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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


鍵を掴む心


 ジェダは、頭に付けていた装置を一度手元に取り、辺りを見回した。
 どこを見てもどこにでもある住宅街と、市場。
 ジェダは装置を頭に付けなおし、迷うことなく進んでいく。
 ある、一点を目指して。
「っくそ…」
 だが、頭の装置は一度火花を上げたかと思うと、完全に壊れてしまった。
 目的地を目前にして突然小さく火花を上げて壊れてしまった装置に、ジェダは小さく舌打ちすると、その装置を投げ捨てた。





 メイ・フォルチェはいつものように塔の中をぶらぶらと散策する。
 危険な場所や、やっぱり危険な時間帯もあるけれど、人種も年齢も多種多様な人々が集まっているのだからそれは仕方のない話。
 誰もが無関心になるほど寂しい街でもなく、こうしてメイが一人で歩いていても不安になることは、あまりない。
 今日は、都市マルクトでもまだ来た事のない市場を抜けた先の居住区へと足を運んでみた。
 居住区―――なんて言ってみても、どうしたって積み重ねたダンボールがコンクリートに変わっただけのようにしか見えない部分も多々有るけれど。
 それでも“人が住んでいる”という気配を感じながら、メイはあたりを見てまわるようにゆっくりと歩いた。

―――ドゴォン!!!

「え…な、何!?」
 突然の轟音と土煙にメイは顔を覆うように両手をあげる。

「エアティア!!」

―――え?

 聞き覚えのある声と、その声が呼んだ名前にメイは腕の隙間からその光景を見ようと土煙で目が痛む中、一生懸命瞳を凝らす。
 居住区の人々もその騒動を聞きつけ、まばらでありながらも人が集まりだす。
 瞳を凝らした土煙の先、知らない男が誰かを抱えている。
(あれは…!?)
 そしてそのまた向こう、瓦礫から這い出るようにして白いフードの少女が叫ぶ。
「その男を止めて!!」
 少女の叫びと共に、男はあたりをざらりと見定め小さく舌打ちすると、生身でありながらオールサイバー並の身体能力でその場から跳び去って行った。
「ルナちゃん!?」
 居住区の誰かが名前を呼び、フードの少女に駆け寄る。
(やっぱり!)
 メイはその場から駆け出し、人だかりになってしまった瓦礫へと走る。
「ごめんなさい! 通して!!」
 メイはあたりの大人達を押し分け、瓦礫から救い出されたフードの少女に向かってその名を叫ぶ。
「メイ!?」
 その叫びにフードの少女――ラ・ルーナは驚きの声音をその口に乗せた。
 メイは急いでルーナに駆け寄り怪我の直りを早くする促進の能力を使ってルーナの傷を癒していく。
 実際は癒しているというよりは対象の生命力に刺激を与えて治癒力等を高めているだけなのだが、今はそんな事はどうでもいい。
「メイ…エアティアが、エアティアが……」
 ふえぇえ…と、メイにしがみ付いて泣き出したルーナを宥めつつ、
「あんな派手な人攫い、誰かが見ていないはず無いもの。大丈夫見つかるから!」
 そうしてメイはルーナや壊れた瓦礫、その周りに手を触れて過去視を開始した。
 スコープを付けた男。
 投げ捨てた装置。
 この部屋の中に居たであろうエアティアの気配は鮮明に見せてもらえないけど、ルーナが見たであろうエアティアが連れて行かれる瞬間。
 それが全てメイの中で再生された。
「飛んでいったのは、あっちよね……」
 どう見てもオールサイバーには見えなかったけれど、あの男はまるでオールサイバー並の跳躍力で去っていった。加えて言えば、ルーナにも匹敵するほどの跳躍力。
 もし路地を走って逃げたわけじゃなかったら目撃証言を集めるのは大変かもしれない。
 それでも―――
(助けなきゃ)
 コレは完全に人攫い。犯罪、なのだから。
「行こうルーナ。あの男を追いかけるの」
 ルーナはメイの言葉にフードの下の瞳を両手でぐしゃぐしゃと拭って大きく頷いた。
(こんな風にして会いたかった訳じゃないのに……)
 メイは走りながらふとそんな事を考える。
 そういえば…と、過去視で見た男が持っていた装置は何かしら何処かで感じたことのある違和感をメイに感じさせた。
(まさか……)
 薄く。本当に断片的にだけマルクト内で広がっている科学者の噂。関わりを信じたくはないけれど、可能性を否定する要素だってどこにもない。
 メイはこの小さな確立が当たらない事を願いつつも、万が一のために道すがらハンマーを用意した。
「やっぱり陽動作戦が一番よね」
「ルナ戦えるデショよ!」
 見た目は本当に小さな少女だけれど、メイはこの子が目の前から消えた身体能力を目の当たりにしている。
「うん、二人で助けよう」
 そんな決意をしていると、どうやらルーナの知り合いらしい一人の小父さんが、内緒だよ。と小さな爆弾をルーナのコートのポケットに入れてくれた。
「あ、ありがとう!」
「ルナちゃんの大切な人だもんね」
 小父さんはにっこりと笑って、軽く手を振り何事も無かったかのように去っていく。
 上手くいきますように…そう願いながら、メイとルーナは走った。
 何か隠す場合、人は他に瞳が無い場所を選ぶ。
 そう、人気が無い場所だ。
 飛び去っていった方向の人達に聞き込みを繰り返しながらメイとルーナは先へ先へと進んでいった。
 特徴的な男の事を尋ねるだけでエアティアの行き先が分かったのは、幸いといってしまっていいのかは分からないけれど、確かに助かった。
 先に進むにつれてどんどん人の姿を見なくなるどころか、建物さえも廃棄されたような雰囲気が辺りを立ちこめる。
 そして、行き先が突き当たった。



「くそっ! あの野郎!!」
 男――ジェダは何かの装置のようなものを思いっきり地面にたたきつけた。あまり強く作られていなかったらしいその装置は地面に当たると同時にその隙間から切れた配線を覗かせた。
「てめぇも何か言いやがれこのくそ餓鬼が!」
 廃材に凭れて顔を俯かせたまま、エアティアはただ無言だった。
 いや、無言だったのではない。
 ただ自己主張の強いジェダの心と、心構えもなく放り出された外の世界の音の煩さに慣れるのに必死だっただけ。
 業を煮やして振り上げたジェダの手に持たれたショットガンがその頬に当たり倒れても、エアティアは悲鳴さえ上げなかった。
「見えるんだろう? その目隠しの下で!!」
 その髪を掴んで無理矢理上を向かせる。
 感情の無い口元はただ薄く開かれて、しかし言葉を紡ぐ形までには至らず、息を吐き出すのみ。
 ジェダは大きく舌打ちし、掴んでいた髪を乱暴に離す。

――――ドウゥン!!

「何だ!?」
 騙された怒りと役に立たない行動をさせられた苛立ちで注意力散漫になっていたジェダの耳に響いた爆発音と煙。
 爆発音は此処の入り口。
 ジェダはショットガンを構え煙が立ち込める入り口へと向けて発砲する。
 手ごたえは無い。
 しかし、訝しげに眉を潜めた瞬間、白い小さな物体が思いっきりジェダの頭を踵落としで突き崩した。
「エアティアは返してもらうデショ〜!!」
 そのまま地面に着地したルーナは足のばねを利用して、倒れかけたジェダの上腿を下から今度は殴り上げる。
「大丈夫!? エアティア…よね」
 メイはその隙を付くようにして廃墟の隅を移動すると、倒れるエアティアに駆け寄った。
「酷い…腫れてる」
 メイは赤く腫れた頬にそっと触れて、その傷に促進の力を使う。
「立てる?」
 ルーナがジェダを翻弄しているうちに、逃げなくてはいけない。エアティアも、そしてメイ自身も、肉体的な戦闘能力なんてほとんど持っていないから。
 こくんと小さく頷いたエアティアの手を引いて、メイは走り出した。
「待て! くそ餓鬼ども!!」
 ルーナの一撃に顎を押さえて叫ぶジェダに、
「あの時は油断しただけで、言っとくけどルナは―――」
 最後の言葉までは聞き取れなかったけれど確実にジェダが一瞬だけ動きを止めたのは分かった。
 でも、その一瞬でよかった。



 走って。
 走って。
 あの場所からできるだけ遠くまで。
 安全な場所まで。
 気がつかないけれど何度か景色が変わったと思う。
 走って、ただ真正面だけを見て走っていたから詳しく気がつかなかったけれど。
 それは多分、エアティアが力を使ったから?
 どれだけ走ったか分からない場所で、突然メイの手から温もりが離れる。
 不思議に思って振り返った。
「メ……」
 ドサリ……と、スローモーションでも描くかのようにエアティアが倒れこんだ。
「エアティア?」
 初めて自分の口から言葉で名前を呼んでくれそうだったのに。
「エアティア!?」
 そのまま意識を失ってしまったエアティアを、メイはただ呼び続けた。





 傭兵ギルド――本人達は便利屋仲介業に近いと思っている『四の動きの世界の後の』の事務所で、メイは小さくなりながら不安に押しつぶされそうになる心を必死に保つ。
 しばらくしてガチャリと扉が開く音にメイははっとして顔をあげると、総元締めであるケツァルコアトルが何の事はないといった感じの口調で話し始めた。
 気がつけばルーナも追いつき、倒れたエアティアの傍について奥にいる。
「寝ているだけみたいだから、そんなに心配することないよ」
 あんな事が起こったから、もしかしたらそのまま瞳を覚まさないかもしれないと思った。
 でも、寝ているだけなら、
「本当に? 良かった……」
 話をするのはまた今度でも出来る。
 メイはほっと胸をなでおろすように穏やかな安堵の微笑を浮かべる。
「あなたも今日は疲れたんじゃない?」
 確かに1日という時間の中でこんなにも目まぐるしく時間が過ぎたのは初めてかもしれない。
 今日は休んだほうがいいというケツァルコアトルの言葉にメイは頷き、
「そうよね。私が疲れた顔してちゃ、だめよね」
 二人のことお願いします。と頭を下げ、傭兵ギルドを後にした。









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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0712 / メイ・フォルチェ / 女性 / 11歳 / エスパー】

【NPC / エアティア / 無性別 / 15歳 / エスパー】
【NPC / ラ・ルーナ / 無性別 / 5歳 / タクトニム】

【NPC / ケツァルコアトル / 女性 / ? / エスパー】
尚『四の動きの世界の後の』は、深海残月が運営されている個室となり、このシナリオは半コラボとなっています。


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■         ライター通信          ■
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 鍵を掴む心にご参加ありがとうございます。ライターの紺碧 乃空です。これにて白い箱庭 第一章は一区切りを付けます。かなり後を引いたような終わり方ですが、これで一区切りです。このシナリオの中で会話が出来なかったことは残念ですが、理由は第二章の1話にて分かるようになっています。
 第二章からにつきましては、OP文章のみですが後日個室の第二章説明該当ページにて公開しておきます。
 それではまた、メイ様がエアティアに会いに来ていただけることを祈って……