――実際に目の前で繰り広げられている戦いっぷり拝見してますと、相当お強いみたいですしね。
 私も元々、回収品も装備品もそれ程のものは持ってませんでしたし――むしろちょうどいいボディーガードさんが見付かって本当に良かったです。実は今一番不安だったのはそこなんですよねぇ。同じパーティだった腕の立つ方とは逸れてしまいましたし、私の持っている武装に…このコレットさんでしたか、彼女――でしょうか彼でしょうか、ちょっと良くわかりませんが――のデリンジャーだけでは少し心許無かったですもんね?
 若宮君の武装も結構確りしてますし。あの身体のサイズであのアサルトライフル平気で振り回して――振り回せていられるとなりますと、私などより余程頼りになりそうです。
 パーティから逸れて一人になってしまった時はどうしようかと思っていたんですが、死にそびれて以来――私も結構、幸運に恵まれているみたいですね。

 …と、そんなこんなをつらつらと考えつつ、クレインはジェダ&若宮のタクトニム相手の派手な戦いっぷりを見物している。コレットの事は一応庇う形でクレインがすぐ側に連れている。…コレットもコレットで、現在置かれている状況に特に反対する気は無いらしい。
 パーティ(?)としてはジェダが前衛、遊軍――強力なタクトニムが出た場合を考え警戒している。そして若宮の方がクレインとコレットの側。クレインもコレットも戦闘面では役に立つか立たないか怪しい為、成り行き上、若宮が直接守るような形になっていると言えた。
 戦闘の手際は――どちらもそれなりに鮮やかである。ジェダは当然だが、若宮の方もそれなりに仕込まれているらしい。
 再びタクトニムの強襲。背後から。モンスターかシンクタンクかの別も見ず、若宮は手持ちのアサルトライフルを照準、セミオートに設定してあるそのまま丁寧に掃射。…あまり頑丈・強力な個体では無いとだけ見て取れた。そして今はそれだけで充分。狙い過たず撃破したその瞬間――有難う御座いますとにこやかに礼を言われ、若宮はふと釈然としないものを感じ、訝しげにクレインを見上げる。
「………………何か、使いっ走りみたいな」
 と、ぽつり。
 聞こえたのか、反射的にジェダも停止。が、次の瞬間視界に滑り出して来たシンクタンク・ソーサー数体に向け無造作に発砲。散弾故に一発ですべてを撃破。命中したどの個体もあっさり原型を無くしている。
 ジェダの足許、地面に落ちた空薬莢の立てる音が何だか白々しい。
 どうも、若宮が口に出した事について、元々そうと薄々気付いていながら…敢えて無視しているような態度である。
 …何となく。
「使いっ走り…そう考えれば考えられるかもしれませんね?」
 ふむ、と小首を傾げつつ、クレイン。
 が。
 でも取引しましたしー。
 と、こんな場所では何処か現実離れしてさえ見えるその容貌でクレインはにっこり微笑んで見せる。
 取引した通り――お約束通り、到着したら私の荷物は全部貴方がたにお渡しするつもりですから…当初の予定そのままなんですけどね? と駄目押しでもするかのように付け加えつつ。





 そして、ヘルズゲート前イエツィラー側。
 ジェダと若宮の二人にクレインの荷物や装備がまるごと持って行かれて…と言うより御土産、報酬のようにクレインの方から彼らに持たせ、追い打ちとばかりに、助かりました有難う御座いましたー、とにこやかにお礼を告げた後の事。
 結局二つだけ残してもらったものの内一つ、ビジターライセンスを取り出しつつ、クレインはコレットを振り返る。…ちなみにもう一つ残されたのはジェダと若宮の態度が急変した切っ掛けこと彫刻の施された鋼板付きの腕章・『四の動きの世界の後の』の傭兵契約証だったりした。それと、コレットがクレインから掏り取った薬品もクレインの物と判断され持って行かれてはいる。…まぁ、コレットにしてみれば相場も何もわからない捌くルートに迷うような品だったのだから全然構わないのだが。
「さて、来栖・コレットさんと仰いましたが…一緒に連れて来てしまって良かったんでしょうかね?」
「…」
 …今更、訊くか?
 内心思いつつも、コレットも顔には出さない。…ちなみにコレットの方のデリンジャーは役に立たないと見られたのか別に持ってかれていない。
「や、良いんだけどさ。…ちょうどお腹空いて来たかなーってとこだし」
「でしたらこれから一緒にお食事でも如何です?」
「え、奢ってくれるの!?」
「…。…構いませんけど」
「…。…って本当にいいの?」
 えーと、クレインちゃんだったよね。本当に奢ってもらっちゃっていいの?
「はい」
「今の奴らに全部取られちゃってるけど…他に当てあるの?」
「ええ、さすがに一度帰宅する必要はありますが」
「…ふぅん。結構お金持ちなんだ」
「そう括るのなら、そうなるかもしれませんね」
「んじゃ奢ってくれるっての…僕、ホントに遠慮しないよ?」
「構いませんよ?」
「ホントのホントに?」
「? …はい」
 何度も確認され、不思議そうに小首を傾げつつも素直にクレインが答えるなり、コレットはやったーっと騒いでいる。ひょいと腕を取り、嬉しそうにクレインに懐いている。…別にスリや売春詐欺のようなこすっからい手段を講じずとも普通に奢ってもらえると言うのなら…コレットとてわざわざそんな手段は選ばない。
 …取り敢えずコレットの中でクレインちゃん、『いいひと』決定。


 Fin.


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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
×××××××××××××××××××××××××××

 ■整理番号/PC名
 性別/年齢/クラス

 ■0474/クレイン・ガーランド
 男/36歳/エスパーハーフサイバー

 ■0279/来栖・コレット(くるす・-)
 男/14歳/エスパー

 ※表記は発注の順番になってます

×××××××××××××××××××××××××××

 …以下、登場NPC(□→公式/■→手前)

 □NPCP008/ジェダ
 ■NPC0201/若宮
 ■NPC0127/ブラッドサッカー(名前のみ)

×××××××××××××××××××××××××××
          ライター通信
×××××××××××××××××××××××××××

 今回は発注有難う御座いました(礼)
 結果として御二方同時参加でやらせて頂きました。クレイン様とコレット様が合流するところまでが個別、そこから先は共通になってます。
 えー、セフィロトの塔は生き馬の目を抜く社会な模様です。
 それからちなみに、副題の「いいひと」は最後の一行からしてクレイン様の事を指しているように書いてありはしますが、実際のところクレイン様に限りません。察してやって下さい(笑)

■クレイン・ガーランド様
 先日「悪ィけど、助けてくんない?」を先に納品した理由は御覧の通り、ジェダ&若宮の態度を軟化させる足しにする為でした。と言ってもそれ程深い意味のある事でも無いんですけれど少々いじくらせてもらいたくなりまして、以前パーティノベル時にお渡ししたアイテムを登場させた件も含め勝手に失礼致しました(ぺこり)

■来栖・コレット様
 場所柄、コレット様にはビジター資格取った上で来た事にしておきました。あんまりゲート破りをしそうなPC様ではないようにお見受けしましたので。申請すればくれるようなところらしいですし、あった方が色々便利かとも思いまして。それとあまりヤバい事態には陥らなかったので、結末もクレイン様の思惑に流される形をとってしまいました。

 少なくとも対価分は楽しんで頂けていれば幸いです。
 では、お気が向かれましたらまたどうぞ。

 深海残月 拝