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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


【専用オープニング】ホワイト・ノート
 Be Happy!!

 ライター:斎藤晃


【Opening】

 ブラジル北部アマゾン川上流域に聳え立つ高層立体都市イエツィラー。審判の日以後ロスト・テクノロジーを抱いて眠る過去の遺物は、もしかしたらその目覚めを静かに待っているのかもしれない。忘れられ続けた軌道エレベーター「セフィロト」に集う訪問者たちの手により、ゆっくりと。
 そしてこれは、決して安全とは無縁のその場所で繰り広げられる訪問者たちの日常と非日常である。





【I hope for your happiness】

 瓦礫がうずたかく盛られ、あちこちに戦いの傷跡を残す、都市マルクトは、マーケットや繁華街などの異様な活気ならいざ知らず、その他のエリアは割りと閑散としている。
 しかし、この日はちょっとばかり違っていたらしい。
「何だか久しぶりだな」
 目の前の雑踏にマリアート・サカことリマは、これからおとずれるであろう『楽しみ』に思いを馳せているのか、色白の頬を少しだけ興奮に上気させて、満面の笑顔を同行者に向けた。
「たまには遊ばないとね」
 リマを彼女の住まうジャンクケーブから誘い出した張本人――白神空は、綺麗な銀髪の髪を揺らせながら、誘って正解だったな、と頭一つ背の低いリマの顔を覗き込むよう少しだけ小首を傾げて笑みを返す。
 丁度この時期、イースターに入る前の4日間、ブラジル・リオでは謝肉祭が行われる。そのカーニバルではサンバのリズムを刻む音楽隊に合わせて踊る踊り子たちや、豪奢な山車などがパレードを行うのだが、そのミニチュア版ともいうべきカーニバルが、この都市マルクト内でも行われるのだった。
 ところがせっかくブラジルに住んでいながら、リマはそのどちらもまだ見た事がないという。それは勿体無い、という事で、半ば強引にデートの日程を決めて誘い出したというわけである。
 普段は仕事や何だ、と忙しいリマだが、タイミングが良かったのか今回は二つ返事でOKをもらえた。
 待ち合わせ場所は、マルクト中央広場にある時計台の下。
 気合を入れて白をベースにところどころ深紅と銀の縁取りが入ったフォーマルドレスなんかで出迎える。
 やって来た彼女は、いつもはパンツルックで美少年然としているのに、この日は珍しくゴスロリ調のそれでいてシンプルな濃紺のワンピースを纏っていた。
「もしかしてあたしの為?」
 なんて冗談半分で尋ねたら、リマは首を振った。ちょっと残念だけど視線のそらせ方が、もしかしたらテレているだけなのかもしれない。表向きは、彼女の住んでいるルアト研究所の住み込みのハウスキーパに、デートならきちんとおめかししないとね、と無理矢理着せられたという事なので、そういう事にしておいてあげよう。空は肩を竦めつつ歩き出した。
 相変わらず、あそこのハウスキーパーはセンスも良くてGJである。

 パレードはお昼過ぎから始まり夜中まで続けられる。始まるまで、まだ少し時間があるので2人は近くのお店でランチを取る事にした。
 しかしさすがにマルクトの中では数少ない娯楽の一つというこもあって、今日はとにかく人出が多い。このマルクト内に、こんなに人がいたのか、と感心してしまうほどだ。
 人の波にさらわれそうになったのか、リマが咄嗟に空の手を掴んだ。
「はぐれそうだよ」
 と苦笑を滲ませるリマに、空はしっかりとその手を握り返す。
「アームレット付けてるんだ」
「うん、勿論」
 リマは接触テレパスである。しかも自分で全く制御できないタイプの、だ。触れるたびに、その人の心の中が垣間見えてしまう。それは双方にとって嫌悪すべき事だろう。
 別段空は大して気にする事でもなかったが、リマが嫌がるだろうなと思って、自分から先に触れる事はしなかった。
 何となく、彼女から触れてくるのを待っている、これは暗黙の了解というか、彼女にしてみれば一種の儀式みたいなものだった。
「これだけ人が多いとね。昔は怖くて絶対こんなとこ近づけなかった」
 そう言って肩を竦めるリマに、なるほど、と思う。人に触れないようにと思ったら、必然的にこういった人ごみは避けて通るしかない。
 だからこの地に住んでいて、カーニバルを体験した事がなかったのか、と空は改めて思至ったのだった。
「空のおかげだね」
 と、嬉しそうに笑うリマに、空はなんだかテレ笑いを返す。たまたま偶然ヘルズゲートの向こう側で見つけた抗ESPアームレットがこんな風に役立つとは思わなかった。
「よし! 今日はとことん遊んじゃおう!」
「うん」
「今日は1日あたしがリマを楽しませてあげるからね!」

 近くのイタリア料理のお店で早めのランチ。パレードが始まる少し前に店を出て、空はリマをその店へ連れて行った。
「え? マジで?」
 リマは不審そうに空を横目で見やる。
 空は勿論と大いに頷いた。
 そこは、パレードの行われる通りから一本こちら側に入ったところにある貸衣装屋であった。
「これ……着るの?」
 そう言ってリマが今、掲げ持っているのは色とりどりに飾られた派手なサンバの衣装である。いや、派手なところはこの場合問題ではない。いつもは黒を好んで着るリマにとっては、それでも充分躊躇うものであったが、何よりも、この露出っぷりが……。
「大丈夫。絶対、似合うって」
 と、空も似たようなサンバの衣装を手にしながら言った。
「え〜〜〜〜〜」
 不満そうに声をあげリマは空から衣装に目を移す。
 彼女が普段着ている水着より、どう考えても露出度が高いように思われた。
「ほらほら。今日はとことん遊ぶんだから」
「…………」
 渋るリマを空は試着室へと押し入れて、自分もちゃっかり入ってドアを閉める。
「これって1人用じゃないの?」
 呆気に取られるリマに空は、まぁまぁとなだめすかしてハンガーをとった。
「いいじゃん。着替え手伝ってあげるよ。着方も脱ぎ方もわからないでしょ」
 そう言って、さっさとリマのワンピースの背中のファスナーを下ろしてやる。
「……まぁ、そうだけど……」
 リマは諦めたように不承不承頷いた。
 露になったその白い肌に、空はこっそり口づける。
「でも、狭くない?」
 怪訝に振り返ったリマに笑みを返して空は背を向けた。
「平気、平気。あ、あたしのファスナーも下ろしてよ」

 ブラジルサンバ独特の衣装に身を包み、貸衣装屋を出ると既にカーニバルは始まっていた。
 カーニバル初体験のリマはそのまま絶句してしまう。
 自分の衣装も大概だと思っていたが、まだまだひよっこらしい。これ以上ないくらい派手な衣装を身に纏った女たちが、多勢踊り歌いながら、広い通りを埋め尽くしていた。
「みんな凄いなぁ……」
 呆然と呟くリマの手を引っ張って空はパレードの中に入っていく。
「何言ってるのよ。あたしたちも行くわよ」
「う…うん」
 パレードの真ん中までくると、右を向いても左を向いても前も後ろもサンバを踊る女たちばかりだ。
 音楽隊から流れるサンバの曲と、サンバのリズムを刻む凄まじいまでの打楽器の振動に、自然体は揺れ始める。
 踊りだす空に、リマも見よう見真似で腰を振った。
「ほら、もっと揺らさなきゃ!」
 どこかテレの入ったリマのダンスに空が活をいれる。
「恥ずかしがってちゃ駄目だって」
 そこへ踊り子の女達が数人近づいてきた。
「Hey!」
 と、2人を取り囲んで、踊りを披露する。どうやらサンバダンスを教えてくれるつもりらしい。
「こ…こう?」
 リマも空も真似をする。
「もっと、もっと」
「あー、もう、やけくそ!!
 囃し立てる女たちに、さすがにリマも羞恥心が吹っ飛んだのか、派手に踊り始めた。
 空も、負けじと踊りだす。
「なんか楽しいー!!」
「うん!!」

 パレードは夜中まで行われ、マルクト中を練り歩いてフィナーレとなった。
 空は、衣装を着替えると、その後リマをカーニバル・パイレに誘った。サンバカーニバルといえば、パレードがメインだが、実は一部のホテルなどではカーニバル・パイレ、つまりサンバの舞踏会が催されているのだ。
 舞踏会といっても、そんな敷居の高いものではない。
 広いフロアでひたすらサンバを踊り続けるという激しいものであった。
 さすがに丸1日近くサンバを踊って疲れた二人は、そのままホテルのラウンジへ向かう。
「疲れたー。でも楽しかった」
 そう言ってテーブルに突っ伏して見せたリマに空がよしよしと頭を撫でてやる。
「最初はあんなに照れてたくせに、最後は一番はじけてたでしょー」
「あはは。確かに、そうかも」
 顔をあげたリマは笑みを返してクラブハウスサンドを口の中へ放り込んだ。
 遅い夕食である。
 空は、生ハムとチーズののったクラッカーを手にしている。
 空の前にはマティーニ。
 リマの前にはエビアン。
「アルコールは飲まないの?」
「あんまり強くないから、確実に帰れなくなっちゃうよ」
「なら、このままホテルに泊まっちゃおうよ。今日はとことん遊ぶ。でもって羽目も外す」
「まだ、遊び足りないの?」
 物言いは呆れた風だけど、口ほどに語る目は、どうやら乗り気なようだ。
「ホテルかー……シャワーで汗流せるしいいかもね」
「よし! じゃぁ、決まり。はい、飲んで、飲んで」
「こらこら、酔わせてどうする」
「そりゃ勿論!」
 あれして、これして、あれして……と続く言葉は飲み込んで、空はニコニコしながら飲み物専用メニューをリマに差し出した。
「?」
 不思議そうに首を傾げるリマに空はどんと胸を叩いてみせる。
「まぁまぁ、酔っ払ったらあたしが部屋まで責任もって連れてってあげるから」
「しょうがないなぁ」


 殆どお酒がメインの夕食を終えて、そのままホテルの部屋へ向かう。ツインルームは全て満室だったので、思い切ってセミスイートにしてみた。
「わ! 広い!」
 普段高級ホテルになど泊まった事のないリマが感嘆の声をあげた。
 80uはあろうかという部屋にはベッドが二つと、テーブルにソファーのが並んでいた。
「さすが高級ホテルだね」
「ダブルサイズだー」
 ほろ酔い気味のリマがベッドにダイブしてみせる。
 空も隣に転がった。
「一緒に寝よう」
「せっかく広いベッドなのに」
「だめ?」
「別にいいけど。あ、私先にシャワー借りていい?」
 リマが上体を起こして言った。
「うん。あ、あたしはルームサービス頼んじゃおっかな」
 空も起きだして備え付けの冷蔵庫からワインを取り出すと、グラスをテーブルに並べて置いた。
 それからおつまみのルームサービスを頼む。
 リマがバスルームで汗を流している間におつまみが届いたので、空はワインをあけながらリマが上がってくるのを待っていた。
 程なくしてリマが顔を出す。
「じゃーん。バスローブでした」
 と、やっぱり酔っているのだろう、リマはどこか有頂天気味にバスローブ姿をお披露目した。普段着慣れていないせいかもしれない。
「ホテルってどこでも、そうだよ。あ、そうだ」
 空はリマの白いバスローブ姿に思い出したように手荷物を開いた。
「ん?」
 首を傾げるリマの手を引っ張って鏡の前に立たせると、後ろから『うさ耳バンド・改』を付けてやる。
「ほら、丁度白だから似合う、似合う」
「もう……」
 テレながらも嫌がる素振りは無い。その肩を背中から軽く抱く。
「可愛い兎さん。食べちゃおっかな」
 なんて囁いたら――。
「ずるいよ」
 と返ってきた。
「え?」
 空が驚いたように、或いは見透かされたように顔をあげる。
「私だって、明日タクトニムに襲われて死ぬかもしれない」
 続いたリマの言葉に、しまった、と思った。
「あ……アームレット……」
 シャワーの前にはずしたんだ、と今更気づいても手遅れだろう。
「いつ死ぬかわからないなんて、みんな同じだもん」
 しっかりバレてしまった。
 こんな身体だから、いつ死んでもおかしくないから……誰かに覚えていて欲しい、なんて思ってたこと。
「…………」
「だから、忘れないのはお互い様だよ」
 小さく呟くように言ったリマを背中から抱きしめる。
「リマ……」
 それからどれくらい時間が経っただろう。実際にはたぶん一瞬。リマが明るい口調を装った。
「アームレットはシャワーを浴びる前に外して、ただ今充電中です」
 それまでの空気を払拭するかのように。
 どこか感傷的になっていた気分を入れ替えて、空も笑顔をつくった。
「じゃぁ、もしかして、今あたしの考えてることもバレてる?」
 と、鏡の中のリマの顔を見やる。
「……うん」
 俯くリマの頬を赤いのは、お酒のせいか、それとも別の何かが関係しているのか。
「逃げないの?」
「何で?」
「……いや、何となく……」
「今も楽しく、未来も楽しく。今日は1日楽しませてくれるんでしょ?」
「う…うん」
「最後まで、責任もってちゃんと楽しませてよね」
「うん」


 夜はまだまだ続くのです。



【大団円】

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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【0233】白神・空

【NPC0124】マリアート・サカ

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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ありがとうございました、斎藤晃です。
 楽しんでいただけていれば幸いです。
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